Re: 師走に紡ぐ、指物語。 ( No.3 ) |
- 日時: 2013/12/08 00:22
- 名前: 6 ID:m8KNat7Q
彼女の足には六本の指がある 死んだら誰だかわかるのでとてもよいと彼女はいう
――という歌がある。ほんとうにあるので信じてほしい。いや信じなくてもいい、ちょっと思いだしただけだから。 友人の知人に(つまり私自身は彼のことを直接は知らない。彼も私のことを直接は知らない)片手の指が四本しかない男がいる。 ありがちな話か? そのとおり。 二十代の半ばに勤務していた工場で機械に巻き込まれ、指一本を失った。 いまは保険をうけながら自宅でアニメをみながら暮らしている……と四年前に聞いたのである。現在どうしているのかは知らない。その友人とも離れてしまったから。 友人というのは女である。そしてこの私は女ではない。 つまりそういう事情があるのだから、おそらくこの先指を失った男の話を彼女から聞きなおすこともあるまい。そもそも彼女自身が未だに男と連絡があるのか定かでない。男と彼女とは六歳ほど歳が違う。むろん彼女が年下である。私と彼女とは三歳違う。これは私が年上である。つまり男と私と彼女の順に三歳ずつ離れている。そのことについての話は、ない。 聞きなおすというのは、男の失った指が五指あるうちのいずれであったのかということ、そもそも右手左手のどちらの指であったのかということ、持っている障害者手帳の等級はどの程度のものであったのかということ、およびそれらに準ずるような下卑た興味もろもろである。なぜそんなことを考えるか――私もつい最近彼同様の手帳を持つようになったからである。こんなことになってから会うひと会うひとに愕かれたりものすごい目でみられたりするようになったが、仔細を語ったことはない。よくあることだから。 はじめは思うようにいかなかったことどもに困ることも今となっては殆んどないし、かつてあったものがない生活にも、もう馴れてしまった。 指のない男について話していた女に触れていた私のほんの一部が喪くなったのを、時折思いださせられるというばかりの話。
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