渋谷スクランブル交差点
 そして、わたしは14歳になった。
 どこかおさまりが悪いというか、なんというか。中二病。っていう病が世の中に蔓延しているように、わたしたちにも、とどのつまり14歳の少年少女たちにも、彼彼女らの教室にも広がっていく・・・らしい。
これだ、といった抗体はなくて、13歳から一つ歳をとれば、感染する可能性が生まれてしまう。0から1以上へってか。じゃあ、わたしも感染してたりして?うん、とりあえず、誕生日、おめでとう、おめでとう。パチパチパチ。こうやって、時の流れは問いかけすら流していく。パチパチ。
 わたしがこの14年間で学んだ一番のことは、ネットってかなり便利だってことで、たぶんそれは個人的な意見とかじゃなくて、実際世界のこの何十年間の出来事でかなり重要な部類に入ると思う。分かんないことをテキパキ調べられるし、男女の裸の絡みだって見放題だし。チャットで馬鹿みたいなやりとりもワーキャー楽しめるし、再生回数36回くらいの動画だって再生できる。この上なく便利、圧倒的に便利。ネット様様だぜ、まったく。
 数あるネットの使い方で一番好きなのは、YOUTUBEでLIVECAMERAを観ること。おススメは渋谷スクランブル交差点の動画で、都会の人たちがどんなふうに歩いているのか、朝昼晩24時間眺めることができる。とはいっても、そんなに集中力も耐久力もある訳なく、音楽を聴きながら、他の動画で笑い転げながら、片手間に、ホントにたまに観るぐらいだけど。
 ……でもさ。すっごい不思議なことなんだけど、渋谷スクランブル交差点でも人も車もいなくなる時間帯があって、たしか2時50分くらいだったけ?違うかも。でも、ライブカメラで9秒間。誰もいなかった。そんなことがありえてしまう。そして、その人通りの多い場所の誰もいない静けさを味わえるのもネットのおかげで、だからネットさまさまだよ笑。
 って、午前3時でした。
 ……明日は学校だ。今日ははやく寝よう。
 動画のなかの、スクランブル交差点では、まだ車が行き来していて、人も割合歩いてた。
 お前らはやく寝ろよ、ってブーメラン笑
 おやすみ。
 ……パチン。
 ……。
 ……パチパチ。
 おはようございます!今日も元気に頑張ります!
 っていう感じに朝の光はハツラツとしている。一日は玄関からはじまる。いっそのこと、そのフラッシュが黒い蟻のような連続をまっしろに包み込んじゃえばいい。きっと楽楽気楽。なんだろうけれど、脳内でスケジュールや映る景色をあたふたと動かすことは、字をエイ!テリャ!と刻んでくよな紙のシステムとはそもそも違くて。ふわぁー。
 たとえば光の輪がすべてに白く満ちるイメージを浮かべたとき、その渇望みたいな感じの奴が居るためには白であるための黒の役割が欠かせなくて、なら紙がなければならず、字がなければならず、そこで白になれと願うことは、紙のなかでの行為に他ならず、結局黒によるもの的な?訳わかんねー……ッバーン!
 っつーことは、誰かさんの蟻がわたしの頭に沸いてるってことですか?朝の万倍ワットを求める心は、街の海に溢れている呟きのなかに、って突然ポエムチックwwまあ正直なところ全員ダンプカーで轢きたいのだけど、その提案ですら群衆の異議アリ議論の上で決定されたことになるから却下、却下で焼却炉へ。
 パタンッ!
 と、靴箱を開けて、あった、あった、とあふれかえった靴のなかで自動的に眼が「あった」と探し出そうとしている時点で、生きものの匂いがする方向に向かっていて、そこで確かな暮らしをする図を既に掻き立てているんだね。あなたごはん炊きましたよ〜への一歩の可能性をつくるためでもあるかもしれない一足を選択する瞬間に、これからはじまる、あるいは既に始まっているなんちゃって終点(笑)てへっ、への枠組みの内側にいるってこと。うげげげ、むせかえるような気分に耐えられそうもないけど、ジャスト、とさも当然のようにフィットする靴の感じは、もう歩こう、歩こうで、いつもどおりすぎて今日もなぜだか笑っちゃうんだよね、ハハハ。
 ハハハハと、そのままの気持ちを弾ませたまま、引っぱっていき、勢い扉を開ける。
 馴れたアスファルトの道。
「おはよう」があって、ゴミ袋を荒らすカラスの鳴き声、小学生たちのはしゃぐ声がして。
 それは「朝の風景」のそのままで。
 とりあえず、「」にぶち込むと、とりあえず歩くことに耐えられるから不思議だ。なんてまあ嘘ですけど、とりあえず学校着いたのだ。

 キーンコーンカーンコーン。

 ふわぁー……。

 カキカキ。

 ぐすぴー。

 コテンッ、痛っ!

