人形と呼ばれた少女
紳士淑女ならびに少年少女の皆さま
ようこそ、おいでくださいました
わたくし、今回の語り部を務めさせていただきます
「K」と、申します

さて、今宵お話しする話は
ある金髪少女と緑髪の少年の物語でございます
彼らが通うのはどこかにある幼稚園
そこで、彼らは出会いました


「はーい、休み時間だよ」
「やったー!!」
「すべりだいいこうぜ」
少し高めの声が教室を覆いつくします
給食の時間が終わり、園児たちが元気に外に走っていきます
すぐに、教室の中は静かになっていきました
(さてと・・・)
まだ、教室の中に少しだけ残っていた園児の一人が立ち上がろうとすると
「ねえ、きょうなにしてあそぶ?」
「おにごっこしようぜおにごっこ」
「やだぁ!!おままごとしたい!!」
その園児に、男児女児関係なく数人の園児が集まってきます
「じゃぁ、かくれんぼしようよ」
「かくれんぼ?」
「うん、かくれんぼ」
「いいね!!」
園児たちが、外へと元気に走っていきます
ふと、一人の園児がまだ教室に残っている子に気付きましたが
「・・・・・・」
そのまま、何もせずに外へと向かいました
「・・・・・・・はぁ」
その様子を眺めていた先生は、誰にも聞こえないように小さくため息をこぼしました

「・・・・・・・・・」
「君はお友達と遊ばないの?」
先生が、教室にまだ一人で残っていた金髪の少女に話しかけます
「・・・・・・」
少女は先生を見上げると何も言わずに読んでいた本を片付けて外に出ていきました
「・・・またか」
先生は園児が誰もいなくなった教室で一人ため息をこぼします
「いつになったらあの子、口をきいてくれるようになるんだが」
先生がこの幼稚園に勤務していてたった一つの悩み
先生の悩みが解決する日が来るのか、それはまだ誰にもわかりません

「かくれんぼのおにをきめよう!!」
「どうやってきめる?」
「じゃんけんとかもうふるいよねー」
「よし、いちばんせのたかいひとがおにだ!!」
園児たちが楽しそうに遊んでいます
その様子を、校庭に面している廊下からどこか悲しげな様子で眺めている先生が一人いました
そう、先ほどの先生です
先生が見つめているのは楽しそうに遊んでいる園児や、転んでギャーギャー泣いている園児でもありません
外にいるにもかかわらず、何かをするわけでもなしにただタイヤの遊具の上に座っている少女を凝視していました
「ふふん、おれがいちばんせがたかいぜ!!」
「いや、おれだ!!」
「わたしよ!!」
ふと、そんな叫び声が聞こえたのでそちらを先生が見ます
そこには、さっきまで教室にいた園児たちが一生懸命、背比べをしていました
(なぜ、外で?かくれんぼはどこいったんだ?・・・って、ん?)
よく見てみると、その園児たちの輪の中に彼らがしたっている園児がいないことに気付きます
どうしたのでしょう?先生が必死になって校庭を目で探してみます
2分後、ブランコのほうにゆっくりと歩いていくその園児をみつけました

先生が遠く離れたところから見ていることも知らない少女は、タイヤの上からおりました
何を考えているのかわからないその無表情な顔で校庭を見回すと教室のほうへと足を向けます

先生が遠く離れたところから見ていることを知る余地もない少年は、みんなの輪から外れました
そして、教室にいたときから考えていたブランコでぶらんぶらんしたいという欲望をかなえるためにブランコのほうへと歩いていきます

少年が、ブランコへ歩いている途中で知らない少女が目の前で頭からこけました
「・・・・・・いったぁ」
髪の毛は金色、やけにふりふりがついているスカート的な何かを着ています
少年は無視して通り過ぎようとしましたが、転んだ拍子にスカートがめくりあがったのでしょう
くるぶしまで隠れていたスカートの中にあった脚に無数のあざがついていることに気付きました
「だいじょうぶ?」
その言葉が自分の口から出たことに遅れて気づく少年
少女は立ち上がると、すこし涙目で少年の顔を見て目線が下に向いてることに気付き、自分の足元を見ます
(?なにもないよね?)
「あのさ、あし、だいじょうぶ?すごいいっぱいけがしてたけど」
少女は、目をこすって涙を拭きとるとありがとうも言わずに立ち去ろうとして
(あのこ、わたしのあしをみたってことはスカートをめくった・・・?)
それに気づいたので少年に走り寄って
「ぐぼあ!!?」
アッパーをくらわせてからゆっくり教室へと向かいました
(なんで・・・?)
少年は顎をおさえて理由を探しましたが、思い当たることは何もありませんでした

その様子を廊下から見守っていた先生は自分の顔に微笑が浮かべられていることに気付いていませんでした
「なにやってんだが、二人とも」
そして、その顔のまま職員室へと戻り
「あのー」
「はい?」
「なにかいいことありましたか?」
後輩の新任の先生に言われて初めて自分が笑っていることに気付きました
「ちょっと・・・な」
「はぁ・・・」

少年がブランコに座っています。
ブランコをこぐわけでもなく、ただぼーっと座って足をブランブランさせているだけです
(さっきのけが、だいじょうぶなのかな・・・?)
少年がつまらなそうな顔をしながらさっきの少女の足についていたあざに思いを寄せます
(ぼくには、かんけいないかな)
「ぶらんこかーして」
「ん?あ、いいよ」
ブランコをおり、お昼休みももうすぐ終わることに気づいた少年は教室へと向かいます
(でも、きょうしつにいったら、もういちどきいてみよう)
そう思いながら

