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RSSフィード [80] 「誕生」する物語
   
日時: 2015/01/11 18:46
名前: 片桐 ID:WTZkbyas

こんにちは。
連休はミニイベントのチャンス! ということで、今日もやります。ええ、やりますとも!

今回のテーマは「誕生」です。
「誕生」をテーマにこれから90分(八時半まで)で作品を仕上げてください。
なお、「誕生」だけでは話が思い浮かびにくいという方は、以下の任意のお題(作中に使う使わないは自由のお題)盛り込んだ話を考えてみる、というのもありです。
任意お題 「嵐」「ハズレくじ」「なめくじ」「乳首」

投稿は、このスレッドに返信する形でお願いします。
その際、トップ画面からミニイベント板に入ってください。そうしないとエラーが出るようなので。また、修正・削除のため、パスワードは忘れないようにしてください。出遅れた、イベント時間は過ぎているけど参加したい、という方はそれでもかまわないので、ぜひこちらに投稿してくださいね (*^^*) 。

それでは、七時になったらスタートですー。

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ナカムラ ( No.1 )
   
日時: 2015/01/11 20:49
名前: 海 清互 ID:a1ebM4q6

沖縄の乳房をかたどった墓からその子は生まれたといった。那覇市の住所を持った紙を渡されると、彼は25の男の手を引っ張って家の中へと上がり込んでしまった。
上京もせず仕事にあぶれた男の薄汚い部屋を、小学3年生ほどのその子は徘徊すると、好んで薄汚いフライパンの残りカスや、インスタント焼きそばの残りを食べて回る。
そうするたびに男は彼の素行を少々おののきながら注意するのである。
男が怯えるのも無理はなかった。少年は髪の毛が白髪交じりのボサボサで、皮膚はいつも粘液が浮いており、 猫背でグルグルと鳴いたためだ。そのような容姿であったため男は五良(グラー、グル)と読んだ。まるでその姿はなめくじかかたつむりのようでもあった。
嵐の夜、男が自殺しようと思っていた矢先、五良は現れた。雨の中ではつややかな肌を持つその少年は、驚異的な腕力で気によじ登ると、首吊りのロープを引っ張り引きちぎってしまった。
母なる墓の前で死ぬのだから、きっと良い場所へと行けるだろうと思っていた矢先の出来事だった。

五良は那覇市の首里金城を無言で指さしながら目を細め喉を鳴らした。
そこへ逝けと指図しているかのようだった。
遠く那覇空港から旅客機が旅立つ音が聞こえ、片や米軍基地からヘリの爆音が轟いた。
暑い夏の日差しを受けて、五良はより一層干からびたように見え、途中飲み物を指さして男せがんだ。男はない金をしぶしぶはたいてペットボトルのお茶を与えると、五良は目を細めてそれを飲み、残りのお茶を頭から被るのだった。
男はいくつか五良に質問したが五良はうん、や、あー、そう等と言うばかりで会話をしようとしない。そのような言葉を使えるのだから一応会話は成り立つのだろうと男は思ったが、何度聞いてもはぐらかすので、男はその内ギラつく太陽に任せてけだるい気持ちで質問を諦めてしまった。

