風の溜まる場所 |
おばぁーが死んだ。 通夜はさっき終わって、明後日に葬儀を執り行うから。時間が作れたら、帰って来てくれないか? 海の見える実家から、親しくしていた友達に電話を掛けた。 来間島小、中学校の同級生だ。沖縄諸島の片隅にある、歩けば半日もかからずに一周出来る島。そこで唯一の小さな学校に、小学生と中学生がそれぞれ五人ずつ。卒業後は、宮古島に幾つかある高校へ進み、その二年後に、僕らの通っていた母校は廃校となった。 おばぁーは長年に渡って校長を務めており、脱サラしてここへ移り住んだ両親が離婚した事で母子家庭となった僕が、六歳の時に母をも白血病で亡くしてから、彼女が自宅で育ててくれた。つまりは義理の祖母になる。 四日前の夜の事だった。中等部の担任だった先生から、切羽詰った様子で電話が掛かってきた。 『瑠璃さんが倒れて、昨日から危険な状態ば。一旦こっちに戻って来い』 翌日、僕は成田から飛行機で宮古島に行き、そこからはレンタカーで、真っ青な海の上に伸びる来間大橋を渡り、島へ里帰りをした。 一晩、おばぁーが横たわる布団の隣に居た。 「ちゃぬぐとぅなかなさんくとぅがあげーても、ちゅーく生きよーさい(どんなに悲しい事があっても、強く生きなさい)」おばぁーは声を搾り出して、そんな言葉を紡いだ。 弱気になっちゃだめだと、僕は言った。ずっとおばぁーのしわがれた手を握ったまま、いつの間にか朝が来た。日が昇ると同時に、僕はおばぁーが呼吸を止めた事に気付いた。 悲しみよりも先に、空虚な感覚が押し寄せてきた。例えばそれは、故郷のこの場所に広がる明るい海に潜った時、突然海底が深く、暗くなっているのを見たような、そんな恐怖感にも似ていた。3年前から東京の大学に通っていて、社会に出るか出ないかの中途な位置に居た僕は、自転車の補助輪を外した直後の少年も同然だった。これから先、おばぁーがサドルの後ろを持っていてくれることはない。 通夜と葬儀は、おばぁーの願いにより自宅を使って最低限の規模で行う事になった為、費用は大して掛からなかった。おばぁーが遺した財産の一部と、僕の貯金で半分ずつ支払う事になった。 4人が来た。 高校卒業までずっと同じクラスで、よく一緒にイタズラをしていた大樹。琉球大学に通っているという敬之。ヤーマス御願の時、いつにも増して人の多い島の活気が好きだった由紀、学校で飼っている犬が死んで、誰よりも長い時間泣いていた、初恋の相手である美里も。 皆で居間のテーブルを囲んだ。 「ひさしぶり。ちゃーがんじゅー?」 「元気ば。洋二って大学どこ行ったっけ?」敬之が言った。 「東京さぁ。まあ大して有名でもないとこだけどね。確か大樹は営業マンで、由紀と美里は、大阪の同じ大学だったね?」 「そう。よく二人でご飯食べたりしてるの」と由紀。 「最近、東京での調子はどうね?」美里が言った。 「上手くいってると言えば、嘘になるさぁ。楽しい事は楽しいけども、正直なとこ、何をやりたいのかもまだ見つかってなくて……」 ここに戻ると、都会で気を張って話していた標準語を忘れ、皆うちなーぐちの訛りに戻る。 玄関で音がして向かうと、おばぁーと昔から仲が良く、僕と並んで喪主を勤めてくれる千代さんが来ていた。 「二時ぐらいんかい準備が整うみたいやっさーからね(二時ぐらいに準備が整うみたいだからね)」彼女は言った。 「あぃー」僕は答えた。 「平気か?」敬之が心配げな顔をした。 「ああ、大丈夫。いつ何があっても不思議じゃないって、前から覚悟しとったば」想いとは裏腹の嘘が口をついた。 「まあ俺らが生まれた時で、もう喜寿過ぎてたしなぁ」大樹が言った。 「ありがとう、わざわざ来てくれて」 「何言ってんね」由紀は笑った。 美里は、笑っているのにどこか泣いているように見える、複雑な表情をしていた。 自宅の門に佇むシーサーの隣にある塀の前には、大きな花輪が置かれていた。 島民の殆どが参列していた。島全体がひとつの家族のような感覚で暮らしていたのも理由の一つだが、皆おばぁーをうちなんちゅーの鑑として慕っていたのだ。 喪主の僕は、何度も考えて書き、暗記した答辞の言葉を紡いだ。小さな頃にくれた、今も机の中にしまったままのビー玉に、枕元で昔話をしてくれた事、教えてくれた島唄。おばぁーが僕に授けた事柄は、いつでも命そのものだった。そういった事だ。 