恋の応援 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/04/04 00:06
- 名前: ウィル ID:aNGkLU/w
「好きだ」 突然の告白……というわけではない。ここ数分の間にこの言葉を何度も聞いている主人公の近藤義武君。高校一年生にして、何かを悟ったかのようなあきらめムード。 ちなみに、愛の告白をしているのは、二年生の木崎恵理さん。学級委員をつとめる三つ網の眼鏡美人で、学校でもそれなりに有名人です。 そんな彼女に告白をされている義武君。ですが、なぜか全然うれしそうにありません。 まぁ、義武君には幼馴染の紺野りんごちゃんという恋人がいるわけですし、義武君の性格からして、現在の彼女を捨てて他の女に乗り換える、とか、ましてや二股をかけて交際する……なんてことできるわけありませんからね。 でも、こんな美人に告白されているのだから、少しはうれしそうにしてほしいです。 「……あの、木崎先輩?」 やはり困った……いや、よくみたら義武君のこめかみがやや痙攣しています。これは困っているのではなく、やや怒っています。どういうことでしょうか? 「好きなんだ、隣の席の滝口のことが」 あぁ、なるほどなるほど。つまり、これは、『ラブレターをもらったと思ったら、「○○君に渡してください」と言われるお約束』ですね。天丼ネタです。 「なんでそれを俺に言うんですかっ!」 義武君は恋の経験が豊富なほうではありません。むしろ、幼馴染のりんごちゃんに好意を持たれていたのに最近まで気付かないほどの朴念仁ですし、りんごちゃんと付き合う前は「彼女いない歴=年齢」というありがちな少年だったのですから。 他にも、リアル心霊研究部などという部の部長をしていますが、恋と関係があるとは思えません。 「わ……私は恋などしたことがないのだが、恋というのは病の一種であり、現在の医学では治しようがないという」 恵理さんの言うことは正しいようですが、何か微妙に違います。 「だから、除霊のようなもので治してもらえないだろうか?」 「…………は?」 「昔から、病は病魔によって引き起こされるものだといわれている。病がウイルス性の病気でない以上、ここは心霊的な見地から治してもらえないか?」 「………………木崎先輩」 義武君は心底つかれた声でつづけた。 「とりあえず話を聞かせてください」 かわいそうなことに、不条理な相談には慣れてしまった義武君。恵理さんの話を聞くことにしました。 ちなみに、いつもは怒り口調の義武くんですが、今日は先輩相手なので軽い敬語を使っています。違和感ありますが、ご了承おねがいします。
恵理さんの好きになった滝口君とは、軽音楽部の滝口誠君のことらしいです。ただ、まじめというよりはかなり遊び人という感じで、出会う可愛い子全員に声をかけているという話で、かなりの有名人です。もっとも、そんな調子なのでまともな彼女はいないそうです。 「そりゃまた、正反対の性格の人を好きになりましたね」 真面目な委員長と遊び人の軽音楽部員。 「あ……あぁ」 「きっかけは?」 「…………かかか……かわいいと言われた」 「…………それだけですか?」 今時、小学生でもそんな言葉でなびきませんよ。 「私は、昔から……自分でいうのもなんだが、真面目に学級委員として学校生活を送ってきた。そのせいか、頭の固いイメージがついてしまったらしく……初めてなんだ、そういう風にほめられたの」 「確かに、かわいいなんて言ったら怒りそうなイメージがありますからねぇ」 そのイメージは彼女と出会って三分で崩壊したけれども。 「なら、恋から冷めるんじゃなくて、いっそ付き合っちゃえばどうですか?」 「だめだ! 校則で不純異性交遊は禁止されている」 「なら、純粋に交際をしたらいいでしょうが!」 「男は狼だ。滝口もきっと、私とつきあえば……ソックス……サックス……シゲキックス……」 さすがは委員長。