 カキカキ。

 はむはむ。

 カキカキ。

 ぐすぴー。

 キーンコーンカーンコーン。


「……あっ、田岡さん、ちょうどよかった。きみ、川栄と家近いだろ? これ、お願いできるかな?」
「あっ、」
「いいですよ」               

 あっ。

 学校を出ると、夏の陽射しが飛び込んできた。たとえるなら、昨夜のネトゲで使った必殺奥義。聖剣エクスカリバーシャイニングフラッシュ!!ってか?とどのつまり……。    ピカーッ   ま、  ま、まぶしいよぅ……いやいや、自発のフラッシュちゃうちゃう。いやいや、ある意味わたしが夏の陽射しに飛び込んだ?おお、なんともまさに飛んで火に入る夏の虫の如く……って、わたしなんか詩人風?アイム、ランボー!戦線離脱するぜヒャッハー……的な?          
 ガクッ。  
 ……あ、あほらし。
 どっちでもいいじゃん。天使オア悪魔。まったくもって、大仰しいというか、なんというか……ね?って暗い暗い悪魔的じゃんかよ……だめだめ、こんなんじゃだめだ、換気喚起歓喜の舞っ!!  
         喜       喜○
       哀○  怒 → 哀   怒   よっしゃあああああああああ↑↑
         楽       楽
 よぅし!パッパと届けて、お家に帰ろう、さぁ帰ろう……ふふっ。ふふっ……おっとこれは失礼、つい笑みを漏らしちゃいましたね。だって、お家では真夏の太陽、新型クーラー様と高級アイス様が待っているんだもん。ははは、侮ってもらっては困りますな。こう見えても、わたしは現代人なのですよ?えっへん。ははは、ざまみろー昭和世代の青い春とか。あっ、さすがにクーラーもアイスもあるか、てへっ、ごめんち♪うぉえゲボッ!ゲバッ!チェゲバラ!!……えっへん、これは咳払い。
 ってよく考えたらさ?無人島に何持っていきますか?東京都!いやそういうことじゃなくて、なら大阪府!だからそうじゃなくて、ならば名古屋!いやそうじゃないからさ!ってぐらいに……ややこしいなぁ、クーラーに『真夏の太陽』って比喩、今更だけどねっ。おかげ様で温度上がる上がるやめろよ……あ〜暑い……あっ、さっきの比喩のほうが七面倒だ、ってかややこしっ!……ん?なに?暑苦しいって?もちもちここまでずっと真顔だよぉ?いやいや嘘嘘大嘘!ずっと花咲くニッコリ!乙女はいつだって天使のモノローグやってなきゃね!なんちゃって。
 ガコッ。
 ……あ、あほらし。       哀◎
 やっぱ、こういうテンションは慣れないなぁ……。とりま、わたしの暴走は無視、無視。ぶすっーと、いつも通りの通学路を行く。……じみーん。……じみーん。うんうん、この調子。

