ヒロシマ |
神は日焼けをすると思うかいと男の子は尋ねた。 「私はすると思うわ」と前の席に座っている女の子が言った。 なぜそう思うんだい、と聞くと 「だって私たちは神様が自分の姿に似せて作ったものなんでしょう?その私たちが日に焼けて黒くなってるんだから、神様も空の上で日光浴をして、健康的なお肌をしているんじゃなくて?」と答えた。 なるほど、と男の子が唸ると ちょっと待ってそれはおかしいわ、ともうひとりの女の子が言った。 「一見納得しちゃいそうになるけど、その推測は論理的ではないわ。神様をA、私たちのA'、日焼けはRとしましょう。私たちA'が日焼けRするならば神様Aは日焼けRする、さっきの推測を言い換えるとこうなるわね。これをもう少し掘り下げてみると、すべてのA'ならばR、ならばすべてのAならばRする、と言い表せられる。けれど、たとえA'が限りなくAと似ているとしても私たちA'が神様Aとなることはないわ。私たちの記号は所詮はA'ではなくBなのよ。思い違いはしないで頂戴って神様も今頃思ってるわ。長く喋り過ぎちゃった。つまり、神様なんかに私たちの常識を当てはめることはできないってことよ……多分ね。」 男の子は感心した、確かにそのとおりだ。 でも机の上にあぐらをかいて座っていたもうひとりの男の子が、ぼそっとこう言った。 「女の言うことは信用ならんな」 どうだろうかと男の子は思った。 しかし、 「あら遅れてるわね、今の世の中男女平等、それだけじゃないわ。すべてを皆、公平に分かち合うべきというのがお決まりなのよ。そうでしょう?」と、最初に話した女の子がすぐさま反論した。 彼は思った、言い合いでは到底女の子には敵わないなあ、と。 すると、それまで窓際の席で黙って話を聴いていた男の子が言った。 「だったら神様はもっと日焼けするべきだね。」 冗談げにそういい終わった後、からからと笑った。 橙に染まった放課後の教室で彼の後ろに爆発する灼熱の落日は、彼自身の内に秘めた凄まじい憎しみを表すかのように無言で存在して私を殺そうとしていた。 それの前では、論理性など一握りで破壊されてしまって、ちょっと目をそらした隙に凶暴な悪の発作を起こすのではないかというどうしようもない不安から、私は煮えたぎる最後の一片が沈むまで彼の憎しみを見つめていた。 |
770
2013年11月07日(木) 03時30分52秒 公開 ■この作品の著作権は770さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 zooey 評価:40点 ■2013-12-15 02:43 ID:L6TukelU0BA | |||||
読ませていただきました。 おもしろかったです。 掌編らしいシンプルな文章と、 バランスの取れた構成がお上手でした。 それに、ある程度型にはまっているにも関わらず、 議論として取り上げられる話題が独特で、 興味を削がれることなく、寧ろ好奇心に触れられるように感じて、 おもしろく読み進めることが出来ました。 ラストもかっこいいですね。 それまでの淡々とした語りから、一気に迫力を感じさせてくれました。 論理をひと握りで破壊、というのが文体の変化からも感じられました。 ヒロシマ、というタイトルが含むやりきれなさ、辛さ 残酷さが想起させられるような感じも良かったです。 ただ、残念なのはタイトルに含まれラストで暗示される意味を私が拾いきれていないことです。 読み手の問題のような気がしますが、 間接的に、ではあっても、もう少しヒントがあると私には読みやすいかなと感じました。 ありがとうございました。 |
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No.3 つるこ。 評価:20点 ■2013-11-11 15:51 ID:y0FIm362d1k | |||||
はじめまして。 興味深い内容でしたが、空行の意図がいまひとつわかりませんでした。 また、「」内に句点があったりなかったりという点が、短い分、非常に気になりました。 夕日の描写、締めの一文が素敵ですね。 ただ、最初の方は淡白な描写だったので、唐突な印象を抱きました。 |
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No.2 米 評価:30点 ■2013-11-10 20:52 ID:50pharDQD9s | |||||
かりんとうの会話? 私たちのA'←私たちを |
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No.1 クジラ 評価:30点 ■2013-11-08 02:12 ID:52PnvSC7.hs | |||||
タイトルと内容が合っていないような。 どういう意図があるタイトルなのか読み取れませんでした。 三人称なのか一人称なのかも誤読しやすいと思います。 最初は三人称だと思っていました。 夕日の描写がいいですね。 |
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総レス数 4 合計 120点 |
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