お殿様のしゃっくり













 えー、毎度馬鹿馬鹿しいおはなしを。
 しゃっくりを百回繰り返すと死んでしまうなんて迷信がございますが、昔は本当に信じられていたそうでございます。

 まだお侍さんたちが、チャンバラでゴチャゴチャやっていた頃のおはなしでございます。ある日、お殿様がしゃっくりをし始めました。「ヒック」と一回、二回……最初は周りの家来たちも気にしておりませんでしたが、これが二十回、三十回となるとソワソワし始めたのです。
 しゃっくりを止めようと、近くに居たお姫様が水を差し出しました。
「父上、どうぞお飲みください」
「うむ、ありがとう。ゴクゴク……ヒック」

 しかし、五十回、六十回としゃっくりは止まらないので、急いで医者を呼びました。
「うむ、医者であるか。苦しゅうない、表をあげい。 ……ヒック」
「はっ。それでは失礼いたします」
 そう言うと、医者はお殿様の鼻と口を押さえました。
「うっ、うっ……苦しい! 何をするんじゃ!」
「治療でございます、これでしゃっくりが止まるかと存じます」
「何だと? ……ヒック」

 しゃっくりは八十回、九十回と一向に止まらないのでございます。周りの家来たちは涙を流し始め、お殿様は取り乱し出しました。
「どんな褒美でも取らせる! 余のしゃっくりを止めるのじゃ! ……ヒック」
 その言葉を聞いて、一斉に家来たちがお殿様に駆け寄りました。背中を叩く者、ツボを押す者……それでもしゃっくりは止まらず、ついに九十九回を数えました。
 その時、一人の家老が立ち上がりました。そして、お殿様の大事な壷を持つと、思い切り床に叩きつけました。ガシャーンと大きな音を立てて壷が割れると、お殿様も家来たちもみんなビックリ。
「何をするのじゃ、余の大事な壷を!」
「殿、お許しください。こうするしか無かったのでございます」
「どういうことじゃ?」
「確かにこれは殿の大事な壷にございます。しかし、殿の御命に比べれば価値などございません」
「うむ……」
「私はどのような褒美もいりません。ただ、壷を割ってしまったことをお許しください」
「褒美? ……そういえば、しゃっくりが止まっておる!」
 お殿様がそう気が付くと、周りの家来たちも大喜び。これで、めでたし、めでたし。

「ヒック!」
 そう思われましたが、甲高い声がお城に響いたのでございます。声の主はお殿様。百回目のしゃっくりだと知った家来たちは一転慌てふためき、お殿様は動揺を隠せません。
「と、止まっておらぬではないか! ついに、しゃっくりを百回してしまった!」
「いえ、一度止まったのでございますから、今のでまた一回目、、、と勘定するべきでございます」
 家老は巧いことを言おうとしましたが、お殿様は気が気ではありません。
「余は、もう死ぬのじゃ! ヒック」
「殿、どうかお気を確かに!」
「孫の顔が見たかったわい! ヒック」
「父上、死なないでください!」
「最後に、たい焼きが食べたかった……白いたい焼きが! ヒック」
「この時代にはありません!」

 横たわり、遺言を残そうとするお殿様でしたが、百五十回、二百回としゃっくりを繰り返しても一向に死にません。そうこうしているうちにしゃっくりが止まり、お殿様は自分の身に何も変わりが無いことに気が付きました。
「わかったぞ。しゃっくりの言い伝えは、単なる迷信だったんじゃ!」
 身をもって証明したお殿様の言葉に、誰も反対する者はおりません。そして、お殿様は家老に話しかけました。
「そういえば、余の大事な壷が割れたんじゃったな」
「あれは成り行きでございまして……結果的に殿の御命が助かったことで、万事良しでございます」
「良しかどうかは余が決めるのじゃ! 弁償じゃ!」

 その後、家老はしゃっくり、、、、に苦しんだのでございます。……いえいえ、そのしゃっくりではございません。金を繰り、、返したのでございます。
 お後がよろしいようで。
桜井隆弘
2011年05月21日(土) 00時57分34秒 公開
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お読みいただきまして、ありがとうございます!

