ひとりごとみたいなの
(申し訳ありませんが、これはただのひとりごとみたいなんをそれっぽく書いたようなやつです。その点ご了承下さい。そして関西弁に頼ると何割増しかしてるかもしれなくて後ろめたい気分です)

 あれからもうそれなりに時間が経って、この気まずい気持ちにバーコードをつけてやり、レジ機でもってピッと清算して輪郭をあらわにして、そんでそれを掴んで思いっきり地面に叩きつけてやりたいという衝動が芽生えてきた、のでこうして書くこと。まず大前提として、僕は浮気をしたわけでもなんでもないし、しようと思ったことさえない。したがってその点に関しては限りなく清廉潔白に近い無実であって、今だって、まぁ僕が色男ではないということもあるけども誰ともお付き合いはしておりませんし、そうしようとも思いません。これは何回も言ったことやけど、ただあなたの生き方というもんに愛想を尽かしただけやった。そんぐらいのことは曲がりなりにも2年ほど一緒におったんやからわかりそうなもんやけど、そのころのあなたはこのほんのちょっとの変わりっぷりを公正には受け入れてくれず、あれこれと想いをめぐらせてはそれにすがりついてを繰り返しているうちに、いつしか僕の変わりっぷりをはるかに凌ぐほどの変質をあなた自身のそのこころ、あほみたいな純粋と楽天ゆえに軋む際には加速度的な落日を見せつける心、にもたらしてしまったんやった。
 あの日、あなたが僕の部屋の前で僕の帰りを待っていた日、僕が実は居留守を使っていて、部屋の中で音ひとつたてず、寝返りすら満足にうてず、トイレにすらいかれへんままに夜を明かしていたことをあなたは多分今でも知らんのやと思う。そしてこれは僕が後で知ったことやけど、あの時、携帯ごしに「ゲーム中、鬼はわたしなう」とつぶやいたり、思わせぶりなタイトルを付けた絵をいくつか描いたりしてたらしいやん。鍵穴をがちゃがちゃするのを近所迷惑にぎりぎりなってしまうくらいの激しさや頻度でやってたことは知ってたけども。んで夜の4時くらいに、「ガストで絶対待ってるから帰ってきたらきて」ってメールが来たとき、あぶな、マナーモードにしてへんかったらアウトやったかも、という思いと、俺、もしかしてもしかするとこれで死ぬんかもな、っていう想いが、細くて長い針のように血管の中を音もなくめぐっていたんやで、時々突き破りながらやで、音もなく。まぁあなたは僕以上に苦しんでいたんやろうけど、そんなんは9:1であなたの自滅みたいなもんやし、当方にそのとばっちりをかますことはけして褒められたことではございません。まぁそうは言ってても、ごめん、とひとこと付け加えておかなければ、あの日のあなたが成仏してくれへん気がしてこわいという迷信はなかなか消えてくれへんねんけども。
 今日、てかもう日付変わってるから厳密には昨日、の昼過ぎに久しぶりにあなたから電話がかかってきたとき、出るべきかどうかを一瞬考え、結局出たんやけど、聞こえてくる声は完全にあの頃の善良なあなたやった。猫かぶってるとか、そんなカンジも全然なかった。僕はそのことにものすごくほっとしたけれど、それをなるべく出さんようにして受け答えだけを済ませた。必要以上のことは話さんようにした。そしてそのやりとりの中で、僕の生き方とあなたのそれがまたさらに離れつつあることを知った。僕は上から目線でいろいろ演説をぶってやってもよかったし、逆に心の底から親身になって相談に乗ることも出来た。そんであなたもそのどちらかを望んでたんやろうけど、そんなことは実際には馬鹿馬鹿しくて到底不可能やった。てかそこがあなたのアカンとこで、あなたの息づかいやそこから透けて見える意思のひとつひとつ、好んで手にとるもののひとつひとつから感じられる絶望的な隙間っつーかズレみたいなもんは、もうそろそろ縫い合わせてしまわなアカンやろーと他人事ながら心配になる。うん。埋めるとか塞ぐとかじゃないで、ここ重要やで、ほんまに。街でキュートなクマのぬいぐるみなんかを見かけるとビミョーに胸が痛むんですから。お願いしますよマジで。

