希望 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/04/10 00:27
- 名前: 昼野 ID:CEBWG1wI
どろどろした暗雲が、西方から厚くたれこめて、徐々に夕暮れの陽を覆い隠し、あたりは暗くなっていった。 僕は家路を急いでいた。激甚な腹痛が僕を襲い、肛門を下痢が圧迫していたのだった。 僕は一つ目だった。顔の中心に目が一つだけあるのだった。生まれながらの奇形だった。そのせいで学校ではひどく苛められており、ただでさえタブーである大の方の便所に入るのは躊躇われたのだった。 暗雲による太陽の遮りは、そのまま今の僕の心象を表しているように思った。それが腹痛であるにも関わらず、愉快に思って、苦痛に歪む顔の口端を歪めた。 それにしても、僕の家は学校から10キロも離れている。走っているとはいえ、到達するまでまだ大分かかるだろう。僕はそれまでに肛門を圧迫する下痢を我慢することが出来るだろうか。おそらく、できないだろう。僕は盛大に下痢を漏らすに違いない。そうと解っていても、走り続けた。熱い希望を抱いて走った。希望がある限りすべての事はなんとかなる、と学校の教師に教わったからだ。 やがて陽が落ち、辺りは本当に暗くなった。雲の隙間から幾つかの星がちらついていた。あの星のような希望を僕は持っているんだ、暗い空で輝く星、そう思って走った。 家まであと一キロほどという所だった。閑静な住宅街のなかだった。僕は希望を抱いていたにも関わらず、肛門の括約筋の限界、そして繰り返し押し寄せる腹痛の波に敗北して、盛大に下痢を漏らした。下痢ではなく噴火、と言っても良かった。それほどに僕の穿いているハーフパンツの、隙間という隙間から、溶岩のような下痢が、勢い良く流れ落ちた。 僕は絶望して、その場に崩れ落ちて泣いた。下痢まみれになって泣いた。 なにが希望か、と思った。下らない授業をした教師を呪った。 仰向けになった。厚い雲の隙間から、幾つかの星がちらついている。希望の象徴だった星。 その時、僕の耳に何かが囁いた。幻聴と言ってしまえば容易かった。しかし、それ以上の何かの声だと思った。神様ではなかった。優しい神様なんて何処にもいない。僕は声を、犯罪者の王の声であると判断した。 声はこういった「星を打ち落とせ。希望という希望を絞殺せよ」と。 下痢まみれの僕は、人差し指を突き出して、手を拳銃のかたちにして、星を狙った。そして「バン」と呟いた。星はしかし、相変わらず燦然と輝きつづけていた。
|
|