ご感想いただけましたら、嬉しいです!
こんな上司、あなたの周りにいませんか?(笑)

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No.5  桜井隆弘  評価:0点  ■2011-06-07 21:42  ID:2pzfQCL4HRI
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>闇の吟遊詩人さん
オチは「やりくりに苦しんだ」と迷ったんですが、どちらにしても筋が通っているものの弱いかなーと非常に悩みまして(苦笑)
ご感想ありがとうございました!

>春矢トタンさん
白いたい焼きは完全に思い付きで、蛇足や低俗かなと迷ったんですが、笑っていただけたなら幸いです。

僕も白いたい焼き好きですよ、よく読んでください!
まずいと言ったのは、「※もし」の場合です。
結局自分の味覚で、アリナシを決めちゃうっていう冗談ですよ(苦笑)
No.4  春矢トタン  評価:40点  ■2011-06-03 03:28  ID:OR/wFqmygW2
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はじめまして。拝読させていただきました。
お殿様かわいいですね。周りの家来たちもかわいいです。
Physさんも書いてらっしゃいますが

>「最後に、たい焼きが食べたかった……白いたい焼きが! ヒック」
>「この時代にはありません!」

で大爆笑してしまいました。夜中窓を開け放して読んでいたので、近所迷惑になってしまったかもしれません。
白いたい焼き、好きです。もちもちしてておいしいですよね。

って、書いてからコメント返し読んだら、桜井さんは白いたい焼き反対派だったんですね……(´・ω・`)
No.3  闇の吟遊詩人  評価:20点  ■2011-06-01 19:14  ID:h9/hf8U/ytc
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面白いのですが、最後の「オチ」に無理があるような……。「しゃっくり=借金を繰り返した」が「ダジャレ」になっていればいいんですが。

「点」をつけて「ダジャレ」にしても残った「金を」と「返した」という言葉から、強引に「ダジャレ」にしている印象を受けました。もし『お殿様のしゃっくり』を朗読したら、「点」が使用できないから、聞いている人の中には「オチ」が理解できない人もいるでしょう。

私の個人的感想にすぎませんが、Phys さんの指摘した「面白さ」があるからこそ、「朗読してもわかるオチ」にもう一工夫欲しいと思いました。
No.2  桜井隆弘  評価:0点  ■2011-05-24 22:46  ID:wlRylF.wTcM
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>Physさん
笑っていただけたなら嬉しいです。

挙げていただいた二ヶ所は、個人的にも気に入ってる所ですね(笑)
落語家さんってよく「白いたい焼き」的な、噺とは逸れて笑いを取りに行くことがあるように思ったので、アリかなーと。

白いたい焼きは、美味しいからいいんじゃないですか?
新しいビジネスチャンスを切り拓くには、柔軟な考え方が必要です。
確かに伝統も大事ですが、結局売れたもん勝ちですからね。

※ もし白いたい焼きが、まずいと思っていたら・・・
和菓子に対する冒涜ですよ、大体たい焼きは皮がパリッとしてるやつが一番美味いんです。
確かにビジネスも大事ですが、やっていい事と悪いことがありますよね。
・・・要は、自分が美味いか、まずいかだったり(笑)

上司だなんて、本当やめてくださいよ。
僕はまだ先輩社員くらいの歳ですよ(笑)
No.1  Phys  評価:40点  ■2011-05-21 10:23  ID:YyqzxAWUfcw
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拝読しました。

小噺シリーズ(勝手に命名)ですねー。桜井さんのこれ、とっても好きです。
くすりとさせられるフレーズが満載で、パソコンの前でお腹を抱えて笑って
しまいました。

>「いえ、一度止まったのでございますから、今のでまた一回目と勘定するべきでございます」
>家老は巧いことを言おうとしましたが、お殿様は気が気ではありません
一昔前の○カ殿を見ているようです。私は昔からああいうおバカな番組が好き
なので、笑いのツボに嵌まりました。

>「最後に、たい焼きが食べたかった……白いたい焼きが! ヒック」
>「この時代にはありません!」
この絶妙な掛け合いは最高でした。桜井さんが楽しく書いているのが伝わって
きます。ちなみに、私は白いたい焼き反対派です。タピオカでんぷんを伝統の
お菓子に使用するなんて、無礼千万。和菓子愛好家の私からすれば、許される
所業ではありません。

こんな上司なら欲しいです。というか桜井さんみたいな方が上司に欲しいです。
おもしろい話をたくさんご存じなのだと思います。

また、読ませてください。
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