えす・N・エス
安藤智弘議員のツイートが俳優の只野浩にリツイートされた。
只野浩のリツイートに反論したのが歌手のUTUMIで、UTUMIのフォロワーであるアドマンの浅見恒弘が賛成した。

ちなみにUTUMIにブロックされたことのある作家志望の一般人である時乃すばるは、UTUMIのことを「彼の音楽は絶望の精液が撒き散らされていて甚だ遺憾に思う」という意味不明な発言をしたが、特に誰からもリツイートされることは無かったし、返信もゼロであった。
安藤派から造反した小野澄子は、評論家の宇佐美重利氏と作家の東西未明氏による安藤智弘議員の今後の動向についての対談の内容をツイートした。
雰囲気イケメンを目指すサブカル系のフツメン山田翔は「東西未明氏の作品『陽子と電子の謝肉祭』読了」とツイートした。彼は読了という言葉をツイッター上でしか使ったことがなかったが、その理由は、なんとなく知的そうな感じが出せる、というものだった。
ちなみに山田翔は浅見恒弘のフォロワーのフォロワーのフォロワーであり、人気アイドルグループ『SBY109』のサリナこと佐倉莉奈のフォロワーである。
作家志望の一般人である時乃すばるはサリナたんに一票を投じようとしたが、只野浩との熱愛報道が発覚しアンチと化して、その恨みつらみを書き連ねた抗議文をありもしない文才で書いたがもちろん相手にされることはなかったし、こういう精神的欠陥のある人間はいちいち相手にしていたらキリがないから放っておくべきである、とフェミニストの小野澄子は今月の「女性自体」に書いた。山田翔はこの記事に対し、某巨大掲示板に「おまえらと同レベルだなw」とカキコミした。
宇佐美重利はスポーツ観戦を趣味としていて、今年のオリンピックについて、ハッシュタグを使って積極的にツイートしようと考えていた。その中でも彼が特に注目しているのは水泳平泳ぎの尾崎琢磨である。
尾崎琢磨は非常に端的な一言をごくまれに呟いたが、その端的な一言には、メダルへの熱い思いが秘められていた。もちろんこの尾崎琢磨をフォローするものは非常に多く、以前CM製作をしたときに関わったアドマンの浅見恒弘もその中の一人だった。
浅見恒弘の趣味は二つあり、一つは料理を作ること。もう一つは萌えアニメを見ることであった。彼は、学生時代に塵山35賞を受賞し、現在は芸術料理研究家としてパリで活躍している米田麻衣をフォローし、アニメ『非実在少女ほいっぷ』の主人公キャラメリゼ=レッドラムのbotにフォローしていた。
米田麻衣の新作アヴァンギャルド料理である「すけとうだらの山椒辛子水煮」は主にシャンゼリゼ通りで大ヒットを飛ばし、いつしか「世界のYONEDA、家電はYAMADA」と称されるまでになった。
意外と萌えアニメに詳しいUTUMIはキャラメリゼ=レッドラムを「このキャラクターが持つパブロ・カザルスのような繊細さとトレイ・アザトースのような荒々しさは筆舌に尽くしがたい。こいつぁーツンデレの進化形だな」と評したが、それがきっかけでちょっとしたムーヴメントを引き起こした。時乃すばるはそのムーヴメントを指して「はいはいステマステマワロスワロス。そんなことより野球しようぜ!(AA省略)」と非生産的なツイートをした。
「ステマ」という言葉が軽々しく使われていることを苦々しく思っていたのはアドマンの浅見恒弘だ。広告というのはクライアントが持っている情報を加工することで成り立っており、インターネットが普及してから、情報加工に過敏に反応する人が急増した。その敏感さたるや、散らかった子どもの部屋を親が片付けようとすると癇癪を起こす子どもさながらだと浅見恒弘は感じて、辟易という普段あまり使わない言葉を使ってツイートするに至った。
