夏雨
 夏の薄ら明るい夕間暮れ、低い塀に囲まれた小さな庭は、木々の繁る合間、何とも知らぬ背の低い草々に潜んで、夏の虫どもが気のまままばらに鳴いている。開け放したガラス戸から宵のわずかなりともひんやりした風、吹かれて舞い込む音色に耳を傾けると、軒下に下げた風鈴が、ちりん――
 暑い夜ではあるけども、こんなことでいくらかでも涼しげに感じる。
 ほっと一息、土間に降りた台所、一人済ませた夕食の片付けをしまえて、冷蔵庫からよく冷えた麦茶のボトル、とくとくとグラスに注ぐ。縁側から庭に向けてぶらりと足を投げ出せば、ぼんやりと白い月の皓りを浴びながら、ごくり――と、香ばしさが頬に立ち込め、流れ落ちる滝のように涼が行き渡る。火照った身体になんとも心地良い。
 取り立てて代わり映えのしない日常ながら、こんなものでも夏の風物詩と言えるのかもしれないなと、一人満足げに首肯してみる。
 そう言えば、冷凍庫にアイスバーが一本残っていたよなぁ。

   *
 気が付いたのは、麦茶のお代わりを取りに行こうと腰を浮かし掛けたその瞬間。灯籠に立てた蝋燭の炎が、その時だけ、ゆらり――と揺らめいて見えたのは、気のせいか。
 眼の端にちらり――と覗いた白い影。
 ほんのひと瞬きの間、どこと特定出来ないどこか、網膜の端の端をかすめてよぎったその白いモノ、何とも知れぬうちから言いようのない色香と言うのか、妖しいほどの香気を放って心象の情景を埋め尽くした。刹那、心が弾かれたようにはっとして、浮かせ掛けた腰の中途半端なまま身を捻って見る。
 誰も、いない。
 何も、ない。
 ある物といえば普段から見慣れた日常の品々ばかり、そのどれもが平静な顔をしてあるべき場所にあるべき姿でただそこにある。何かが急に輝き出したり、怪しく騙り始めたりはしない。日常の中に留めよう留まろうとして、我関せずを決め込んでいる。静けさは沈黙となり、気まずく気怠く、何事もなかった体で縛り付けてくる。
 けれども。
 けれどもあれは……
 夢、なのか、
 幻、であったのか、
 消えてしまったのか、
 始めからなかったのか……
 この喪失感は、かつて親しんだ絶望の片鱗に近いところにある。まだ出逢ってもないものとの別れを悲嘆するなんて、勝手に幻(ゆめ)を見て、勝手に落ち込んで、思春期真っ盛りの高校二年生とて少しナーヴァスにすぎやしないだろうか。
 ぺたん――と中途に浮かしていた尻を着く。からん――とグラスの氷が崩れて鳴った。夏の虫が鳴いている。そして風鈴が……、
 ガラスの風鈴、透明なガラスに赤い金魚のひらひらとひれを漂わせる、ちりん――、そこに映り込む部屋の明かりとは別に白い影のある。振り向けどそれらしき物は何もない。ただ、風鈴のガラスにだけ映る。小さくてよく見えない。だから、寄ってみた。慎重に、驚かせないように、四つん這いで、獣のように。
 それが良くなかったのかも知れない。それは、霧霞の立ち消えるように姿を失わせてしまった。あぁ――と嘆いても詮なきこと、心の動揺を抑え、慌てて辺りを見渡す。ガラス、金物、明かりの灯らないモニター、光を反射する全ての物……、そのどれにもその姿を見出すことはない。
 消えてしまった。
 また、見失ってしまった。
 けれども、僕は、見た。
 白いのは着物、まるで送られ人のように、清楚で無垢、可憐で、それでいて蠱惑的なまでに美しい。振り返る黒髪のさららと流れ崩れる艶やかさ、流し目に交わった黒い瞳の深い深い輝きに吸い込まれそうな、白い肌、艶やかな朱のふっくらとした厚みが驚きにうっすら開かれていた。
 綺麗な女性だったな……
 畳にごろり寝転ぶ。
 なんてこったろう。三度は姿を見せてくれることはないかも知れない。会話を交わすことはおろか、挨拶の一言も、瞳と瞳を合わせて照れ合うことすらなく、この心の揺らぎの何たるかを確かめることも叶わないまま、この邂逅は幕を閉じるのか。
 それは、
 そんなことは、
 ……厭だ。
 むくりと起き上がったのには、考えがないわけでもない。つまりは、正攻法。最後はいつだって、どんな時だって、これしかない。他に方法が見つからないことも事実、これに賭けるしかないのなら、喩え駄目元でもやってみるしかない。
 いつか誰かから貰った据え置きの鏡は、押し入れの行李に箱のまましまってあったのを、座卓に据え置く。
 鏡面世界。鏡を挟んだ向う側、見えるのはこちら側と同じ、でも、違う。左右逆転、それだけじゃない、もっと明らかな差異、いや異常と言うべきか、今この鏡には僕が映っていない。
 おそらくなら、もっとずっと以前から、この家の光を映す物に僕の姿は映り込んでいなかったのだろう。普段から鏡を見ない僕は気付きもしなかったけど(容姿に頓着するタイプではないし、髭は生えないから剃ったことがない。髪は月に二度ほど床屋に行ったときに整えるくらいで普段は洗いざらしのまんまで気にしたこともないけど、何か?)、きっとそうだったに違いない。何故なら、そこに彼女がいるから。僕がここに移り住むより以前、刻を止めた彼女は、刻の止まった鏡の世界の中で、刻の流れを感じることなく、いく年月を越えて今ここにいる。そこは彼女を含めた彼女自身の内側の世界、すなわち彼女自身の心と同一の領域――多分、そういうことなんじゃないだろうか。
「君に、逢いたい」
 彼女が何者で、何故にそこにいるのか、分かることは何もない。けれど僕は、そんなことを意識することなく、ごく自然と、しかして心の底から湧き上がるその言葉を、半ば意識もしないままに口にしていた。
「君に、逢いたい」
「逢って話しをしたい」
「君に触れたい」
「君の笑顔が見てみたい」
 紡げる言葉は多くない。それほど器用な人間でないことは、誰より僕自身が承知している。だから、それが今思い浮かぶ言葉の全て。たったそれだけ、思いのどれだけを言い表せているだろう。けれど全て偽らざる思い、掛け値なしの切なる欲求、願望、そして祈り。僕はただ思い、願い、念じ続ける。深い深い迷いの闇の中、神の賜う一条の光――それこそ奇蹟を求め願う宗教者のように。僕は一心に願った。奇跡は容易く起こるものではない、だから奇蹟なのだ。けれど、まったく起こらないとも限らない、だからこそ奇蹟という言葉がこの世にある。
 奇蹟は、起こった。
 それはほんの気紛れだったのかも知れないし、そうではなかったのかも知れない。彼女の心を思ひ量り心に描いて悦に入ることは出来ようけども、本当の彼女の気持ちを計り知ることは叶わない。だからこそ、それは紛うことなき奇蹟であり、そうではないなんてことはまったくあり得なかった。
 彼女は、美しかった。
 きっと僕より年上。二つか三つ、もう少し上かも知れない。ただ見目麗しいのではない、楚々として奥ゆかしく、控えめで恥ずかしがり、それでいて負けん気厳しく、芯が強い……そんな印象。特別飾ることなく、調った顔立ちに薄化粧、凛とした目鼻立ち、一見冷たそうでいながら、伏し目がちの視線はちらちらとこちらを伺い、頬はきっと好奇心に染まっている
「君に、逢いたかった」
 それ以上の言葉が浮かばない。こちらから呼びかけておいて、どうして良いか分からないという情けなさ、この体たらくは我がことなればこそ万死にも適う。僕はただ、顔をかっかと火照らせて俯いていた。
 どのくらいそうしていただろう。きっと彼女はもうそこにはいない――そう思って、恐る恐る顔を上げる。
 彼女はいた。鏡の中で。彼女も同じ、俯けていた瞳を気恥ずかしげに、ちらりとだけ僕を見ようとした。その時、僕らは、異なる世界の境界を挟んだそれぞれの側にいながら、指先すら触れ合うことの出来ない絶縁に阻まれ、それでもなお心は現実に対峙するよりも遙かに近接し、本来ならばすれ違うだけが必定の二つの視線が、柔らかな紗を織るように緩やかな戸惑いで突端を交わらせ、息を潜めるように静かに、ゆっくりと、慎重に、呼吸を合わせ、やがて意外なほど大胆に絡み絡ませ、僕らは通じ合った。少なくとも、僕はそう感じていた。だからこそ、僕は彼女へ自然に微笑みを向けていた。
 けれども、僕の浮かべた微笑みは、どうにも弱々しく、少しばかり自信とか自負とかに欠けていて、それでもそれはそれなりに僕なりの精一杯で、僕は自分自身に半信半疑で、そんな僕に愛想を尽かさずそこにいてくれる彼女に疑心暗鬼で、神にも仏にもこの世のありとあらゆる物に疑いを抱いていた。
 僕はその時、警戒心の強い野生の小動物よりも、もっとずっと疑い深く、憶病で、人間の小ささにおいて臆面もなかった。
 彼女がこくりと頷いた。
 互いに声に出せる言葉の持ち合わせは多くない。それでも通じることが出来たなら……、僕は期待してしまう、求めても求めても一度たりとも得られなかった、人としての繋がりを。
 もはや鏡はこの部屋を映してはいない。現在のこの部屋をというべきか。いずれ鏡は鏡としての役目を完全に忘れ、鏡は、二つの世界を繋ぐ境界としてだけ機能している。
 いつの頃なのだろう、現在とは違ういつか、過ぎ去ったある日、多分なら、彼女が実際この家で暮らしていた日々の風景を映し出している……のだろう。
 現在僕が座っている座卓とは、同じ形ながら風合いの異なる、色合いが明るくいくらか新しそうに見える座卓に、僕と同じ位置に座って微笑んでいる。狭間に取り残されていた彼女は、本来の場所に戻れたようだ。
 こうして僕らは、夫婦になった。

