甘味処のお客さま
 細い道を通り抜けると、静かな隠れ家のような甘味処があった。甘味処には、毎日いろんなお客さまが来る。

 今日も何やら事情がありそうな、20歳の女性が2人来店した。 全体的にスラッとした印象のある黄色いワンピースを着た 、おだんごヘアの女性。もう1人はパーカーにジーパン、ポ ニーテールとカッコイイ方だが、何処かで見たことある気が している。 お越しいただいたお客さまの顔は覚えている方なのだけれ ど、そろそろ歳かしら?

 ポニーテールの女性は泣いていたのだろうか?目は真っ赤に腫れ上がり、涙のあとがしっかり残っていた。 席へ案内すると、すぐメニューを見ずに 「ヨーグルトパフェ2つ下さい」 とおだんごヘアの女性が注文した。

 ヨーグルトパフェは、この甘味処で1番人気の商品。 パフェ用の少し大きなグラスにヨーグルト味のアイスとシャーベットが入っており、途中には味に飽きないようにストロベリーソースが隠されている。1番上には生クリームが絞ってあり、イチゴやブルーベリーなどが飾り付けられていてる。
  甘ずっぱいヨーグルトアイスとストロベリーソースは相性抜群。そしてシャーベットは夏を乗り切れるほどシャリシャリしており生クリームと合わせて食べると、アイスとは違ったまったり感が楽しめるなどで女性を中心に人気である。

 ヨーグルトパフェを持っていくと、ポニーテールの女性は目に涙を溜めた。泣くのを堪えているように見えた。
「さ、食べよ?」 とおだんごヘアの女性が言うと、目をゴシゴシと拭きうな づいていた。
  とても目が痛々しいポニーテールの女性に温かいおしぼりを渡した。
「少しの間、目に当てておくといいですよ」
「あ、ありがとうございます......」
 彼女は目におしぼりを当てると、こう話してきた。
「あの、ありがとうございます。このお店は弟と弟の彼女さ んが気に入っていたお店でした。2、3週間に1回は来てい たらしくて、ここのヨーグルトパフェは美味しいと嬉しそう に話していたんです」

 私はここまで聞いて、やっと思い出した。
 この甘味処に、高校生のカップルが来店したことがあった 。とても仲の良い2人で、豆大福とヨーグルトパフェを1口 だけ食べあいっこしていた。彼女はイタズラをするような悪い顔をして、自分が頼んだヨーグルトパフェをスプーンですくい、彼の口元まで持っていった。彼は真っ青な顔をして、 深呼吸を数回する。 しばらくすると意を決したのか、ヨーグルトパフェをパクッと食べ、すぐに驚いた顔をした。
『うまっ、ヨーグルトってこんなうまい味だったけ?』
 それからは、来店する度にヨーグルトパフェを頼むようになった。

「ヨーグルトは食べ物じゃない、なんていってたのが嘘のよ うでした。1週間前にも彼女と食べに行くんだと嬉しそうに 。なのに、交通事故で......」
 息をつまらせながらも、辛そうに1つ1つ言葉を紡いでい く。近くにあるイスに座り、彼女の背中をさすった。
 おだんごヘアの女性は「早く食べよ! これ、ほとんどが アイスだから溶けちゃうよ?」とポニーテールの女性に声をかけた。
 ポニーテールの女性が少し落ち着いて、食べ始めると「バカ」と呟き出していた。

 会計の時「お金はいらないよ」と言ってから、ポニーテールの女性に少し大きめの箱を渡した。
「これは......なんですか?」 と彼女は唸る。
「これは弟さんの好きな豆大福ですよ。良かったらご家族の 方と食べてみてください」
 数回弟さんと話したとき、豆大福が大好きで自分の中では ランキング1位だったけれど、今はヨーグルトパフェが1位 なんだと聞いていた。
「とんでもないです」 と恐縮そうに言った。
「いえ、これは私からの気持ちです。お姉さんのあなたが元 気になって貰えるように。そんな些細な気持ちですが受け取 っていただけませんか?」
 そういうと少し考える素振りをしてから、3000円を置いて大福を受け取った。
 ヨーグルトパフェは1つ480円で渡した豆大福は12個 入り1350円。でも今回は豆大福代を抜くので......いくら なんでも多すぎる。そう思い声をかけようとしたが、私より 先にポニーテールの女性が声を出した。
「これは私からの気持ちです。優しくしてくれてありがとう ございます。家族といただきますね」
 おだんごヘアの女性がクスッと笑い、ポニーテールの女性 もクスッと笑った。
  おだんごヘアの女性は「おつりはいりません。私からのち ょっとした気持ちです。ありがとうございました!」といい なから1000円置いて、甘味処を後にした。

 数日後、あの2人の女性が甘味処にやってきた。
  ポニーテールの女性は完全に吹っ切れた訳ではなさそうだが笑顔が素敵だった。
「豆大福、美味しかったです。あの時は本当にありがとうございました!」
  少しでも役に立てたのなら、私は幸せだ。
「元気になっていただいて、こちらこそありがとうございます!」

さて、今日も元気にいきましょう!
凹 露(クボ ロシア)
2013年12月07日(土) 15時13分44秒 公開
■この作品の著作権は凹 露(クボ ロシア)さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょっぴり冷たくて、でも暖かい話を書きたかったはずなんですが、全部インパクトが薄いのやら......。
感想の際、思ったことはそのまま言ってください。

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No.2  青大将  評価:30点  ■2013-12-18 17:38  ID:OR1dm.U64IQ
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初めまして、青大将ともうします。楽しく読ませて戴きました。
僕はこういう雰囲気の作品が媒体問わず好きなので、読んでいる間は楽しかったです。
ですが、交通事故に関するこころを描くにはちょっと長さが足りないんじゃないか、と思いました。もっと時間を掛けて描写すればもっと暖かい話になると思いました。女性を何度も来店させるのもいいんではないでしょうか。
偉そうに感じられましたら申し訳ありません。
No.1  あおいはる  評価:20点  ■2013-12-07 22:21  ID:RsZmjQ4olvo
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雰囲気の作り方が上手いと思いました。
日常系のひとコマを切り取ったような作品かと思ったら・・・交通事故はちょっとヘビーかもしれません。雰囲気とギャップがあります。
それと、二人の女性を、ポニーテール、おだんご、で分けるのは少しイメージがしづらかったです。もう少し分かりやすくしたら混乱しないかな、と思いました。
総レス数 2  合計 50

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