 アスファルト、アスファルト。           い

 ミーン。                     つ

 ミーン。                     も

 ッーブゥーン……。                の

 アスファルト、アスファルト。           風

 アスファルト、アスファルト。           景

 ブーンンン。                      楽○

 車の音が近くなる。顔を上げて、信号で停まる。       ○
 赤。                           ●
 なんでだろう?なんで赤なんだろう?なんで手を挙げるんだろう?そう考えていいのは、子供の頃だけです。もちもち、わたしも今じゃなんの疑問も抱かないし。ちっとも全然全然。アルティメット全然まったくもってまったく。ふふっ、わたしも大人になったってことかな?えっへん。咳だけど、ってなんか少女漫画チック?ケータイ小説チック?
 ってそういう想像力ってメルヘンじゃなくてメンヘラ感。「死ぬぅ〜!」とか「自殺するぅ〜!」とか葬式屋さん忙しぃ忙し。『中学女子いじめ苦にして自殺』で「わたくし特別ぅ〜」が必殺技だとか思い込んでるのかしらん?もちろん、あくまで漫画の話だけど。リアルだったら絶対同情するわ死ぬの怖いし、同情するなら金をくれ的リアルだけど絶対怖いし死ぬの。
 あっ。                         
 そういえば少女漫画もケータイ小説も最近は読んでないや。かといって、文学読む訳でもないしね。ふーん、じゃあやっぱりボーダーな中学生が妥当かな?それも2年生!実年齢と同じくね。花盛りのお年頃なの、きゃぴ。なんか古っ!……花盛りかぁ……でもまあ、友達いないしね。別に友達なんていらないしね。友達なんていらない死ね。黒い黒い、腹グロすぎるよ、わたし。えっ?顔もグロい?誰がじゃ、ボケッ。
 ……。
 ……なんか忘れてるなぁ。
 ???                    わすれもの
 ……。                    す 川 も
 !!!                    れ 栄 わ
 あっ、そうだ!そうだ!            ものわすれ
 本件本件!!                  
 ……えーと、川栄さんだっけ?まあ、印象薄いけど、家近所だから、知ってるちゃ知ってる。キーンコーンカーンコーン鳴っても、机に座ってない人だもんね。ってことは先生のヤロー図ったな?偶然装いやがって!ナカヨシ作戦か?戦線離脱するぜ!ひゃっはー……は置いといて。じゃあ今日の届け物もそういう系かぁ……。うん、なんかあの娘そういうフインキ出してるもんね……。
 なんというか、返事するときに必ず「あっ」って付ける感じ。
「あっ、はい」
「あっ、そうですね」
 みたいな?あれは将来、深夜のコンビニ店員に向いていそうなタイプね……。
 じゃあ、わたしがプリント渡したら、
「あっ、ありがとうございます。あっ、はいこちら、あっ300円になります。あっ」
 的なボケをかましてくれるのかな?いやいや、わたしがお金払うのかよ、てかなんかわたしがボケてる感じだよ、これ。
 うん、ちょっと熱にやられてるのかなぁー……わたし。 
 
 ミーン。                       

 ミーン。                        

 あっ。                     
 そういえば今朝、わたしは夢を見た。
 印象的な感じのやつ。
 あっ、象徴的なやつ?
 ほら少女漫画でもよくやるじゃん。
 ストーリーのお化粧道具的な?
 っていきなり何よ笑?
 まあいいか。
 日曜日。
 そうそう、たぶん日曜日。だって、その夢のなかにはいつもより親子連れが多くいったような気がしたからなぁー。
 日曜日にね、とってもいい天気、景色が良くて、わーい、ってみんなそんな感じなの。でも、わたしだけなんかこうブスーとしていて……って顔は可愛いんだけど。
 ほんとよ? 
 ほんとなんだからね? 
 だから、顔グロじゃないんだってば! 
 で。
 わたしどこいくのー?って感じで見ていたら、赤信号。交差点で、車いっぱいあるのに、まっすぐ進んで、どかーん。ありゃ、ふっ飛んだよ!?
 ひゅーっ……
         わ
           た
             し
              バタン……きゅー 
 それでね、わたしの頭から血がどばばーっ、てへぺろ。こりゃ死んだかも、ってときにみんな笑ってて。あはは、なんだよぅ、わたしなんかいなくてもいいじゃんかよー。世界はちっとも平気じゃん。それなのに、普通悲しむのに痛がるのに。わたしもみんなに合わせてなのか、笑ってて、むしろ一番笑ってて。素直にいたーいなんて言えなくて、血をハンカチで拭いて、空を見るの、えへっ。……ゲボォェ!ゲバルトェ!!!
 あっ。
 乙女チックすぎたかな?
 いいじゃん、どうせ夢なんだから!
 空には太陽。サンサンサ〜ン。
 日曜日の太陽。らんらんら〜ん♪
 すてきー。ステーキ日和。何肉よ笑?
 で、車を運転していた人に、あっごめんなさい。周りの人々にも、あっほんとうにごめんなさい。ってわたし、ゾンビのくせに気にしすぎー!
 ……ははは、まぁそんな感じの夢かな?

 ミーン。                     ゆ
 
 ミーン。                     め
 
 アスファルト、アスファルト。           ?

 とかやってる間に、着いちゃったよ、ここ。2階立てのアパート。えーと……たしか、一番端の205号室って言ってたよね?うわ……。
                   黒
                 黒 窓 黒
                   黒
 ……黒いカーテンで閉め切られてる、窓。鬱くさいなー。面倒くさいなー。かったるいなー。……まあ、でももう少しの辛抱辛抱。頑張れ!わたし
 てくてくてく。            
 ダッダッタッ。           
 ……。                
 ピンポーン。              
 ……。                 
 ……。                
 ピンポーン。              
「あっ、はーい」
 若い女性の声。これはきっとおかあさんかな?
                    
