カッターだよ
 ナイフをいつ、初めて手にしたかは、定かではない。
 僕にはしかし、ペニスがあった。ペニスは生まれつき、生えていた。僕は13歳まで、ペニスを放尿するためだけの器官であると認識していた。13歳の頃、僕は偶然手にしたエロ漫画を手引きに、マスターベーションを覚えた。尿道から黄色い尿ではなく、白くてどろりとした物が放たれた。精液だった。それ以来、僕の頭蓋の内では性的な妄想が、つねに踊り狂う事となった。
 14の頃、好きな男の子とアナルセックスをした。睾丸がカラになるまで、射精をし合った。僕たちは精液と汗の混じったドロドロのものにまみれた。
 ふいに彼は全裸のままベッドから立ち上がると、机の引き出しからナイフを取り出した。ナイフはそこら辺のホームセンターなどで売っている、いま思えばデザイン性の低いナイフだったが、当時の僕には曰く言い難い存在感があるように思えた。彼はそのナイフで、オレンジを断ち割った。
「食べる?」
 オレンジを差し出しながら彼はそう聞いた。精液の生臭い香りに、柑橘類の鋭い芳香の入り交じった匂いをさせながら。
「うん」
 僕はそう答えて、彼からオレンジを受け取って食べた。甘くて鋭い味が口内に広がり、カラになって痛みすら感じる睾丸が、癒されるようだった。

 いつしか僕はナイフを持っていた。最初に買ったナイフは記憶が定かではないが、15の頃には、ロック付きの折りたたみナイフと、赤い柄の十得ナイフを持っていた。銃刀法で逮捕される事を恐れて、僕はそれらを肛門にいれて持ち歩いた。ナイフが必要となる状況になると、ズボンとパンツをおろし、その場にしゃがんで、糞をするようにきばり、ナイフを出した。ナイフは大抵、糞にまみれていた。僕はその糞まみれのナイフでもって、小学生を脅し、カツアゲなどをした。糞まみれのナイフで脅されると、彼らは震え上がって、金を出した。

 彼とはいつしか別れた。彼のほうで僕を「飽きた」のだそうだ。彼とは本当に色々な事をした。セックスもしたし、動物を虐待したし、クラスメイトに凄惨な苛めをした。それら全ての思い出が走馬灯のように僕の脳を駆け巡った。しかし不思議と悲しくはなかった。そうか、という感じだった。
 僕は別の新しい男をみつけ、彼も新しい男を見つけた。
 僕は新しい男とアナルセックスをした。睾丸がカラになるまで射精をした後、僕はオレンジでも食べようかと思って引き出しからナイフを取り出した。
「それ、何?」
 と彼は聞いた。
「カッターだよ」
 僕はそう答えた。
昼野
2012年08月23日(木) 16時03分44秒 公開
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No.5  蜂蜜  評価:30点  ■2012-09-04 16:54  ID:p72w4NYLy3k
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お久しぶりです。拝読しました。

僕自身がTCからだいぶ離れていましたので、昼野さんの作品を読むのは久しぶりになりますが、相変わらず独特の昼野さんならではの個性が健在で、ある意味安心しました(笑)。

創作者にはみな、多かれ少なかれ、「何をどう弄ってもこういう表現しかできない」という部分はあるもので、それがすなわち、「個性」の根元なのだなあ、というような当至極あたりまえのことを、読後の率直な感想として思いました。また、いち表現者としての自分自身に翻って考えたときに、僕自身の「個性」はどこにあるのだろう? と、しばし逡巡しました。

精液とナイフとオレンジ、というダダイズム的なモチーフの組み合わせがとても新鮮で、平明かつ最小限のミニマムな文体からも、オレンジの果汁の匂いが漂ってくるようで、胸を打たれました。まさに、「匂い立つ」ような作品で、これだけシンプルな文体からでも、嗅覚のみならず、視覚的にも作品が僕自身の中に立ち上がってくる感じは、昼野さんならでは、ですね。非常に好感を覚えました。

一方、物語としては、この作品の主要なポイントは、「肛門に秘めたナイフ」が、男との別れを経て、「引き出しから取り出したカッター」に変化するところだと僕は感じたのですが、ちょっとその部分に関しては、もう少し丁寧に掘り下げてみたらいかがかな? と感じました。

僕はこの掌編を、あえてジャンルに分類するならば、「ナイフ」が「カッター」に変化する、一種のイニシエーションもの、として捉えました。(おそらくご存知かと思いますが、イニシエーションもの、とは、ある状態が、何らかの事由(イニシエーション=通過儀礼)を経て、別の状態に到達する、という物語形式を指します)。

これは、あくまでいち読者としての僕自身の感想に過ぎず、決して一般的な小説の方法論や客観的な批評などではありませんが、僕としては、本作品においては、その非常に肝要なイニシエーションの「内容」……すなわち、肛門に秘めたナイフが、引き出しにしまったカッターに変化するに至った経緯……が不十分に感じられました。例えは悪いですが、4コママンガに例えるならば、1コマ目から、2コマ目3コマ目をすっ飛ばして、いっきに4コマ目にいってしまったような感覚です。僕としては、上記のイニシエーションの内容については、「そこ、もっとツッコんで考えようよ! もっと!」と感じてしまった次第です。

そこがぼんやりしているように僕には感じられたので、作品全体としては、せっかくの個性的な着想を持ちながらも、残念ながら、今ひとつ集中力に欠けた、充分に吟味のされていないものになってしまっているように思われ、非常に勿体無いなあ、思いました。

……と、ここまで書いて、もうずいぶん長らく自作も発表せずに、久しぶりにひょっこり現れた割には随分エラそうなことを書いている自分が恥ずかしくなり、ここまで書いたことは全部消して首を吊りたい気分になりました(笑)。

でも、せっかく小一時間ほどかけて書いたんだし……という気持ちもあるので、上記はあくまで、単なるいち読者の感想に過ぎない、という点を再度強調させて頂いた上で、この辺で筆を置こうと思います。

感じ方は本当に人それぞれですし、僕自身もここで言っていることが絶対に正しいなんてことは口が裂けても言えませんので、他のみなさんのご感想もぜひ参考にして下さい。

僕からは以上です。








No.4  弥田  評価:40点  ■2012-08-26 14:05  ID:ic3DEXrcaRw
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「僕にはしかし、ペニスがあった」の部分と、オレンジ切るところがすきです。
No.3  星野田  評価:30点  ■2012-08-25 22:46  ID:p72w4NYLy3k
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こんにちは。
なんていう、睾丸がカラになったような雰囲気ですね(?)。内容的にはエロいシーンであるのかもしれないけど、もう欲望を出しきってからからになった雰囲気みたいな。理性だけ戻ってきて、臭さが気になる。みたいな。
チャットでも言いましたが、いい意味で波のない文章が、読んでいて好きです。
No.2  昼野  評価:--点  ■2012-08-25 22:02  ID:FJpJfPCO70s
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>渦巻太郎さん

感想ありがとうございます。
文章おほめいただいて嬉しいです。
世界観はおっしゃるとおり描くべきでしたね。なんかとくに着想のないまま行き当たりばったりで書いてしまいました。
ありがとうございました。
No.1  渦巻太郎  評価:30点  ■2012-08-23 18:38  ID:FuQIxFdSGhg
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 こんにちは。作品読ませていただきました。退廃的で暴力的で、言いようのない無力感に襲われる文章はやはり素晴らしいです。ただ、僭越ながら、土台にリアリティある世界観を描くと、更にこういった「におい」のするような世界が引き立つのではないかと思いました。
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