   *
 夕暮れ時の縁側、風が吹いている。がたと揺れてきしむ板垣、枝葉を揺らしてざわめき立つ庭の木々のざぁ――とも、ごぉ――ともいううねりがいずこよりか翳の濃い雲を呼ぶ。風に混じる雨の予兆、不穏な気配、池の水面までが胡乱に波紋を浮かべ、遠慮がちなかわずの声、虫の声、長く降らなかった雨が今にも鬱憤晴らしのように降り出しそうな夕暮れ。こういう時は、なんだか心が落ち着かず、わくわくするような、どきどきするような、おろおろするような。
 傍らに置いた姿見の向こうで、彼女も同じように空を眺めている。
 夕暮れが夕闇と厚い雲に呑み込まれようとしている。ひんやりとした風。夏の暑さもいくらかばかりは息切れを起こしたものか、めっきり夕間暮れの短くなった九月。
 僕らは交わることのない世界で、境界に遮られ、境界に互いの姿を確かめながら、同じでいて別々の空を見ている。
 そんな時、言葉を交わすことの出来ない僕らは、瞳と顔の表情で語り合う。身振り手振りと合わせれば、それでだいたいの思うところは分かるものだ。短い言葉なら唇を読むこともある。そういう時は、決まって彼女の唇に触れたくて仕方なくなる。ガラス越しの接吻は、やはり硬いガラスの感触しかしないもので、いくら心で補填したところで募る欲求は誤魔化しきれない。
 彼女の古風なたたずまいは、そのまま生活習慣にも表れていた。かいがいしく細々しく、てきぱきと身体を動かしては何かしら用事をこなしている。綺麗好きで整頓好き、それでいてそれを一方的に押しつけるようなこともない、そんな寛容さを併せている。僕はどちらかというと億劫がりなので、微笑みながら叱られると、照れくさいような恥ずかしいような、渋々の体を取りながらいそいそと片付けを始める、そんな日々。
 彼女は一貫して堅実な仕事ぶりというか、一つ一つをきっちりこなして次に掛かる主義のようで、だけど、同時にどこか欠損しているような、つまりはまるでどうということもないことに戸惑ってみたり、ごく簡単な動作が出来ずにおろおろしたり、そんなところがある。それは記憶というようなものではなく、通常身体に沁み込んで誰もが自然に振る舞えるようなことが時々出来なくなってしまう。そんな時、彼女は目を伏せ頬を染めながら、恥ずかしそうに瞳で問い掛けてくる。そんなところも魅力に感じてしまうほど、僕は彼女に首ったけだった。
 もちろん、肌を重ねることの出来ないのに不安はあったけど、不満とは思わなかった。互いに肌を触れ合わせることも、言葉を交わすことすら出来ないけども、僕らは繋がりあっていた、その実感があった。
 すでにまっ暗になった空が大気を脅迫するようにゴロゴロ――と、そして、閃光――、わずかの間もなくこの世を割り砕くような轟き、雷鳴というより、この世の終りを告げる号令のように耳をつんざく。
 声を殺して息を呑む彼女、ぎゅっと眼をつぶって堪える姿の儚い美しさ、愛おしさ。堪えきれず彼女が姿見にすがり付くのを、僕も同じようにして寄り添う。手を差し伸べて肩を抱いてあげられないのがもどかしい。
 それでも僕は、僕らは幸せだった。
 そんな日々は、けれど、そんなに長くは続かなかった。
 ある日を境に、彼女の様子が一変する。
 その日も、雨が降っていた。