棺の中で、よく着ていたお気に入りの服に身を纏い、胸で手を組み、花や島民からの千羽鶴、いつも使っていた食器などに囲まれたおばぁーの顔は、僕が上京する時よりも皺が少なくなっていた。死に化粧のせいだ。 これはおばぁーじゃない。 そう思っている自分が居た。 目の前に見えているのは、生涯の出来事一つ一つが皺に刻まれ、威厳も愛嬌も醸し出していたおばぁーの顔ではなかった。ここにあるのは、あくまで彼女の形を取った肉体でしかない。そう思えた。 「じゅんにぬいなぐやてぃーだんかい、島ぬすらと海んかい、んちゃと草花んかい、広いうるま礁んかい、沖合いを泳ぐヒィートゥんかい、在るべきうふ切なもぬ全てんかい姿を変えて、うんじゅを見守ろうとそーんぬ(本当の彼女は太陽に、島の空と海に、土と草花に、広い珊瑚礁に、沖合いを泳ぐ鯨に、在るべき大切なもの全てに姿を変えて、あなたを見守ろうとしているの)」千代さんはそう言って、僕のその感覚が間違ってはいない事を伝えてくれた。 「いい式だったな」大樹が言った。実家の縁側から、日の沈みゆく空を眺めていた。嗚咽する人もおらず、皆静かな涙を時折頬に伝わせ、そこに悲しみはあったが苦しみは無く、会場は終始穏やかな優しさに包まれていた。 おばぁーの体も、聳える煙突から空へと溶け込んでいった。今はただ、桐箱に入った白い壺の中で、小麦粉のような軽い固体として残っているだけだった。 電話をくれた先生が、土地と家の権利書を僕に渡した。 また東京に戻ると思うんで。そう言うと、どうするかはお前の自由さぁ、とにかく持っておけ。そう先生は言った。 「浜にでも行かんば?」泡盛の入っていたコップを置いて、僕はそう提案した。湿っぽい空気のままでいるのも、そんな雰囲気を何よりも倦厭していたおばぁーに悪いと思った。「花火とか買っていってさぁ。せっかく夏に集まった事だし」 「そうね、いいんじゃない?」美里が言った。他の三人も、すぐに賛成してくれた。 密林のような遊歩道を歩いて、巨大なタコのオブジェが鎮座しているタコ公園の手前の草むらを抜けると、岩場に囲まれた秘密の浜辺へ辿り着いた。空は既に暗くなり、真っ黒な景色に波の音だけが響き渡っていた。 買ってきた手持ち花火を分け合って、僕らはひとしきり砂浜を照らしていた。 「どうするば? 家の事」大樹は空中に光の円を描きながら言った。「大学もあるだろ?」 「正直、迷ってる」僕は言った。そろそろ就活に向けて動かなければならない時期だが、何を目指せば良いのか分からず、家の管理についても考えなければならない。かといってこちらへ戻っても若者の仕事は少ない為、やはり葛藤は起こる。 奨学金返済の足しにと、おばぁーが少ない年金を切り崩してくれてまで通っていた大学を抜け出して、結果も残せず都会から帰ってきて、顰蹙を買わないか。これから何を信念として生きてゆくべきなのか。 考えながら、一人浜辺を歩いた。 波に削られて、不規則な多面体になった硝子が落ちていた。それを拾って花火の光に翳すと、あらゆる方向に反射した。子供の頃からなりたかった自分を例えるなら、丁度こんな感じだったと思う。少し歪な形をしているが、だからこそ何処から見ても輝いていられる人。 見上げてみると、満天の星空の中、くっきりと浮かび上がる白鳥座が全てを寛容に包み込むように翼を広げていた。見つめる内に、今日一日抑えていた感情が喉元までせり上がる感じがして、僕は足元の一枚岩に腰掛け、体を丸めた。 「洋二?」美里が近くに寄り、声を掛けた。嗚咽を聞かれたくなかったのに、彼女は僕の首にふわりと腕をまわしてきた。学校に居た犬を弔った日の夜、彼女に僕がした事だった。その時はつくづくキザな事をしたと思って、一人顔を赤らめていたが、実際にされる側になってみると、スッと気持ちがほどけるのを感じた。暫くその状態で居るのを他の三人も気付いていたが、気を利かせてくれたのか、変わらずはしゃぎ声を上げて花火を続けていた。 大学への進学をきっかけに、それぞれ違う人生を歩む事になってからも、僕らは時折連絡を取り合っていた。互いにいくつかの恋をして、時には付き合っている相手との悩みを相談する事もあった。二人の関係は、それらの間を縫う横糸のように、不思議な存在としてあり続けた。 やがて気持ちは落ち着き、胸の前にある彼女の手に触れて、戻ろうかと囁いた。美里は頷いて、体を僕から離した。 砂を浅く掘って、空になった紙のパッケージを入れて火を付けた。