Re: べ、別に参加なんてしてほしくないんだからね! なイベント。 ( No.1 ) |
- 日時: 2012/01/08 22:58
- 名前: マルメガネ ID:g8kPzHBs
風薫る五月。 新学期が始まってさっとひとつきが去り、ゴールデンウィークの真っただ中。 田舎では田植えの真っただ中。都会では田舎へまっしぐら、の時。 「お嬢様。今年こそは、早乙女をしていただきますからね」 手伝いで来るヨシ婆さんその言葉に、こっそりと家を抜けだそうとしていた令嬢のヒナはどきりとした。いつの間にか行く手も姉のヒヨとカヤ、それに妹のヨモギに塞がれている。 彼女の家は旧家でも旧家。土豪の子孫だということもあって家の年中行事として定例かつ半ば掟と化した広い田圃の田植えがある。 毎年姉妹に早乙女を押しつけて、なんだかんだと言いつつ逃れてきた彼女であったが流石に今年こそは逃れられないらしい。 「い、いいわよ。早乙女ぐらい」 仕方なく彼女は行く手を遮られてはなす術もなく、承知せざるを得なかった。 この分だと連休明けに男子連中に何言われるかわからない。 ちょいと悔しい気もする。 着慣れない絣の着物とモンペを着せられて、半分連行された形で田圃に送られる。 その途中で、クラスメイトのタツキに見られた。 「お前、その格好でどこへ行くんだよ」 「田圃よっ。べ、別に好きでこんな恰好してるんじゃないからね」 「ふ~ん。意外に似合ってるじゃん」 逆に興味をそそられたらしい。 田圃に来るとあまりの広さに立ちくらみを起こしそうになる。気になったらしく、後をつけて来たらしいタツキがはるか先のあぜ道でうろついていた。 田植えが始まる。 田植え囃子と太鼓が響き渡る。 その音でようやくタツキが気づいたらしい。 姉妹が囃子に合わせて植えてゆく。ヒナはそれにかなり遅れて植えてゆく。 それをタツキが興味深そうに見ていた。 ちょっと恥ずかしい。でも、似合っている、言われたのが妙にうれしい。 ヒナは複雑な心持ちだった。 気が付けば、田圃のあぜ道はギャラリーが集まっていた。 姉妹に遅れること三十株以上。 どうにかこうにか植え終わってほっとしていると、父のイナゾウがどこかの夫人と話をしていた。 「誰?」 「え、姉さん知らんの? ウナガミ家の人だよ。あぜ道で私らを見ていた兄ちゃんの家」 「へ?」 驚きである。 どうつながりがあるのかはさっぱりわからない。 「今年も神饌に使う稲が育てばいいなぁ」 イナゾウが言う。 ようやくそれでヒナは納得した。 そういえば、彼の家も海に近くにあってかなり大きな屋敷だったし、神社っぽいのがあった。 「山と海は切っても切れんのよ」 イナゾウはそう言った。 そう、彼女の家であるヤマガミ家は、ウナガミ家の田圃も作っていたのだった。 ヒナは魚取りするタツキってどんな格好をしてるのだろうと、勝手に妄想をしていた。
了
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