   *
 秋霖前線の停滞がもたらす長雨は、しとしと――、しとしと――と、後から後から陰気な雨音を重ねて一向に降り止まず、過日の熱気を嘲笑うかのようなひんやりと湿った空気を送りつける。時折、思い出したかのようにざざぁ――とにわか激しく降ったかと思うと、直後にはまたしょぼしょぼと止むでもなく、しょぼしょぼ、しょぼしょぼと、元の通り陰気に降り続く――というのをもう何度も繰り返している。
 そんなすっきりしない空模様が三日も続いた頃、彼女が身体の不調を訴え始めた。
 顔色の優れないことはそれ以前から気に掛かってはいたのだけど、平気だという彼女に、僕は甘えていたのかも知れない。限定的な交わりしかもてない僕らは、少しでも多くの時間を共に過ごすことで、埋められないものを埋めようとしていたのかも知れない。
 いずれ僕は事態を軽く考えていた。そう望んでいた。風邪か何か、しばらく休めばすぐに良くなる、すぐにあの笑顔を見せてくれるようになる。そう思っていた。思い込もうとしてた。あるいは、そう願っていた。祈っていた。いかであろうと、僕には確かめようがない。彼女の様子を観察する以外に、どうする術もないのだから。
 次第に彼女は床に伏せるようになり、僕の前に姿を見せなくなっていた。
 僕としては、何も出来ないとしても、傍にいて見守り、せめて勇気づけるくらいのことはしたかったのだけど、伏せっている姿を見せたくないと彼女が言い張るので諦めざるを得なかった。
 それでも幾日のうちは、朝夕くらいはうっすらと化粧を施したやつれ顔で、それでもいつもと変わらない笑顔をひっそりと浮かべてくれていた。その笑顔が儚げであまりにも美しいのと、あまりにも哀しいのとで、僕は無理にでも笑顔を返そうとするけど、巧くいっているかどうか自信がない。
 泣いてなんかいない、絶対に、泣いてなんかいない。
 僕はこのまま手をこまねいているしかないのか。唯一の有効な手段――僕らが互いのいる世界を自由に行き来する術を得ること。でもそれは叶わない。幾度も幾度も、考え得る方法を試した。知り合いを通じて分権を適ったりもした。徒労だった。それでも残された手段が一つだけある。
 似非神イク――、無限の時空世界を航海する神に最も近付いたかつて人だったモノ。一頃、共に無数の異界を彼の舟に乗って旅した。あいつならば、何か方法を知っているかも知れない。いや、あいつなら、方法云々関わりなく力尽くで成し遂げるだろう。そういうヤツだった。傍若無人、唯我独尊、そして天下無敵。
 しかし彼をこちらから探すことは不可能。連絡手段もない。ただ、彼が気紛れに訪れるのを待つしかない。
 それしか、ないのか。

   *
 彼女がまったく姿を見せなくなった。
 彼女の容態を知ることも出来ず、せめて励ましの言葉だけでもと思うも、言葉は空しく鏡面に跳ね返され、やくたいもなく芥と化すばかりで、何一つ彼女に届けられない。何か一つとて彼女のためにしてあげられることもなく、どころか彼女が今どうしているのか知りようもなく、なすすべもなく、彼女が生きているのか、それとも……、そんなことまでも考えてしまい、そんなことばかり考えてしまい、この無力感、全身に重く、じわりじわりと苛み、責め立て、憐れみ、哀しみ、地上から全ての美しきもの楽しいものを奪い去り、闇ですらない無色で、無味で、無臭な、虚無の最果てにある、絶望すら意味を失う本物の無を想起させる。
 僕は、どうすることも出来ず、姿見の前にへたりこんでいる。こうしてこのまま全てを投げ出してしまえば、彼女と運命を共にすることが出来るだろうか。
 どれほどそうしていただろう。はっきりしたことは分からない。意識が朦朧としている。外の明るさから今が夜でないことくらいは理解出来る。
 一つ、やらねばならぬ事がある。たった一つ、出来ることがある。ふと思いついたそれは、かねてより気に掛かっていたことでもある。そのことがどれだけ彼女のためになるのか、単なる思い違い、まるで意味のない徒労に終わる可能性も高い。が、徒労であったとしても、何もしていなくても結果が変わるわけではない、嘆いていても彼女は救われない、なら、わずかなり可能性があるならそれに賭けてみるべきだ。
 それに、実際のところ、何かしなければ僕自身の精神が保たないだろうことも実感していた。一時は滅びを夢見たこともあったものの、あのまま潰れてしまうことを彼女が望まないだろうことは、こんな僕にだって充分分かる。本当の愛情と、上辺の感傷は違う。ただ嘆いて嘆き続けて全ての可能性を廃棄してしまうことと、彼女の思いを慮り可能性に立ち向かっていくのとでは、天地ほどの差がある。僕はそこを誤るところだった。
 そして手に入れた一枚の写真。
 調べるといっても大したことはしていない。ただ隣家へ行ってしばらく茶飲み話をして来ただけ。隣の爺さまは、普段から退屈していたものか、快く招き入れてくれた上に、茶と菓子まで用意する歓待ぶりに少しばかり恐縮してしまう。
 爺さまはこの家の現在の家主で、以前この家に住んでいた家族とは家族ぐるみの付き合いでとても仲が良かったのだそうだ。特に嫁いでいったお嬢さんには弟のように可愛がって貰ったものだと、懐かしそうに語った。僕はその話にじっと聞き入った。古いアルバムを引っ張り出しては、これはあの時の、それはその時のと嬉しそうに指さし解説する。活き活きと語る表情は往時の昔に返ったようだ。そんな中の一枚、少年時代の爺さまと、彼よりもいくつか年上であろう美しい女性とが寄り添って写された写真。少年は利かん気の強いいかにも悪ガキじみた雰囲気でありながら、照れ隠しのようにはにかんで笑っている。確かに、爺さまらしい。隣に並ぶ女性は、着物姿で、そんな少年を包み込むように優しく微笑んでいた。
 その同じ微笑みを、僕は知っている。

