だっちゃ
 ――便秘だっちゃ。便秘でも、誰かを愛することが、出来るとするなら、私はあなたのことが好きだっちゃ。私と付き合ってほしいっちゃ。ところで私の腸の内部は、不安定な夏空のようだっちゃ。まるでこの小説の作者の、蛭野淫平の心のようだっちゃ。彼は三十路のメンヘラだっちゃ。彼は統合失調症の陰性症状で苦しんでいるっちゃ。やる気が出ないみたいだっちゃ。指一本うごかすのも辛いそうだっちゃ。その割に、日課のオナニーは毎日してるっちゃ。性欲は、それも激甚な性欲は、メンヘラを救うのかもしれないと私は思ったっちゃ。彼は私をしばしばネタにしてオナニーをしてるっちゃ。きもいっちゃ。ところで私はいま下痢を漏らしそうだっちゃ。今まで便秘だったのに、こんどは下痢だっちゃ。まったくもって、不安定な腸だっちゃ。

 放課後の、放課後の、煮えたぎるような黄昏時の、残照が当たる、校舎の裏で、学校の制服を着たラムちゃんはそういってビビビビビビビビビ! と音させて下痢を漏らした。短いスカートから伸びる白い足を、おびただしい下痢が、油のように流れ、靴下を汚し、悪臭を放った。
 僕は凡庸な高校生。スポーツはできず、勉強はできず、何の才能もないし、熱意もない、そんな凡庸な高校生だった。そういうアイデンティティーを抱いてはいるが、僕の部屋には誘拐した10歳の幼女を幽閉していて、毎日のように、若い、あまりにも若い、草木の若芽のような、肉体を貪っていた。胸をさすり、太腿を撫で回し、全身にぬめぬめとキスをし、瑞々しいマンコに、ペニスを挿入した。だから僕はひょっとしたら凡庸な高校生などではなく、変態なのかもしれない。むしろ不思議なのは、自分は凡庸、というアイデンティティーがどこから湧いてきたのか、そっちの方かもしれない。僕は澁澤龍彦周辺の芸術家に触れ、しかしそれに染まるのもつまらないなあなどと思って、戯れに夏目漱石など読んだりしている。いま思ったが、僕が自分を凡庸だと思うのは、マルキ・ド・サドやジル・ド・レなどと比較しての話であって、実は凡庸などという可愛いものではないのかもしれない。
 ――いいよ、付きあおう
 僕はそういった。異性に告白する時に、下痢を漏らすような女を誰がふることができるだろうか。たまらなくキュートではないか。それにラムちゃんはスタイルもいいし、美人だ。美人なだけではない。ある角度から見ると、ひどく醜悪にも見える。片桐はいりよりも、醜悪に。そういう、プリズムのように美醜を放つ、とても魅力的な女だ。
 不意に僕も下痢をしたくなり、ビビビビビビビビビ! と音させて下痢を漏らした。制服のズボンの裾から、油のように下痢が流れ、スニーカーを汚した。僕のそんな滑稽な姿を見て、ラムちゃんは笑った。僕も笑った。
 僕たちは下痢まみれになって、手をつないで帰路についた。黄昏時の残照が、僕たちをギラギラと照りつけた。