乾燥した小さな流木なども加えて、焚き火にした。炎は小さく音を立てて、語らう友を柔らかく照らし出した。 中学の時、007に憧れていたと敬之が言い、大樹はそれに対し、テレビで見た刑事なんかになりたかったと答え、どこからか見つけてきた新聞紙を更にくべた。少し火が大きくなり、広告業界を目指して勉強していると由紀が言うと、美里はじっと炎を見つめながら、おばぁーみたいな人になりたいと打ち明けた。 「洋二はあれね、プロのダイバーになってみたいって言うてなかった?」と大樹。 「確かそうだった」よくこの海で、素潜りやシュノーケリングをしていた事を覚えていた。 「そういえば、一回皆で遠くへ行ってみようって、座間味辺りに行った事無かった?」美里が言った。 「あーあったあった。この五人でな。フェリーに乗って着いたのはいいけど、またすぐに引き返したば」 「そう、なんとなく怖くなってね。それで帰ると案の定、港でおばぁーや親なんかが待ってて、皆こっ酷く叱られて。敬之とか貯金箱を空にして、かなり絞られたって言うてたば?」 「二針縫う傷が出来たさぁ。引っ叩かれた拍子に窓突き破って」そう語る敬之は、前髪をかき上げてその跡を見せた。今となっては、全て笑い話だった。 未来の自分が何をしているのか、そんな夢想をしていたのがいつから、あの頃の自分はと、振り返って語るようになったのか。それは成人したとか、酒や煙草と関わるようになったとか、異性と体の関係を持っただとか、そういう具現的な意味で「大人」になったからではない。境界線は、岩場の向こうに広がる夜の海へ引かれている水平線のように、至極曖昧なものだった。 そうはいっても、僕達は世間から見れば確実に若者で、ロッキングチェアに体を沈めて海を眺めるような昼下がりを過ごすのにもまだまだ青く、どっちつかずの時を歩いている。徐々に小さくなってゆく火をただ見つめながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。 皆がいつ発つのか、僕は訊いた。敬之は午後から講義がある為、朝の内にフェリーで帰るらしい。大樹は同じ日の夕方。由紀と美里は、それぞれ友達に代返を頼み、バイトのシフトを変えてもらったという事で、もう一泊してからだそうだ。 僕は、ずっと考えていた事を伝えた。「こっちに戻ろうかと思う」と。 皆の顔を見てみると、これといって驚いた様子もなく、そうかと頷いていた。 「別に、都会の生活が上手くいかん事からの、逃げというわけでもないば」 中身の無くなったペットボトルを、ベコベコと鳴らした。 「僕にとって、おばぁーを含めて一緒に暮らしてた人や、この島という場所ほど大事な存在っていうのが、向こうでは見つからなかったば。東京に居る間も、いっつもここで暮らしていた日々が頭にあって。おばぁーが居なくなって、自分の存在を留まらせてくれるもんは、あの家と島と、ここに居る4人の他にはねーらんね。……結局、逃げになってるんかね」 沈黙が起こり、波の音が一際大きくなった。 「民宿開いてみようと思ってさぁ。そこそこ大きな家だし、こっちの料理を自分で作ったりもしてたし。富やら名声やら、背負い切れんほどの大きい未来とか、よおけの女付き合いにも興味は起こらんけど、ただ生きる意味だけは常に持っときたいば。今更かって感じかも知れないけど、そう考えてる」 大樹が口を開いた。「でも料理ばっかり売りにしてても、やっぱアレさぁ? なかなか客は集まらんよ。今時は沖縄料理を出す店だって、東京にも腐るほどあるば」 「うん。だからCカード取って、体験ダイビングのサービスもしてみようと思うば。この辺も、僕らが中学の時に本土と契約して、観光客も少しずつ集まってるみたいだし、その時橋も通ったし。他のホテルみたいな大げさに客受けを狙ったようなんじゃなくて、なるべくこの島そのままの雰囲気を保てる環境で、そういうのをやっていきたい。だあんかい、ダイビング続ける内に、そっちを本業に出来るかも知れないしね」 「いいね、それ。洋二のウェットスーツ姿って、なんか面白そうさぁ」 美里が言った。 「そうね、いいかも。彼氏のピチピチファッションなんて」からかうように由紀が言った。 「何言ってるば」 もしも、美里が一緒にやってくれたら、きっととても楽しいのだろう。ふとそう思った。「まあ、自分で決めた事だし、ちばってみりゃーいいと思うけど。