アーモンドスカイ B ( No.3 ) |
- 日時: 2012/06/03 23:20
- 名前: 片桐 ID:I7jRb6M2
アーモンドの瞳で世界を見る。 今の世界は、茜色。アーモンド型に切りとられた夕焼け空を、僕はただひとりで見あげているのだ 僕がいるのは、おそらく人里から遠く離れた、ゴミ捨て場。あたりには、ガラスの割れた食器棚や、折れたほうき、虫のたかったゴミ袋なんかが、転がっている。僕もまた、そういうもののひとつなのだ。 用済みという烙印を押された僕は、ときどき言いようもない気分に襲われると、「悪くないさ」と、何かに蓋をするようにつぶやくのが癖になっている。その言葉に嘘はない。だって、もう慣れっこだし、それ以外の気分というものを、忘れてしまったから。 うろこ雲が流れる夕焼け空を、渡り鳥が、矢じり型の編隊を組んで飛んでいく。先導する鳥が、キッと方向転換を決めれば、続くものらはまたたく間に編隊を組みなおして、あらたな軌跡を描いていく。それは、何度見ても飽きない、鮮やかな空中ショー。鳥に心があるならば、彼らはそんな自分を誇らしく思っているのだろう。 茜はやがて色を深め、いつしか空は、深い闇へと染まっていった。 夜空にまたたく星々のきらめきを見ていると、いつも思い出す声がある。 「リッキーは男の子だから、夜が来てもへっちゃらね。だから、さよならするのはリッキーにしたの。エマは、寂しがり屋の女の子だから、こんなところに置いていけば、すぐに泣いてしまうわ」 そう言ったのは、誰だったろう。 僕は人形だから、物覚えがよくない。昔のことを思い出すのは、なにより苦手だ。 だけど不思議なことに、その声だけは、僕のなかで、何度も繰りかえされる。 「リッキーの眼は、どこかにいってしまったから、このアーモンドをつけてあげる。これで、昼は青空を、夜は星空を見ることができるでしょう? きっと、悪くない気分よ。じゃあ、わたしは行くね。バイバイ、リッキー。わたしの大切なお友達」 いつか、雨が降れば、僕の眼は腐り、ついには空を見上げることさえできなくなる。いや、その時僕は、「僕」というものさえ失ってしまうのかもしれない。誰からも忘れさられ、僕がここにいたという証はさっぱりなくなってしまう。 でも――。 「それはそれで、悪くはない気分さ」 結局、そう考えることしかできない僕は、やっぱり人形に過ぎないだろう。
|
|