癖 |
真冬なのに、おしゃれなオープンカフェでコーヒーを飲む、なんてこと、しなきゃよかったかなあなんて雑踏の中の人影に目をやって思った。 姿勢反響と言ったかなあ。好きな人の癖が、だんだん自分のくせになっていくことを。例えば仲の良い夫婦がまったくおなじしぐさをしてそっくりだ、なんて思ったりすることが、無いかしら。そういう感じのこと。 あの人は笑った時にどうしてかほっぺたをかくんだよ。そしてソレは私の癖でもあるんだ。 「不毛だなあ」 口に出してしまって少し笑った。 沢山の人の中でも、埋没する姿形でもひと目でわかる、私が好きだった人。 もうふられて、一年もたっていて、思い出も褪せたはずだったのに、偶然貴方を見かけただけで、こんなに色鮮やかによみがえる。 隣には女の子が歩いていた。 ああ、もう、女々しいな。もう、来月には社会人になるんだぞ。昔の男を引きずってどうするんだ。情けない。 私は冷め切った珈琲を捨てて立ち上がる。 吐いた息が白い。鼻から冷たい空気を吸うとツンとして痛い。 別に、泣きたいワケじゃない。 ただ鼻が痛くて、涙目になっただけなのだよ。 ソレが、即座にあの時いた女の子だ、と顔でわかったわけではない。さすがにそこまで目は良くない。だけどそのこは笑いながら可愛らしくほっぺたをかいたのさ。 「生島さんってびじんだね!憧れちゃうなあ!同期の女の子生島さんだけだから仲良くしてね!」 なんとまあ、無邪気な笑顔だこと。ああ、なんてこった。 この子はいいこなんだなあって、分かってしまったんだよなあ。 「ん、よろしくね。吉田ちゃん」 「ひゃあ、ちゃん付けされちゃった。なんだろ照れるー。す、すえながくよろしく!」 「嫁入りかよ……!」 はいはい。負けを認めましょ。かわいいかわいい女の子。 なんだか笑えてほっぺたをかきそうになったけど、それはこのこの癖だから。 代わりに吉田の肩を軽く叩いた。 「よっし。今私フリーだからオトコ紹介しなさいな。そのうち飲みに行こうじゃない」 「おおお、おとこおおお……!?えええ、生島さんにだよね、やばい、とっておきのいい人紹介しなきゃ!が、がんばるね!期待してて!もう友達ネットワークフルで探すから!」 忘れようと思って誰かを忘れることは難しい。でも、また新たな癖を私は覚えていくんだろう。綺麗に綺麗に終わる終わりはそんなにきっと無いけれど。 残念なことにこのこは私がかなわないようないい子だったから。まとめてしあわせであれ。なんて、思ってたって、別にバチは当たらないでしょう? |
眼鏡さん
2014年01月08日(水) 22時44分23秒 公開 ■この作品の著作権は眼鏡さんさんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
感想記事の投稿は現在ありません。 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
評価(必須) | 削除用パス Cookie |