リライト作品「そして、しゃれこうべたちは見つめ続ける」 ( No.22 ) |
- 日時: 2011/02/08 21:32
- 名前: 紅月 セイル ID:1ekHswt.
- 参照: http://hosibosinohazama.blog55.fc2.com/
HAL様の『荒野を歩く』をリライトしました。(というかアフターストーリー?) 勝手ながら大幅な改変と設定を付加したところがありますのでご了承ください。
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荒野は相変わらずの静寂と嘆き声のような冷たい風にその身を曝していた。変わっていない。まるでここだけが時間の流れに取り残されたかのように、何もかも。乾いた血のように赤茶けた岩々も、地面に這い蹲るようにしがみつく枯れ果てた木々も、頭上で休むことなく瞬く星々も、ただただあの時と同じだった。 「ただいま」 帰ってきたことを告げる言葉。それは誰もいない荒野にすっと溶けていった。俺が訪れたのは小高い丘の上にあるしゃれこうべに囲まれた竜の頭骨に似た巨石のふもと。かつて激しい戦いがくり広げられ多くの仲間が命を落とした場所。昔一度ここを訪れたときは至るところに骨々が転がっていたが、道中にはもうそれらしきものはなく、ここにはかろうじてしゃれこうべと思える白い塊が転がっていた。 背負っていた背嚢をおろしそこから幾つか酒瓶を取り出し口を開ける。琥珀色の液体が満ちたその瓶を逆さにして、砂礫で汚れたしゃれこうべに注いだ。十五年前と同じように手向けた酒は、十五年前と同じように彼らを濡らし、赤い大地へこぼれては速やかに広がって染みいった。彼らが飲み干したのだと思いこもうとしたあの時が少し懐かしかった。一本目が終われば二本目を、それが終われば三本目、四本目・・・・・・と背嚢から取り出し栓をあけ、しゃれこうべと赤い大地に注いでいった。最後の一本を少しだけ残し自分の口に含む。焼け付くような感触が喉を滑り降りていった。久しぶりの酒をしっかりと味わうと今度はたばこを取り出し口にくわえ火をつける。彼らにも手向けてやろうかと思ったが彼らの中には煙草が嫌いな者もいたためやめた。巨石の根本に背を預け竜の頭骨とその先の星々と月を仰ぎみながら深く息を吸い紫煙を吐いた。紫煙が淡い月の光に照らされながらゆっくりと夜空に上っていく。 ふと、十五年前にここに来た時のことを思い出した。あの時は、ただただ後悔と懺悔に苛まされ、救いを求めるようにここへ来て、話すこともないしゃれこうべに話しかけ酒を手向けた。しかし、わかりやすい救いなど得られるはずもなく、ただただ自分がまだ生きていることを痛感しただけだった。数日後後、俺はここに近い町に借りてあった部屋を出て、逃げるように旅に出た。あの戦争を生き残ったため金だけはそれなりにあった。 あてもなくさまよい歩き、様々な町や村々を訪れ、様々な人に出会いその営みを見てきた。昔日など嘘のような平和な日々を笑いあい過ごす人々。誰もが笑って過ごせる世界があった。 いつの間にか十五年もの月日が流れ、気づいたときには足は自然とこの場所へ向かって進んでいた。歩き慣れた足はあの時のように痛むこともなく、長い荒野には迷いを抱くこともなく、時の推移を告げる星々には愛おしさを感じるだけだった。崩れた彼らの骨々に酒を手向けても心は苦しくもなくあの時のように痛みもしない。こうして横に並んで闇夜に包まれた荒野と、その先で大きな影を浮かび上がらせる山々と、輝く星と月を眺めてもただただ美しいとしか思えなかった。 それでようやっと気付いた。『俺の心にはもう後悔も懺悔もないのだ』。いや、本当は気付いていながら心の奥底にしまっていたのかもしれない。この場所を訪れるまでは、と。 戦争に身をゆだね必死になって平和な世界を作ろうとしてその礎になった彼らがいた。戦争という過ちを繰り返すまいと立ち上がった人たちがいた。戦争が終わり、にこやかに笑い合って過ごす誰かがいた。そうして出来上がった世界に俺は生きている。それに気付けた時、答えは出た。 ――何故俺だけが生き残ったのか。 それはきっと、彼らが戦い求めた平和な世界が、出来上がっていくのを見届けるためだろう。彼らの代わりに、彼らの遺志を受け継いで。 もちろん彼らの死を悼む気持ちはまだある。死を悼む気持ち、それは生きている者ならば誰だって持つものだろう。家族、親族、友人、戦友、恋人……。そういった愛する者たちを亡くすのは誰だっていつかは経験すること。俺たちはそれを乗り越え、生きていかなければならない。俺たちはまだ……、生きているのだから。 短くなった煙草を、地面に押しつけて消し、立ち上がる。背嚢に空になった酒瓶を詰めて背負うと、巨石に向きなおった。 「あなた方が守り抜いた平和はこれから『生き残ったものたち』(俺たち)が守っていきます。……だから、安らかに眠ってください」 そう言って敬礼し、 「さようなら」 俺はその場を後にした。
荒野を風が吹き抜けていく。嘆き声のような風の音は相変わらず寂しげで悲しそうだった。しかし、先程よりもずっと暖かく感じたのは気のせいだろうか。 遠のく男の背中を、崩れたしゃれこうべたちが見つめ続ける。
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原稿用紙約六枚と短いものですが、とりあえずやりたいことはやりました。 原作からかなりかけ離れた感じがあり、また内容的には実力不足が大きく出ていると思います。 しかし、楽しかった……w。 読んでくださりありがとうございました。
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