Re: 大晦日?、何、それ、三語なの? ( No.3 ) |
- 日時: 2011/01/01 00:09
- 名前: みーたん◆y1V/e.aJ9w ID:fGfRggJM
ここは歌舞伎町。会社戦士として力を使い果たした、いい年した大人が遊ぶ所だ。 他のところではチカチカするネオンの光がここでは建物と同化して、それだけでラスベガスのそれに匹敵するような強さを持っている。多分それが我々をここへと引き付ける要因なのだろう。大人達はそう思いながらもここへ足を運んでしまう。
それは、大晦日の一大イベントである紅白歌合戦が始まる今日も一緒だ。
「テツぅ! 楽しいかぁ?」 楽しいっす! と、どこからかそんな声がしたと共にテツなんていねーよと声が飛び交う。 ここ、歌舞伎町に店を構えるメンズクラブの『文学少女』では、一年の締めくくりとしてホスト達が忘年会を開いていた。 女性をおもてなしすることに長けたホスト達も、男との触れ合いがなければ飢えてしまう。そう考えた店長が毎年主催者となっていたが、今年は開店十周年を理由に自称歌舞伎町ナンバーワンホストの片桐が主催者となった。 幹事となり、セッティングをし、大枚叩かないといけない立場に、自らなった片桐をメンバーは拍手喝采で迎えた。 彼はそれを人任せやねんと流していたが、メンバーが心底驚くことは当然だった。彼が人一倍ドケチであることには変わりないからだ。
「で、金は片桐さんに任せたらいいんですよね」 「任せ言うとるやろ? 片桐さんは歌舞伎町ナンバーワンホストやから大丈夫て何回言うたら自分気ぃ済むん?」 肌が程よく小麦色に焼けた男が大雑把に答えた。ちゃんと払って下さいよ! 俺は知らんぞ! そんな野次が飛んだが、誰もそんなことは気に留めない。酒が入っていれば尚更だった。 そんな訳で、ルンバで腹踊りというホストらしからぬことを始める奴がいたが特に問題ではなく、片桐がタコ焼きを作り始めた。
大阪には一家に一台タコ焼きを焼く機械がある、と言われている。例外――タコ焼きが滅法嫌いだったり粉モンが無理な家庭――はあるが、言われる通り大抵は置いてある。そんなことだから、彼等のタコ焼きをひっくり返す手つきは流れるように美しく、それだけを見れば芸術だと言わせんばかりだ。 だからか片桐はここぞとばかりに腕を見せるが今日はそれどころではなかった。少し問題が起きた。
「だーかーらー、餅なんか入れんなや。チーズにしろやチーズに」 「チーズなんかより餅の方が美味しいよ。このサイコロ餅見て? 絶対美味しい!」 そう、タコ焼きに餅を入れるかチーズを入れるかで、片桐とテツと呼ばれる男が火花を散らしてしまったのだ。 阿保でしょこの人達。放っておけ放っておけ。片桐さん達無視で焼きましょうよ! そんな声を聞くまでもなく男達は火花を散らし続け、果ては言い争いまでに転じてしまった。
「俺知ってるんやぞ……お前の妹が先に風呂入ったら脱衣所で待ち構えてることとかな!」 「…………。言っちゃ駄目でしょうが片桐さんんん!」 「お、怒りなや……」 とき既に遅し。一度怒った男――それもさっきまで一緒になって騒いでいた奴を収めるのは容易ではない。それは片桐とて例外ではなかった。
どこかからグラスをカンカンと鳴らした音と同時に、テツのマウントパンチが始まろうとしていた。 歌舞伎町で、ゴングという名の除夜の鐘が響いた――。
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