「はーい、君たちは来年から小学生です」
「しょうがくせいだって」
「わたしもしょうがくせいになれるのかな?」
「いい子にしてたら小学生になれるぞ」
「わたし、いいこだからしょうがくせいになれる!!」
「・・・・・・・・・」
「ねぇ・・・」
「・・・・・・・・・」
先ほどの少年が、先ほどの少女に話しかけています
「・・・・・・ねぇ」
「・・・・・・・・・」
「あし、だいじょうぶ?」
(しつこいっ、このおとこのこ!!)
少女は心の中でそう思いつつも顔は無表情を保ちます
「なんでさっきアッパーくらわせたの?」
「・・・・・・・・・」
「ものすごくいたかったんだよ」
(あんたがわたしのスカートめくるからじゃない)
思うだけで何も言いません。ついでに表情も崩しません
「小学生になるんだったら、字を書けるようになってるとかっこいいですね」
「じー?」
「そう、字だよ。だから皆、ひらがなで自分の名前を書けるようになろうね」
「はーい!!」
「おれもうかけるぞ」
「ほんとに?」
先生が字が書けるといった園児に集まる子供たちをほほえましく思いながら見ています
(みんないい子だなー。ところで・・・)
「ぼくのなまえはエレン。きみは?」
「・・・・・・・・・」
さっきから、隅っこでこそこそはなしている二人の園児を見ます
「よかったら、きみのなまえおしえてくれるかな?」
「・・・・・・・・・」
(教えてやれよ!!)
「・・・ぼく、やさいきらいなんだよねー。きみはやさいだいじょうぶなの?」
「・・・・・・・・・」
(エレン君、かわいそー)
でも、助けません
「・・・・・・すきなあそびはなに?ぼく、ぶらんこがすきなんだ!!」
「・・・・・・・・・」
一人むなしくガッツポーズをとっているエレンと我関せずとしている少女。
握りこぶしが少しずつ、下へと落ちていきます
「はいはい、ふたりとも」
「あ、せんせい」
「今、何の時間が分かってる?」
「・・・・・・」
「ひらがなを練習する時間だよ。ほら、エレン君も、ドールちゃんも自分の名前ひらがなで書いてみて」
(気づけ!!今さりげなく名前を教えてやったことにぃいい!!)
エレンは、慣れた感じで鉛筆を持ち、すらすらと白紙の紙に『Elen・Edword』と書いていきます
(俺、ひらがなって言ったよね!?)
先生はそう思いましたが何も言いません
ドールも、鉛筆を取り出し、ものすごい不器用に頑張って自分の名前を書こうとしましたが
「・・・・・・」
「あー、」
「さささ、最初はこんなもんだよ、だからドールちゃん。練習すればエレン君みたいにうまくなるから、ね?」
白紙の紙に書かれた文字は書いた本人でも解読できるかどうかわからない古代文字のようになっていました
ミミズがのたうち回ってるかのような字でした
「ところで、きみのなまえおしえてくれる?」
(さっきから、俺言ってるじゃん!!きづけ、この!!)
「・・・・・・・・・ドール」
「え?」
「ドール・スカーレット」
「ドールちゃんだね。うん、おぼえた!!これからよろしくね!!」
少年が少女に向かって手を差し伸べます
少女はどうすればいいのかわからなくて
鉛筆を差し出しました
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ドールちゃん、握手握手!!」
「あく・・・しゅう?」
「手を握るの。エレン君の!!」
かわいく小首をかしげた後ポンと手を打った後にエレンの手をおずおずと握ります
「よろしくね、ドールちゃん」
「・・・よ、よろしく・・・エレン・・・くん」
この日、先生の悩みはひとまず解消されました

「せんせー、さようならー!!」
「はい、さようなら」
幼稚園に園児たちの親が迎えに来ます
「きょうねー、ひらがなかいたんだよ」
「左様か」
「『かな』って、かなのなまえかけるようになったんだー」
「それは、真にめでたいな」
(相変わらず、時代かかった言い方するなこの親)
先生がニコニコしながら帰っていく園児を見送ります
「おい」
「あ、はい」
先生が振り返るとこちらをにらみつけている中年男性と目が合いました
「あ、ドールちゃんのお父様ですね」
「さっさと、返してくれるか」
「ちょっと、呼んでくるのでそこでお待ちください」
先生がゆっくりと教室へと向かいます
(相変わらず、ドールちゃんの親は威圧的だな。ドールちゃんにあたってなきゃいいけど)
先生が教室の中をさっと確認します
教室には、エレンとドール。それと数人の園児たちがいました
エレンがドールに、ひらがなを教えています
「えんぴつをぎゅってにぎっちゃったらかきにくいよ」
「・・・・・・」
「さいしょはなれないかもしれないけど、そのもちかたでがまんしてね」
「・・・・・・」
「そうそう、もうすこしもうすこし」
先生が紙を見ると、そこには『ど』と書かれていました。一面にびっしりと
(こわっ!!呪いか何かだと思った)
「ドールちゃん、お父さんが迎えに来たよ」
ドールの手が止まりました。
そして、何か悟ったような顔になった後立ち上がり帰り支度をはじめます
「どーる・・・ちゃん・・・?」
(うーん、エレン君にもわかるレベルの空気の変わりよう・・・なにかあるのかな・・・?)
先生の悩みが一つ増えました