 呑んでたら終電なんか余裕でなくなってて、忙しいみんなはタクシーで帰っていってんけどなんか俺は別にええわ、どうせヒマやし、ってなって、今は梅田のマンガ喫茶で時間を潰している。午前4時38分、始発が出るまでもう少しかかる。薄汚れた配管とかメタリックな銀のシートに覆われた装置みたいなんがむき出しの薄暗い天井の下で、どでかいリクライニングチェアーを極限まで倒し、冷めきったブラックコーヒーをちびちびやりつつ、手塚治虫の絵じゃないくせにブラック・ジャックの傑作選とか銘打ってあるやつを読んでいる。そして、あの日ガストにいたあなたが来ることのない僕を絶対的に待っている様子が、不発弾の思いがけない爆発とともにどっせーいと飛び出して充満して、僕の身体が血とか土とか煙とか、いじらしいほどの熱にまみれると、なんかこう、もはや危険物ですらなくなったあなたとのなれそめもドラマチックに仕立て上げてええんちゃうかな、という気分になるのであった。すると次のページの僕は、柄にもなく死んでしまいたいとか思うのであった。そりゃあもう短絡的に。
みずの
2011年08月10日(水) 20時04分38秒 公開
■この作品の著作権はみずのさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
わざわざ読んでくださってありがとうございます。
文句なしの自己満作品ですが、せっかくなので投稿しました。
ご意見ご感想や文句などいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.7  みずの  評価:--点  ■2011-08-13 23:51  ID:JntREJ4DlHE
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山田さま

感想ありがとうございます。
あの注意書き自体が自己満足の範囲内であることは重々承知しております。確かに事前に言い訳する行為は非常にいらっとするものですが、とはいえこれなしで上げるとそれはそれでめんどうなことになりそうだったので書いた次第です。
一応自覚はしていたつもりですが、こうして改めて指摘していただくことは本当にありがたいことです。ありがとうございます。そして次回はそもそもこんな注意書きをしないで済むようなものを書けるようにしたいと思います。
あとやはり方言は基本的に今回のみの特例にします。
ありがとうございました。
No.6  山田さん  評価:30点  ■2011-08-14 15:14  ID:iNA2/rsuwOg
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 拝読しました。

「よるのこしかた」のレスにも書きましたが、やはり文章が良いですね。
 マネしたくでもマネできない文章だと思います。
 うらやましい……。
 関西弁はもしかしたら反則技ギリギリかも知れないけれど、僕はいいと思います。
 
 さて、冒頭の「申し訳ありませんが、これはただのひとりごとみたいなんをそれっぽく書いたようなやつです〜」がもしなかったら、果して僕はどう感じただろう、と色々と想像してみました。
 あるいはメッセージの「文句なしの自己満作品」という表現がなかったとしたら、僕はこの作品をどう受け取っただろうと、色々と想像してみました。
 結局、想像出来ませんでした(汗)。
 そうすると、どうしてもこの「作品」と作者の距離が限りなくゼロになり、読者側も「作品」と作者を俯瞰して受け取る余裕が無くなってしまいます。
 作者さんの手の内、というか作品に対する心情的なものや、その背景を露わにするってのは、例えば素人さんが切磋琢磨していくことを目的とした当サイトのような場合には、正当な評価や指摘を受ける際に必要なことだと思います。
 そんなことはわかっていつつも、単純に「ああ、『申し訳ありませんが〜』とか『文句なしの自己満作品』といった文言がなかったら、どんな感想を僕は抱いたんだろう」と思ってしまうのも事実でした。
 あ、改めて書いておきますが、決して作者さんを非難しているわけではありません。
 逆にきちんとこの作品の背景を示してくれたことにすごく感心しているわけです。
 それを承知の上で、「文言がなければ〜」なんてことを書いてしまいました。
 つまり、このレス自体が「自己満足」みたいなものなんです……申し訳ないです。
No.5  みずの  評価:--点  ■2011-08-12 05:46  ID:JntREJ4DlHE
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藤村さま

