Re: べ、別に参加なんてしてほしくないんだからね! なイベント。 ( No.2 ) |
- 日時: 2012/01/08 23:17
- 名前: 弥田 ID:6fsT27/c
あたしはダメだ。ダメな人間だ。なにひとつできやしないクズだ。いっそこのまま死んでしまった方がいいと思うのだけれど、それすらこわくて如何ともしがたい。せっかく三万円で買ったナイフも、鞄の底にしまわれたきり日に日に輝きを失っている気がする。はじめて手にしたときはあんなにきらきらとまばゆくて、本当にこれが人を殺すための道具かしらん、などと不思議に思ったくらいだったのに、今はどうしたことか。まるで土くれにも劣るような愚鈍な物質は、ただ重みだけを存在理由として日々を無為に過ごしている。時折鞄からひっぱりだしてみても、もはや以前のような元気はなくて、ぐったり身体をよこたわえたまま、すうはあとか細い呼吸をするのに必死だ。往時はあまりに元気さがよすぎて、両親から隠すのに苦労したほどだった。あのときは愛嬌もあってかわいかったけれど、いまはもうダメだ。愛情ももてない。そんなわがままな自分を省みると、さらにイヤになって、ああ、ダメだダメだ。 いつか殺そうと試みた鈴木はダルマとなりながらまだ生きている。まだきらきらときれいだったころのナイフとあたしは、鈴木の学ランごとその短い両手両足をえぐって、ついでにへそから背中へ刃を貫通させたりなんかして、引き抜くと傷口から溢れる腸やら血しょうやらの海に混じって子宮がこぼれて、あたしもナイフも鈴木のことをすっかり男だと思っていたからひどく驚いたものだった。あのあと問いただしたところ彼、あるいは彼女は実はある種のアンドロギュヌスのようなものであったらしく、ペニスもヴァギナもついていて、そのせいで性欲が常人の二倍あるらしい。あたしのことを強姦したのもその性欲を押さえきれなかったのが原因で、「まあ、これでおあいこだろ。ごみんごみん」とすでに失われた手をあわせたが、あたしの恥辱はこんなもんじゃない。絶対に殺してやる、と決意するもののダルマとなった彼は退院した後、規定にしたがってすみやかにダルマの学校へと転校していった。その足取りは人間であるあたしに追うことあたわず、彼は永遠に殺し損ねたままだ。はじめてをかえしてほしい。 思えばナイフと決裂したのもあの事件が故で、殺すことが目的のあたいと、切り刻むことが目的のナイフとではそもそもの美意識が違った。突き刺す、ということをナイフは好まなかった。そのことでひどい口論をして、それきり。鞄の底に放り込んで、それきり。衰弱しても、それきり。ナイフを飼うのに愛情は絶対不可欠なのだけれど、それを抱けないでいるあたしは、このまま見殺しにするしかないのか。あたしは人を愛せない人間であるのか。人類が好きだとか、世界が好きだとか、そんな大言を壮語するあたしが、ナイフの一本も愛せないのか。 言葉はむなしくて、だからあたしはダメだ。ひとを愛せない人間種に、生きる資格はない。なのに死ねなくて、だからあたしはダメだ。 鞄の底からそっとナイフをとりだす。動かない。ついに死んだか、と心配になって背中をさすると、ぴくり。痙攣するようにすこし動いて、ほ、と胸をなで下ろす。 「そう悩むなよ。俺はいつまでもまってるからさ」 ナイフがつぶやいて、だけど素直になれないあたしはダメだ。 「う、うるさい! 別にあんたのことなんか好きじゃないんだからね!」 いつか愛せるようになるといいな、と思う。
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