やっぱりイチからとなると難しいとは思うば」敬之が言った。 「……なんくるないさぁ」僕はそう答えた。 真夜中も近付き、友はそれぞれの実家へ帰る事にした。体に付いた砂を払い落とし、わざと遠回りをした先にある分かれ道で、名残り惜しむように手を振り合いながら、それぞれの家路に着いた。 翌日とその次の日、彼らは皆元の生活に戻った。僕も計画を実行に移そうと、台風の迫る沖縄を後にした。 実家で民宿を開く事に、近所の人々は快諾してくれた。 大学を中退して、宮古島でレストランのバイトをしながら、ダイビングの講習と試験を受けて、Cカードを取得した。 三軒隣に住んでいる海人の親父さんが漁を引退するという事で、沖に出る為の船を譲り受け、船舶免許も取った。必要である食品衛生責任者の役割を千代さんに頼み込んだ後、保健所と消防署で正式に許可を貰い、家の修復作業を済ませた。バイト先のツテで食材の仕入れ先も確保した。 「風溜まり」という名前が書かれた看板には、あの日の小さな焚き火と海の絵。 いつまでもここに変わらない風を、来る度に懐かしめる空気を。そんな願いの意味で付けた名だった。 そうして一つの目標を達成し、島へ戻ってから1年が経った頃。台風との戦いを終えた宿に、一人の来客があった。 「ひさしぶり」 「ハイタイ。お正月にも来たばよ?」 「こっちは時間の流れがゆっくりだから」 美里だった。 「今日は潜れるの?」 いつもは午後1時〜3時、土日はそれに加えてのナイトダイブと、時間を決めている。 「えっと……1時10分前か。今日入ってる予約は夜だけだから、今から行こうか」 僕は自分の、彼女はレンタルしているウェットスーツを着て、荷台にボンベを乗せたワゴンを走らせた。到着したのは、見慣れた青い海だ。 「ダイビングの他にも、宮古馬を引いて乗馬体験するのもいいかと思って、今計画してるとこさぁ」 そんな事を話すと、それも楽しそうだと、助手席に座る彼女は目を輝かせた。 元漁船で沖に出て、ウェイトとエアベストを付け、各装備の入念な確認を終えると、僕達は真っ青な世界に飛び込んだ。 点々と見受けられる白化した珊瑚に少し胸を痛めながらも、子供の頃は行った事の無かった深さの海底に広がる、色とりどりの岩や魚の織り成す景色と独特の浮遊感を、彼女は存分に楽しんでいるようだった。 ダイビングを終えると、家へ戻って遅めの昼食を作った。テーブルを挟んで向かい合い、僕も食べる事にした。 「あぃー、どうぞ。かまんね」 「いただきます」照れたように美里は言った。彼女はシャワーを浴びた直後の少し濡れた髪を背中に垂らして、ソーミンチャンプルーや足てびちを口に運んだ。 「私も、こっちに戻ろうと思うの」ふと彼女はそう口にした。 僕は美里の目を見た。 卒業したら神奈川を離れると、彼女は言った。 「でも、なんでまた?」 「就活してると、やっぱり私にもこの生き方は合わないと思ってさぁ。昔っからせかせかしたのが苦手で、由紀がいるといっても、大学の人間関係でさえ、しょっちゅう気が滅入る事もあって……。オフィスが似合う感じでもないし、接客の仕事しようにも、未だに訛りが直らんね。だから、こっちでのんびり生きながら働きたいと思って」彼女は照れくさそうに笑った。「贅沢だし勝手なわがままだって、分かってるんだけどね」 「……」 「なんね?」 「いや。でもおじさんとおばさん、そんなの許してくれるか?」 「もう話したさぁ。そしたら戻って来ればいいって。父さん達にしても、目の届く所に私が居る方が安心ってさぁ」 「そうなん?」 彼女は頷いた。 「もう一つわがままがあるんだけど……。出来れば洋二の仕事、手伝えたらいいなと思ってる」 「うちの?」 彼女は頷いた。 素直に嬉しかった。中学の卒業式で彼女に告白してから7年、進学によって離れてから4年が経っていた。その間、曖昧ながらも、初恋の相手と途切れる事無く繋がっていられた。そしてこれから先は、いつも傍に感じていられるのだろうと思うと、それ程幸せな選択肢は他に無かった。 「でも、朝も早いば? 僕は食材の仕入れに行くから5時前には起きるし、その後でいいにしても6時ぐらいだし」 「それなら大丈夫さぁ」 「せかせかしたの苦手だって言ったば?」 「早起きぐらい出来るば」 「そっか。それじゃあ、美里もCカード取らないとね」 「えー、洋二がダイビングのサービスして、私が乗馬体験じゃ駄目ば?」 そう言って、彼女はふくれっ面を作った。 「そりゃやっぱり、どっちも二人で出来る方がいいさぁ。人数が多いと手が回らないだろうし」 「そんな大人数来る?」 「美里が看板娘になって宣伝でもしたら、どんどん忙しくなるば」 「なーいない」 彼女は目を伏せて笑った。 「待ってるば」僕はそう言い、空になった美里のコップへ麦茶を注いだ。 いつもと変わらない空に、いつものように白い雲が流れる。 それでも人の姿や心は移り変わる。 だからといって、僕らの奥底に持つ生きる意味が、失われる事は無い。 風の溜まるこの場所で灯した小さな火は、今もまだ静かに燃え続けている。 |