 ガチャッ。               

「……あっ、すみません、黒木さんの御宅ですか?」
「……はい、そうですが?」
「えーと……」
「……あなたは涼子のお友達?」
「あっ、そうです」
「……ん、よく見ればあなた田岡さんじゃない!」
「ど、どうも……」
「ほんと、大きくなったわねー。なに? 今でも仲良くしてくれているの? そうだよね、うん分かる。だって、お家に来るぐらいだもんねー」
「はは……」
「あっ、もしかしてプリント?」
「そっ、そうなんですよ……黒木先生から預かっていまして……えーと、あった、はい、こちらです、川栄さんのほうに」
「……ありがとね。でも、川栄さんなんて堅苦しいこと言わないの」
「すみません、はは……」
「……そうだ! ちょうど冷蔵庫に親戚からもらったメロンがあるのよ! 外暑かったでしょ?」
「いや……ちょっと用事が……」
「こらこら、そんな首を横に振らないで。いいからあがって、あがって」
「あっ……じゃあ、お言葉に甘えて……」

 あっ。

「いやー、それにしても、ほんとうに大きくなったわねー田岡さん。下の名前なんて言うんだっけ? りょうこ? えっ、うちの娘と同じ名前じゃない?あ、でも漢字はりょううしと書いて、『量子』なのね、ふーん、うちの子は『涼しい子』って書くの。なんかおしかったわねー、ってなにがおしかったのかしら、おかしいわね、はは」
「ははは……おしいです」
「……あっ、お砂糖は何個いるの? 三つ? ふーん、ブラックじゃまだ飲めないのね……まあ、あたしも昔はそうだったわ……懐かしいわねー……ごくん、甘っ! はっ! ごめん、これあなたのコーヒーだったわ! すぐ作りかえるから、ちょっと待っててね!」
「ははは……全然大丈夫ですよ、全然」
「ん? 今全然大丈夫って言った? おかしいわね……言葉の使い方乱れてるわよ? 量子ちゃん」
「あっ、すみません、つい……」
「量子ちゃんは可愛いから許してあげる。でも、ほんとはバツバツよ?」
「ははは……」
「最近の子はダメよダメダメ。雰囲気をフインキって言ったり、訳の分からない言葉を使ったり……これもLIMEとか、えーとSMS……? SとMってなんか下品ね……エッチねぇ、いやらし……ごほん、こほん、ごめんコーヒーが……み、みんなそう。まあ、今はまだ若いからいいかもしれないけれどね……」
「……はは、そうですね、若いうちは……」
「もち、わたしもまだまだ若いわよ?」
「そ、それはもちろんです……」
「チョベリバ? MK5? だっーちゅの?」
「ははは……」
「砂糖を入れるわね、3個よね? はい、どうぞ。ごくん、おいしい……」
「……え?」
「あっ、ごめんなさい。わたしのじゃないのに……次の一杯はちゃんと……」
「……だ、大丈夫ですよ」
「ごくん。あっ」
「……」
「ごめんなさい。こんなつもりじゃ……」
「あっ」
「違うの、違うのよ……」
「わ、わかってますから、落ち着いてください」
「……熱ッ! ごくん。あっ」
「……」か
「……」え
「……」り
「……」た
「……」い
「……ごめんね、こんな感じで。なんで……」
「……えーと」
「……」
「だ、大丈夫ですか?」
「うん、あっこれメロンね」
「あ、ありがとうございます、あっ美味しい……」
「でしょ?」
「あっ、はい」
「……」うん
「……」  うん
「……」うん
「……あっ、なにかあったんですか?」
「……」  うん
「……」うん
「……涼子、あんな感じの子でしょ?」
「……」 うん
「……だからね、お友達がね……」
「……」うん
「……お友達が……ズズ、あっおいし」
「……」 うん
「……」えっ?
「…………」なに?
「……………」えっ?
「………………」なに?
「…………………」だから?
「……………………」なんで?
「………………………」こんななんで?
「…………………………」えっ?
「……………………………」まじで?いうの?
「……あっ。おかあさん、なにがあろうと……わ、わたしは涼子さんの友達ですよ?」
「……」あーあ言っちゃったつまんねぇこと言っちゃた取返しつかねーわなんでこんなつ
「……」まんねーこと言っちゃうんだろ?思ってもねぇのにさははは馬鹿みたいじゃんこ
「……」いつら親子そろってやべぇじゃん死ね〜まじで死ねつまんねぇ薄っぺらいいやこ
「……」いつもわかってるんだろうけどさわたしがうそはいたこととか?はははつまんね
「……」家に帰らせろはやくいえにかえらせろまじでうぜー死ね死ねはやく家に家家家家
「……」家まじで家どこまでも家さっさと家もういいから家まじで家どこまでもどこまで
「……」も家なんでなの家思ってないんだってば?ぜんぜんわかってんでしょ?結局嘘だ
「……」っていうことでも言わなきゃいけないんでしょ?この空気とか?言わせてるんで
「……」しょ空気でさわかってるわかってるみんなきっとわかってるんだろうけれどもさ
「……」全部みんなみんなわかってるそれで結局みんなうわべでわかってないふりしてる
「……ぁ、ありがとう……ズズ」
「……」と
「……」に
「……」か
「……」く
「……」家
「……」か
「……」え
「……」り
「……」た
「……」い
「……ど、どういたしまして……」

