憐慕 |
この感情は地獄の奥底まで持っていくつもりだった。墓になんてしまえない綺麗な綺麗な感情ではなく、どぶ川に捨てたぞんざいに扱った人形のような思いでした。 ただ、この思いはどうしても、どう頑張っても私を苦しめてしまうので、いつの間にか口にするのをやめました。 『好き』と言えばきっとあなたは私は笑ってくれるでしょう。 『今日も素敵』と言えばきっとあなたは私の服装もほめてくれるでしょう。 それでも、私は欲張りでした。何者よりも強欲で強情で何かとわがままな人間でした。あなたに愛されることに喜びを見出すことができるのに、なぜかそれがまがい物に見えてしまうのです。 だからこの思いに蓋をしてしまえばいいのではないかと何回も何千回も繰り返して。 不安になったら「大好き」と口にして。そうすれば自分のことを愛してくれると錯覚してくれるような気がしたのです。 でも私は、できませんでした。愛しているという言葉を吐いたら吐いたぶん心が痛くなるのです。 失恋で済めばどれほど美しいものでしょう。でも私は駄目でした。付き合ってしまえば、あなたが私と情で付き合ってくれていることに気づいてしまうのです。 こうやってキーボードに打ち込んでいる間にもきっとあなたは私のことなど微塵に考えずに、ただ黙々と作業をしているのでしょう。私はこの文字を打つのでさえ、一文字、一単語打つたびに自分の心をすり減らして書いているようなのです。 でも、この思いを墓場を持っていくことは不可能になりました。ほんの少しの言葉の食い違い。第三者への吐露はきっと私も予想をしていませんでした。ふとした瞬間にこぼれてしまった言葉は欺瞞へと変わってしまいます。 寂しかった。おとといあなたとデートをしたばかりなのに。あなたが贈ってくれたマフラーもお揃いで買ったハンドクリームも全て実はあなたを振り回しているのではないかと思うのです。 本当はあなたの口から『好き』と言う言葉を聞くのは大好きなんです。なんですけど、私は歪んだ性格の持ち主なのでその好きがあなたの優しさに漬け込んでいるのではないかと不安になるのです。そうなるのなら、私はあなたと別れてもいいのかもしれないと思うのです。それでも、別れてしまったら、きっと私はあなたを思い出すためにおととい買ったハンドクリームを永遠に使えなくて、マフラーもきっと袋から出さずに永遠に私の恋心と一緒にしまいこんで綺麗な記憶として残しておくのでしょう。 あなたと一緒に心中など私は言いません。ただ、あなたは私以外のいい男性と結婚してくれたら私の本望なのです。あなたは私のような蛆虫のような存在ではなくそれを舞う綺麗な蝶なのであります。だから、汚い地面に近づかず、あなたはずっと綺麗な空を飛んでいてほしいのです。 蛆はどうあがいても空を飛ぶことはできません。だから、たまに、そうほんの少しだけ、ふとした瞬間視線を落として、ああ、あんな人間もいたんだ。と思い出してください。 どこかの文豪が、忘れられたほうが幸せと言いました。でも私は前述した通り、欲張りな人間です。どうしようもない阿呆です。だからこそ、あなたがウェディングドレスを着て私とは異なる愛する人と口づけをするときには笑顔で参加したいのです。美しいでしょうね。私が惚れた女です。きっと、きっと美しい。綺麗なんて言葉じゃ収まらないほどのすばらしさでしょう。でも、それは私の隣に居ていい人物などではありません。それでしたら、私はあなたの友人として参加して、拍手をして、食事を食べて、二次会に参加して、そして、帰りの電車の中で魂が抜けたように座り込むのでしょう。そこにはあなたが選んだであろう菓子を握って。 私がこの感情を持ってしまってごめんなさい。もしかしたら、あなたは私のことを本当に愛しているのかもしれません。ですが、それを埋める言葉がないのです。もし、あなたがどんなに愛の言葉を囁いても私は全てうそだと感じてしまうような人間なのです。だからこそ、ほかの人とイイ人生を歩んでほしいということに至ったのです。でも、私はこの墓場に持っていく思いはどうしようもなく愛着があるのです。どぶ川に捨てられた人形を思い出してしまうのです。この気持ちに蓋をすることなど不可能でした。不可能なのです。 私の罪の告白を聞いてくれてありがとうございます。これは遺書ではなく、いわゆる心の整理というものです。いつかどこかに投稿するかもしれません。ですが、その時留意してほしいことがあります。 この私と言う存在は『あなた』を愛しているのです。間違いなく愛しているのです。恋という熟れ切った果実はもう堕ちる寸前まではちきれてしまっているのです。あなたがきれいな存在だからこそこんな私と付き合ってほしくないのです。でも、私はあなたからの言葉を待っています。その時は正直な素直な気持ちで言ってください。 その時にフラれてしまえば、私は泣くでしょう。泣いて、頑張ってあなたを忘れないようにマフラーとハンドクリームを押入れの中にしまいこんで。そして、歩んでいきます。自殺はしません。あなたの人生に傷をつけたくないので。ですが、もし、愛の言葉を素直に言ってくださるのであれば、私は疑い深い性格です。どうしようもない屑であることもわかっています。それでもいいのなら、私ともう少しだけ隣にいてください。 感情の吐露に付き合ってくれてありがとうございます。 私はそっとキーボードから手を離した。左手の薬指に一生はまらないであろう指輪を思いながら。 |
星野
2019年10月21日(月) 17時18分41秒 公開 ■この作品の著作権は星野さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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