花火
 前立腺癌にかかったが、私はすでに人工肛門をつけており、大して気にもせずに、太陽は地下にあり、天にはウジャウジャした虫どもがびっしりと飛んでおり、黒々とひしめいており、流動的にうねっており、下痢(げり)を人工肛門から漏らした私は、恥の多い人生をおくっており、片目は義眼であるが、普通の義眼をつけてもつまらないので、緑色の義眼をつけており、女子校で教師をしているが、生徒らにはモテ・モテであり、幾度となく不純異性交遊をしており、いつしか陰茎は二股に別れて二本になり、感度は抜群であり、また女の方も二本の陰茎で前門と後門を同時に犯されるのを喜んでおり、私は幾度となくカッターで切腹をしているが、その度に傷ついた皮膚と内臓がぬるぬると再生し……ゴキブリが家のなかを這いずっており、それは一匹二匹ではなく五百匹くらいで、まるで黒い絨毯のようにざわつき、自慢ではないがここ五年ほど部屋の掃除をしたことがなく、私自身を筆頭にゴミどもがそこここに散らばっており、それは遺棄された廃墟のようであり……。
 便意を催した際に、トイレに駆け込むことに不条理を感じてからというものの、私は便意や尿意を催すと、部屋の中で垂れ流し悪臭をはびこらせた。とはいうものの、悪臭を感じるのは最初の数日だけで、あとは段々と鼻が慣れていった。生徒との性交は主にこの部屋で行っており、私と生徒は汚穢に囲まれて醜い行為をするのであるが、汚穢も突き抜ければ一種の美をおびることは、蛇と蠍の交尾をみても明らかであり、私達はおそらく美しかった。それも私は好んで不細工でスタイルの悪い生徒とのみ、性交をした。
 私は性交をするのが好きというよりも、女を孕ませるのが好きなのであり、今までに五百人くらいの女を孕ませてきており、地上には私の遺伝子を受け継いだ子供が五百人以上いるが、私はもちろん父としての責任を放棄しており、知らぬ存ぜぬを貫き通したのであり、今後もそういった事を続けるし続けている……。私の夢は、ある日ぐうぜん抱いた女が私の子だった、という事であり、その子から近親交配による奇形児が生まれることであり、またその奇形児とも性交をしてみたいという事である……。
 二つの肛門、自前の肛門と人工肛門、つまり多肛門。二股に別れた陰茎、つまり多陰茎。多数の陰茎から同時に射精(しゃせい)をする、一方は膣に一方は直腸に。放たれた精液(せいえき)にもまた生命があり、直腸に放たれた精子(せいし)は例外なく死ぬ事を思うと、メランコリックな気分になり、夕焼けのイメージが頭に浮かぶ。しかしまた陽は上るのであり……。
 ある日不細工な生徒(顔面の中心に肛門があった)が、性交をしたあとに、戦車は操縦できる? と聞いた。私は先の第三次世界大戦で戦車を操縦していたことから、できる、と答えた。聞くところによると、生徒は先日、リサイクルショップにそれとなく寄ると、90式戦車が5万円で売っており、衝動買いしてしまったということだった。可能ならそれに二人で乗ってデートに行きたいというのだった。それも花火大会へのデートであり、私は承諾した……。
 彼女の家に迎えに行くと、彼女は浴衣を着て玄関からでてきた。原色を多用したきらびやかな浴衣で、陽光を反射し目を射るようだった。彼女は家のガレージにある戦車のハッチの上に腰掛けて対空機銃を握り、私は操縦席に乗り込み操縦をした。アクセルを踏み込むと、大きなエンジン音が響き戦車が前進を始め、車道を走った。彼女はハッチの脇にある対空機銃で、道行く人々を射殺しまくり、灰色のアスファルトが赤色の鮮血に彩られた。彼女は無邪気な声をあげて笑っていた……。
 やがて花火大会を開催する川辺へと到着した。私は薄暗い操縦席から抜けて、彼女の脇、ハッチの上に座った。辺りには藍色の闇が広がっている。やがて大きな爆発音とともに、花火が打ち上げられた。まるで精液(せいえき)のように夜空を散らかって光っていた。
 ふと彼女は、キラキラと光る花火を背景にしてこちらを向き、顔面の中心にある肛門をパクパクと開閉して「好き」と言った。私も「好き」と嘘を吐いた。
昼野陽平
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2014年07月21日(月) 16時47分32秒 公開
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No.2  昼野陽平  評価:--点  ■2014-07-24 16:39  ID:r1htNQQ7Z.M
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>zooeyさん

感想をありがとうございます。
冒頭は脈絡がないので、どう受け取られるかなと思ってましたが、迫力があったとのことで良かったなと思います。
汚穢に美を見出すようなのは好きで、自分でも書けたらなと思います。比喩が効果的とのことで良かったなと。
不細工な子と性交する理由は、僕なりにあったのですが、ちゃんと書いた方が良かったなと思います。
嘘つくところは自分でもなんか好きです。
ありがとうございました。
No.1  zooey  評価:30点  ■2014-07-23 00:11  ID:L6TukelU0BA
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読ませていただきました。
冒頭の段落での、一文で繋いでいく感じがとても良かったです。
意識されているかわからないですが、
内から、次々に溢れ出る何物かというのが文体によって伝わってきたように思います。
迫力がありました。

汚穢も突き詰めれば美だ、というのはそうだなと思います。
比喩の効果かな、と思いますが、僕らはたぶん美しかった、という言葉にも、感じ入るものがありました。

ただ、スタイルが悪くて不細工な子に、彼はどんな美を求めていたのか
それが描写されると、より作品の厚みがますかなと思ったり、
ラストも生きてくるのかなと思ったりしました。

「好き」と嘘を吐いたところはなんだか好みでした。

ありがとうございました。
総レス数 2  合計 30

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