感想どうもありがとうございます。
なんかてんぱってるようなので僕も特にコメントできませんが、まぁ藤村さんの動揺を誘ったということ自体がこの作品のひとつの成果だと勝手に思っておきますw
ありがとうございました。


百舌鳥さま

感想どうもありがとうございます。
小説としての見せ方はこの作品においてもわりと度外視したのでその点はさらっと流しますが、描写をもう少しというかもっと丁寧にやればよかったなという点では悔いが残ります。
次回作は一応バランスというのをテーマに書いてみる予定なので、次回はどっせーいと30点とりにいきますw 額面通りの30点です。
駄目だったらまた文句を言ってください。
ありがとうございました。
No.4  百舌鳥  評価:30点  ■2011-08-12 01:41  ID:8LZXuP92z.U
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呼ばれてないのにお邪魔します。どっせーい。

面白いなぁ。面白いんだけどなぁ……とゆーのが正直なところです。
「僕」の設定、描き方、視点、どれひとつとっても面白いです。
ただ、小説としての見せ方としてはどうなんだろう?って思うのです。
みずのさんが、書こうと選んで書いた文章は面白い。でも、書かなかった文章を書いてこそ、
小説として、より楽しめたんじゃないのかな、と思うのです。
長編だけが小説じゃない、掌編だって小説です。でも、掌編なりのバランス感覚、の、ようなものが物足りなかった。
要約するとそういうことです(笑)

ちょっと甘いかなー?と思いつつ、次回作に期待して30点です。
No.3  藤村  評価:30点  ■2011-08-11 23:50  ID:a.wIe4au8.Y
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拝読しました。
ぼくはわりあい、というかかなりだいぶ頭とか要領のわるい人間なのでなにかいえることがあるのかとてもはっきりお伝えできそうにないのですが、読んでいるうちおそろしいな、とおもったことがたぶん五つくらい出てきまして、もうちょっと消化してから書いたほうがいいのか、そうでないほうがいいのかわからないのですが、忘れないうちに書いておかせていただきたいので感想欄に書いておきます。なんとなくおそろしいな、とおもうことが五つくらい頭に浮かびました。もうちょっとじっくり考えてみようかなとおもいます。一種の共感、かもしれません、ということでどうかひとつ。
なんだかへんな書き込みですみません。
No.2  みずの  評価:--点  ■2011-08-11 21:16  ID:JntREJ4DlHE
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箱山さま

感想どうもありがとうございます。
読み返してみると確かにこいつ冷たい人間やな、と思いましたw
そして「個人的なことに共感を抱かせることが創作の基本」というのはその通りですね。ひとつ勉強になりました。
今後はそういうこと(共感)を意識しながら書いていければいいなと思っております。
ありがとうございました。
No.1  箱山  評価:30点  ■2011-08-10 23:22  ID:.1IszGSr9S2
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みずの様
拝読させていただきました。

この独り語りを読ませていただいて、一度は愛した人であっても、愛情がなくなってしまった時の鬱陶しい感じや相手に抱く残酷さ、また逆に自分が愛想を尽かされてしまった時の切なさや、納得のいかない感じなどが思い出されてきました。

みずの様は個人的な事をお書きになったのだと思いますが、個人的な事を書きながら読者に共感を抱かせるという事は、創作をしていく上での基本だと思います。
自己満足、などおっしゃっていますが、そんな事はないと思います。
総レス数 7  合計 120

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