しかし浅見恒弘はいざツイートしてから「しまった」と思い、あわてて削除した。個人主義の人間を揶揄し一人で楽しむ趣味を全てオタク扱いにして、一致団結かつ団体行動を無闇に賞賛する島国根性を持つ日本人のインターネットにおける「炎上」という暴虐的なエネルギーは恐怖するものがあった。もし自分のツイッターを炎上させようものなら、自分が働いている広告代理店「電報エージェンシー」の名前を汚してしまうかもしれない。しかし浅見恒弘はツイートを削除してから、自分もまた「電報エージェンシー」という一致団結団体行動賛美の元凶である「企業」の呪縛に囚われてしまっていることに気づき愕然としていた。かくして、浅見恒弘は海外への独立を決意することとなった。
時代はグローバルである。浅見恒弘は偶然、あの超有名アパレル会社「Appare」の代表取締役、水野忠邦のツイートを読んだ。世界で戦うための長期戦略「TENPO revolution」についてのインタビューが江戸みやこめっせで行われると知り、さっそくスケジュール帳にメモをしたでござる。
インタビューアーの草名博美は、東都大学卒のテレビアナウンサーで、現在はフリーとして活躍している。毎日テレビに勤めていた頃はインテリアナウンサーとして、本業のほかにクイズ番組によく出演し、同じくインテリ芸人として売り出されていたお笑いコンビ「バルバロイ」のボケ役である雑賀キヨシの因縁のライバルとしてよく話題にされていた。
しかし草名博美は、極度に緊張するととんでもない大ポカをやらかしてしまうことで悩みがあった。現に浅見恒弘がそのインタビューを聞きに行ったとき、草名博美は「本日は、株式会社あっぱれの代表取締役、水野忠邦氏をお招きして……」と言った。言うまでもなく「Appare」は「アパール」と読むのだが、水野忠邦はそのミスを笑って許していた。すぐさま水野忠邦は「実は我が国のあっぱれという言葉が転じてアパレルという言葉が生まれたんです。綺麗な服を見ると私たちはあっぱれと言うでしょう?」と返して観客に笑わせた。
雑賀キヨシは、毎週土曜日に毎日テレビで放送されるお昼の情報番組「サタれぽ!」のワンコーナーでパリのシャンゼリゼ通りを訪れ、日本のカニカマが「surimi」という名前で食べられていることや、米田麻衣の新作アヴァンギャルド料理「すけとうだらの山椒辛子水煮」のレポートをした。雑賀タケシはその文学的才能を以て「すけとうだらの山椒辛子水煮」の味を的確に表現した。
そのレポートを見ていたのは思想家のろくでなし和男である。ろくでなし和男のツイート「すけとうだらの山椒辛子水煮が気になる」にリツイートした同業者の稲垣圭一は「すけとうだらの山椒辛子水煮を食べるとき、あなたは心の中で北風が吹き荒れるような激しさを感じるかもしれない。この作品は、オホーツク海をトポスとした、巨大な流氷のような重厚かつ壮大なイメージを想起させる『生鮮魚サーガ』の一つの到達点であると私は思うが、つまりそれは厳しい環境を生き抜く魚たちの紛うなき神話であるかもしれない。文学は米田麻衣の料理によってついにその絶頂を迎えたのかもしれない」とツイートしたが、実際には食べたことがないので本当のところはどうか知らないのかもしれない。
このツイートを読んで、書かない作家志望である一般人の時乃すばるが黙っているはずはなかった。「米田麻衣(笑)が文学の到達点(キリッ」とツイートして、彼は自ら、文学に革命を起こそうとパソコンのメモ帳を開いたが長編小説は書くのが面倒くさいので詩を書くことにした。時乃すばるの作品『アリアドネの糸に似て、音楽以前の空想円舞曲』を完成させ某批評サイトに投稿したが「意味が分からない、氏ね」と感想が一件ついて消えた。
才能の欠片もない時乃すばるが、PSPで遊びながらどうでもいい作品を懲りずに執筆していたころ、現代文芸社の重原良平は雑賀タケシのマネージャーに電話を入れていた。重原良平は雑賀タケシに文学的才能を感じ取っていた。雑賀タケシがもし小説を書けば、確実に売れる。もともと雑賀タケシはクイズ番組で十分に知名度を獲得しているし、彼が喋った時に現れるテレビ画面のテロップの文字を読むたび、重原はそこに才能のような何かを感じずにはいられなかったのだ。