   *
「えらい、辛気くさい顔してまんのやな」
 声を掛けられてどきりとした。
 人がいるとはよもや思わない。いくら僕が惚けもんとしても、まさか他人の入り込んだのに気付かないなんてことはないだろう……と思う。ましてや、声を掛けてきたのが人ならぬかわずとあらば、驚かずにいるほうがおかしい。
「何をそないに驚いてまんねんな、初めて会うたわけでもないやろに」
 つるりとした緑色の平坦な顔をしたかわずは、座卓にちょこんと座り、いつの間に用意したのか我が家の湯呑みで熱い茶を啜っている。人間でいう小学生くらいの体格か、いわゆる直衣という平安貴族が平常服とした衣装を着込み、烏帽子を被っているのは、両生類にあるまじき小生意気さで、くるりと生やした泥鰌髭などあまりに漫画的で滑稽でさえある。
 かわず大臣おとど――、妖異の中では特に大きな力を持つモノではないが、顔が広く事情通で、妖異周りに顔が利くだけではなく、人の社会の咒師たちにも珍重されていたりもする、変わりモノである。
 そういえば、こいつとは夏前以来会っていなかった。どこか遠出でもしていたのだろうか。
「ちょい野暮用であちこちうろうろしとったんどすわ」
 野暮用……ね、妖異共が騒がしく動く時にろくなことは起こらない。巻き込まれないように気を付けて置いた方がよさそうだ。
「それはそうと、似非神の噂を聞かなかったか」
「似非神……イクはんでっか。いや、知りまへんな。ていうか、この辺りの次元世界であんさんが一番イクはんに近しゅうおっせ。あんさんが知らんもん、他の誰も知りまへんやろ」
 そういうものなのか。
「まぁ、あないなどでかいもんが近付いて来よったら、儂らでも分かりそうなもんでっけどな。そしたら、えろう噂になりまっせ」
 だろうな。
「イクはんになんか用でっか」
「うん、いやまぁ……」
 どうしたものか迷ったけど、少々照れくさい思いを味わいながら、彼女に初めて会ってからのいきさつやらをかわず相手に語ってみた。僕自身は、怪異だの妖異だのと縁深く、なにかしらちょこちょこと関わりを持つことも多いのだけど、かといってそれ自体に詳しいわけじゃない。だから、この事情通のかわずの見解を聞いてみるのもあながち悪い選択ではないかと思ったわけなのだが。
「……で、その写真がそのお人でっか……いや、ちゃいまんな、そのお人は、ここにいはった家のお嬢はんや」
「知ってるのか」
「ここの庭は儂らの集い処でっから、そりゃ人の感覚で言うたらそうとう長いこと訪れてまっからなぁ」
 人の時間と妖異の時間……、異世を巡る妖異には時間の感覚などあってないようなものなのだろう。
「せやけど、ええお嬢はんどしたなぁ」
 妙にしみじみ言う。
「小さい頃から家事とかよう手伝うたはってな、庭で洗濯物干したりしたはったわ。隣の悪ガキの面倒もよう見たはったなぁ。器量好しで気立てもええし。お嫁にいかはる時は、そりゃ、残念どしたわ」
 せやけど……と今度は妙に神妙な顔で、
「不思議なことにな、その嬢はん、お嫁に行く時は半分だけやったんや」
「半分……て、どういうことだよ」
「半分は半分どすがな。心の半分をこの家に置いていかはったとか、そんな感じどすな」
 何かよほど嫁に行きたくない理由か、もしくはこの家に未練でもあったのだろうか。それがもし不幸な結婚だったとしたら。
「結婚自体をそない厭がったはる感じはおへんでしたな。せやけど、なんかこの家にいなあかんような気がする言うてはったわ」
「それで半分だけ嫁に行って、半分は残った」
「そういうことでんな。直接会うたことはおへんけど、その後もなんやあのお嬢はんの優しいあったかい雰囲気言うんか気配みたいなもんは感じてたもんやなぁ」
 昔を思い出すのか一人頷きながら、ふと気付いた様子で、
「そういうたら、今日は、あのお嬢はんの感じが感じられまへんな」
「そうか」
 思ったとおり、彼女は……
「なるほど、そういうことでっか。ようおす、あんさんの好いた人のためやったら一肌脱ぎまひょ」
 かわずが脱皮するとは知らなかった……なんてことは言わない方が良いのだろう。
かわずは脱皮なんぞしまへんけどな」
 と自分で言った。