首里金城についた五良は一目散に中庭へと走っていった。首里金城は城というが実際には墓である。琉球王朝の末裔がそこに祀られている。五良は男がのろのろと歩く中、お茶で元気を回復したのか、一目散に遺跡の中央へと走り去ってしまった。
そういえば、と男は思った。
五良を見た時に、何故自分は警察に届けなかったのだろうか。身元不明の少年に救われたからであろうか。
奇妙な感覚に襲われながら男はなんとなく東室を抜け、中庭への扉を開けた。
中庭は真夏の太陽で陽炎が揺らめいており、そこには五良に似た子供が五人居た。五良を含めて六人である。
奇妙な空気だった。時間が歪められているような、空気が中庭中央にいる五人に集まるような印象を男は受けた。
六人の子供は喚くようにハーモニーを効かせながら男に叫んだ。
「ようこそ、我がムーの末裔!」
「我らは古代ムー王朝ラ・ムーの血を引くもの」
「遥かシュメールより科学を伝えるもの!」
「かごめの秘密を持つもの」
「スメラと繋がるもの」
そういうが早いか空が曇り、小雨とともに雷鳴が鳴り始めた。
男は驚く前に口を開けてことの自体を掴みかねているようだった。すると、少年達の目は赤々と光りだし、頭のなかに声が響いた。
「おお、尚真王の生まれ変わりよ、今こそその力を奮え。アトランティスと繰り広げた闘いはまだ続いている」
男の中に米軍基地が思い浮かび、その基地が爆発と火炎に包まれている姿を見た。
続いて、ある男が大剣を握り、馬上より生首を掲げているのが見えた。
「我が祖である」
アトランティスの五千の軍勢と三万のムーの軍勢は圧倒的戦力差であった。しかし、旧式の槍と弓のみで戦うムーの軍勢に対し、アトランティスは火薬を用いて遠距離より砲撃を加えてくる。
数に対して全く意味を成さないムーの軍勢は幾度の敗走を重ねた。
「ムーは地に沈み、アトランティスもまた神風により地に沈んだ」
長い歴史の奔流が眉間に流れ続け、小さな文明の萌芽と終焉が幾多も繰り返された。
猛烈な勢いで進行する時間の流れのなかで、航空機が飛び交い、撃墜され、チャーチルとルーズベルトはヒトラーを糾弾する。軍隊の行進が見え、キノコ雲が舞い上がった。
アメリカはアトランティスである。そう頭のなかに響いた。

市長の名前は平凡な名前だった。少なくとも沖縄らしくもなく中村といった。
ライバルである、那覇に強力な地盤を持つ喜屋武は爽やかな容姿と手腕、マスコミへの全国的人気を持つ中村に敗退した。中村の裏工作は見事で、講演会時に袖元に金を落としていった愛人を操り、それを元に喜屋武は失脚した。
5年後には色々と黒い噂をまき散らしながらも、中村は防衛大臣のポストを手に入れると沖縄再編の問題へと取り掛かり、米軍を優遇した。
彼は対中国のために米軍の駐留は不可避であるとした。
彼の手は異様にスラっとしており、雨がふらないと痛むのです、とマスコミに語った。夜はサングラスをつけることが普通だった。

風呂を浴びて窓の外を見る中村が居た。遠く首里金城は見える高層マンションの一室で中村はぼんやりと外を眺めた。
いつも頭のなかで彼らが言う。中村はそれに答える。
中国もアメリカも、両方を巧く疲弊させることを考えるのだ。
五良は頭のなかで喉を鳴らした。その姿はもう消えかかっており、中村は自分の姿を夜景の透ける窓辺に写した。腹、足の甲、胸元、両膝に人面の腫瘍が浮かんでいる。
顔は、五良の様に細い目つきとなっていた。
ああ、そろそろお前たちは誕生する。このような回り道などする必要性がない。中村はうごめく肉塊がもたらす苦痛と胎動の中で心沸き立つ喜びを感じた。中国に種子をまいた。それは巨大化し、やがて中国を飲み込むだろうと五良は語った。
面会した中国共産党の主席が謎の奇病で死ぬと、中国各地で奇病は加速的に進行した。
その奇病の名前はSARZと名付けられ、日本国内では厳重な監視体制が敷かれた。
国内の監視体制の厳重さ故に、中村はほくそ笑まずには居られなかった。
保菌者の主が完全にコントロール可能な状態でここにいるとは誰も思いもしないのだ。
中村がそうして呟いた時、廊下から足音が聞こえ、後ろにある扉を乱暴にこじ開けた。
連中は全く躊躇すること無く手に持った銃らしきものを向けると中村に照射した。
中村の判断は素早く、地面を蹴りあげて天井の照明にぶら下がると連中の一人に襲いかかった。しかし謎の集団も素早い動きによりそれを回避すると中村の各人面瘡に向かって銃を発泡した。
白い液体が中村に吹きつけられると、六人に寄生された中村の身体は観る間に溶けてゆく。
中村はやはり、とおもった。あの手のものか。
カドゥケウスの杖のワッペンがつけられたベストを纏う彼らは、崩れゆく中村に幾度と無く照射を繰り返し、中村は消え行く意識の中でアトランティスを呪った。
すっかり泡とかした中村を見ながら男たちのリーダー格は無線に語りかけた。
「マルフタマルマル、目標の殺菌を確認」
「はい。これで増殖した無限記憶体の消滅は10体目です」
「いえ、検体を持ち帰る必要など……は、しかし、彼らの妄想でしょう」

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