 えっ?

「……今日はありがとね、田岡さん」
「いえいえ、こちらこそ、メロンごちそうさまでした」
「きっと、涼子も喜んでくれるはずだから……」
「……そうだとわたしもうれしいです」
「……じゃあ、今度はコーヒー、がんばるわ」
「……あっ、はい、大丈夫です、あっ」
 
……ガチャ。
 わたしは家を出た。
 わたしの家へ帰る。
 歩く。

 ……え?

 声が聞こえたような気がした。
 振り返る。
 205号室。
        
   窓

 窓がある。
 あの黒いカーテンが開かれている。
 開かれている。
 カーテンの。
 窓が。
 窓。

 あっ。

 ……間違ったんだ、また間違ってしまったんだ、わたしは。
 なぜかわたしの視力はよくて、本を読んでなくて、ゲームもしてなくて、漫画も読んでなくて、パソコンもしてなくて、スマホもしてなくて、教科書なんてほとんど読んでなくて、開けることさえも授業中くらいしかなくて、電気はちゃんと消して寝て夜更かしなんてしてなくて。
 だから、2・0で。
 あっ、はい、あっ、そうですね、あっ、そうなんですか、の繰り返しを毎日続けるための口とそのための耳と、そんな目で、だからこそ、見えてしまう、聞こえてしまう、あっ、それは受け身だから、あっ、それは空気を読んでこそだから、だからそんなわたしが恨めしいと思った、あっ。
 見えてしまった。
 川栄さん、いや涼子さんが。
 泣きじゃくって、嗚咽を押さえながら、その押さえた手を離しながら、口を開けて、
 わたしに向かって。

                 あ                  
                      り                 
                           が                  
                                と                   
                                       う

 って繰り返しているんだろうという、その光景が見えてしまった、見えてしまったのだ、この目は、この能無しでただの何にもしてないということのせいで。
 だから、2・0で。
 あっ、というそのための口とそれをささえる耳のせいで、わかってしまった。
 分かってしまった。
 彼女も会話を聞いていたんだ。なのにわかってなかったんだ。きっとあの娘のお母さんはわかってたのに。ってこと。

「……あっ。おかあさん、なにがあろうと……わ、わたしは涼子さんの友達ですよ?」

 そんなセリフは、嘘だと、あくまで空気を読んだセリフだと、わかってたのに。わたしももちろん、空気を読んで、あっ、のように空気を読んでわかっていったのに。涼子さんだけがわかってない。彼女だけがわかってない。
 だから、ありがとうと言える。
 だから、馬鹿みたいに泣きじゃくれる。
 彼女だけが深夜のコンビニ店員のピッ、に向いてなかったのだ。ほんとうは。
 あっ。
 なぜかわたしのなかに浮かぶイメージ。      思
 さっき渡った。                 い
 わたしの通学路。                だ
 その途中。                   し
 信号。                     た
 赤。                      ●
 なんて単純なんだ、お前は。           
 世界が世界のすべてがお前みたいに、危険を知らせるなにかがついていればいいのに。
 もう間違ってしまったことは取返しがつかないのに。きっと涼子さんのおかあさんは、わたしを空気の読める子だったのね、だけど、いや、だからこそ、ちょっと冷たい子ね、って、その思いのまま、これから生きていくだろうけれど、きっと涼子さんはこれからわたしに一生感謝し続けるのだろう、
 ありがとう、ありがとう。
 って、呪詛のように永遠に心の中心で叫びながら、わたしを永遠に苦しめるだろう。なんだ。なんなんだ。ただアハハと笑い飛ばしてしまえばいいのに。なんでわたしは……。なんでこんなにびっくりするくらいに天気なのに、頬がひきつるのだろう。おいおい、舌打ちまでかよ。
 もちつけ、わたし。
 もちつけ、世界。
 ……ははは、これこそ少女漫画チックじゃないか……。みんなの世界の思う壺じゃないか……。彼女は『あっ』の使えない、クソガキ。それだけのことじゃないか。愚鈍でどんくさくて、どうしようもなくて、アスファルトばかり見つめていて、信号の赤にほんとうはいまだに確信を持てないのに、分かってるふりをしちゃって……。
 あっ。                            わ
 わたしじゃん。                     た
 なんだよ。わたしもほとんどおんなじじゃん。              し
  気が合うじゃんよ?                  は   ●
 ふふふ……ははは。                          気
 彼女みたいになりたいのかもね。             づ
 あっ、そうだ。                        い
 わたしもありがとうと叫べるかな?             て
 わたしも馬鹿みたいに泣きじゃくれるかな?                い
 でも、わたしにできたこと、結局。            た   ○
 あっ、あっ……という声にもならない呟きで。               ん
 アスファルトの昨日できた水たまりの上に浮かんでいる。    だ
 苦虫を噛み潰したような表情で。 
                                  ね

