わたしと部屋 |
わたしは“外”を知らなかった。 だから言った。 「外に出たいわ。」 ママとパパに言った。 ママはなんだか嬉しそうだった。 パパはなんだか悲しそうだった。 連れてこられたのは知らない部屋。 真っ暗な部屋だった。 ここから外に出られるの? わたしはその部屋に押し込まれた。 ママは言った。 「このドアは、決して開いてはダメよ」 よく意味はわからなかった。 だけど頷いた。 パパは言った 「ごめんね。ぼくは守れないかもしれない。」 よく意味はわからなかった。 だけど頷いた。 ママの顔がいきなり怖くなった。 ママはドアを閉じた。 鍵が閉まった。 1人きりになった。 いやだ!開けて! わたしは泣いた。 気付けば朝になっていた。 泣き疲れたわたしは、 日の光で明るくなったその部屋の中を見渡した。 とっても広かった。 壁が見えないくらい広かった。 とっても広いけど、 退屈で、孤独で、切なくて、 わたしが昨日までいた狭い部屋よりも、むしろ狭苦しく感じた。 あまりに退屈だったから、 もっと奥まで行ってみた。 知らない子どもが遊んでた。 はじめまして。 その子どもは一緒に遊んでくれた。 遊んでたら夜になった。 部屋の中はまた真っ暗になった。 バイバイ。 その子は部屋の奥へ行ってしまった。 ついて行こうとしたけど、 部屋の奥はそこよりもっと暗くて、 なんだか怖いからやめた。 しばらくするとそこにいるのも怖くなって、わたしはドアまで戻った。 ドアは開かなかった わたしはドアを叩いた。 開けて!怖いの!開けて! ドアは開かなかった。 ママ!パパ!開けて! パパ!ママ!開けて! パパ!パパ!開けて! わたしはドアを叩き続けた。 ドアの向こうからママの大きな声が聞こえた。 パパの静かな声も聞こえた。 ドアが開いた。 開けたのはママだった。 ママは部屋に入ってきた。 ママはわたしの目の前に立った。 ママはわたしをにらんだ。 ママは舌打ちをして、歩きだした。 わたしのママは、 わたしの大嫌いなママは、 わたしをいじめる嫌なママは、 部屋の奥へと消えていった。 ドアの向こうにはパパがいた。 わたしのパパは、 わたしの大好きなパパは、 わたしを愛してくれるパパは、 わたしを抱きしめた。 パパは温かいスープを作ってくれた。とても美味しいスープ。 でもパパ?どうして泣いてるの? パパは言った。 「ごめんね。ぼくはママを愛していたんだ。ごめんね。ごめんね。」 泣かないでパパ。 謝らないでパパ。 でも、ちょっと待って。 愛していた? じゃあもうママを愛してないの? パパはしばらく黙り込んで、 それから深く頷いた。 パパの涙は止まらない。 ごめんねパパ。 パパが辛そうだった。 わたしも辛くなった。 だからこの話はやめた。 違う話をした。 ねえパパ?さっきのあの部屋は何の部屋?あの部屋に知らない子どもがいたの。 パパは一瞬驚いたような顔をして、ちょっと困った顔をして、 それから優しく笑った。 「あぁ。ははっ。あれはね、あれは部屋じゃないんだよ。あれはね……」 翌朝、パパと一緒に、 部屋じゃないあの部屋へ行った。 昨日はあんなに怖かったのに、 パパと2人だと全然怖くなかった。 パパとわたしは手をつなぎながら、奥へ、奥へと進んだ。 ねえパパ?どこへ行くの? 「そうだなぁ。欲しい物はあるかい?」 パパにきかれた。 今日のパパはなんだかとても嬉しそう。 だからわたしもとても嬉しい。 その時わたしは気づいた。 ここがわたしの望んだ場所なのだと。 欲しい物って、何でもいいの? パパは素敵な笑顔で頷いた。 わたしも全力の笑顔を返した。 じゃあね、えっとね、ケーキ! ケーキを食べてみたい! あとお洒落なお洋服も欲しい! かわいいお人形さんも! それから、それから…… わたしはパパにお願いした。 幸せをいっぱいお願いした。 その日、わたしは“外”を知った。 end |
URA@jack
2013年09月02日(月) 14時45分12秒 公開 ■この作品の著作権はURA@jackさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.1 清之介 評価:40点 ■2015-10-03 01:08 ID:96fe6iGQYyY | |||||
この作品には二つの話があって、一つは両親が離婚した(おそらく子供は父の連れ子)、もう一つは子供が家から外出すること、と推察したがどうだろうか。 ただこの二つの関連性が弱い。 離婚したから外を知るでは読者を納得させられないなぁ。 この二つを接着させるような三つ目のエピソードがあれば、すごくいい作品に仕上がる可能性を秘めています。 作法なんかはメチャクチャだけど、なんか魅かれる作品なんだよね。 今後の活躍に期待しています。 |
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総レス数 1 合計 40点 |
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