まさか本当に食べるとは |
筆箱の中で、「それ」は考えていた。 (世の中は理不尽だ。なぜおいらは自分の身を犠牲にして人間の手助けなんかしているんだろう。楽しくなんか全くない。確かに、おいらを創ったのは人間だ。でも、こんな仕打ちはあんまりではないか。ひどい、ひどすぎる。) そう、「それ」とは消しゴム。普段、人間に文字を消すことのみに使われている消しゴムであった。 (しかもおいらのご主人様はゴム使いが荒いんだよなあ。全く。ゴムのことを考えたことがあるのだろうか。) 無論、答えは否である。その消しゴムを使う少年は、消しゴムのことなど考えたことがない。ただ、自分が書いた落書きを「消す」道具であるとしか見ていない。 (あ、ご主人様がおいらのことを使う気だ。痛いの嫌だ、痛いのは嫌だあ。) 少年は筆箱から消しゴムを取り出すと、計算式の誤りを消し始めた。勿論、消しゴムのひたむきな想いなど届くことなく。 (痛いって言ってるのにわからないのかなあ…。) 再び筆箱に入れられた消しゴムはそう落ち込んでいる。その時、消しゴムの音を感じる部分(決して耳はない)に大きな轟音が響いた。授業終了のチャイムの音である。 (毎度毎度だけどうるさいなあ。…待てよ、授業が終わったということは…。) 少年は授業は終わったはずなのに、筆箱から消しゴムを取り出した。 (や、やっぱりか…。おいら、無念なり。) 消しゴムが心の中で倒れた理由、それは…。 「おーい、早く消しバトやろうぜー。」 今、小学生の間で大人気のゲーム、消しバト。消しゴムをはじいて、相手の消しゴムを机の上から落とすという簡単なゲームであった。しかもなかなか盛り上がる。学校のルールにも反していない。 (でも、でも、おいらにはひどい迷惑だ。消されるのと同じくらい痛いんだぞ。休み時間なんだから休ませてほしいのに。) 消しゴムの悲痛な重いなど興奮する少年に届くはずもなく、少年は消しゴムを机の上に置いた。 (おいおい、相手の消しゴムはおいらより大きいじゃないかよ。勝てるわけないって言うか、痛めつけられちゃうよ。うわああ。) 「じゃあ、俺からな。」 大きいほうの消しゴムの所持者はそういって、その消しゴムをはじいた。もちろん、消しゴムは痛がっている。しかし、それに対抗しようとした少年のはじき方はもっと強かった。結果、消しゴムははじかれた後、机から落下し、床に直撃。激痛を受けることになってしまった。 (痛い!痛いよ!痛すぎる!) 人間であったら骨折を通り越して いた。もしかしたら死んでいたかもしれない。口があったら悲鳴を上げていただろう。 「はあ、負けちまったよ。こんな消しゴム!」 少年は、床に落ちた消しゴムを粗雑に拾うと、思いっきりそれを投げた。そして、きれいに消しゴムはごみ箱の中へと入っていった。 「ジャストイン!」 少年は友人に笑顔でピースをしている。 (ここ、なんだか臭い…。そして痛い…。) 「ねえ、さすがに捨てることはないんじゃない?」 少年に、クラスの女子がそういうと、少年はニヤリと笑った。 「どうしたの?なんか面白いこと、思いついたの?」 「ああ。男気を見せてやる。」 少年はそういうと、ゴミ箱のほうへ向かった。 (誰かが近づいてくる、声からするとご主人様かな?おいらを助けに来たのかな?でも、またあの痛い生活は嫌だな。) 消しゴムはそういろいろと考えていたが、選択権などない。消しゴムの意思など無関係に、少年はそれを手に取った。そして、消しゴムを口の高さまで持ち上げた。 「俺は今からこれを食べる。」 少年はクラスにそう宣言した。 (え、今食べるって言った?何を?も、もしかしておいらのことを…?ご主人様は頭がおかしくなったのか…?) 消しゴムの思いと同じく、その宣言を否定する者、興味半分で賛成する者、クラス中が少年に注目した。その時、教室のドアが開き、先生が入ってきた。 「え、な、何をやっているの!?消しゴムは食べちゃだめよ!?」 少年はすでに消しゴムを口の中まで入れかけていた。先生は止めに入ったが、その手が届く前に少年は口を閉じた。 (うわああ。こいつ、本当に食べちゃった!もう絶対にご主人様だなんて言わないぞ!) 消しゴムは少年のあたたかな口の中でそう誓うのであった。 |
土門
2015年09月27日(日) 20時39分02秒 公開 ■この作品の著作権は土門さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 土門 評価:--点 ■2015-10-26 23:12 ID:o7hllq9AgaY | |||||
通りすがりです 様 感想、ありがとうございます。 やはりタイトルですか。タイトルの工夫を取るか、オチの意外性をとるか、難しいですけど作品のためなら後者なのかもしれませんね。 |
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No.3 通りすがりです 評価:20点 ■2015-10-24 22:46 ID:cGIMZ/gS3V6 | |||||
下の方と同じ感想になっちゃいますけど、タイトルが勿体ないです。 なんとなくタイトルでお話の結末が読めてしまうから。 |
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No.2 土門 評価:--点 ■2015-09-28 21:58 ID:o7hllq9AgaY | |||||
昼野陽平様 感想、ありがとうございます。微笑ましい、と言っていただけて嬉しいです。 確かに、オチをタイトルで明かしてしまったのは良くなかったかもしれません。 アドバイス、ありがとうございました。 |
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No.1 昼野陽平 評価:30点 ■2015-09-28 00:39 ID:uQhiKmCHatg | |||||
読ませていただきました。 コミカルで微笑ましい感じでした。 消しゴムはのちに消化されずうんこと一緒くたになるのでしょうね。 ただタイトルで落ちを書いてしまってるのでもったいないかなとおもいました。 楽しかったです。 |
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総レス数 4 合計 50点 |
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