口がさけてもセックスなんて言葉言えないですね。 「あぁ、もう、とにかくそういうものを要求して……」 「どうしました?」 「してくるわけない。いや、そもそも私のようなつまらない女と付き合おうなんてするわけがない」 「……はぁ……そっちですか」 恵理さんは恋から冷めたかったのではない。恋に傷つくことが怖かっただけなのだ。 「わかしました。恋の病から抜け出す方法を教えますよ」 「ほ……本当か?」 「簡単です。相手に告白すればいいんですよ」 「こ……こここここここここ」 鶏のまね。お約束です。 「告白なんてはしたない真似できるか!」 はしたないって……想像段階でいきなりセックスの要求までされている恵理さんの台詞ではないですね。 「滝口先輩のことが好きなんですよね」 「……あぁ、好きだ」 「なら、気持ちを伝えましょう。一応、俺も陰から見守りますし、成功したら祝いますから」 ちなみに、この告白はふられるだろうと、義武君は思っていました。滝口君は遊び人ですから、どう考えても委員長キャラの恵理さんと付き合うとは思いません。また、滝口君は聞くところによると紳士的な一面を持っているらしいので、きっと彼女が傷つかないように断ってくれるはずです。 「もう一度聞きます。好きなんですか?」 「……あぁ、好きだ」 その時、扉が開きました。扉をあけた人物と義武君の目が合います。 「好きだ!」 「先輩、待って下さい!」 「おそらく私が生きてきた人生の中で一番好きだ! きっとこ……恋をしている」 「…………(だっ)」 彼女の告白を聞き、走り去る謎の人物。その人物とは…… 「りんごっ!」 そう、義武君の彼女、紺野りんごちゃんでした。 義武君が必死に呼び止め、廊下に出たが彼女の姿は見当たらず。 これは確実に誤解されています。りんごちゃん、きっと義武君が恵理さんに告白されたと思ったに違いありません。 「どうかしたのか?」 「いえ……とりあえず、告白しちゃってください」 まぁ、大丈夫だろう。あとで誤解をといておくか、なんて義武君は思っていました。
「そ……それで、ここここ……告白とはどうしたらいいんだ?」 「たいしたことはありません。好きです! と言ったらいいんですよ」 その「好きです」をりんごちゃんに言うために義武君は一度死にそうな目にあっているというのはまた別の話です。 「それができたら苦労はない」 「なら、ラブレターを書くとかは?」 「私の字はかわいくないんだ」 証拠にと恵理さんは自分の名前を、メモ帳に書きます。 とても綺麗な字でした。 まるで、パソコンで打ちだしたみたいに。 「こんな字じゃ、さすがに恥ずかしいだろ」 「……なら、最後の手段として、滝口先輩から告白されましょう」 そういい、義武君は携帯電話を取り出します。
それから、義武君と、義武君の知り合いによる恵理プロデュースが始まりました。
そして、次の日。 「これが……私なのか?」 そこには生まれ変わった恵理さんがいました。 まっすぐにセンターでわかれて三つ網だった髪が、今では左右でロールされており、眼鏡もコンタクトレンズになって、化粧も薄くしています。それに、スカートのたけが三センチ短くなっています。 「よし、完璧な絶対領域。こいつはそそるわ」 危ない台詞を言う義武君の知り合い――黒居桃さん(♀)により、恵理さんはお堅い委員長から、どこにでもいそうだけれども、その“どこでも”というのがテレビや雑誌の中だけじゃないのかなぁ? という可愛い女子高生に生まれ変わりました。 はっきりいって、恵理さんの面影がないです。 「じゃあ、行きましょうか」 「ま……まて、さすがにこのスカートのたけは短いだろ」 「それがいいんだよ! 完璧だよ! 大丈夫、ぎりぎり見えない! そこがいいよそそられるよ!」 桃さん、かなりあぶないです。 「あの滝口とかいう男は中庭にいたよ」 「よし、行きますか」 「あ……あぁ」 大丈夫です、ここまでくれば、かならず滝口君は声をかけるでしょうね。恵理さんだと気付かずに。恵理さんだと気付いた時の反応も楽しみです。
