モノクソガタリ |
くだらないものは、おぎゃあって生まれてすぐ死ねばいいのに、それでもなんか生きてしまっているから俺は塞ぎ込んだ日々を過ごし、生きていたくない生を生きているのだ、俺は生まれることで痛みを、痛みを覚え、自覚し、その怯懦が生と死の間の曖昧な混濁に俺を引き留め、仮死状態にして痴呆にさせ落ちぶれていくのを俺は遠目に、第三者的視点で目を逸らすこともできずに見ている。そこに主体性というものはなく。言語の獲得。象徴界への参与。人生の獲得。その逆境が俺を既に発奮させないことを俺はよく知っている、俺はもう虫になってしまいたいよ、そうだ。唯識が言った。人生なんてありえないってさ。その通りだ、もちろん。しかし(ここで思考の淀み)俺の中の何人もの浅薄な批評家共が、ほんの一分前の俺にすら俺という連続性と統一性を与え、ちらばったガラスの破片を集めるみたいに俺の人生を無数にも分解し解釈し意味を与え、俺を雲みたいに分裂させている。まったく意味がないのに。俺はない、バッタよりも無意味だ。それでも俺は俺自身を大切に思い、天上天下唯我独尊、絶えず俺自身を労い、保持し、問いを立て、解答を探し、思考し、夢を抱き、物憂く、倦怠し、沈み鬱屈している。俺は俺という吹けば飛ぶティッシュのごみを愛しこねくり回している、きちがい、人生の落伍者。いつも眠れない夜が来て、俺は地平線の向こうに飛んでったトンビが羽を休める、美しい楽園を夢見て悶える、血を吐くような夜の砂漠にいるかのような苦しみ! 呼吸のリズムを忘れてしまった、俺は。 裸の女のヤワラカな皮膚に、赤い口紅塗りたくってこの抜き差しならない憤懣をどうにかしようと試みるのだが! セックス、子宮への到達、一瞬の癒合、刹那の無限、そんな圧倒的なMOVEMENTですら、一晩寝たら忘れてしまい、俺を決して救うことがない。夕暮れ、ほのかに火照って赤い鰯雲、終わり、終わり、終わり、俺にはいつも終わりの予感が付きまとい、気を抜けばそのセンチメタルな女々しさが俺を掠め取って寂しくさせる。俺はどうすればいいのか、どうすればいいのか、どうすればいいのか。掴み取ったと思えば嘘っぽく、白々しくなり、遠くあれば真実に見えるこの俺という決して満たされることのない無意味で、徒労な俺という白い煙! 物語、それは糞ほどの役にも立たぬ、詩、しょうもない感傷、詩や小説や喜びや期待の感覚なしでは生きていけない人間は欠陥ではないか。だって俺のペットの亀、飯食うだけで生きれるし。俺はなにもしたくない。もうなにもしたくない! なぜ、本当に悲しい時に、俺は死ねなかったか。なぜ持続するか。持続、持続、持続してやまない。 ならば俺は死ね。 俺は死ね。 俺は敗北しろ。諦めろ。 スターバックスカフェを離れ、死ね。 南を目指せ、すべて忘れて。 内部に未だ担われている全体との関連性を保った血液に気づき、その広大な流れに飛び込め。 そして俺はスターバックスカフェを離れ、インドに眠る虹色の海に飛び込んだ。俺はどこか懐かしい韻律を思い出し、俺の苦悩の境界となった皮膚がぼろぼろと崩れ、存在の重圧となった内臓が海の底に沈んでゆくような気がした、俺は世界を統一する美しい一律のリズムに身を任せ、死ぬ。 そしてその美を獲得し、握りしめ、新たに生きようと思った。小さく、また大きく。 生きるって悲しいことなのに、ね。 俺は生きようと思っ、た。 |
こむ
2016年09月03日(土) 19時08分23秒 公開 ■この作品の著作権はこむさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.1 黒須らいちゅう 評価:40点 ■2016-11-24 18:25 ID:L7Ej4Yn/HiQ | |||||
金閣寺みたいなラストの一文がそれまでの文脈と一見相性悪そうで(実は)相性バッチリです。 | |||||
総レス数 1 合計 40点 |
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