私はしがないバス運転手
私はしがないバス運転手だ
ド田舎の片隅をゆったりと走り続けて早数十年。
きっと私はこのままバス運転手として死ぬだろう。
そんな私を哀れだと思う人もいるだろうがそれは見当違いだ。
私はこんな仕事が好きだし、この道を走るのが好きだ。
これが私の天職なのだ。


そんな私でも、長年不思議に思っていることがある。
数十年いつも同じバス停にいる女性がいた。
いつ見ても色褪せた着物を着ていて、バス停にいるにもかかわらずバスには乗り込まない。
新人の頃あまりにも気になって先輩に聞いてみたが「あれはああいう人なんだ」としか返ってこなかった。
場所柄不可思議な人を幾人も運んでいるが、それでも群を抜いて印象に残る女性だった。
どうして乗らないのか。どうしていつもそこにいるのか。誰かを待っているのでは?
想像に想像をめぐらせ私はいつしか彼女のことを「待人」と勝手に呼んでいた。


ある日のこと、少し体調を崩した私はいつもよりもゆっくりバスを走らせていた。
おかげでバスは遅延しているが、代員を用意しなかった所長が悪い。
事務所に戻ればきっと「創業以来初めて遅延したぞこの馬鹿物が!」などと言われそうだが知ったことか。
終電をとうに超えた時間、今日最後の始発便を走らせる準備をしていると客が一人乗ってきた。
雨も降っていないのにびしょびしょな着物を着た青年。
私は気にせず、最後の便を走らせる。


「次はー、小石ー小石です。」
待人のいるバス停を読み上げると、降車を知らせる合図が流れる。
バスが小石駅に止まると青年は駆け下り、こんな時間にもいる待人に抱き着いていった。
待ち人は寸刻驚いた表情を見せた後、満面の笑みを浮かべて青年を抱きしめる。
抱き合う二人をいつまでも眺めていたかったが、そうも言ってられない。
バスのドアを閉め、ゆっくりと発進させる。
サイドミラー越しにおじきをする二人をみて私はふと思い出した。
バス代、もらってない


所長にこっぴとく怒られた翌日。
私はいつものようにのんびりとバスを走らせていた。
もう待人はいない。
昨日の青年と二人、バスの後ろで終点につくのをのんびりと待っている。
私のささやかな楽しみも、これで一つ消えたということなのだろう。
そんな感慨にふけっていたらいつの間にか終点に近づいていたようだ。


私はしがないバス運転手。
彼等の幸せを願いつつ私は終点の名を告げた
いかすみ
2020年02月04日(火) 14時32分24秒 公開
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No.4  通りすがり  評価:30点  ■2020-05-16 18:18  ID:UQcHp6qyFKU
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拝読しました。
下で此道一歩さんが「昨日の青年と二人、バスの後ろで終点につくのをのんびりと待っている。」に対して疑問を呈していますが、僕も読み終わった後に同じように感じました。いかすみさんのレスを読んで「ああ、そういうことだったのか」と納得したのですが、やはり少しわかりづらかったかな、というのが正直な感想でした。
こういうのって難しいですよね。あまり書き込んじゃうと面白くないし、書き足らないときちんと伝わらないし。塩梅が難しいのかな、と偉そうに思いました。
でも、お話自体は素敵だと思いますし、発想もとてもいいと思いました。
稚拙な感想で失礼しました。
No.3  此道一歩  評価:50点  ■2020-02-19 05:43  ID:HR3YwDOaR9w
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失礼しました。語り口調から気づくべきでした。
素敵な設定だと思います。
No.2  いかすみ  評価:0点  ■2020-02-18 21:00  ID:vX5.P5MQ/Hw
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ご感想頂きありがとうございます。

自分の文章力が足りず書いてない設定なのですが三途の川の渡し舟をバスに例えて書いていました。なので終点が向う側になる、という感覚です。
でも確かに消えた方が自然ですね……ご指摘、ご感想ありがとうございました
No.1  此道一歩  評価:30点  ■2020-02-18 09:50  ID:HR3YwDOaR9w
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霊的な話なのに、なぜか、すがすがしく拝読いたしました。ただ最後の
「昨日の青年と二人、バスの後ろで終点につくのをのんびりと待っている。」の意味は、どういうことだったのでしょうか…… 私としては、青年は待人とともにどこかに消えたように思ったのですが…… 
もし、失礼があったらお許しください。
総レス数 4  合計 110

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