「ドールちゃんさようなら」
「・・・・・・・・・」
「いくぞ」
お父さんがドールちゃんの腕をつかんで引っ張っていきます。いつもの光景です
「・・・・・・」
「ドールちゃん、またあしたねえぇ!!」
「うわっ、びっくりしたぁ・・・」
気づけば先生の隣にエレン君がいます
ドールに向かってちぎれんばかりに手を振り続けます
ドールはそれに気づいているのか気づいてないのか、何もせずに無表情に車に乗り込みます
ドールのお父さんは車を発進させる前にこちらをにらみつけるとそのまま帰っていきました

「・・・・・・はぁ」
「先輩、ころころ顔変わりますよね」
「そうか?」
園児たちがみんな帰った後の職員室です
幼稚園日報を書いているときに後輩の先生が話しかけてきました
「お昼はものすごくうれしそうだったのに、なんか今は苦しそうな顔してます」
「どんな顔だよ」
「お肌の曲がり角で悩んでいる30代のおばさんみたいな顔でした」
「・・・相変わらずよくわからない表現するな。そこ、間違えてるぞ漢字」
「あ、ほんとだ。・・・想像はしやすいでしょう?」
「全然できないわ。まだ、25歳だし男だし」
「・・・女性の悩みなんで理解できませんか、野獣には」
「野獣ってなんだよ野獣って。」
「ところで、私でよければ相談ぐらいのりますよ」
「あー、そうだな・・・」

「エレン、お風呂先に入ってるわね」
「うん、ぼくはあとではいるから」
いつからだろう、お母さんと一緒にお風呂に入らなくなったのは
そんなことを考えながら、エレンは日記を開いきました
彼の唯一の楽しみは日記を書いて、昔自分が書いた日記を読むことでした
白紙のノートが自分で書いた文字で埋まっていくのが何とも言えぬ快感でした
それを表現する力はエレンにはありませんでしたが
「・・・・・・」

『ぼくは、きょうあたらしいともだちができた
 きんいろのかみのけのかわいいおんなのこ
 だけど、そのおんなのこはあしにたくさんけがしていて
 あまりしゃべらなくて』

「・・・・・・」
「何かいてるの?」
「わ、おかあさん!!」
エレンの後ろからお母さんが日記帳を取りそれをしげしげと読んでいきます
「ふーん」
「ちょっと、かえしてよ!!」
「エレン、好きな子できたんだ」
「ちょ、なぐるよ!?」
「はいはい」
お母さんがエレンに日記帳を返します
「ま、いいけどね」
ものすごい急いで日記帳をしまうエレンをおかしそうに見ながらお母さんは考えます
(脚にたくさん怪我している・・・か・・・)
「おかあさん、こんどかってににっきみたらあたまからかみつくからね!!」
「私の胸にすら手の届かないエレンにできるのかな?」
「なにおぉ!!」

カチャカチャカチャカチャ
暗い室内
台所でちかちかと点滅している蛍光灯が唯一の明かりです
「・・・・・・・・・」
カチャカチャカチャカチャ
踏み台に乗っても流しに届かないドールは背伸びをしてせっせせっせとお皿を洗ってます
「・・・・・・・・・」
「おい、酒!!」
居間で飲んだくれ父親が怒鳴り声をあげました
父親の周りには、空になった一升瓶がたくさん転がっています
「お父さん、もうやめたほうが」
「てめぇ、俺の言うことが聞けねぇってのが!!」
バン!!
父親が、こたつを思いきり握りこぶしでたたいて威嚇しました
「そ、そういうわけじゃ・・・」
父親がゆらりと立ち上がりどすどすと足音を立てながら、ドールに近づいてきます
「俺の言うことに口答えするやつは、どうなるかもう一度教えてやろうか?あぁ!!?」
「ごめんな・・・さい」
どこぉ!!
父親がドールを本気で殴りました。一切の手加減なしで
ドールが台所に頭をぶつけて倒れます
「立てよ」
「う・・・うぅ・・・」
「立てっつってんだろ!!」
父親がドールの髪の毛をつかんで持ち上げます
「どうなるかわかったか、あぁ!!?」
「はい・・・わかりました」
父親がドールをもう一度壁に投げ飛ばします
「分かったらおとなしくさけもってこいこの屑!!」
「・・・・・・はい」
顔は涙でぐしゃぐしゃなのに、年相応に泣き叫ぶことはせずお酒を取りに冷蔵庫へと向かいました

「う・・・うぅ・・・」
場面は変わり、ドールが一人でないでいます
「うぅ・・・うぅ・・・」
もう一人で眠ることができるようになったドールです
その部屋には布団が一つしいてありました
「うぅぅ・・・うぅ・・・」
クマのぬいぐるみに顔をうずめて声が部屋の外に出ないようにして泣いています
そのまま泣きつかれてこてんと眠ってしまいました

