天才の苦悩
当坂遥歩は天才だ。僕のクラスの中で、とかじゃなくて、テレビ取材とかよく受けてるモノホンの天才だ。本当ならハーバード大学卒業していてもおかしくないレベルだ。そんな彼がこんな普通の高校のクラスで何やっているかって?

「えーだってめんどいじゃん、大学」

そういう問題か?!

彼曰く、この高校に通っているのは家から近いから(徒歩五分)そして大学に行ってないのはめんどいから。海外留学行ってないのもめんどいから。それでいいのか、天才。めんどい言い過ぎて杉本からナマケモノか言われてた。えー、DNA違うから違うよーじゃねぇよ。杉本が言っていることはそういう事じゃない。

この天才は基本的に普通だ。校長先生の話はつまんないと思うし、寝坊するし、デコにニキビ出来るし、携帯の充電忘れたりする。でも、やっぱ天才だ。今現在、彼は杉本達の質問に答えつつ謎の海外の論文を読んでいる。同時進行で。その論文は前に見たことあるけど一ミリも理解できなかった覚えがある。そして彼の記憶力も凄い。動物図鑑を暗記しているんじゃないか疑惑がこのクラスではあるが、それはあながち間違いじゃないと思う。さっきのナマケモノだろうがツチブタだろうが目、科、種まで答えられる奴だ。道徳のクラスで人間とは何でしょうかと聞かれてホモ・サピエンスと答えてあのジジイ先生の怒りを買うような奴だ。記憶力が凄いのは動物図鑑だけじゃない。ほら、理科の教室の後ろに貼ってある元素チャートあるじゃん? あれ全部記憶していやがる。水素、水銀、ベリリユムリチウムホルミニユムプルトニウムフェロニウム……
ダイヤモンドを見て、carbon、要するに炭と同じとか言い出した時は頼むから黙ってくれと思ったのを覚えている。

それほど頭よければテストは百点だと思われがちだが、そうでもない。道徳はいつも0点で、国語のテストでよくある『その時お爺さんはなんと思ったでしょうか?』的なのは合っていた試しがない。そして面倒くさがりやだから回答が分かっていても書き出さないと言う困った癖?みたいな物がある。この前その件で先生に泣き付かれていたな、とふと僕は思いだした。

隣を見ると、杉本達は去り、当坂は一人で論文を読んでいた。何語だろう。英語か?ドイツ語か?フランス語にスペイン語、サンスクリット語を読んでいた時はさすがにたまげたなぁ。
僕は当坂と話した事はない。杉本みたいにコミュ力がある訳じゃないし、僕みたいなアホが天才に話したところで話が通じるかどうか分からないからだ。でも、今日、なんとなく話しかけてみようかな、と思い、彼に声を掛けた

「なぁ、当坂」

「ん? 鈴木か。」当坂は顔を上げ、君はこういう声をしているんだな、と笑った。

「あ……うん。、」声を掛けたは良いが、何を話して良いのかは分からなかった。

「私に、何か用があったのか?」

彼の一人称。僕はそこに会話の糸口を見つけた

「なぁ、なんで『私』って言うの?」

当坂は一瞬ハッとした様な、驚いたような表情した。

「面白い質問だな」

少し考えて、

「私の両親は二人とも一人称が私、だからかな。」

「そうなんだ。ねぇ。なんで大学に行くの面倒くさいの?」僕はもう一つ、質問してみた。

「ただ単純に面倒くさいだけ。それに大学に行くと研究しかしなくなっちゃうし。また、人が遊んでいられるのは一生で今の時期か老年期しかないから、遊べる時遊んどくというか」

そうか。彼の将来は決定している。たぶん、彼は自分のなりたい職につくことを許されない。彼の頭脳は様々な研究機関に求められているのだろう。

「将来、何するの?」

「De-extinction及びクローン技術。君は?」

「分からない」

当坂が笑った。

「なら、何にでもなれるな。」

「……そうだね」

僕は特に誰からも求められていない。だからこそ、将来何しようと自由なのかもしれない。

「私は。自分の事をあまり天才だとは思わない。でも天才であるという事は理解しているつもりだ」

「へ?」

「私の昔の将来の夢は、消防士だ。自分が天才だと理解するまではそう夢見ていた。でも私の未来はそれとは違う方向に決定している。だけど、自分が天才だという事、そして未来が自分が望まない方向に確定している事にあまり納得はしていない。」

「納得していないなら変えられるんじゃない?」

当坂は嘲笑うように笑った。

「まっさか〜。こっちの意志は向こうの、私の頭脳が欲しいだけの者には関係ないのだよ」

彼の笑顔の中に、絶望が見えた気がした。




ローズ
2014年12月16日(火) 14時34分33秒 公開
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■作者からのメッセージ
天才のお話をチャチャッと。

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No.4  鈴茶  評価:30点  ■2015-02-23 22:58  ID:6jDp/VvhCUs
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拝読しました。
ライトなノリのお話で楽しく読めました。
コメディタッチで個人的に好きな書き方なのですが、他の方も仰っているように短い分物足りなさを感じました。
しかし、もし続くのであれば読みたいと思います。
No.3  Phys  評価:30点  ■2015-02-15 09:52  ID:8ktjPVZyMp2
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拝読しました。

天才のお話、楽しく読ませて頂きました。小説やアニメを見ていると、天才的
才能を持ったキャラクターというのは、何かしらその能力や地位にそぐわない、
意外なほど平凡な苦悩や葛藤を抱えているように思います。そういった面を
描こうとする姿勢に、私は感銘を受けました。

また、数学や考古学、心理学にいたるまで、天才にもいろいろと種類がある
とは思うのですが、当坂さんは「生物学の天才」ですね。私としては、「消防士」
と「生物学の研究者」との間のギャップは大きいと思うので、どうして当坂さん
が「消防士」になりたかったのか、結末をより詳細に書かれたらさらに良くなる
のではないかと思いました。(短い掌編では、オチに威力がないと評価はされ
にくいと思うので……)

そして、昼野さんも仰っているように、続き物のような、その先が気になる
お話ではありました。チャチャっと片付ける効率性もいいですが、じっくり
問題と向き合って、その解決を小説というかたちで示して頂けたら、読んで
いる方にも感動が生まれてより良いと感じました。

また、読ませてください。
No.2  徒然太郎  評価:10点  ■2015-02-06 21:55  ID:6KwnaSZABzw
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拝読させて頂きました
軽いタッチの文体自体は読み流しやすいものの、中身は愚痴か日記に近いと思います。そして天才という単語を多用しているせいで安っぽく見えてしまうのはあまりよろしくないかと。
No.1  昼野陽平  評価:20点  ■2015-01-13 17:19  ID:qCFnGix/Fnc
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読ませていただきました。

文章のコミカルなノリは好きな感じでした。天才も大変ですね。
ただストーリー的には起承転結でいえば、承の部分で終わってるかなと思います。これからの展開が読みたかった感じです。

自分からは以上です。
総レス数 4  合計 90

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