   *
 彼女は瀬山琴乃。
 当時の瀬山家の一人娘で、十九で近隣の富豪の元へ嫁いでいった。嫁ぎ先は隣の爺さまに聞いて知っている。西陣の織物商、一頃はそうとう羽振りが良かったらしい。が、折しも繊維不況、西陣に不況の嵐が吹き荒れ、会社は倒産、家は売られ、数年前から音信が途絶えて以後のことは爺さんにも分からないらしい。爺さんよりも五つ年上と言うから、今年で八十二歳。考え合わせるなら、おそらくは……。急いだ方が良いのかも知れない。

   *
 事態は切迫している……はずなのだけど、なんだのんびりした光景。かわず大臣おとどに加え、颯爽と現れたはずの猫の近衛隊長までが座卓に座り込み茶を啜っている。
「随分と余裕なんだな」
 何も出来ることのない僕が、何も出来ない苛立ちを抱えて何もしないまま、何かが出来るはずだと彼らを非難するのは、単なる八つ当たりにすぎない。それは良く分かっている。分かってはいても、それでも心は逸る。心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅く速い。緊張に粘る汗。目の奥がじんじんする。ともすれば意識がぶっ飛びそうだ。遅きに失すれば、もう二度と彼女に会うことができない、そんな気がして、いてもたってもいられない。
「まぁ、落ち着きなはれな」
「そうですよ、お気持ちはお察ししますが、今は辛抱です」
 揃ってたしなめられた、かわずと猫に。
 しかし奇妙な光景である。何しろ、かわずと猫が並んで茶を啜っている。自然界で言えば捕食者と被捕食者という関係性(……猫がかわずを喰うのかどうか実際のところは知らないけど、戯れに弄んだりはしそうだ)。ところが、今この場を見れば、むしろかわずの方が偉そうにふんぞり返っている。
 かわず大臣おとど大臣おとどとは、かわず界の大臣おとどという意味ではない。妖異界の大臣おとど、すなわち妖異の頂点にある妖異皇帝の側近の一人であり、七十二柱いる妖異貴族のうち、上位二位である従一位という位階も賜っている。そこいらの獣の王たちよりもよほど位が高い。例えば、猫王ミーシャが、獣の王としては上位であるとはいえ従三位であるからその差は歴然、王の使いである近衛隊長がかわず大臣おとどにへつらうのは当然のことなのである。それは妖異の世界では当然のことでなにも特別なことではない……という説明を何度か受けた覚えがある。
 と、そこに駆けつけたのは猫の従者。
「報告いたします」
 まるで忍者か何かのような黒尽め。おそらく似たような役割を担わされたモノなのだろう。
「烏天狗より連絡あり」
 と小さな筒を近衛隊長に手渡す。
 それにしても、
「鴉まで動員しているのか」
 鴉と猫は昔から相性が悪いといわれる。鴉は猫を「地を這うモノ」と嘲り、猫は鴉を「残飯あさり」と蔑む。その二者をして共同戦線を張らせるほど、従一位かわず大臣おとどの威光は実効性を持つ、本物だと言える。
「で、何が書かれてるんだ」
「目標と思われる人間の女性を発見したようです」
 鴉に先を越されたのが面白くないのだろう、近衛隊長の表情は苦々しく険しい。その鋭い視線を向けられた従者が小さく縮こまる。
「別に勝負というわけではないからな」
 ぼそっと言った言葉は、自身の納得していないことをありありと表していた。
「ほな、そろそろ行きまひょか」
 よっこらしょと難儀そうに立ち上がると、それ以上に難渋そうにひょこひょこと歩き出すかわず大臣おとど、こっちへふらっあっちへふらっと覚束ない。二足歩行にはよほど向かないだろう。
「貴人は自分の足で歩いたりはせんのどすわ」
 と嘯く。

   *
 東堀川通一条上ルの家から、まったく目と鼻の先、一条通新町東入ルに、入院設備もある小振りの総合病院がある。そう広く知られているわけではないけど、規模の割りに整った機材、きめ細やかで丁寧な対応が知る人ぞ知る。
 ここに、時を過ごした方の彼女――瀬山琴乃がいる。
 これには隣家の爺さまも思わず苦笑を漏らすことだろう。ごく近所であるだけでなく、なにしろ爺さまの行きつけも(矍鑠としすぎていてどこか悪いところがるのかさっぱりわからないけど)ここだからだ。
「灯台下暗したぁよう言うた言葉やなぁ」と爺さまの苦り切った声が聞こえてきそうだ。
「なんとか、間に合うたみたいでんな」
 病院に入るなりロビーのソファーにどっかり腰を下ろしたかわず大臣おとど、やれやれとかなんとか言いながら腰を伸ばしたりふんぞり返ったりしている。しかしながら、家を出てすぐに猫たちの担ぐ輿に乗ってここまで来たのだから、自力ではほとんど歩いていない。やれやれも何もあったものじゃないだろうに。
 傍には猫の近衛隊長と、烏天狗の筆頭弥二郎坊が控えている。互いに苦り切った表情で目を合わせようともしないのを、かわず大臣おとどは気にした風もない。
「ほな、儂らはここまでいうことで」
 言うなりの高鼾。
「やれやれはこちらですよ」
 と猫の近衛隊長。顔を背けたまま弥二郎坊も肯く。なんだか申し訳なくなって、
「済まなかったね、二人とも」
「まあ、あなたのせいではありませんから。それよりも、早く行っておあげなさい」
 二人が目で促す先、廊下の先にエレベーターが見える。
「五階の五六○号室です」
 僕は深く頭を垂れてエレベーターに乗り込んだ。

