EAT ME ( No.4 ) |
- 日時: 2011/02/14 18:16
- 名前: 沙里子 ID:qtMYbEK2
森田さんの舌が私の唇に触れたとき、今から彼は私を食べるんだと思った。動けないよう肩を両腕でシーツに縫いつけて、嚥下しやすいように唾液で柔らかく湿らせて、そっと内側へ舌を差し込む。 そのときいつもの優しい森田さんはどこにもいなくて、薄青い暗闇のなかで黒い双眸だけがぎらぎらと濡れている。捕食者の目だと思った。 つぷ、と肌に爪が食い込む。僅かな抵抗を殺して、鋭い白は容易く内側に侵入した。 「あせらないで」 湿った首筋を撫でながら言うと、森田さんはびくりと体を震わせた。瞳に浮かぶ微かな怯え。 「ゆっくりでいいから」 その言葉に、森田さんはこくんと子どものように頷いた。徐々に動き出す。 彼は今、食事をしているのだ。無味乾燥の日常を紛らわせるために、私の血を食べ肉を食べ、心を食べている。 脈打つ熱を感じながら、私は窓の外をぼんやりと眺めた。夜と朝の淡いに、遠い工場の煙突から流れ出た紫煙がたなびいている。もうじき朝陽が昇るだろう。全ての生命が凝縮された塊、赤い光。私たちをころす光。 森田さんがふと顔を上げた。赤い舌がつやつやと濡れている。 「杉下さん、」 私の名を呼ぶ彼の声。いよいよ、食べられる。体ごとすべて、骨までも吸い尽くされてしまう。私は目を閉じて、そのときを待った。肉が肉を喰らう、赤い夜が明ける。
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遅刻したうえ、お題一つしか使えませんでした。 内容もぐだぐだです。やっぱり、ちゃんと参加して時間制限された方が良いもの書けますね……
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