我らの生
 塩素の匂いのするスクール水着を、彼女は痩せた身体にぴったりと着ていた。あばら骨が浮いているのが、紺色のスクール水着の上からでもわかり、病的ともいえる痩身が、惨たらしく僕を一撃した。
 スクール水着を着ているとはいえ、彼女は27歳の、自傷癖のあるニートであり、スクール水着の塩素の匂いは、台所用漂白剤で、人工的につけたものだ。
 彼女はあるポーズをとっている。それは僕が要求した、痩せた身体がもっとも惨たらしく見えるポーズであり、ありていに言えば、M字開脚であった。
 M字に足を開き、その中央に、シンボリックに示された恥丘を、僕は鉛筆を片手に、膝にはスケッチブックを乗せて、入念に観察した。
 痩せた身体でたわんだスクール水着から、恥毛が覗いて見える。手首には痛々しいリストカットの跡があり、それはゴムの輪を幾本も巻き付けたように見える。不意に僕は聞いてみたくなり、聞いた。
「君はなぜ死なないの? 君にとっては、どんな惨たらしい縊死も、希望のように思えるんじゃないか?」
 彼女はソファーに預けていた、死んだような頭部を、ゾンビのように起こして言った。
「死ぬ勇気がないのよ。それだけの理由で生きている。だからもう死んでいるようなものよ」

 *

 ある日彼女から一枚のDVDが送られてきた。
 再生すると、全裸の彼女が四つん這いになり、背後から黒々しい肌をした、巨漢の男に犯されていた。そしてもう一人の男が、透明のプラスティックの虫かごを持ってきた。中にはゴキブリがうじゃうじゃと犇めいており、男はその中から無造作にいくつかのゴキブリを手に取ると、背後から犯されて気の滅入るような喘ぎ声をあげている彼女の口にいれた。彼女はそれを噛み砕き、口端からゴキブリの白い内臓を零し、美味しいと言った。
昼野
2011年10月23日(日) 23時57分32秒 公開
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No.13  昼野  評価:--点  ■2011-11-02 22:52  ID:FJpJfPCO70s
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>藤村さん
あかるい笑い引き出せてよかったです。台所用漂白剤のところ、かな…?
放りなげるようなものはけっこう好きですが、好意的に受け取られて良かったです。
ありがとうございました。

>zooeyさん
そうですね、全体的に乾いてますね。効果的だったみたいで良かったです。
ラストは意図的に感情にこないように書いたのですが、どうでしょうね。ただでさえ酷いラストなのにその上読み手の感情にがんがん来るというのは、なんというか節度がないような気もしたのですが。ちょっと考えてみます。
ありがとうございました。
No.12  zooey  評価:30点  ■2011-11-02 02:32  ID:1SHiiT1PETY
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こんばんは、読ませていただきました。

ラストが乾いているとおっしゃっていますが、私は全体的に乾いてるなと思いました。
良い意味で、乾いてるなと感じたんです。
だからこそ、発せられるセリフが際立っているように思います。
そのセリフもやっぱり乾いていて、
空白にむなしさなというか、虚無感というか、なんか、諦めみたいなものが、ある気がしました。

ラストもやはり諦めだなあと思いました。
死ぬ勇気がないから、こんな風になっても、生きてるしかない、みたいな。

ただ、なんか、ラストは空白が弱い気がするんです。
完全な私の印象なんですが。
一文が長いからかなあ、なんか、空白から感じられるものが前半より少ない感じが。
もっとぷつりぷつりと文を切ってしまって、もっとそぎ落としてしまった方が
美味しいという部分が際立って、空白から虚無がにじみ出る気がしました。
No.11  藤村  評価:30点  ■2011-11-02 01:30  ID:a.wIe4au8.Y
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こんばんは!
まったくどうでもよかろうというようなことなのですが、昼野さんの作品を読んであかるい笑いが出てきたのはひさしぶりなのでした。ある一文が原因でした。
個人的には、作品が、なんといっていいのでしょう、節度ある放られかたをしているように感じられて、好きです。
というのがいまの感想なのですが、なんともかんともあしからず。です。
No.10  昼野  評価:--点  ■2011-10-31 01:41  ID:FJpJfPCO70s
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>水樹さん

