HALさんの荒野を歩くのリライトです ( No.17 ) |
- 日時: 2011/01/19 12:25
- 名前: 新地 ID:3HxYRvhk
真夜中、荒れ野を転がる岩岩はどれも、錆が浮いたように、うっすらと赤い。 枯木が、岩と岩の間に生えている。砂まじりの強い風に吹かれ、哀れな音が鳴る。枯木を軋ませて奔る風は木枯しである。 その枯木のそばを、杖をつきながら歩いていく男がいる。めしいである。めしいの杖の先が砂をかむ音が、木枯らしにまぎれて鈍く響く。 風の音、杖が砂をかむ音、遠くから警笛のように鳴り渡る猛禽の声。めしいにとってはそれだけであった。月に照らされて白く浮かび上がる数多の骸も、めしいには見えていない。 骸には衣服がない。頭部のない骸もところどころにある。金になるものは、すでに剥ぎ取られたのだろう。頭部がないのは、しゃれこうべをけずり粉にすると良薬になると、人の口に膾炙されているからであろう。金にさえなれば、人の頭も追剥の獲物であった。
めしいの杖が、かつんと乾いた音を立てた。 めしいが腰を下ろして取り上げてみると、それはしゃべこうべであった。獣に噛み砕かれたような割れ跡がある。しゃれこうべのうらを、コメツキムシが這いまわっている。 めしいは立ち上がり、しゃれこうべを手に持ってまた歩き始めた。 めしいが進むほど、骸の数は多くなってゆく。杖が骸にあたることも度々になった。しかしめしいはもう立ち止まらない。骨を踏みこえて進んでゆく。 なにやら喋っている。しゃれこうべに話しかけているつもりのようだ。 戦が終わってから五年が経った。戦が終わったあと、名を変えて今まで生き延びてきた。妻も子どももいたが、今どうしているのかは分からない。と、そんなことを云った。めしいはかすかに口元を歪めた。笑ったのだ。
めしいの杖が、岩につきあたった。胴回りで10尺ほどもある大きな岩である。めしいはしゃれこうべを放り捨て、左手で杖をつき、右手を岩につきながら、岩に沿って歩いた。 30歩ほど歩いて、裏にまわったところで、杖はつたにかかった。つたは、岩にびっしりとかかっていた。右手もつたをとらえていた。
めしいはふりかえった。そこには先ほどまでと変わらず、岩と、木と、骸があった。 めしいは句を詠った。それは俊寛の句であった。 「此島へ流されてからのちは、暦も無ければ、月日のかはり行くをも知らず。ただおのづから花の散り、葉の落つるを見て、春秋をわきまへ、蝉の声麦秋を送れば、夏と思ひ、雪のつもるを冬と知る。―――」 俊寛は、その句を述べた後、一切の食を絶ち、念仏を唱えながら往生の時を待った。これはそういう句だった。めしいの詠うその句は、荒れ野を淡々と流れゆく。そのなかでめしいは力まず、かといって緩まない、不思議な佇まいであった。
詠い終わり、めしいは懐から瓢箪を取り出し、栓をぬいて下に向けた。酒がこぼれ、酒を啜った土が黒ずんでゆく。
めしいは、瓢箪に残った酒を一口あおり、瓢箪を放り捨てた。 そして、元来た道へと歩みはじめた。
終わりです。 片桐さんと被ってしまいましたね(原作だけ) 私のは、リライトといっていいのかどうか。
リライトはやったことが無かったのですが、難しいことに挑戦してみたかったのでやってみました。 客観的にみて出来はよくないかもしれませんが、とても面白かったです。
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