   *
 彼女は病室にいた。
 病室のプレートに貼られた名前は笹津琴乃――結婚後の彼女の名前。彼女がどんな人生を歩んできたのかは分からないけど、離婚はしなかったんじゃないだろうか。多分だけど、そんな気がする。
 広い個室。ゆったりとしていて落ち着きがある。暮し振りは悪くないのか。大きな花瓶に生けられた取り取りの花。見舞客もちゃんと来ていることに安堵する。音信不通の後も、それほど非道い生活を強いられることはなかったのだろうか。
 カーテンに仕切られた向う側にベッドがあるのだろう、眠る人影が、差し込む月明かりに映し出される。寝息までは聞き取れないが、苦しんでいる様子はない。
 この邂逅をいったい僕は望んでいたのだろうか。波乱めいたことの何もなく、ずっと彼女といられたら、あのまま触れ合うことも語り合うことも出来ないとしても、彼女と過ごす穏やかな日々を僕は心の底から望んでいた。でも、そうはならなかった。彼女は病に伏せった。そんなことが起こるはずもないのに。理由はただ一つ、半身を残していった本来の彼女が、彼女の命の灯火が今、失われようとしている。本来である彼女が亡くなってしまえば、残された半身である彼女も……
「誰か、いるの?」
 思いの外穏やかな、柔らかな声に心臓が跳ね上がる。初めて聞く、これが彼女の声。彼女に会いたい、会って話しがしたい、喩えこれが最初で最後でも。その思いでここまで来た。それなのに、どうして良いか分からない。どう、彼女に返事をして良いのか……。
「あなた、なの……?」
 戸惑う声は、訴えかけるように、願うように、祈るように、切実で哀切で、それでいて縮こまっていた心と身体を解きほぐしてしまうほどには力強さを感じた。決して、死に怯える者の声じゃない。
 僕は彼女を驚かさないよう、ゆっくりとカーテンを巡る。
 彼女の言う「あなた」が僕を指してのことなのか、いや、そうじゃない可能性の方がはるかに高い。普通に考えれば、彼女が僕を知っている道理がないのだから。今、彼女の近くにいる誰かだと思ってのことだろう。旦那さんかも知れない。息子さんか娘さんかも知れない。
 それでも、
 僕は、
 ……
 ベッドに横たわる彼女はとても小さく見えた。蒲団から顔だけ出して、穏やかな表情、来たるものを静かに待つ、畏れも怯えも呑み込んで、平穏を、自ら生きた幸福な記憶の中から生み出そうとしている。
 僕がベッドの脇にあるパイプ椅子に腰を下ろすと、気配を感じて、彼女が僕を見る。驚いた様子も、怯える仕草もない。まるで僕がここに来るのを知っていたかのように。
 僕を見て、にっこりと微笑み、
「本当に会えた」
 と、うっすら目に涙を浮かべた。
 もちろん六十年の歳月は彼女の容姿を大きく変えてしまっている。でも、彼女だった。その眼差し、微笑みのちょっとはにかんだ初々しさ。彼女が本当に生きて年を重ねたその時の姿。でも、共に歳を経たのは僕じゃない。僕の知らない人生を歩んだ彼女、僕と運命を供にしなかった未来の彼女が、今目の前にいる。この複雑な情況、この複雑な心境に、僕は泣きそうになる。
「夢に見ていたのよ」
 彼女は穏やかな微笑みのまま僕を見詰め、
「夢だと思っていた。でも、ただの夢じゃないとも思っていたのよ」
 弱々しい仕草で彼女はなんとか震える手を差し出し、僕に触れようとする。僕はそのんな彼女の手をぎゅっと握りしめた。
 温かい。そして、柔らかい。
 初めて感じる彼女の温もり。僕はこれをどれだけ求めていたことか、今、改めて思い知らされる。諦めていた、ずっと一緒にいられるならなくても良いと言い聞かせていた。でも……、
 良かったとは言えない。
 けれど、嬉しかった。こんなに心が震えるほどの歓びは、そう何度も感じることはないだろう。
 僕は、思い出して、サイドボードに初めて彼女と対面したあの鏡を置く。別れたままじゃ、なんとなく良くない気がしたから。
 人生を歩み身体と心に時間を刻みつけた、生きてきた琴乃。
 家に留まり、時間を止め、あの時のまま眠り続けてきた琴乃。
 二人の琴乃の姿が重なり、一つに解け合う。
 僕は、泣きたくなんてなかったのに、ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙が頬を伝わって落ちていく。悲しかった、とても悲しかった。そして、少しだけ嬉しくもあった。けど、やっぱり悲しくて、どうしようもなく、涙が止まらなかった。
「少し疲れたみたい。はしゃぎすぎちゃったかしら」
 彼女がゆっくり眼を閉じる。
 僕はたった一言、それが精一杯だった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
 僕は彼女の額に口付けする。これが彼女への最初で最後の接吻。
「ありがとう」
 彼女が言った。
 僕は病室を出た。

   *
 季節外れになった風鈴。その音があまりに寂しげなので、つまんで持ち上げる。そのガラスの胴に、今現在の我が家の光景と、それを背にする僕の顔が映っていた。
2013年09月07日(土) 11時54分51秒 公開
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■作者からのメッセージ
とりあえず書き上がりました。
これから本腰入れて修正していきたいので、ご助言よろしくお願いします。

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No.7  青空  評価:40点  ■2013-11-22 20:50  ID:wiRqsZaBBm2
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歳月に洗われた美しき婦人の肌に触れ、指先が恋焦がれているような濃厚さを感じてしまいました。そのまま抱きしめてしまえば、消えてしまう、急かされるという幻灯篭を、追い求め、さまよい、深淵の広がりに突き進む。幼稚だと笑われることもなく、ただ受け入れられ、快楽の糸に籠絡されている。私はむしろ熟女より若い人が好きなので、なんとも言い難いのですが、こういうのも悪くはないと言えるようです。
No.6  お  評価:0点  ■2013-09-21 02:12  ID:wxwaeJFv2JA
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どもどーも。
今現在、お二人の意見を参考に書き直ししてます。
色々書き足したりしてるうちに段々バランスが分からなくなってきます。
元ある物を残しつつなんて思うと逆にバランスが難しいですね。
かといって、全部消すのはもったいないなぁとか。
思ったよりも難航してます。とほほ

To gokuiさん
おおきにどす。
>書き慣れている
歳喰ってるなりのことはあるってことで良いのかな。
おおきにどす!
>問題点がある
ですね。問題のあるまま放り投げてみて反応を見てみたかったんですよね。
投稿サイトってそういう使い方もありと思うんですよ。
おかげでありがたいヒントを頂くことが出来ました。
>夫を登場させる
おっと、なるほどw
それは全然考えてませんでした。
うーん、ちょっと考えてみます。
>別人格
これも、まったく想定してませんでした。
うーん、まぁ、そうか、別人格といえるのか。
あー、まったく理解出来てませんよ。
ちょっと、考えてみます。
貴重なご意見、ありがとうございます。


