ろっぴゃくねんぜん ( No.2 ) |
- 日時: 2011/08/21 02:26
- 名前: 端崎 ID:XJjBrlaw
紫色の街では大瓶が倒れて野犬も魚も酒浸しだ。屋根にのがれた杜氏たちは揮発したアルコールにあてられながらもあっけらかんとやっている。ウミネコたちが酔っ払った魚を捕えて酔っ払う。丘の上のホテルからそれをみている。 「沖じゃあ海虫がぼうっと光る。酒が浚われていくからね。小蝦がそいつを食べにあつまる。小蝦のひりだしたもんが海流を甘くする。二、三日すれば西のほうからクジラがくるよ。ざこはもうべろんべろんだし、みんなじきそうなる。お祭りさ。六百年前におなじことがあったと叔母がいってた」 煙草を嗅いだ震えを落ちつかせるように女がいう。ぎぃいと革張りのソファが音を立てる。女の体が沈み込む。 酔いつぶれたのがもう何十羽と部屋の窓にぶつかっている。女は街を見おろしている。みてみたいね、と女がいう。海のにぎわいをさ。ちょっとでいいんだ。 飛べるならともかく、船でゆくのではおもしろい絵はみられまい。そういう意味のことをいうと「潜るんでもいいな、でもそれにはもっと泳げないとな」などといってソファから起きあがる。 するとホテルが大きく傾ぐ。地鳴りとともにすっくりと立つ。窓外の街はさらに眼下へ遠のいた。 「酔ったかな。しかし二本の脚では飛べないな」 笑う女の漕ぐ脚にあわせてホテルがすすむ。 歩くたびに波音がする。もとあった海岸線にそって歩きはじめた。 「岬へゆくらしい」と女がいう。
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