「そんなことがあったんですね」
「ま、そういうことなんだけどさ」
先生とその後輩が仲良くソファに並んで座って、映画を見ています
そんなこととは、幼稚園から送り出すとき、ドールの様子が変だったことです
直前でお話しした暴行を受けているドールのことではないです
「それなら、いい案がありますよ」
「・・・あんま期待してないけど何だ」
後輩が先生の手を強く握って逃がさないようにします
「張り込みをしましょう」
「却下だ。ロリコンストーカーか何かに間違えられて俺の人生ジ・エンドだ」
「一蓮托生です。ほら、昔から言いますよね。赤信号、みんなで渡れば怖くない」
「俺は怖いからおひとりでどうぞ」
「先輩がやることに意味があるんですよ。いいですか」
後輩が先輩に肉薄して内緒話でもするかのように声を潜めて話を続けます
「・・・・・・」
「・・・・・・本気か」
「本気です」
後輩の顔は、引き締まっていて冗談を言っている顔ではありませんでした
(普段からこういう顔をしていれば様になるんだがな)
「先輩がやらないならいいですよ。私一人でやりますから」
(今度は何だ)
「か弱い彼女が夜一人でボーっとしているところになにされるかわかったもんじゃありませんが先輩は薄情な彼氏なのできっと気にしないんでしょうね」
「元校内一握力の強い女がか弱い?」
「このまま、手に力入れて骨、折りましょうか?」
「一緒にやるからおらんでくれ」
明日から大変だ
そう思いつつも、心の中でそんなにめんどくさがっていないことに動揺している先生がいた

一度、休憩いたしましょう
休憩ついでに少し考えましょうか
エレンにはエレンの、ドールにはドールのそれぞれの世界がございます
皆様にとって世界とは何でしょうか?
少なくともドールにとって世界とは決していいものではない
そうは思いませんでしたか?
少々、重いお話が続きますが最後までお付き合いくださいませ

翌日
先生と後輩が、一つの思いを胸に抱えて幼稚園に出勤してきた
エレンは、いつもと変わらぬ感じで登園してきた
ドールは、幼稚園に入った瞬間小さく笑みを浮かべた

「おはよう、ドールちゃん」
「・・・おは・・・よう」
エレンがドールに挨拶をします。
そこでエレンはドールの目が赤いことに気が付きました
「ドールちゃん、どうしたの?」
「どうしたのって、なにが?」
「め、あかいよ」
ドールは、自分の目が赤いことに言われて初めて気が付きました
「・・・?なんであかいんだろう?」
「ぼくのおかあさんがいってたよ。ひとは、かなしいことがあるとめがあかくなるって」
「・・・・・・そう、なんだ」
「だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだよ」
まさか家でお父さんに怒られたなんて口が裂けても言えません
「エレンくんおはよう!!」
「おはよう、さくらちゃん」
「えーと・・・ドールちゃんだっけ、おはよう!!」
「おは・・・よう」
次から次へとエレンとドールにたくさんの子供があいさつをしてきます
いつものことなので軽く流しているエレンと
初めてのことで何が何たが分からないドール
それを離れたところから眺めている先生がいました

「おはようございます、先輩。いやー今日もやってますね」
「おはよう、今日もやってるよ」
なぜ、エレンにたくさんの人が集まるのか。
先生にはわかりませんが、きっと彼には人を引き付ける何かがあるのでしょう
「あの金髪の子が昨日言ってたドールちゃんですね?」
「そうだよ」
「ふーん、結構明るいけどなぁ。もっと暗い子だと思ってた」
「昨日までは誰とも話さなかったけどな」
「先輩にもですか」
「そうだ」
「そりゃ、ロリコンに話しかけられたら黙りますね、うん」
「誰かロリコンだ誰が」
「すいません、ロリコンじゃありませんでしたね」
「分かればいい分かれば」
「ペドの間違いでしたね」
ゴツン
「ツー・・・」
「誰がペドだ」
「頭叩いた、ひどーい」
「せんせいひどーい」
気が付くと、先生の周りにたくさんの子供たちがいました
「せんせいだいじょうぶ?」
「(にやっ)うわーん、田所先生がいじめてくるよー(棒)」
「せんせい・・・」
「いじめてたんですか・・・」
「い、いや、違う、違うぞ、いじめてなんかない」
「せんせい何も言ってないのに急に叩いてきたんだよー(棒)」ニヤニヤ
「うわー」
「そんなことするせんせいだったんだー」
「変なこと言うのはやめろよ!!」
「しょうがないですねぇ」
後輩が泣きまねをやめて立ち上がります
「みんな、先生なら大丈夫だよ」
「せんせい、ほんとに?」
「どこもいたくない?」
「みんな、やさしいねぇ。ほんとに大丈夫だよ。そもそも私が田所先生ごときに負けると思う?」
「せんせい、つよいもんね!!」
「そっかー、たどころせんせいにまけるはずないもんねぇ」
「そうだよー。先生強いから!!」
「俺、スゲーけなされてない?」
先生が小さくつぶやいた言葉は誰の耳にも届きませんでした