To 白星さん
どもどもー。
>最後の風鈴
おおきにどす。
このシーンは残すようにしますね。
>千と千尋
僕も好きですよ、この映画。
>シリアスにならない
書いて方がシリアス一辺倒に耐えられないという…orz
>和ファンタジー
この評価は嬉しいですね!
おおきに、おおきにどす!
No.5  白星奏夜  評価:40点  ■2013-09-19 01:56  ID:FaS9bFR4fFM
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こんばんは、白星です。

拝読させて頂きました〜、良かったです。
最後の風鈴が、特に。音と情景が想像できて、とても良い余韻となって響いてきました。読み終わった後に良い余韻を感じたり、作中の情景を微笑みながら思い返せる作品はとても好きですw

指摘は……他の方がされているので、私からは良いかなあなんて。勝手な連想ですが、どことなく千と千尋を思い出しました。蛙のせいですかね? でも、私的には蛙大臣のキャラが結構気に入りました。彼らのおかげで、単調なシリアスにならないところが、どこか楽しかったです。

全体としてしっとりとしつつも、遊びあり、風情あり、で物語を楽しめました。和ファンタジー、ご馳走様でした。

というところで、今回は失礼させて頂きます。ではでは〜!
No.4  gokui  評価:40点  ■2013-09-18 21:05  ID:3.rK8dssdKA
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読ませていただきました。
かなり書き慣れておられますね。ゆうすけさんやzooeyさんが書かれているように、結構問題点があると思うのですが、まったく気にせずに楽しく読ませていただきました。書き慣れていないとこうはいきませんよ。
対面シーンについてちょっとアイデア出しますね。
まず、琴乃さんの夫と主人公を対面させます。琴乃さんに数日前から別の人格が現れるようになったという話を出し、主人公とよく似た雰囲気の人に会いたいとしきりに訴えているということにします。「今の琴乃はどちらの人格の琴乃か分からないが、会ってやってもらえないだろうか」という夫の台詞の後に対面シーンに移行します。姿はどうあれ、その人の中に愛する人がいるということになればラストシーンの違和感は緩和されるんじゃないでしょうか。
それでは、今後も頑張って下さいね。応援しています。
No.3  お  評価:--点  ■2013-09-13 01:19  ID:f0aM3/7raEY
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Toゆうすけさん
ちーす。ありがとうございます!
>イクについて
今回の話しの流れには全く必要ないのですが、まぁ、知ってる人なら知っているかなー的なことで、ちょこっと登場。こやつの設定、最初はただの見習い式神鬼だったのに、だんだん、化け物じみてきますw まぁ、なにかと使っていくつもりではいますので、いずれまた。
>妖異の序列
本当は俗っぽいかんじであんまりウケ狙い過ぎかなーとも思ったんですが、分かりやすくてキャッチーでまぁこういうのも良いかなという感じでやってみました。
>京都弁
蛙大臣の話し言葉ですね。読み返してみると、バラバラですねorz 京都弁ぽいところと関西弁ぽいところが混じってます。これは修正の必要がありです! けっこう、気分で書いてたので気付かなかったです。
>見た目は関係ない
まぁ、僕個人は、若くてぴちぴちしたの良いですがね。
>「間」と「擬音」
まぁ、合う合わないはあると思うんですが、今回は僕なりにこの二つはある程度の部分で思うように出来たかなと感じています。課題は、妖異との絡みの部分とラストシーンですね。ここのところはうまく「間」が取れてないような気がしています。ラストシーンとか動かないシーンの「間」ってけっこう難しいというか、時間掛かっちゃうんですよねぇ。妖異のところは逆に動いてきたのでとっさにどうして良いか分からなかった感がありますね。
>動機について
うーん、ここはさらりと流したんですよねぇ。迷ったのは、主人公との出会いを予感していたことにするかどうするか。今のところは、単純に家に執着というか家の雰囲気のなかに留まっていたかったというだけに留めています。それ以上の大層な理由は考えていませんでした。これも一つ、考えるべき課題ですね。
>妖異設定
まぁ、これもお話の筋とは関係なかったので、なくても良かったのですが、ちょっとした小道具としてあっても良いかなと。もちろん、この後も引き続き使えるんじゃないかという色気も出してますけどね。 ちなみに、蛙大臣も僕の定番キャラの一人です。猫の王もちょいちょい使うかな。天狗は始めてかも、まぁ、京都だし。
>ファンタジー?
tori君にホラミス板もFT板もなくしちまえと言った手前、ここに出すのが筋かなと、それだけの理由です。
小説投稿板はもう、一つで良いじゃないかなぁ。とか。



