良い子悪い子
 
 がしゃん。

 ほらまた。
 真実を消し去る音がする。

「新人さんだね、あんたの犯した罪は何?」
 新人さんはしばらく経ってこう言った。
「強盗殺人」
 この国での罪はすべて終身刑になる。
「……だそうだ」
 そういう決まり。

 彼は冤罪だと言った。
 僕の罪は殺人、しかも数人どころではなく。

「可哀相だね」
 そう言うと彼は黙った。
 僕が真面目に話していないように聞こえるのかも知れなかった。
 僕は真面目な話が苦手だから、ついつい笑ってしまうから。
「あのねぇ知ってる?
 ひとを殴殺するのも刺殺するのも銃殺するのも絞殺するのも、
 すごく嫌な音がするの」
 彼は黙って聞いていた。
 驚くこともせずに。
 ただ、現実と、真実ではない矛盾を。
「きっとあんたは良い子なんだね。
 だからそんな風になっちゃうんだよ」
 僕みたいに生きてみれば良かったのにねと、
 言いたかったけど止めておいた。
 
「あんた良い子だからさ、だけど決まりだからさ。
 仕方ないんだよ。
 だけどせめて、あんたに選ばせてあげるよ」



 どれが良い?



 彼が選んだのは例示した中のどれでもない、
 だけれど僕の一番得意な惨殺だった。 
 またひとつ。
 牢獄に死体が増えた。 
「僕は悪い子なのに死なないねぇ」
 がしゃん。
 そう鳴る頑丈な鍵の開けられる音を、
 もう何度聞いたか忘れてしまった。
 ほらまた、真実を消し去る音がする。
 誰の名前も罪も関係ない。
 だってそれが、



 決まりだから。



 
星沢愛美
2011年05月26日(木) 01時17分14秒 公開
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■作者からのメッセージ
 気分を害した方がいたら申し訳ありません。こういうのはどのジャンルに属すのか、毎度迷います。ここへ投稿するのは、詩のところと合わせて2度目です。

この作品の感想をお寄せください。
No.5  星沢愛美  評価:--点  ■2011-06-16 22:26  ID:Wgxcq01yypU
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作者です。
多摩さん、Physさん、遅くなりましたごめんなさい。
コメントありがとうございます、とても嬉しいです。

多摩さん>
 舞台ですか、星沢の頭の中の映像を文章にする感じで書いているので、そう感じていただけたのかもしれません。好評価ありがとうございます。

Physさん>
 そうですね、小説でしか表せない物語、書いていきたいと思います。
 有川浩さんの「塩の町」は、残念ながら読んだことがありません。表紙を見てすてきーと思ったのですが……。読みたくなりました^^
 ええと、気になった点についてですが。星沢としては、「殴殺も刺殺も銃殺も絞殺も」「嫌な音」がする。「惨殺」はそれらすべてを含めた方法、もしくは「何の音もしない」方法、と、読者さんのとり方もさまざまにしたかったという思いがありました。でも確かにそういうちょとした疑問は物語を読み進めるにあたり、邪魔になってしまうことがありますね。気をつけます!
 アドバイス参考になります、ありがとうございます。
No.4  Phys  評価:30点  ■2011-06-12 09:44  ID:CgrmgIDoPgg
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拝読しました。

多摩さんもおっしゃっているように、劇作(舞台)みたいな雰囲気を感じ
ました。小説というより、映像を伴う鑑賞作品であった方がより説得力が
あると思います。

>「僕は悪い子なのに死なないねぇ」
という台詞に、なぜか有川浩さんの「塩の町」を思い出しました。(なんか
リンクするものがあったのでしょうか……)

文章はお上手ですし、短い一文を淡々と改行する書き方に、独特な息遣いを
感じました。

最後に、気になった点を一つ挙げさせて下さい。
>ひとを殴殺するのも刺殺するのも銃殺するのも絞殺するのも、すごく嫌な音がするの
ここが、なんか痛々しくて怖かったのですが、その後に
>僕の一番得意な惨殺だった
とありますね。惨殺って、具体的にどんな殺害方法なのでしょう。私の中では
刺殺も十分「惨殺」に該当する気がします。(や、説明されるのはちょっと
嫌ですけど……)

そのくらいです。気分を害するような文章には感じませんでしたよ。雰囲気を
感じるいい作品でした。

また、読ませて下さい。
No.3  多摩  評価:50点  ■2011-06-10 20:40  ID:/dxzQ0Wmf36
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舞台でこういった世界観を表現したらとてもおもしろいなと思いました。
短い文のなかでキレイに表現しきっているなと感心してしまいました。
No.2  星沢愛美  評価:--点  ■2011-06-06 02:02  ID:Wgxcq01yypU
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作者です。
闇の吟遊詩人さん、こちらでも返信が遅くなってしまい申し訳ありません。
コメント嬉しいです、ありがとうございます。

寓話ですか、そうかもしれません。
小説として投稿すると詩のようだといわれ、詩として投稿すると小説のようだといわれ……、他の投稿サイトではSS小説として落ち着いていたりします。
No.1  闇の吟遊詩人  評価:20点  ■2011-05-27 18:51  ID:h9/hf8U/ytc
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「気分は害さない」けど、小説というより「寓話」みたいな感じですね。感想は『マクベス』からパクリます。

「いいは悪いで、悪いはいい」
総レス数 5  合計 100

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