だれもいないえーんじぇーう ( No.1 ) |
- 日時: 2011/08/18 01:07
- 名前: 端崎 ID:ml1jFblE
建物のなかへ入る。エスカレーターを降りる。喫茶店に入るときょうもいた。 蛇がコーヒーを飲んでいる。飲みながらおおきくはない眼をおぼろにひらいて文庫の文字を追っている。 カフェオレを頼むと離れたところに席をとった。 薄手のスウェットパーカを羽織って、ずり落ちそうになる眼鏡をしきりに舌でおしあげている。 映画をみにくるといつもいる。煙草を吸うわけでもないのに喫煙席に陣をとり、なにがしか読みものに眼を落としている。きょうのように文庫本のときもあり、新書やハードカバー、フリーペーパーのときもある。いちど、歌集をひらいてるのをみかけたこともある。 五分か十分ごとにストローからちびちびと飲みものを飲む。それからどこへむけてかかぶりをふったりなどしてページに戻る。 二時間も三時間もそうしているにちがいないのだ、いつも。わたしよりはやく席をたつことはけっしてない。そうしてわたしよりあとから入ってくることもない。背凭れのある椅子に腰掛けている姿しかみたことがない。 きょうもそうしてコーヒーを飲んでいる。髪が茶髪になっている。水けのある黒髪だったのが染髪されていた。照明のせいかともおもったがそれにしてはやけに明るい色なので、やはり染めているのだろう。身体の色に似ている。やや癖のある撥ね方をしていてどことなくやぼったい。 眺めているうちにカフェオレがなくなる。時間も頃合になる。 店の奥で眼を細めている蛇を最後にみやると店を出た。店の床はよく掃除されていてサンダルがすこし滑った。
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