TAKE
2014年12月15日(月) 00時08分56秒 公開 ■この作品の著作権はTAKEさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 Phys 評価:40点 ■2015-02-14 23:58 ID:XEAR1q3st4Y | |||||
拝読しました。 とても好きな内容のお話でした。恥ずかしながら、来間島という島については 本作をお読みするまで存じ上げませんでした。ちょっと調べてみたのですが、 観光地としては定番の名所なのですね。竜宮城展望台やタコ公園の写真を見て、 時間ができたときにいつか行ってみたいと思いました。 さて、私は本作の魅力は、登場人物たちの純真さと、沖縄の美しい自然描写 にあると感じました。一例をあげるなら、 > 富やら名声やら、背負い切れんほどの大きい未来とか、よおけの女付き合いにも興味は起こらんけど、ただ生きる意味だけは常に持っときたいば。 こういった洋二さんの人柄を象徴する台詞であったり、 > 波に削られて、不規則な多面体になった硝子が落ちていた。それを拾って花火の光に翳すと、あらゆる方向に反射した。 > 子供の頃からなりたかった自分を例えるなら、丁度こんな感じだったと思う。少し歪な形をしているが、だからこそ何処から見ても輝いていられる人。 こういったオブジェクトを象徴的に使って登場人物の心情を描写されていた 点です。 作者様から登場人物の皆さんに、優しい眼差しが注がれている感じがして、 感情移入しやすい文章でした。一文をスクロールするたびに温かい気持ちに なりました。そういった細部がとても好きです。 また、私が一番好きな場面は、 > 砂を浅く掘って、空になった紙のパッケージを入れて火を付けた。乾燥した小さな流木なども加えて、焚き火にした。炎は小さく音を立てて、語らう友を柔らかく照らし出した。 この焚火の場面です。昔の夢を語り合い、消えゆく炎を見つめながら今後の 人生を見つめ直している様子が、とても映像的で素敵でした。洋二さんが、 どういう思いで「風の溜まる場所」と名付けたのか、この場面がキーとなる と感じたのですが、私の中ではまだ明確な答えが出ません。そういう疑問を 残しているのもすごく良かったです。 最後に、文章についてはとにかく外連味がなくて、素直なものだったので、 安心して読むことができました。しかし換言すれば、小説としてのうねりが 小さいということでもあるので、もう少し登場人物のやり切れなさや苦悩が 表に出てきたら、私はより好きになったように思います。(あくまで個人的な 感想ですので、批判しているわけではありません。汗) いずれにしても、よく練られた作品で、最後の結末にはうるっとしました。 ありがとうございます。 また、読ませてください。 |
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No.1 霧島那由 評価:40点 ■2014-12-15 01:24 ID:rAyO/hBFluU | |||||
全体的にとてもきれいなお話でした。比喩なども、自然豊かな島という舞台にあったもので、かつとても面白かったです。 ただ、分かりにくい表現がところどころにありました(私の理解力不足かもしれませんが)。途中で読み返すことになってしまい、せっかくの面白さが半減してしまう気がします。 今後も頑張ってください。 |
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総レス数 2 合計 80点 |
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