雑賀タケシが最初にその話を聞いたとき、彼は丁重に断った。本業が忙しいこともあったが、彼自身も読書家であったので、タレントが書いた小説を快く思わない人たちがいることを良く知っていたのだ。しかし、重原は折れなかった。「確かに、タレントが小説を書くたび、その作品をうがった読みかたで評価して自尊心を満たすだけのレビューをアマゾンに残す人たちがいることは間違いありません。しかし、タレントが文学を書いて何が悪いんですか。私の上司は売上目当てで貴方に原稿依頼をするように言ってきます。しかし私は、文学を一部の人間のものにはしたくないという想いがあるんです!」雑賀タケシは気迫に押される形で執筆することを決めた。
しかし、完成には大変な労力を必要とした。彼は悩んだ結果、自分の子ども時代から芸人としての現在の地位を獲得するまでを作品にすることにした。しかし、ただ普通に自伝として書いてもさして面白くないだろうな、という風に雑賀タケシは考えたが、しかし具体的な案は出て来なかった。
テレビ番組の出演をこなしつつ、ラジオ番組のMCをしつつ、ネタを考える毎日。時間が無いから良質なネタは出ない、という言い訳だけは絶対にしたくない。彼はそのことをツイートした。本を出版することについては伏せた内容ではあったが、何人かがそのツイートに返信した。
そのうちの一人に、事故で下半身不随になってしまった前田知美がいた。
山岳部に所属していた前田知美にとって、下半身が動かなくなるということは、山を踏破する喜びや達成感といったカタルシスを永久に享受することができないと宣告を受けたに等しかった。
かつて登った山で撮った写真を眺めつつ、ひたすら病室でテレビを見る毎日。生きているのか、死んでいるのか、前田知美は分からなかった。何でもいいから人との繋がりが欲しくて、前田知美はツイッターのアカウントを取得した。初めてアカウントを作ったその日に、前田知美はたまたま放送されていたクイズ番組「タイムアタック60」に出演している雑賀ヒロシを見つけた。クイズ番組のライバルである草名博美との決勝戦で、優勝を勝ち取ったところでスタッフロールが流れた。
なぜその雑賀ヒロシが気になったのか、それは前田知美自身も分からない。次々とスクリーンに映し出される物の名前を答えていくクイズで、山登りに用いる「ピッケル」を即座に答えて親近感を持ったからなのかもしれなかったが、いつのまにか前田知美は「雑賀ヒロシ」でツイッター検索をかけていた。
雑賀ヒロシ(@hiro-baroi)さんはtwitterを使っています! その言葉を見て、前田知美は夜が更けるまで、雑賀ヒロシの過去のツイートを眺めて過ごした。雑賀ヒロシがそのツイートを見つけたのは、つけっぱなしになっていたテレビで放送されていたガールズトーク番組で佐倉莉奈がゲストとして迎えられ、只野浩との私生活について当たり障りのない程度に話をしていたときのことだった。「本を出版してみようと思います」
現代文芸社の重原良平は気が気でならなかった。現代文芸社は決して規模が大きな会社ではない。講英館や小談社のようなメジャーな出版社と違って、出す本があまり売れなければ会社存続の危機に陥ってしまう。現代文芸社は今年度は不作に見舞われており、この雑賀ヒロシの本が売れなければ、いよいよ覚悟を決めなければならなくなるであろう状態にあった。
だから重原良平が雑賀ヒロシのマネージャーから「原稿が完成した」という電話を受け取ったとき、彼はすぐさま東京行きの新幹線の切符を買った。新大阪駅で彼は本屋に立ち寄り、現在の売れ筋を軽く物色しながら、以前から気になっていた本である東西未明氏の「陽子と電子の謝肉祭」を買った。レジに向かった時、店員の背後に「非実在少女ほいっぷ一番くじ」のポスターが貼られていて、その上に丸っこい文字で「完売御礼!」というシールが貼られているのが目に入り、現代文芸社の一員として、オタク文化を侮ってはならないなと考えていた。