「はーい、それじゃぁ、今日は昨日の続きからやりまーす」
「はーい」
授業の時間です。朝からお勉強をする日です
「今日もひらがなですが、今日はいつもとはほんの少し違います」
ざわざわ
先生の一言で教室がざわつきます
「いつもとちがうって」
「なにがどうちがうのかな」
「しっかりやらないとばつげーむとかかな?」
「ばつげーむなんだろう?」
「ひもなしばんじーじゃんぷかな?」
「ばんじーじゃんぷってなに?」
「しらない。でも、おにいちゃんがばんじーじゃんぷのはなしするときなきそうになるから、きっとこわいんだ」
「おばけやしきのなかにひとりではいらなきゃいけないとかかな」
いつのまにか、どんな罰ゲームなのかという話になっています
「ドールちゃんはなんだとおもう?」
「・・・・・・ばつげーむじゃなくて、ごほうびとかじゃないかな」
ドールの一言で教室の中が水を打ったように静かになります
(なに、この子たち!!!)
「せんせい、おはなしつづけて」
みんなの目が不思議な輝きに満ちています
もちろん、エレンとドールも例外ではありません
「え、えーと、ドールちゃんが言った通り一番うまくひらがなが書けた子にはこの」
先生がポケットの中からあるものを出します
「佐藤先生、一時間あなたのものです券をさしあげます」
「わっっつ!!?」
隣にいた後輩がものすごい勢いで先生をにらみつけます
が、先生はそれを無視します
「しつもんがありまーす」
「なーに、たけしくん?」
「そのけんって、すごいものなんですか?」
教室の中にいる園児たちがうんうんうなすぎます
「すごいものだよ、だって」
「せぇんぱぁいぃ?」
無視します
「一時間、先生を使っておやつ食べ放題あーんど、ジュース飲み放題、さ・ら・に!!」
ごくり
園児たちが一斉に生唾を飲み込みます。見事にタイミングぴったりです
「一つだけ先生におもちゃを買ってもらえます!!」
「ふぉおおおおおおおおおおおおお!!」
たけしくんが奇声を上げました。
それと同時に教室中がさわがしくなります
「さぁ、みんな。頑張ってきれいなひらがなを書こう!!」
「はい、せんせい!!」
園児たちがこれまたタイミングぴったりに声をそろえて言うと一斉に鉛筆を取り出してせっせせっせと白紙の紙にひらがなを書き始めました
「せぇんぱぁいぃい?」
「どうしました、佐藤先生?」
「どういうことですか?」
「どういうこととは?」
「なんで私が一時間使われるんですか!?」
「・・・・・・復讐」
「この人、仕事とプライぺードの区別ができない人だ」
後輩ががっくりとうなだれました
「できれば、優しい子が一番きれいにかければいいな・・・」

「ドールちゃん、がんばろうね!!」
「・・・・・・うん」
ドールが一生懸命にひらがなを書いています
「えれんくんはかかなくていいの?」
「ぼく?ぼくは、かかなくてもいいんだ」
「なんで?おかしとかジュースとかいらないの?」
ドールが手を止めてエレンに聞きます
「うん。ほしいおもちゃもないし、おかしとかもあんまりいらないかな。それよりも」
エレンがドールから目を背けて下を向きながら話を続けます
「ドールちゃんのじがきれいになっていくのをみているほうがたのしいから」
「・・・・・・わたし、がんばる」
ドールが鉛筆を握りしめます
「がんばって、えれんくんをたのしませる!!」
「う・・・うん」
ドールがものすごい勢いで自分の名前をひらがなで書きまくります
怒涛の勢いです
それを少しひいた感じでエレンが眺めます

「佐藤先生、田所先生ちょっと」
教室の外から二人を呼ぶ人影がありました
「あの、特徴的な一本髪は・・・」
「園長先生・・・!?」
「聞こえてるぞー二人共ー。いいから来なさい」
先生と後輩が廊下へと出ます
「朝の件なんだが・・・こっちはかばいきれないがいいかね?」
朝の件とは、昨日の夜に先生と後輩が話していたドールちゃんストー・・・張り込み作戦のことです
「まぁ、佐藤先生がいるから襲うことはないだろうけど」
「俺、どういう目で見られてるの?」
「ペドですよ」
「殴るぞ?」
「園長先生、お任せください。私が全力で田所先生を止めます。もしもの場合は」
後輩が先生の手を逆手に取り動きを封じます
「いたいいたいいたいいたい!!!!」
「このように、動きを封じますので。卍からめもできますよ」
「さすが、佐藤先生!!では、よろしくお願いします」
後輩が先生の拘束を解きました
「・・・期待してますよ」
「え?」
「いや、なんでもない。授業頑張ってくださいね」
園長先生が最後の砦(一本髪)をゆらしながら、ひょこひょこと職員室に帰っていきます

放課後直前
「むむむ・・・むむむむむ」
園児たちプラス後輩が息をのんで先生を見守ります
先生は黒板に張られた数枚の紙を凝視しています
それぞれ
『せかいせいふく』『いけめんたけし』『どーるすかーれっと』と書かれています
(どうしよう・・・せかいせいふくはだめだろ・・・きれいだけどダメだろ・・・)
先生が『せかいせいふく』と書かれた紙を黒板から外しました
先生の後ろでがっくりとかなちゃんが膝をつきます
「せかいせいふくのなにがだめだったの・・・?」
(選んだ言葉が駄目だったんだよ・・・さて)
先生が残された紙『いけめんたけし』と『どーるすかーれっと』を見ます
(じゃっかんきれいじゃないけどいっか)
先生が『どーるすかーれっと』の紙を黒板から外して園児たちに宣言しました
「佐藤先生一時間あなたのものです券はドールちゃんのものです!!」
「ドールちゃんかぁ・・・よかったぁ・・・」
「いいなぁ」
「きれいなじかいてたししょうがないかぁ」
「まさかおれがやぶれるなんで・・・く・・・」
「せんせい、さっそくつかっていいですか?」
ドールが目をらんらんと輝かせながら先生に聞いてきます
「うーん、今日はもう時間もないし明日使うことにしよっか」
「はーい」
授業終了のチャイムが鳴り、今日の授業は終了しました