そして、中庭に、滝口君がいました。りんごちゃんと一緒に。 「な……なんでりんごが」 「た……滝口くんが他の女の子と」 それぞれ開いた口がふさがりません。
☆
一時間前。
今朝、義武君は恵理さんをプロデュースするため朝早く登校し、りんごちゃんは仕方なく一人で登校しました。 その間、いろんなことを考えていました。どうして義武君は一人で登校したのだろうか? そんなことを考えて学校に行くと、そこには見知らぬ美人と義武君がなにやら話していました。桃さんもいましたが、親父性格なので目に入っていないみたいです。 それでどうしようかと落ち込んでいたら、 「大丈夫? 泣いてるのかい?」 さわやか青年の皮をかぶった滝口君に声をかけられました。 そして事情をついつい話してしまったりんごちゃん。よっぽど困っていたんでしょうね。 「なるほど、それはその男が悪い」 一通り事情を聞いた滝口くんはそう言いました。 「きっと、その男は浮気魔だ。最低の男だ」 「そ……そんな……よっしーは」 よっしーとは、義武君のニックネームです。よしたけだからよっしー。凄く単純ですね。 「浮気に違いないよ。だって、二日連続君に内緒で美人にあってたんだろ。なら最低の男に違いない。史上最悪な浮気魔だ」 「そ……そんなことはないよ。よっしーは私のことを好きだって言ってくれたし、よっしーは浮気なんてする人じゃないから! だって、よっしーは、私が世界一好きになったよっしーだから」 それを聞いた滝口君は、満足そうに頷きます。 「わかってるんじゃん。なら、本人に事情を聴くことを優先しなよ」 その時、 「りんごっ!」 義武君が走ってきました。 「来いっ!」 義武君はりんごちゃんの手を握ると、走り去って行きました。 「ちょっと、近藤くん! 陰から見てるって言ったじゃ……あ」 つられて出てきたのは恵理さんです。 「君が近藤義武君と一緒にいたっていう……って、あれ? もしかして委員長?」 「あ……ああ」 生まれ変わった恵理さんをすぐに見抜くとは、さすがは遊び人です。 「に……似合わないなら似合わないと言え」 「あぁ、似合わないな」 「どよーん」 恵理さんが落ち込みます。口でどよーんと言うくらいに落ち込みます。まぁ、好きだった男のために一生懸命おめかしして、それを似合わないといわれたらショックでしょう。 「だって、委員長らしくないだろ?」 「そうか、似合わないか」 「委員長はそういう派手な服とか嫌いだろう。今時めずらしく、だれも守っていない真面目に校則を守ろうとしていて、だけれどもちょっぴりおしゃれをしたいから校則ぎりぎりの三つ網を時間をかけて結っているのが俺の好きな委員長だしな」 「な……」 「それに残念だ。それだけおしゃれをしているってことは、恋とかしたんだろ? 俺、委員長のこと少し狙ってたんだけれども」 「…………」 その瞬間、恵理さんはとうとう倒れてしまいました。
「ま、予定通りだな」 その二人の光景を眺めているのは、義武君とりんごちゃんの二人です。誤解もとけてちょっぴり仲良し。 「あれでいいの?」 「気絶したら、滝口先輩は絶対に介抱するからな。あとは、そのお礼にと、あれこれサービスして仲良くしたらいいんだよ」 「そっか」 倒れた恵理さんをベンチに運ぶ滝口くん。 とても恋人同士には見えませんが、どことなく恵理さんの顔が幸せそうに見えました。 「ねぇ、よっしー。ごめんね」 「……なんのことだ?」 「よっしーのこと疑って」 「……信じてくれてありがとうな」 義武君、きっちり二人の会話を聞いていたみたいですね。りんごちゃんは、自分が言った恥ずかしいセリフを思い出し、本当のりんごのように顔を真っ赤にさせていました。
めでたし、めでたし
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