朝の起き抜けに胃の中の確かな空白を意識しながら、さりげなくそっと郵便受けを開ければなんとそこにはプッチンプリンがあって、赤いパッケージがやけに目にまぶしい。中身が半分ほどに減っていて、ふたも半ば外れたまま、軽薄そうにぺらぺらとしている。誰が何を思ってこんなところに置いたのか、真意はよくわからないけれど、とにかくおなかはすいている。これを食ってしまおうかしらん、それとも捨ててしまおうかしらん、ああ、「to eat or not to eat」ですな、などと考えているうちに、昨日摂取したまま抜けきらないアルコールが脳髄をがんがんと揺らしはじめてくるしかった。さわやかな目覚めとはほど遠い。青空だけはやたらと綺麗で、底の抜けてどこまでも澄んだ青色をしている。それがむしろ恨めしくって、わたしはプッチンプリンの赤を愛した。 ――血の色がこれくらい安っぽければ、どれほど楽だったことだろう。 よし、と決めて、プッチンプリンを手につかんで家の中、リビングにへと戻った。ふかふかなソファの上に座って、片手に握った容器のかたちをしばらくじろじろと見回してみる。角度によって違う風に見えた。円形だったり、台形だったりして面白い。あはは、とすこし笑う。笑うとなんだか醒めてしまって、なにがそんなにおかしいのだろう、こんな気持ち悪いもの、さっさと捨ててしまおう、というような気になる。ゴミ箱に投げると、狙いがそれて壁にあたった。中身がそこいらに飛び散って、ああ、それはもうやるせない。いちど寝直そうと決め、ベッドへと向かう最中、みぃ子が床に転がっていて、またいでも動く気配すらない。愛おしくて、キスをして、すると口いっぱいに、鉄っぽい味が熱のようにひろがる。エグみがキツくて、甘いものがほしかったけれど、床に落ちたプリンはもう食べられない。しかたなく水を飲もうと、コップに汲んでいるとき、ふ、と窓の外の青空が見え、あんまりにもむかつくので、くやしくて、せつなくて、コップ一杯の水を、力強く飲み干した、朝。