「おめでとう、ドールちゃん」
「ありがとう、エレンくん」
放課後です
エレンがドールに話しかけました
それを離れたところから見守る先生と後輩がいます
「先輩、そういえばなんですが」
「ん?」
「エレンくん、変わりましたね」
「変わった・・・?いつもどうりだと思うが」
「先輩、ちゃんとエレンくん見てますー?あ、そうか。ペドだからドールちゃんしか目に入ってこ」
「それはないから。心配はしてたが」
「・・・ものすごく心配してるんですね、先輩」
「『人形』っていう名前を付けられた子供だ。気にかけるのは当たり前だよ。んで、エレンくんが変わったってどの辺が?」
「ドールちゃんに接する時と、他の子とでは違うということですよ」
「違う?」
先生が改めてエレンとドールを見ます
「私が見た限りですけど、エレンくんが自分から誰かに話しかけるのはドールちゃんだけです」
「・・・そういえば、そうだな」
後輩の言うとうり、エレンが自分から誰かに話しかけるところを見たことがない先生です
「いつも、気づいたらエレンくんの周りに人がいるーみたいな感じでしたが」
「ドールちゃんにだけ、自分から話しかけてると」
急に自分の周りに人が集まり、最初は困惑していたドールですが、今ではすっかり意気投合しています
「・・・・・・」
「守りたいですね、この笑顔を」
「ありきたりなセリフだな」
「でも、それが今私が心の底から思ってることです。独りになるつらさはわかってるつもりですから」
「・・・・・・」
「シリアス顔がこんなにも似合わない男の人も珍しいですね」
「泣くぞ」
「すいませーん」
園児たちの親が来はじめました
みんなが少しずつ帰る準備をする中
エレンとドールだけはドールの親が来るまでずっと遊んでいました

「エレン、ちょっといいかい」
「なに、おかあさん?」
幼稚園から帰る途中、エレンのお母さんがエレンに聞いてきます
「あの金髪の子が足にけがしていた子?」
「そうだよ」
「仲良さそうじゃん」
「そうかな」
照れてるエレンをほほえましい気持ちで見つめるお母さん
「名前はなんていうの?」
「ドールちゃん」
「ドールちゃんっていうのね」
(ドール・・・人形って意味よね。うちと同じハーフなのかしら。にしては、無神経すぎる名前だけど)
「お母さん?」
エレンが少し心配そうな顔をしながら母親の顔を覗き込みます
「あ、ごめんごめん。ちょっと考えことしてた」
「かんがえこと?」
「ドールちゃんっていつも何時ぐらいに帰るの?」
「6と12のところにはりがあるときだよ」
「6時ね、覚えたわ。明日、その時間に迎えに行くから」
「はやいね」
普段は7時ぐらいに迎えに来るお母さんです
「どうしてそんなにはやいの?」
「エレンの好きな子の顔くらいしっかり見たいしね」
「ちょ、なぐるよ!?」
「どうぞ。さぁ、どんときなさぁい!この私の胸の中にぃ!!」
「むね、そんなにないくせに」
お母さんが握っていたエレンの手をひねりました。笑顔で
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
「どうしたの、エレン?急に大声あげちゃって。あなたのお母さんは胸あるよね?」
「あるあうらるあうるあるあううあるあるるうあるらう!!!!」
途中から何言ってるのかわかりません
「ならば、よし」
「うぅ・・・」
「エレン、女の子に胸の話はしちゃだめよ」
「はい」
エレンがしゅんとなりながら深く反省して
(もっと、ことばがじょうずになってとおまわしにいってやる!!)
と、復讐の誓いを立てました

「先輩、はじめましょう」
「あぁ」
「ドールちゃんの家、盗み聞き作戦、開始です!!」
「もっと、ましな名前なかったのかよ」
「略してDHNMです!!」
「あぁ、もういいよ。さてと、」
先生がドールちゃんの家の壁に耳を押し当てるまでもなく中から暴言が聞こえます
『・・・・・・てめぇ、何様のつもりだ!!あぁ!!?』
「ヴォイスレコーダーはオンにしたか?」
「無駄に発音いいですよね、オンですよ」
『奴隷の分際で俺に口出しするんじゃねぇ!!』
「・・・・・・」
「ひどいですね・・・」
「・・・・・・」
「あれ、先輩?まさか・・・」

目の前で父親がわめいている
別にドールが何かを言ったわけではないが、父親に怒られています
不明瞭でよく聞き取れないが時折、上司とか屑とか聞こえてきます
「くそやろう!!」
「やめたらどうですか」
気づけば、父親の後ろに先生がいました
「あ、なんだてめぇ!?」
「申し訳ありません、勝手に上がり込んでしまって。外を歩いていたら、あなた様が奴隷と言っているのが聞こえましたので、つい」
「聞き間違いだ。さっさとでやがれ」
先生がポケットの中から妙な機械を取り出しスイッチを押します
『奴隷の分際で俺に口出しするんじゃねぇ!!』
「これ、あなたのこえですよね」
「なんのことだ」
「警察及びしかるべき機関に提出させていただきます。また、この家ではその子が成長するにふさわしい環境が整っていないと判断したのでその子をお預かりいたします」
「何の権限があって!!」
「申し遅れました。わたくし、児童相談所の者でございます」
「うそはよくないねぇうそは」
確かに嘘ですが、なぜこの男にうそが分かるのでしょう
「俺の仕事は児童相談所の職員だ。お前なんて見たことがねぇ。」
「こんなやつが・・・うそだろ・・・」
「職員カード見せてやろうか、あぁ!!?」
(っち、分が悪いが)
「これが職員カードだ」
父親が差し出したカードには確かに、児童相談所の物でした
「大変失礼いたしました。今すぐ帰らせていただきます」
「まて」
「はい?」
「そのボイスレコーダーは置いていけ」
先生が無言でボイスレコーダーを机の上に置き帰っていきました

