いや、義武は最強だろ ( No.2 ) |
- 日時: 2011/01/23 00:02
- 名前: ウィル ID:ZRCegyEg
世の中には不思議なことが山のようにある。 例えば、このダウジング。 折れ曲がった二本の針金を軽く持つと、地面に埋まっている金属の場所がわかるんだという。実際に、水道管工事に使われているらしいが、針金が一人でに水道管に反応するというわけではなく、人間の持つ潜在的な力によって、意識せずに針金を動かしているらしい。 「ここ……か」 特に、霊感の強い俺――近藤義武にかかれば、この通り、瞬時に水道管の場所を突き止めることができるだけでなく、水漏れの原因となっている場所までわかる。何しろ、針金が現場につくとくるくる一周回り始めたのだから。どういう原理だ。 「校務員さん、見つかりましたよ」 俺が学校勤続四十年、孫が最近できたらしく写真を常に持ち歩いている校務員さんに声をかける。 「何? わしの孫の写真が見たいじゃと?」 「もう七十二回見ました。それより、ここです」 「なるほど、ここか」 校務員さんはそういうと、しゃべるを持ってきて、俺に手渡す。掘れということらしい。乗りかかった船だから、俺は仕方なく掘っていく。 しばらく掘ると、土がだんだんぬかるんできた。さらに掘り進めていくと、急に水が噴き出してきた。 「よし、今、水道栓を閉めるからの」 そう言って、校務員さんが走り出す。 水漏れの場所がようやく見つかったので、あとの修理は任せればいいだろ そう思った時、水道管の横に何やら妙なものがあった。 「なんだ? これは……」 水道管の横にあったのは、妙な金属箱だった。
世の中には不思議なことが山のようにある。 例えば、拾った金属箱。校務員さんいわく、「持ち主もわからんし、貰っても問題ないじゃろ」とのことだったが、その中身は確かに貰っても問題のなさそうなものだった。 「急須か。どうしたんだ?」 翌日の放課後、リアル心霊研究部というふざけた名前の部がある部屋で、副部長の榊颯太が俺に声をかけてきた。 「昨日拾ったんだよ。土の中で」 そう、金属箱の中にあったのは真っ黒な急須だった。お茶を淹れる道具。 それ以上でもそれ以下でもない。こすってみたけど急須の魔人も出てこないし、宝石も詰められていない。 それがなぜ金属箱の中に入っていたのか、全くの不思議だ。 『わ、急須ですか。じゃあ、さっそく義武さんにお茶を淹れますね』 幽霊の美穂が笑顔で急須を持っていく 「あぁ、ちゃんと綺麗に洗ってから使ってくれよ。見た目は綺麗だけど、いつのかわかんな……て、いまさらだけど本当に馴染んだなぁ」 世の中には不思議なことが山のようにある。 だが、まぁ、幽霊なんていまさら珍しくもなんともないので、俺は全く気にしていなかった。 「僕としては、急須が一人でに空を飛んでいくように見えるから楽しいよ」 榊は美穂の姿が見えない。美穂から触ったり、榊を持ち上げたりすることはできるが、榊からしてみれば、触られているという感覚や、持ちあげられているという感覚が全くないらしい。颯太が言うには、もしこのまま首を絞め殺されたとしても、彼が死んで幽霊になるまで気付かないだろうという。そして、それが世に言う幽霊の呪いらしいが、美穂のように力の強い霊はめったに存在しないらしい。 『榊さんもお茶淹れましょうか?』 「榊もお茶飲むのか? って訊いてるぞ」 「いや、僕はいい。さっき珈琲を飲んできた」 『はい、わかりました』 聞こえていないのに律儀に返事をし、美穂は俺にお茶を淹れる。 「近藤、それがお前の言ってた金属箱か? かなり古いな」 榊が興味深げに見つめる。 『はい、義武さん。どうぞ』 美穂が出してくれた煎茶を、手の平で温度を感じながら飲む。うん、うまい。 「ん? 何か文字が彫られているな」 「へぇ、なんて書いてあるんだ?」 お茶を飲みながら訊ねる。 「この急須は闇の急須である」 「変な名前だな」 お茶を飲みながら相槌を打つ。 「この急須で淹れし茶を飲むもの、半刻の間、地獄の如き不幸に見舞われる」 お茶を飲みながら――お茶を全部噴き出す。 「汚いぞ、何をする」 お茶をかけられた榊が文句を言ってくるが、そんな場合じゃない。 「何をする、じゃねぇ。茶なら全部飲んじまったぞ」 「そうか。まぁ、半刻、つまり一時間我慢しろ」 『す、すみません、義武さん。私がお茶を淹れたから……う……ひっく』 「美穂、お前のせいじゃないから泣くな。よく確認しなかった俺が悪いんだ」 『もし……義武さんが幽霊になったら、ちゃんと幽霊としての生き方を教えてあげますから』 「うん、とりあえず死なない方向で頑張らない……がっ」 突如、背中に鋭い衝撃が与えられる。 なぜか、棚の上に積んであったボウリングの玉が滑り落ちてきて、俺の背中に直撃したらしい。不幸だ。ていうか、そんなところにボウリングの玉を置いたバカは誰だ。 「榊、他に何か書いてないのか?」 「ん? 何か封筒が入っているな」 「何? もしかして、この呪いを解く方法が……」 「いや、校務員さんの孫の写真だ。昨日手伝ってくれたお礼だそうだ」 「あの爺さん、何を考えてやが――ぶっ」 突如、床が抜けて前のめりになって倒れた。そして、そこはちょうど美穂の真下でスカートの中が―― 『きゃあぁぁぁ!!!』 見えると同時に美穂に思いっきり後頭部を踏みつけられる。 「じゃ、僕は巻き込まれるのが嫌だからお前を見捨てて帰る」 といい、逃げ出す榊。 『す……すみません、急に。わ……私、私もお茶を飲みます』 「おい、美穂がお茶を飲むって」 『だって、義武さんばっかり不幸な目にあわせられません』 美穂はそういい、急須の中のお茶を飲んだ……その時。 『あ、お迎えが……』 その時、空から若い男の姿をした死神が舞い降りてきた。 『義武さん、残念ですけど、ここでお別れです。たぶん、私の一番の不幸は義武さんとのお別れだったんですね』 「……美穂、行くな。こんなの、こんなの不幸で片づけられるかよ」 何が不幸だ。そんな、運とかそんな問題で、美穂の一生を決めるな。いや、死んでるのに一生という言葉もどうかと思うが、でも、こいつは―― 『義武さん…………あれ?』 その時、美穂は足元にお茶がこぼれているのを見つける。 『あ、そっか。私、幽霊だからお茶が飲めないんだ』 「何? じゃあ、あの死神は誰を迎えに」 その時、部室に一人の幽霊が――というか榊が入ってくる。 『階段から足を踏み外してショック死したらしい』 「そういえば、お前、俺の噴き出したお茶がかかったんだよな。それが口に入って」 『どうやらそのようだ』 その後、義武は死神をぶん殴った。 怒った死神が放ったアンリミテットデスボールなる必殺技を、校務員さんの孫の写真にやどる純粋な心で跳ね返して死神を焼き尽くした。 無事、榊は生き返った。
------ バカげたオチです。
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