Toぞいこさん
ちすちーす。ありがとう、ありがとう。
>夏の涼気が
あったーす。まぁ、そのために書いたようなモノですね。あとの展開とかおまけです。とかいう発想でいるからダメなんだろうなぁ。展開を広げるのが苦手だ。
>文態の趣
今回意識したのは、もちろん真似ようったってまねられるようなモノじゃない、とてつもなく素晴らしい作品なんですが、「家守綺譚」とか、頭の片隅に意識していました。まぁ、全然違うし、足元にも及ばないですが。
>なんたらサーガ
まぁ、しばらくこの設定の延長で遊べればと思っています。
>彼の背景
朧気に考えてはいますけどねぇ。「」で書きだして貰ったところは思いつきで書いたので、まぁ、訳あり家庭に生まれたのだろうなぁくらいしか。後ろ暗いことを受け継ぐ家系、神隠し、異界探訪、貴種流離譚、異種婚姻譚、そんなところを背景にしようかなぁとか、ほんと、朧気に考えてますが、具体的には煮詰まってません。いずれまた、別の機会に……
>鏡の女性に惹かれる
ここが僕も弱いなと感じていたんですが、何かいい手はないものでしょうか。この展開に付随させるには過去話しはちょっとバランス悪い気もします。母親、あるいは姉あたりになんらかのコンプレックスを持っている、憬れとか、満たされない気持ちとか、そんな感じがベタなところかな。うーん、でもこのボリュームで下手に回想なんか入れたら頭でっかちになりそう。あっさりとした展開なので、この一話の中にあまり情報を詰め込みたくはないんですよねぇ。できれば、臭わせる程度に留めたい。まだまだこいつらには語られない、語られるべき背景があるんだよー的な。まぁ、語るか語らないかは別にして。それも、一つの演出であるとは思います。ただ今回は臭わせることもしていないので、ちょっと、考えましょう。
>対面するシーン
うーん、さすがに読まれてるなぁ。こんなのぶっちゃけちゃっていいいのか分からないけど、実際、このシーン、具体的にイメージが湧かなかったんですよねぇ。書いてるボク自身、なんか嘘くさいと思ってましたから。ただまぁ、最初に展開組んだんで、変更も思いつかなかったんで、とりあえず書いたんですが……。いずれにせよ、ファンタジーには違いありません。ファンタジーなので、彼は80のおばあちゃんを見てもがっかりはしません。彼らは(都合上必要なければ)排泄なんかもしません。そういうモノです。空想上の理想です。それはそれで良いと思うんですが、結局、ボク自身がいまいち納得いってないので、描写もなにも中途半端になってしまって、上辺の情感で誤魔化した感じがしますね。人間の成長って言うのも良いのでしょうが、いまちち、キャラのイメージと合わないんですよねぇ。そのくらいの筋が遭ったほうが良いのはよく分かるんですが、どうもしっくりこない。うーん、やっぱり別の筋を見付けるしかないですねぇ。むしろ考えているのは、「共に歳を経たのは僕じゃない。僕の知らない人生を歩んだ彼女、僕と運命を供にしなかった未来の彼女が、今目の前にいる。この複雑な情況、この複雑な心境に、僕は泣きそうになる。」ここですね。これの感慨をうまく筋として繋げられないかなぁ。こっちのほうが彼らしいと僕としては思ってしまうわけですよ。
>彼女が家に残った理由
これもちゃっと考えなきゃですね。
いろいろどうもありがとうございました。
今回はためになる指摘が続いてて嬉しいかぎりです。
No.2  zooey  評価:30点  ■2013-09-12 16:54  ID:KAaPhEMuxTU
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読ませていただきました。

とても読み心地の良い作品でした。
冒頭、リズムや言葉(特にリズム)が古典の和歌っぽい印象で、
おそらく下手にやってしまうと安っぽくなってしまうのかなと思うのですが、
おさんが書くと、脳にリズムや言葉が流れ込んできて、ふっと夏の涼気がよぎっていくようで、
本当に、読んでいて心地がいい、という感じでした。

全体にも、妖異の世界と、文体の和の趣が上手く調和していました。
というか、妖異の世界は割と和なイメージが強いのか、あまり触れないのでちょっと分からないですが、
両者のイメージが上手く呼応していたと思います。

妖異の世界、面白いですね。
小出しになっていますが、設定がはっきりしているのが分かるような感じで、
ゆうすけさんも仰っていますが「何たらサーガ」みたいな感じで小説世界が作れそうだな、と思いました。

割と古風な女性の好みを持った高校生だな、と思ったのですが、その辺も、趣味がぶれなくて良かったなと。
ただ、彼の背景もちょっと欲しいなとは思いました。
「求めても求めても一度たりとも得られなかった、人としての繋がり」とあるのだから、
その部分の背景が多少なりとも描かれた方が、
彼が鏡の女性に惹かれたことにも、人肌への慕情にも、何かしら説得力が出た気がします。

また、彼が病室を訪れ、実際の彼女と対面するシーンですが、少し心情的にファンタジックすぎるかな、と感じてしまいました。
これは、私が意地悪な感覚の読み手だからという理由なのかもしれませんが、
少し現実離れしてしまっているというか。
というのも、奥ゆかしくて美しい所作の美しい女性に憧れていた男子高校生が、
老いて80歳になったその女性を見てがっかりしない訳がないというか。
そもそも、彼は彼女の見た目以上のものは知らない訳だから(多少隣のおじいさんに聞いていたことはあったにしても)。
見た目とか雰囲気とかだけでない、人間的な魅力を感じていたという風にするか、
若しくは、病室で見てがっかりはしたけど、手を握った時の温かさ、人肌感に感動して、人間的な成長、とか、
そんな風な感じの方が、私としては好みでした。

彼女の家に残った理由も、確かに気になります。

いろいろ書きましたが、楽しく、するする読み進めることができました。
表現的にも勉強になる部分が多く、読ませていただけて良かったです。
ありがとうございました。
No.1  ゆうすけ  評価:40点  ■2013-09-07 16:17  ID:ka2JhsoTEZ6
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拝読させていただきました。

おさんワールドですね。イクはおさんの顕現の一つかも。今回は登場しませんでしたが存在感がありますね。
妖異の序列、きっちりと書き込まれていて世界に広がりを感じさせてくれます。京都弁でしょうか? 独特の語り口の蛙がいい雰囲気を出しています。

ストーリー、切ないロマンス……美しい話だと感嘆しました。想いを遂げるに見た目の年齢は関係ない、いいお話じゃないですか。

おさんの描写は「間」と「擬音」が興味深く、毎度楽しく読ませてもらっています。大人の渋さを感じますよ。あと美女とか飲酒シーンとかトボけたキャラとか記憶に残っています。友人に私の作品読ませたら「説明文みたい」とか言われて凹んだな〜。

修正するための助言? むう。無理やり考えてみます。
彼女が心を残していった動機はなんだったのかな? 因縁があってラストでわかるとか。
主人公と、イクとか妖異とかの関係は?
おさんワールドとして変異などの面白い設定がでてきます、舞台設定が上手い作品に出会うと毎度思うのですが、彼らにもっと活躍させてあげてねって。この舞台設定で短編集が書けそうな魅力的な妖異たちです。
これってファンタジーですよね?

ではまた。
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