「おかえり、量子」と、お父さん。
「あっ、ネエーちゃん」と、弟。
「おかえり」と、母さん。
 なんて嘘だけど。
 父はいない、弟もいない。
 高級アイスはない。
 新型クーラーもない。
 ネトゲもやってない。
 少女漫画もほとんどない。
 大嫌いな母だけ。
 わたしはわかっていたんだ。
 今朝の夢は、たまたま見た夢なんかじゃないってこと?
 トイレで一人ごはんを食べていたとき?             
 体育の時間に先生とペアを組まされるとき?          
 休み時間に寝たふりをするとき?   
 その瞼の裏?     
 プールの時間に息を止めるとき?   
 歯ぎしりで夢から醒めたあとの5分間?        
 味もわかんなくなってしまった晩御飯を胃に流し込むとき? 
 涙すらでなくなった眼球を投げ捨てたくなる瞬間? 
 他人に合わせることでしか喋れなくなった口を恨むとき? 
 叫べないこと?
 嘘ばっかりついてたのしいたのしくないわたしを殺したくなる夜?
 全部、大正解。       
 そんなとき何度も想い描いていたイメージだってこと。

 特別なことが起こらない毎日への復讐。 

 川栄さん。                   ねぇ?
 あっ。                     これって?
 涼子さん。                   ほんとうに?
 あっ。                     わたし?
 涼子ちゃん。                  なのかなぁ
 うん……これだ。                これじゃない
 涼子ちゃんには、この気持ちわかるかな?     わからない
 分からないよね……たぶん。           あたりまえだ
 ……。                     だまれ
 涼子ちゃん?                  なにいってんだ
 ねぇ、聞いてくれる?              くちをふさげ
 今から変なこと言うけれど、黙って聞いててね?  なにいってんだ
 ね? お願いだよ?               ぶりっ子すんな
 ごめん、じゃあいきなりだけど。         カマトトぶるな
 わたしのね。                  わたしいうな
 わたしの『日曜日の太陽』はね。              は?
 はじめからすべてを見透かしていたんだよ。         は?
 わたしのなかで育った願望は、すべて照らしてくれた。    なにいってんだ?
 照らして、まぶしさを、後ろに影を、って具合。       おまえ?
 なにもかも、ちゃんとみえない。              だろうね
 だから。                         だろうね
 影のなかで底抜けに明るい言葉を泳がせることができた。   だろうね
 ……そんな感じ。                     は
 この思考もね、日曜日の陽の光で出来た明るい影なんだよ?  やばい
 でもね。                         くるしい
 こんなに陽気なモノローグなのに。             しねよ
 誰も聞くことができないんだよ?              ねこかわいい
 わたしのなかだけで完結しちゃうんだよ?          はやくしね
 今まではずっっーと暗いまさに『独白』だったのが。     やめろ
 せっかく変わったのにね。                 くるしい
 この景色も日曜日の最後には、剥がれちゃうのかな?     おまえきらい
 ……怖いよ。                       まえからやだ
 ねぇ?                          えいえんに
 涼子ちゃん、わたしあなたになりたいよ。          はやくいけ
 そう言ったら、涼子ちゃんは。               しねよ
 量子ちゃん、わたしあなたになりたいよ。          ねこかわいい
 ってそう思う、量子ちゃんは。               しねよ
 どっちも、りょうこちゃんなのにね。            ねこかわいい

 あっ。                          へっ?

