Re: ふわふわ浮かぶそれは、確かに、確かに三語なのでした。 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/01/22 23:56
- 名前: 杜若 ID:683dc0II
このあたり……たしかにこの辺りなんだ。 俺は口の中で何度も同じ言葉を繰り返しながら、ふらふらと歩き続けた。 深い山の中である。辺りは天をつくような大木ばかり。足元に目を落とせばかろうじて道はあるものの、 土と同じ色をした枯れ葉にほぼ埋もれた有様で、長い間人どころか獣すら通っていないことがわかる。 俺は右手を体の正面につきだし手の平を地面に向けるという妙な姿勢で歩き続ける。 何度も転んだせいで泥にまみれた中指には銀色の鎖が蛇のように絡みつき、その先には同じ色の四角すいのおもりがぶらぶらとゆれている ダウンジング。その起源は古く隠れた地下水脈、金脈、はては埋めた場所を忘れてしまった水道管まで探し当てることができる不可思議な術だ。 オカルト、眉つば、迷信といわれながら、今でも地中の探しものには欠くことができず、術者は結構引っ張りだこだ。 俺はこの道5年の中堅で得意な探し物は貴金属。つまり金とか銀とかつまりはお宝だ。 埋蔵金ってものにとっつかれた頭の半分いかれた奴らが一番の御得意先。2週間山を歩きまわれば一ヶ月遊んで暮らせるだけの金が手に入る。 しかし、こいつは厄介だ。 俺はついに立ち止まって空を仰いだ。うっそうと茂った木々の間からほんのちょっぴり見えるそれはどよんとした灰色で 重苦しい気分を更にかきたてる。シャツの内側を汗が気色悪く伝っていった。頑丈な登山靴につつまれたかかともひりひりしてきた 俺の全身が疲れたと悲鳴を上げている。はあ、とため息をついて立ち止まると、 「一服して行かんかね」 行き成り目の前ににゅっと茶碗が差し出された。 ぎょっとして俺が差し出された方向を見るといつの間にか白いひげを伸ばしたじいさんがにこにこと笑ってたっている。 「そんなに焦ったらみつかるもんもみつからんよ」 ほれ、ほれと突き出される茶碗を思わず受け取る。煎茶だろうか緑色の透明感のある液体が八分目まで満たされ 芳ばしい匂いが鼻をくすぐった。ふいにおれは酷く喉が渇いていることに気がついた。ゆらゆらとまるで手招きをしているように ゆれる芳ばしいお茶にごくりと喉が鳴る。知らない奴に飲食物をもらうという不安はあっという間に乾きの前に砕かれた。 喉を鳴らしてお茶を飲む。空になった茶碗を老人はにこにことうけとった。 「あんた、何を探してなさる」 「何って」 尋ねられて俺は首を傾げた。 そういえば何だったっけ。徳川の埋蔵金か、武田の隠し金山かいや、もっと大切なものだったような気がする。 「えっと」 口ごもる俺に老人は茶碗を持った手で器用に俺のすぐわきを指した。 「これじゃ、ないかね」 「え?」 そこには枯れ葉に半ば埋もれて何かが横たわっていた。 おれはおそるおそる登山靴の先っぽで枯れ葉をどける。 暗い赤のジャケット、綿のパンツ がっしりした登山靴そして、胸の上に置かれた手のひらに巻きつかれたチェーン 「じいさん、これ」 「いい加減自分が死んだことに気づきなされ」 爺さんの声がまるで水中で聞いているようにぼやけ、にじみ、俺の意識はゆっくりと遠ざかっていった
終わり
|
|