「先輩・・・」
「帰るぞ・・・話は後だ」
「はい」
先生と後輩はそれぞれ別ルートで帰りました
念には念をで

翌日
先生は、後輩から預かった予備のボイスレコーダーを警察へと届けました
ある、児童相談所の職員の声であることと住所をしっかりと教えたうえでです
そして、幼稚園に行きいつもどうりに授業をしていました
お昼ぐらいになったころ
園長先生がのんきに門の付近を掃除していると目が真っ赤になった中年男性が訪れて
「ぶべし!!?」
園長先生を殴り飛ばして幼稚園に入っていきました
「あれ、先輩。あのひと」
「・・・・・・」
「昨日の奴か、よくもやってくれたな。おかげで仕事が首になったぞどうしてくれる!!?」
「自業自得です。あんなことをしておいて首にならないとでも?」
「ふさげるのもいい加減にしろよ、このクソガキ!!」
中年男性が先生に向かって啖呵を切ります
「せんせい、このけ・・・」
「よう、くそ人形。おめぇ、ずいぶん楽しそうじゃねぇか。こっちがつらい思いしているってのによ」
ドールが中年男性に気付き、言葉をなくします
あとからエレンも出てきてドールの様子がおかしいことに気付きます
「ドールちゃん?」
「どけ小僧、それは俺のものだ」
振りむけばドールのお父さんが目を真っ赤にして笑いながらドールに手を伸ばします
自然とドールを自分の後ろにして、じりじりと後退してしまいます
「申し訳ないが、ドールちゃんはお前に渡さない」
先生がエレンくんの前に立ちます
「お前に子供を育てることはできない」
「うんうん!!」
父親の顔から笑みが消えました
「あぁ、そうかよ。だが、それは俺のおもちゃだ。貸したものは返してもらわないとな」
「おもちゃ?自分の子供をおもちゃって言ったよこの人」
「ドールちゃん、エレンくんこっきゃ!?」
父親が後輩を殴り飛ばして先生を蹴り飛ばしてエレンを放り投げドールの紙をつかんでずるずる引きずっていきます
「やだ、はなして!!」
「黙ってろ!!」
父親がドールのみぞおちを殴り気絶させます
そして満面の笑みで車に走っていきます
「っち、警察を呼ぶぞ、ひとみ!」
「分かりました、先輩」
「うぅ・・・」
「エレン、すまんが少し我慢していてくれ。さくらちゃん、たけしくん、エレンくんを保健室に連れて行ってあげて!!」
「わ、わかりました」
「俺はあいつを追いかける!!」
先生が車に乗り込み父親を追いかけます
「なんか、てれびみたいだねー」
「どうなってんの?」
教室に残っている園児たちがそんな無邪気な会話をしていました

いやなゆめをみた
おかあさんがおとうさんにころされたひ
おとうさんがわらいながらおかあさんをころしたひ
わたしはあのひからひとじゃなくなった
ゆめをみるたび、おもいだす
たのしくて、ずっとつづくとおもっていたおかあさんがいるまいにちのことを

目を覚ますと家の台所にいた
脚は縛られ、体は床に固定されている
手だけは自由に動かせるが、体を固定している金具は南京錠が付いていて外せない
「よう、どうだ。人形さんよ」
顔を正面に向けると父親がいた。
「おとうさん・・・」
父親が無言で手を顔に伸ばしてくる
父親はドールに覆いかぶさるようにして
首を絞め始めた 

もうろうとする意識の中、父親が笑っているのが見えた
父親の唇が動く。もう言葉は聞こえない
父親の目を見る。すごく真っ赤だった。
いや、今私がものすごく悲しいから世界が赤色に染まっているように見えるだけかもしれない
父親の顔を見る。すごくうれしそうなそしてすごくこわいその笑顔を
あぁ、私も殺されるんだ。
お母さんと一緒の、笑っているお父さんに殺されるんだ
せっかく友達ができたと思ったのに
色を失ったこの世界がようやく色づいたというのに
その世界もお母さんを奪ったお父さんに奪われるんだ
ようやく、ひらがなもかけるようになったのに
まだ、佐藤先生一時間あなたのものです券も使ってないのに
まだ、いっぱいやりたいことがあったのに
ごめんなさい、さくらちゃん、佐藤先生、田所先生、エレンくん
そして、お母さん

全てをあきらめて目を閉じようとしたとき手にほんの少し違和感を感じた
そこを見ると自分の手の届く範囲に包丁が落ちているのが見えた
最後の力を振り絞り、包丁の柄を強く握る
もう、ほとんど感覚のなくなった手で包丁をつかむと
父親の脇腹を刺した

「っ!!う・・・てめぇ・・・」
少女はもう包丁をつかんではいない
その手はだらしなく床に置かれている
しかし、少女の最初で最後の抵抗は父親に確かなダメージを与えた
深々と刺さったその包丁を見て、
痛みをより強くそして明確に感じ始めた
「っ――――――!!」
初めての痛みにどうしたらよいかわからない父親は
その包丁を一気に引き抜いた
一気に血が噴き出す
体が寒くなっていく
手の感覚がなくなっていく
痛みも鈍くなっていく
「はは・・・はははは・・・・・・」
そしてそのまま少女の上に倒れこんだ