雑賀ヒロシのタイトルは「お笑い猿、お台場に昇る」だった。お笑いの世界に興味を持った猿が、お台場にあるヤマトテレビ本社のビルのてっぺんまで登るために、警察の手を逃れながらさまざまな出会いや冒険をする話だった。マネージャーから渡されたUSBメモリを受け取り、雑賀ヒロシ本人と出会った。本人と直接「お笑い猿、お台場に昇る」について会話をしたとき、重原良平は雑賀ヒロシの才能を確信した。今すぐにでも原稿を読んでみたいと思った。
幾重もの会議を経て、幾多もの校正を通過して、ようやく原稿を印刷会社に送った時、もう夏に入ってオリンピックが始まったことに気づいた。
大阪駅周辺で号外が配布されていた。「尾崎 金」という、インパクトのある短い見出し。競泳男子100メートル平泳ぎで、尾崎琢磨が金メダルを取ったのだ。
現代文芸社の公式サイトにある「お笑い猿、お台場に昇る」のページを見た前田知美は、ツイッターでそのことを呟こうと思った。いつも通りスマートフォンでツイッターのページを開いて、フォローした人やフォロワーのツイートを見ていると、そこには雑賀ヒロシのツイートがあった。「尾崎琢磨選手が金メダルを獲得! インタビューがすごくカッコよかった」
その日、尾崎琢磨の金メダルについてツイートは何十万、何百万件に昇った。♯競泳のハッシュタグ付きのツイートが続々と寄せられてくる。
「尾崎琢磨選手! 感動をありがとう!」「インタビューでは名言が飛びだしましたね」「尾崎選手は日本の誇りです。私も震災復興目指して頑張ります」
前田知美は微笑んだ。前田知美も、金メダル獲得の瞬間をテレビで見ていたのだ。
尾崎琢磨の金メダルで、色んな人が呟いて、色んな人がその呟きを見て、色んな人がその呟きについて呟いていく。

前田知美は雑賀タケシのそのツイートをリツイートした。
前田知美のリツイートに返信したのは大学生の山田翔で、山田翔のフォロワーのフォロワーである時乃すばるが「誤審多すぎwwww審判仕事しろwwwww」とツイートしたがそのツイートは誰にも……。
時乃
2012年08月01日(水) 02時07分10秒 公開
■この作品の著作権は時乃さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
登場人物一覧

・安藤智弘(政治家)
・只野浩(俳優)
・UTUMI(歌手)
・浅見恒弘(大手広告代理店『電報エージェンシー』社員)
・小野澄子(フェミニスト)
・宇佐美重利(評論家)
・東西未明(作家)
・山田翔(大学生)
・佐倉莉奈(アイドル)
・尾崎琢磨(水泳選手)
・米田麻衣(芸術料理研究家)
・キャラメリゼ=レッドラム(アニメ「非実在少女ほいっぷ」主人公)
・水野忠邦(株式会社「Appare」代表取締役)
・草名博美(テレビアナウンサー)
・雑賀キヨシ(お笑い芸人)
・ろくでなし和男(思想家)
・稲垣圭一(思想家、文芸評論家)
・重原良平(株式会社「現代文芸社」社員)
・前田知美(身体障害者)
・時乃すばる(馬鹿)

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No.1  渦巻太郎  評価:40点  ■2012-08-18 06:32  ID:Uc6Zeo2V2/g
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 個人的に率直な意見を言わせていただくと分かりにくかったのですが、その分かりにくさがある意味リアリティを生んでいて、とがった作品で面白いな、と思いました。ネットで注目される者されないもののコントラストや悲哀が淡々と描かれてるのが諧謔的に感じられて良かったです。
総レス数 1  合計 40

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