 ところでラムちゃんはなぜ僕の事が好きなのだろうと、歩きながら考えた。勉強もスポーツも出来ない、イケメンというわけでもない僕を。僕に女性が惚れるような要素など何処にもない。僕は海辺で言えば、ナマコやウミウシのような存在だ。ラムちゃんのような女性が、僕に惚れるとは何だろうか、考えても考えてもわからない。僕はいま考えてもなどといったが、本当は何も考えていない。凡庸な僕にとって、考えるとはだるいことでしかない。
 なぜ僕のことが好きなの?
 ラムちゃんにそう聞こうとした瞬間に、背後で猛烈な爆音が聞こえた。二人で振り返ると、そこには北朝鮮から飛んできた核ミサイルが学校を直撃し、すさまじいキノコ雲が上り、地獄のように地を燃やしていた。それは美しかった。花火大会とかに行く馬鹿に、これを見せたいなどと思った。
 ――綺麗。
 僕はそう呟くとラムちゃんはにっこり笑って、綺麗だっちゃと言った。
 続けて、なぜ僕のことが好きなの? と聞くと、
 ――気狂いだからだっちゃ。
 と答えた。
 僕はびっくりして、
 ――僕が気狂い? なぜ? 
 と言った。
 ラムちゃんは、
 ――あなたは運動会ではウンコを漏らし、ヤンキーの睾丸を蹴り潰し、巨大なミミズが空を飛んでいるという、わけのわからない絵を描き、核爆発を綺麗だなどと言い、幼女を誘拐して肉を弄び、それでいて自分は凡庸だというアイデンティティーを抱いているっちゃ。
 僕は絶句して、小便を漏らしてしまった。下痢まみれだった足が、小便でキラキラと洗われた。
 狂人だったのか僕は、と思った。それは僕の内部にあった靄のようなものが、一挙に吹き飛ぶようだった。自然と内から、エネルギーが湧いてくるようだった。
 ふと向こうから蛭野淫平が、ジャージ姿で歩いて来た。散歩だろうか? 統合失調症の陰性症状の彼が、散歩とはいったい、いかなる気まぐれだろうか。
 ラムちゃんは蛭野淫平の方へと走っていき、飛び蹴りを食らわした。僕もまた走っていき、倒れている彼の両足を掴み、ぐるぐると回転させ、遠心力が最大になったころ、コンクリの壁に頭部を打ち付けた。蛭野淫平の割れた頭部から、汚い脳漿が飛び散り、辺りはアクション・ペインティングみたいになった。
昼野陽平
http://hirunoyouhei.blog.fc2.com/
2015年08月17日(月) 22時17分54秒 公開
■この作品の著作権は昼野陽平さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ありがとうございます。
何度もすいません。推敲しなおしました。
よろしくお願いします。

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No.6  昼野陽平  評価:0点  ■2016-04-14 17:00  ID:uQhiKmCHatg
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こむさん

感想をありがとうございます。
励みになる感想でした。
ありがとうございました。
No.5  こむ  評価:50点  ■2016-04-13 09:19  ID:/dxzQ0Wmf36
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これ最近読んだんですけど、すごい好きなんです。めまぐるしくてすごい。何も言えねえって感じです
No.4  昼野陽平  評価:--点  ■2015-08-27 17:12  ID:uQhiKmCHatg
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ゆうすけさん
感想ありがとうございます。
こう読んで欲しいなと思ってる通りに読んでいただいた感じで、嬉しいです。
今作ではいろいろ開きなおって書いた感じで、どう受け取られるかなと思ってましたが…。
ありがとうございました。
No.3  ゆうすけ  評価:30点  ■2015-08-26 20:46  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

マネのできない凄まじい攻めの姿勢を感じました。
作中に作者(のうようなキャラ)登場、アニメキャラ登場、幼女監禁。
下痢とグロはいつものテイストなんですが、さらに無茶苦茶な要素が加味されて、丸くなるどころか鋭利さを増してきた感じで、作家よりも芸術家を目指しているんだろうなと、近頃我ながら毒を失った私にはちょっと眩しく感じます。「こんなのこいつしか書かないぜー!」ってカラー、私も目指してみたいものです。
No.2  昼野陽平  評価:0点  ■2015-08-19 00:17  ID:UArH7IFKfkk
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弥田さん
感想ありがとうございます。
作中で漫画のキャラだとか芸能人の名前あげるのは本来好きではないですが、色々開き直るために出してみました。
でも片桐はいりがいいと思われたというのはちょっと意外でした。
ありがとうございました
No.1  弥田  評価:30点  ■2015-08-18 23:55  ID:.jeBwFOpnk2
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唐突に出てきた「片桐はいり」が、なぜだかすごくいいなぁという風に思われました。
「ラムちゃん」もよかったのですが、「片桐はいり」にはビビビビビビビビビ! ときました。
総レス数 6  合計 110

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