くりかえしてくりかえす |
「おい!このまま寝ていたらまた今日も遅刻するよ」 どこか馴染みのある声だ。太い輪ゴムをぴんと張って思い切り弾いたよう。だれか男の人が叫んでいる。 「早く!間に合わなくなる」 「ええと、その、どういうこと?わたし今寝てるの?」 なぜか声が上手く出ない。 「そんなこと言ってないで早く!今からいつもみたいに起こしてやるからな! 今日こそはちゃんと起きるんだよ。僕の二の次にはならないで」 せかせかとした声が耳元から遠ざかった途端、後ろから身体を力任せに押された。 「いたっ」 ドスンと鈍い音が身体中にこだました。なにか固くてひんやりとしたものにぶつかったみたい。って、床か。すると、フワフワと意識がフカフカ柔らかいものに包まれて、スルスルと床に吸い込まれていく。 「はっ」 ひんやりした空気が喉をついた瞬間、視線が時計に刺さった。遅刻する! とにかく周りにあるものを引っ掴んで鞄に押し込み、一番近くに見つけた服を身に着けてから家を走り出た。立ち漕ぎをして自転車のペダルを踏み込むと、寝違えたせいか肩がひどく痛む。それにしても、どうして最近毎日のように固い床で目覚めるのかな。まあいいか。今はそれどころではない。講義室の扉が開く音を合図にチャイムが鳴った。 「おお!おはよ。今日もギリギリセーフじゃん。でもさあ、気をつけなよ。ちょっと前に近くの学校の男の子が遅刻ダッシュしてて、交通事故に遭ったんだって。遅刻で死んじゃうなんて悲しすぎるから絶対にやめてよね」 「そんなの大丈夫に決まってるじゃん」 不安そうに眉をひそめる友達に得意顔で言ってやった。 |
歩くタイピングマシン
2016年09月06日(火) 15時49分40秒 公開 ■この作品の著作権は歩くタイピングマシンさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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