 ……ほんとだ。おしかったね。               なにが?
 涼子ちゃんのお母さんの言ったとおりだね。        だからなにが?
 あはは。ほんとだ。おかしいね。            だからなにがなにが?
 変換してよ。りょうこを涼子にしてよ。        できるかよできるわけない
 答えてよ……。                  答えるかよ答えるわけがない
 ……。                     そうだそうだだまれだまれだまれ
 答える訳ないよね。                       うん
 だって涼子ちゃんじゃなくて、『涼子ちゃん』だもの。    うん
 あはは、こういうのって、あほらし。             うん
 涼子ちゃんもあほだよね?                 うん
 大馬鹿野郎だよね?                  うん
 そうだよね?                         うん
 ね?                          うん
 ……でもね。                         うん
 それでいいんだよ。                    うん
 悪いのは、間違っちゃったわたしのほうだから。           うん
 あはは、あほらし……。                  うん
 そういえば小学生の頃、涼子ちゃんみたいな子いたっけなぁ〜……。  うん
 明るくて、ハキハキとしていてさ、オマケに顔もいいんで、クラスの人気者。うん
 だけど、空気が読めない子でさ。                うん
 わたしをはぶろうっていう流れだったのに。             うん
 馬鹿だから……。                        うん
 ……はは、あほらし。                        うん
 バーカ。                         うん
 だから、いじめられるんだよ。                  うん
 中学生にもなって。                         うん
 ありがとう、ありがとうってバカかよ。           うん
 死ねばいいのに。                        うん
 大馬鹿野郎。                        うん
 ……。  
 バーカ。
                                 カベ
 ベンゴ。
                                  ゴミ
 ミズ。
                                  ズル
 ルビー。
                                  ビール
 ルーマニア。
                                  暗黒
 栗                     
                                  臨死
 しあわせ     
                                  セックス
 すき
                                  嫌い
 いい
                                  いなくなれ
 れんたる
                                  ルーマニア?は?笑わせんなよ?

                             うん
                  死ねさっさと死ねおまえなんかいなくなれ 
                  わたしなんかいなくなれあかるいわたしなんか
                  わたしじゃないじゃんかわたしはいつまでもど
 ありがとう             こまでもくらいからわたしでおまえはわたしな
                  んかじゃないじゃんか嘘つきじゃんか嘘ばかり
    うそつきうそつきうそつきうそつきうそばっか
                  なにがなんでありがとう?は?おもってもないく
                  せに死ねよ死ねよ美談なんかにすんなよこのろく
              でなしがさっさとおまえなんか死ね自殺しろうそばっかはきやがっえ死ね死ねばいいんだよお前なんか嘘しか吐けないんだろ?あっあっそれをくりかえしていろよどうせ生きていたってあっあっあんあんあんあんばくばくぶりぶりぶりすぴーすぴーってばかやって死んでいくんだろだろ?ははは死ね死ね死ねさっさとお前なんかどうせいらないんだよ!うそつきうそつきうそつき!!!


わ             ……
                                 ……
 ……っとに。
 ……
 ……ほ、ほ。            た
                                 ……
 ……っとに。
                                 ……
                    し             ……
 ……
 ……ほ、んとにさ?        ど
                                   ……
 ……きみは、っ。
                                  ……
                   こ               ……
 
                  ?                ふたり


  
 えっ?


                                  ……ふたり


 あぁ、昔話?






 いつかきみと話していたあの頃?             
                                  ひとりだけど





 ああ夕暮れとか?よかったよね




                                  残るよな



 残る?なにが?



                                 いいから死ねよ


 あっ。





 あの日の夕暮れよりって?

                                     真っ赤


 わたし?













                   わたし











               こんなの。



            わたしにしかわからないよね?



             『あっ。』              よくねぇよ
                   届けたくねぇよ
           なんでだよ
                                     わたしがトロいからか
なめんなよ

                                    ゲバゲバゲバ!!!

             『あっ。』       読みたいんだろ
                                       ほんとババアの
   せいなんだろ
                わかってるよ
                                                   わかってるんだ
                          おまえも戦線
      離脱しろ
                                    ランボー
                 ベトナム戦争!!

             『あっ。』       夢なんかじゃないんだろ
                  知ってるさ       願望
      願望
                                                 願望
                                         殺せみんな
                                                          踏み潰してしまえ

                          象の背あぶらだこ!!

