ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
RSSフィード [18] 山場を越えた道行は収束にむかい。とかいいつつ、三語。
   
日時: 2011/03/07 22:19
名前: 片桐秀和 ID:atKaeYS2

今回のお題。
「綿毛」「紅い」「境界線」
まあ、だいたい一時間後が投稿しめきりです。
なんとか完結を目指しましょう。

メンテ

(指定範囲表示中) もどる スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

境界へ ( No.3 )
   
日時: 2011/03/07 23:30
名前: 片桐秀和 ID:atKaeYS2

 人は飛べる。人は病まない。人は死なない。そんな、当たり前のことがたまに不思議になる。では僕たちはどうしてここにいる。どうして生きていく。男も女もなく、老人も子供もなくなったのは、いつのことだろう。それは僕が生まれるはるか前のことではあるのらしい。何十年か、何百年か、という昨日。

「やあ、アサマオ、変わりはないかい?」
 僕の友人であるトルクカの挨拶に、僕は首を振って答える。僕はいつも通り。世界もいつも通り。ただ蒼い。
「トルクカ、きみこそ変わりはないかい?」
 トルクカも首を振ってそれに応えた。いつもどおりの挨拶。この世界で、アオの世界で誰もが毎日何度と交わす挨拶だ。
「アサマオは今日も向こうの世界を見ていたのかい?」
 僕は頷く。
「トルクカも向こうの世界を見ていたのかい?」
 彼は頷く。
 それだけ会話を交わし、それ以上の言葉を失った僕らは、遥か西方の境界を眺めた。
 僕らは東のアオに住んでいる。アオは蒼い世界。空がそのまま地面に被さったような澄んだ色の世界だ。花も木も、人も動物も、命を持たないものも、全てが蒼く澄んでいる。僕らは歳を取らず、子供を生まず、ただ今日を過ごすために生きている。悲しむことは少ないが、笑うことも少ない。酷く退屈だが、絶望には至らない。そんな日々をもう何十年と生きてきた。
 僕らが住む世界は半円型をしていて、半円の直線にあたる部分には、紫の境界線といわれる長い一本の道があった。境界線とは言われるが、一方で道でもあるその一帯は、僕らを西の世界を分かつ絶対不可侵の領域だった。
 僕もトルクカも毎日そこを見て暮らす。それ以外にすることもしたいこともありはしないのだ。境界線のさらに向こうに広がる、彼方の世界をただ夢見る以外には。
 西のアカと呼ばれるその世界は、全てが紅い世界なのだという。僕らはそれを推測することしかできない。蒼い世界からものを見るしかない僕らは、向こうの世界が紫色に見えてしまうのだ。それはきっと向こうの世界から見ても同じことだろう。
 完結した存在であるはずの僕らが、それでも生き続けていくには、届かぬ場所が必要なのだとトルクカは言った。死をなくし、性別の意味さえなくしてしまった僕らは、届かぬ場所があるということそのものが、生きる意味なのだと。
 だから僕らは夢を見る。いつか、絶対不可侵の境界線を越えて、向こうの世界の人と触れ合うその日を。
 
 その日がようやくやってきた。その日がいつか決まっていたわけではないが、誰もが今日がその日だとはっきり悟った。
 何百年とアオの世界に生きてきた僕らが、一斉に境界線目指して、歩みだす。誰にも笑顔があった。そりゃそうさ、僕らはこのために、この日のために生きてきたんだから。
 死がないはずの世界で、唯一命が消えてしまうことがある。境界線を越えようとすることだ。僕らの身体が境界線に触れたとたん、僕らを支えている何かが終わる。生が終わったものは、その場にくずおれ、たちどころに砂に帰る。僕らはそれだけに気をつけ、また、いつか自分もそうなるということだけを夢見て生きてきた。目指すべき向こうへは、命を賭してさえたどり着くことは叶わない。
 それでも、僕らは歩みを止めない。歩く。進む。駆ける。歌う。
 僕らが境界線に至ろうとした時、西のアカの世界からも、人々がこちらを目掛けて駆け寄ってきていた。
 ほら、やっぱり。そうだ。これが、僕らの約束の日。
 長い長い生を終え、届かぬ彼方をついに目指す。
 僕らが死ねば、世界は終わるだろう。アオも世界も、アカの世界も。
 でも、でもさ。
 多分僕らが事切れた境界線の上では、いつか花が咲き、綿毛を纏った種子を実らせ、やがてそれは天に昇る。高く高く、僕らが飛べぬはるか空の果てまで飛んで、そこできっと芽を伸ばす。
 それが夢想に過ぎないのだとしても、もはや誰も歩みを止めはしない。境界線の向こうに見える、アカの世界の人々に向けて、僕らは「こんにちは」と、不思議な響きの挨拶をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あー、物語にしきれなかった。残念。

メンテ

(指定範囲表示中) もどる スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
E-Mail 入力すると メールを送信する からメールを受け取れます(アドレス非表示)
URL
パスワード (記事メンテ時に使用)
投稿キー (投稿時 投稿キー を入力してください)
コメント

   クッキー保存