4月のほとり |
余りにも遠い西の果て、地平を隠したビル群の先へ、太陽がさっと逃げてゆく。残照が染める橙の空は、東から冷めて色褪せてしまう。中空に漂う綿雲を染めた色合いのやさしい桃色が、浮かれた春の象徴のようで、私は思わず顔を背けた。 向かいに並んだ住宅の波は、はや明かりを点けている。夕食の支度をしているのだろう金物の音が響く合間に、日の色は桃から藤へと変わり、まだ肌寒い宵の微風が網戸をすり抜けカーテンを揺らす。明かりを点けずに見上げる壁は、東から滲む藍色が差し、影と混ざって薄青い。起き上がるのが億劫で、下ろしたばかりのスカートがしわくちゃになるのも構わずに、私は布団を引き上げた。 「それ、お前には似合わないよ」 鳴いてすり寄る捨て猫を拾って育てるやさしい彼は、私を見るなりそう言った。潮が引くように冷えゆく、胸の中心がひどく痛い。痺れる手先を感じつつ、私は笑顔で誤魔化してみたが、きっと上手に笑えなかった。彼は困った顔をしていた。 「でもどうしたんですか、先輩。先輩いつもはジーンズにTシャツで地味な格好なのに、あっ彼氏でもできました?」 春めいた色がよく似合う笑顔のかわいい彼女が言った。 「いいなぁ、私も彼氏欲しいです」 そう言って、おどけて駆け寄る彼女を見つめる、彼の眼差しがつらかった。努めて明るく振る舞ってみたが、私のすべてがぎこちなく動き、口角はろくに上がらなかった。 残りの授業をボイコットして、砂地に足を取られるように、重い足取りで家へ帰った。ひとしきり泣いて落ち着いた後、窓を開けたら夕焼けだった。水に浸したジーパンのように重たい体をベッドへ預け、何も考えず空を見ていた。 冷えた手足が温まる頃、東から満ちる夜の気配に、私の気持ちはもう凪いでいた。もういい加減に閉めようと、立ち上がり寄った窓の外には、いまだうそ寒い春の晩、暗い家並みを満月が、そっとやさしく見下ろしていた。 |
おかき
2018年04月13日(金) 21時47分55秒 公開 ■この作品の著作権はおかきさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 おかき 評価:--点 ■2018-04-19 23:09 ID:GF7fwtcmj7s | |||||
ナカトノ マイ様 とても嬉しいご感想、ありがとうございます。 これからも精進し、気に入っていただけるような作品を書きたいと思います。 ありがとうございました。 |
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No.1 ナカトノ マイ 評価:50点 ■2018-04-19 19:11 ID:fLt.6PjGqOo | |||||
三角関係でしょうか。 短い文章だけれど、片想いの切なさがひしひしと伝わってきて素敵だと思いました。 空の表現もとても綺麗で好きです。 |
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総レス数 2 合計 50点 |
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