別れ際 |
少年時代の弘が通っていたのは、かなり世間の評判が高い私立の中高一貫男子校であった。 かれこれ四十年以上も前。 中三の卒業式の日のことだった。ただし卒業式といっても、これでお別れということではなかったので、出席する大半の生徒の気持ちは冷めていた。 しかし・・・。 弘には、田川という名の同級生がいた。 田川は皆の人気者だったけど、あいにく成績は振るわなかった。 結局、そのままでの高校進学は難しいと判断された田川は、教師や両親と相談の上、中三の途中から受験勉強を開始して、多くのクラスメートたちに惜しまれながらも別の高校へ転校することとなった。そんな約二十名ほどの一人であった。 ちなみに弘は、比較的成績はよく、特に問題もなく、そのまま持ち上がりでの進学が決まっていたのであったが。 卒業式が終了して、多くの同級生も帰宅していった。 生徒会の役員であったため、職員室にちょっとした用事があった弘だが、それが済んだので、廊下を通って、カバンを置いていた教室に戻ろうとしていた。 もうこんな時間だし、学校にまだ残っている生徒はもう自分ぐらいだろうと思いながら。 すると、廊下の向こうから田川もこちらに向かっていることに気がついた。 向こうが自分に気づいているかどうかは分からない。 しかし弘は、素早く帽子を目深にかぶり直し、田川から顔を意識的にそむけて通り過ぎようとした。 「よっ、弘!」 久しぶりに幼なじみに遭遇した時のような破顔で笑いながら、ハイタッチを求めてきたのは、田川であった。 弘は、咄嗟のことで気の利いた言葉も出なかったけれども、安心して微笑みながら、ハイタッチに応じた。 今からの田川がうまくいかなくてたまるものか! 十五歳の弘は、その時強く思った。 それは、叶う願望となった。 |
平穏風太郎
2022年04月13日(水) 10時20分08秒 公開 ■この作品の著作権は平穏風太郎さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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