人呪わば ( No.2 ) |
- 日時: 2012/06/03 22:58
- 名前: マルメガネ ID:Xp1uPBTk
射干玉の夜。月の無い夜。確かな闇と静けさが広がっていた。 その漆黒の闇と静寂を破り、名のある社宮の森より乾いた音がこだまする。 その音は怨念に満ち、また悪意の空気さえ流れた。 「我、成就せり」 五徳を逆さに被りそれに蝋燭を点した、髪ふり乱しおどろおどろしく化粧をした女が突如として叫ぶ。 手には木槌。そして神木には古い四角い五寸釘で忌まわしくも藁人形が打ちつけられている。 丑の刻参り。 しかし、その実態は陰惨であるのだ。彼女は付き合っていた彼との恋愛関係のもつれより、かの振る舞いに出たのだ。 付き合っていた彼が事故に遭うように、というその思念をこめて。 それがその晩成就する、満願の夜となった。彼が知ることはない。また誰にも知られていない。 最後の一打ちが打ち込まれる木槌の音がするや、寝ぼけたカラスが一斉に騒ぎ始めた。 彼女は一目散にその場を離れ、暗がりの長い急な石段を駈け下りた。 そして、短くドスの効いた悲鳴が上がり、そして静寂が再び戻った。 神社境内にいたる石段の前の鳥居付近は、赤いパトランプが盛んに点滅し、警察官が動き、立ち入り禁止のテープを貼って群がる野次馬をけん制するのに躍起になっている。 救急隊員が布を被せた担架を救急車に運び入れている。 「事故なのか、他殺なのかわかりませんね」 「ああ、わからないね。だけど、一つだけわかることがある」 「なんですか?」 「仏さんになった子だよ。白帷子というのも変だ。付近には蝋燭が立てられた五徳が転がっていた」 「まさか、丑の刻……」 そう、若い警部補が言いかけた時、いきなり石造りの鳥居が嫌な音をたて突然崩れ落ちてきた。 彼はとっさに体をかわしたが、間に合わず下敷きになった。 そう、彼こそが丑の刻参りの対象になった人物であった。呪ったのも、遺体になって転がっていた彼女である。 幸いに彼は救出されたが、二度と歩けない体になってしまった。 「彼女の死因は、石段から落ちたあと、その後傾き始めた鳥居の上に放りあげられた石が落下し頭部を直撃したものと推定される。まだ生きていたと思われるのだが、それが致命傷になったようだ」 病室で法医学者から、彼はそう報告を受けた。 彼の視線は、病室の窓の向こうに見える神社のある小高い丘に向けられていた。鳥居の修復のためやってきたクレーン車がなぜか空しく見えた。
_______________________________________________________________________ 急きょ書いたけど、なんだこりゃ。
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