どもどもどもどもども、感想ありがとうございます!!
抑えてるのは意図的なものですね。酷い内容なんであえて強調しなくてもいいかなー、なんて。でも水樹さんが強調した方がいいとおっしゃるなら強調しちゃいます///
そうですね、死んでるみたいなものだからゴキブリ食うAVにも出ちゃうおー、みたいな感じです。
ありがとうございました!
No.9  水樹  評価:30点  ■2011-10-31 00:06  ID:r/5q0G/D.uk
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昼野様、読ませていただきました。
昼野様の作品に触れる事はあっても、感想を置くのは初めてですね。
昼野様節といいましょうか、絵的には凄惨、それだけ最後の三行が際立っていますね。それでも、練習用なのかなと、少し抑えている感じもしました。
既に自身が死んでいると思えば、何でも出来ると、彼女の行動の顕れなのかなと。
美味しいとの彼女の言葉、死に反し、シュールな感じがしますね。
No.8  昼野  評価:--点  ■2011-10-28 00:02  ID:FJpJfPCO70s
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>夕凪さん
>尚 男性は、旨として妙齢の絶世の美女でも 零落れた、女なんか怖くて寄り付きません
そうなんですねー。勉強になります。
枯れてないですよー。ぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴちぴちー☆です。
ありがとう存じました。
No.7  夕凪  評価:30点  ■2011-10-27 21:44  ID:qwuq6su/k/I
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 最初 読んだ当時は、、痩せた水着のM字開脚の女が出て来て期待を持たせたにも関わらず、終いが デイスプレイ内で、行が切れて居るんで。嫌っぴ だったが
意外に、、一日経つと 文学的な香りが高かった。
尚 男性は、旨として妙齢の絶世の美女でも 零落れた、女なんか怖くて寄り付きません、貧運が移りさうで。巨漢や虫篭を持った男なんかは 一番、怖がります。
 一年前?から短文になったが、案外 之は文才が涸れたのでは無く、新段階へ進んだのかもしれなひ。と言うのは、長かったのも、短くなったのも同じ位の感銘度で有るから。
No.6  昼野  評価:--点  ■2011-10-25 23:48  ID:FJpJfPCO70s
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>夕凪さん
M字開脚というのはちゃんと描写するべきでしたね。女の容姿についてもちゃんと描写するべきでした。
書き手としてはエログロで押すタイプの作品として書いたわけではなかったのですが、そう見える感じですかね。
ゴキブリ食うくらいに落ちぶれた女がいても何とも思わない感性なのですね。さすがです。
ありがとうございました。
No.5  夕凪  評価:10点  ■2011-10-25 20:42  ID:qwuq6su/k/I
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 出始めは、その痩せた水着の女が出て来て かなり期待感を持てたが 何しろ短かさうなんで・・。女のM字開脚と言うのを、最初間違えて タケシの「コマネチ!」と捕えて了った。で、頭部をソファに預けて居たさうなんで そんな姿勢出来るのか?と疑問に思った。彼女の容貌とか、背丈 肌の色とかを さり気無く、付け加えて欲しいと思った。割と長身で黄色い肌に 黒い腰まである髪とか。フィリピン人との混血で、スペイン人の血が入って鼻が高いとか。
 最後は、ゴキブリに嫌悪感を持つ人も多いが アタシは一切持た無ひんで 「それが、だうした。」としか思われ無かった。女が、気の滅入る声をと言うよりも、音声は分かりにくいんで 経血の混じった桃色のメレンゲが床一面に広がって居たと して欲しい。ごはんの、各務氏の「去勢」という作品を読んだ後なんで 少し迫力が薄かった気がするが、、。之は、これで エログロ作品として それなりの期待感を 読者に持たせる力は持って居るやうだ。
No.4  昼野  評価:--点  ■2011-10-25 18:40  ID:FJpJfPCO70s
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皆さん感想をありがとうございます。