「・・・遅かった」
血だらけになった二人を最初に見つけたのは先生だった
そこから急いで救急車を呼んだが、助かるとは思えない
先生が二人の死体を見ていると父親の体がかすかに上下していることに気が付く
急いで父親を少女の上からどかして父親の息を確認するがなにもしていない
もしやと思い少女を見ると、かすかにお腹のあたりが上下していた

その夜
「・・・・・・」
「・・・・・・」
先生と後輩が職員室にいました
今幼稚園にいるのはこの二人だけです
「俺が、あんなことしなければこう、ならなかったのかもな」
「先輩・・・」
後輩が先生の頭を撫で始めました
「・・・・・・何の真似だ」
「・・・・・・先輩が教えてくれたんです。ずっとずっと前に」
いやそうな顔をしている先生ですが、その手をどけることはしません
「覚えてますか、先輩。あの時、道を失った私に・・・新しい道を指し示してくれたこと」
「そんなことした覚えないな」
「先輩が忘れても私はずっと覚えてます。子供を殺した私に、子供を救う道を示してくれたことを」
「・・・・・・」
「今度は私の番です。私が先輩の道を照らしてあげます」
「・・・・・・」
「先輩は、自分の信じた道を進んでください」
「お前はひとりじゃない・・・か」
「この手はその証です。思い出しました?」
「忘れるわけないだろ」
「先輩、今私たちにできることをしましょう」
「あぁ、どんな道を進むにしろ後悔だけはしないように」

翌日
「ドールちゃん・・・」
何も知らないエレンは幼稚園に登園してきた
あの後、保健室で傷をいやしお母さんが迎えに来て帰ったエレンにとって
ドールの安否だけが心残りだった
「田所先生」
「エレンくんか」
「ドールちゃんは」

話は数分前にさかのぼる
「では、言っていいんですね」
「はい」
先生がエレンの母親と話しています
「ひどい母親と思われてもかまいません。なので、真実を」

「エレンくん、ドールちゃんは生きている」
「どこにいるんですか!?」
エレンが田所先生に詰め寄る
「エレン、」
「あ、お母さん」
エレンの後ろにお母さんが出てきました
そして、手を握ると車へと連れていきます
「エレンくん、お母さんがドールちゃんのところに連れて行ってくれるよ。佐藤先生」
「・・・ご一緒します」
「こちらこそお願いします」
エレンはよくわからないうちに病院へと連れていかれました

「ドールちゃん」
病院の一室でドールは寝ていました
体や脳に異常はなく、いつ起きても不思議ではない
ただ、ドールは起きない
「もしかしたら、このまま眠り続けることになるかもしれません」
「先生にもどうにかならないのですか?」
「私に直せるのは体だけです。私に心は直せません」
医者の話を聞いてるのか聞いてないのか、エレンはただドールを見つめるだけです
「おかあさん」
「ん?」
「まっててもいい?」
「待ってるって・・・何を?」
エレンがお母さんの顔を真剣な表情で見つめます
「ドールちゃんがおきるまでずっと」
「・・・・・・」
「ドールちゃんがおきたときにいちばんさいしょにおはようっていいたいんだ」
「いいわ、ただし、ちゃんと学校にだけは行くこと。それだけは守って。」
「なんで?」
「ドールちゃんがおきたときにあなたがしっかりしてないでどうするの」
エレンが力強くうなずいて椅子に座ってドールを見つめます
その、とても穏やかな寝顔を
まるで、今までのことなどなかったかのような

ぼくはまちつづける
なんにちでも、なん年でも
たとえ、ぼくが死んで灰になっても
君がここにいるかぎり、待ち続ける
君におはようというために

これで今宵のお話はおしまいでございます
少女が夢見た毎日は、たった一人の男によってすべて壊されてしまいました
人形と自分の娘に名付けた男はその娘を最期の最後まで人として見ることができなかった
人の欲とは恐ろしいものです。この男の場合は独占欲でしょうか
っと、そんなことはどうでもよろしいことでしたね
皆様もお疲れでしょう。
忘れ物をしないようにして、自分の帰りを待つ家へとおかえりください
皆様が良き眠りにつけるように
いかすみ
http://ncode.syosetu.com/n6127dc/ncode.syosetu.com/n6127dc/
2016年02月22日(月) 12時55分05秒 公開
■この作品の著作権はいかすみさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
小説家になろう様のほうにも乗せています
詳しくはそちらの作者コメントをご覧ください

この作品の感想をお寄せください。
No.2  いかすみ  評価:0点  ■2016-04-17 13:39  ID:gWuMl53IO0k
PASS 編集 削除
こむさん、感想ありがとうございます
大まかな物語だけ簡単に考えてから書き始めたので、流れはよかったといわれるのは純粋にうれしいです

ドールの心情は、最初考えていたのですが、言葉にすると安っぽくなったり、書いてる私がつらかったりといろいろありまして(後半どうでもいいだろ)あんまり書かない方針を取らせていただきました。

ただ、できるだけ想像はしやすい書き方を心かけたつもりなのでご了承ください

繰り返しになりますが、かんそうありがとうございました
No.1  こむ  評価:20点  ■2016-04-05 20:42  ID:g3emUcYnoi6
PASS 編集 削除
大まかな物語の流れとしてはおもしろいと思いました。
ただドールの心情だとかもっと掘り下げて書いてほしいなと思う部分があったりしました。
総レス数 2  合計 20

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除