             『あっ。』      乙女チックでいい
いい       いい                                      頭のなか
                      なんだから
                              おまえは自由に
エロ本読んどけ
                                       ビニ本読んどけって
                      読みたかぁねーよ

             『あっ。』       
            断
                              れ                よ腰抜け

             『あっ。』       気に
               する                 なよ凡人

             『あっ。』       そ
                  のま
                     ま渡れ
           間違
                                         えてろ

             『あっ。』        も
           う
                                          い

          よ
    
             『あっ。』  
 みんなみんな同じ。
 涼子ちゃんの「ありがとう」も。
 涼子ちゃんのお母さんのコーヒー泥棒も。
 書くことも描くこともカクことも。
 わたしのこれも……。
 スペシャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ル!!!!!!!!      も
             う
                               い
      い
                      ん
  だ
                             よ
             『あっ。』 出
            『     て
                』こ
              。   い
                      !
                       !
              
             あっ。          泣いたって
               。          いいから
             。           ……じゃあな、わたし
              。
                。
                   。
                  。
                  
                 。
 
               。

               。
                             ね
               。
              
               。
              
               。

               。
              
               。
              
              赤     赤
            赤 ● 赤 赤 ● 赤
              赤     赤
  。               。

              あれ?生きてる?
              あぁ、赤ってただの充血かぁ……

              。

              やっぱ太陽轢死どっかーんは無理か笑……


                 。
                えっ?
                  。

じゃあどういう……
                             
              。          「あっ、」
                             、
                。             、
                              、
                              、
                 。             、
                             、
              。               、
                              、
   。               、
                     。         、
                           。  、
                              、
               。、
                、
              わたし             、。
             わ た  しんでしまえ      、しねんぼんぼ
            たわし  の   ねこかわいい   、     ん
           しけい   し    ばばあにならなくってよかったね
          しにがみ    い     い い の に      こ
       くがんおんがく      ね     な な う ん     が
        んぷんでんわにでないないここにはだれも く く り げ    す
                 ろ  か     な な よ ん ● き
                 し  わ      れ れ く い。
                 た  い        な か  。
                 い   い        い が 。
                                  。
                                  

                                  。
            






                                 5,118
 

                                  。


                                
                                  。

 YoutubeでLIVE CAMERAに映る渋谷スクランブル交差点を観るとき、わたしはいつも自分がそこで死ぬんだっていう気がしていた。とはいっても、ここは田舎で、東京なんてタイみたいに遠くて、それこそ死ぐらい分かんなくて笑。あっ、タイ。っていう連想でわたしはまたまたYoutubeを出して、王船の『タイランド』っていう曲を聴く。こういうの無意識の融通がきくのってネットならではだよねー。『タイランド』っていう曲は、彼女がタイに行くっていう感じなんだけど、たぶん「タイ」=「死」の象徴で彼女は死んだってこと。そうだ、『日曜日の太陽』っていうワードも曲だから調べてみるといいよー、これも自殺の、死の歌で。って誰に言ってんだ笑
 ……すっごい不思議なことなんだけど、渋谷スクランブル交差点でも人も車もいなくなる時間帯があって、たしか2時50分くらいだったけ?違うかも。でも、ライブカメラで9秒間。誰もいなかった。そんなことがありえてしまうんだね。そして、その人通りの多い場所の誰もいない静けさを味わえるのもネットのおかげで、だからネットさまさまだよ笑。でもこういうメディアって不思議で、あんまりにも人があふれてるからか、自分以外をまるで人間じゃないふうに考える。だから、妄想乙って笑うことができる。自分たちがどのような函のなかで、なにをしているのか、それを……。っていうこの単純化自体が、やっぱり私以外人間じゃないって考えてるわたしなんだろうな、何度も何度もみんながなにを考えているのかって考えるわたしを考えるみんながなにを考えているのかって考えるわたし。
 そうか、じゃああの願望の場所は渋谷スクランブル交差点で、ゾンビだったのはわたしじゃなくて、みんなのほうだったのか。でも、今のわたしは死んでいるのかも、生きているのかも全然分からなくて。あっ幽霊?なにそれ?ほんとにそんなのあるの?ここはどこなのだろう?ああ、そうか。ここはあの日見た、渋谷スクランブル交差点の9秒間で、わたしはこのままずっと永遠にそのなかにいるのか。じゃあ、やっぱりわたしがゾンビじゃん。これからはじまる空白のことを想うと、わたしは……ってまっしろになれたじゃん笑。そんでわたしは蟻なわけで……やっぱり他人の空白のなかに入り込むの?ははは、つまんね妄想乙。


 

































                で、ここどこ?



































                                      。
黒須らいちゅう
2016年11月30日(水) 21時58分38秒 公開
■この作品の著作権は黒須らいちゅうさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
渋谷スクランブル交差点にて。

この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除