>D坂ノボルさん
おっしゃる通りちょっと断片的すぎたなと思います。春樹の「風の歌を聴け」は内容を忘れてしまったので再読して参考にしたいと思います。
D坂さんの感想を読んで、これと同じテーマでもうちょっと長いものを書いてみようかなという気になりました。ありがとうございます。

>はしずめまいさん
引用してくださった部分は、一番書きたいところだったのでそう言って頂けて嬉しいです。
ありがとうございます。

>kikiさん
ラストは乾いてますね。理由はまあ、いろいろ、です。
主人公の気持ち悪さは、もうちょっとファナティックであるとか笑えるとかにしたかったのですが、いまいち垢抜けませんでした。
「彼女」の独白の部分は湿っぽさを出したかったのですが、いまいちうまくいきませんでした。
ありがとうございます。
No.3  kiki  評価:0点  ■2011-10-25 03:19  ID:LlrcnV5h.iQ
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最後のレイプされながらゴキブリ食わされるのはいかにも嫌悪感を誘う描写なのに、気持ち悪いというよりは酷く乾いていると感じました。
それより「僕」のほうが気持ち悪い。スクール水着どんだけ好きなん、痩せた身体って何回言うん。淡々と喋りおってからに。

特に「死ぬ勇気がないのよ。それだけの理由で生きている。だからもう死んでいるようなものよ」って台詞がかなり異質に思えました。
他の文と比べると一番分かりやすく共感しやすい言葉なのに、一番なんの感傷も伴っていないというか、惨めったらしさとか悲劇のヒロイン的な自己愛とか、一種の湿っぽさを全く感じない。
多分スケッチをしている「僕」とかなり近い目線(あるいは同じ目線)で観察しながら「ふーん」って思うだけ。
って、この台詞に共感したって感想の後に書くのはなんか申し訳ないんですが・・・。あくまで個人的に・・・。

レイプゴキブリを乾いてるって感じるのも、「・・・というビデオを観ている」という目線に立たされるからで、
安易な感情移入を拒絶された上に自分の残虐性が鏡写しにされる感じがしました。

点数つけるの苦手なんで無評価にしていますが、好きです。でもなんて嫌な小説なんだろう。
とりあえず新作読めて嬉しいです。
No.2  はしずめ まい  評価:40点  ■2011-10-25 00:19  ID:TxSyyvV0oOg
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こんばんは。

わたしの勝手な解釈です。すみません。

破滅的な作風を感じました。それだから、奥底に響いてきました。

「死ぬ勇気がないのよ。それだけの理由で生きている。だからもう死んでいるようなものよ」
ここに、ひどく共感を覚えました。言いようの無い心的感覚を、見事に表現してくれているような感覚を覚えます。

ありがとうございます。
No.1  D坂ノボル  評価:40点  ■2011-10-25 00:14  ID:cPQ6sklUjQ.
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タイトルも内容もぼく好みでよかったんですが、小説というにはアヴァンギャルドすぎるというか、断片的すぎるかなとも思いました。
春樹の「風の歌を聴け」みたいに断片を積み重ねて妙味を狙うのもいいかな、と。
いずれにせよ膨らませる余地はあると思います。
でもこの短い断片のような小説、それでもぼくはやはり好きなのです。
というのも、構築された長編として、或いは完成度の高い短編として研ぎ澄ませる前の荒削りさが、作者様の「書きたい」という強いエネルギーをよりダイレクトに伝えてくるからです。
イントロもギターソロもない3分間のパンクロックを聴いたときのような初期衝動があるように思いました。
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