もうひとつ未来













 勿論、地肌を剥き出しにした頭の上にある老眼鏡が、押入れから出てくることはない。それでも老人は、ふすまを開けては、押入れの中を探した。すると、奥の方から出てきたのは、小さな金庫だった。鍵はダイヤル式で、ロックされているようだ――その瞬間、老人の目的は、老眼鏡探しから金庫開錠へとすりかわる。ガチャガチャと音を立てながら、あても無く右へ左へダイヤルを回す。馬鹿の一つ覚えのようにそんな作業を繰り返すと、金庫が根負けしたように口を開けた――中から出てきたのは、クシャクシャに丸まった鈍色の紙のようだった。
「何だ、これは……?」
 先程までの執着とは裏腹に、老人は大した興味も示さず、丸まった紙を無造作にゴミ箱へと放った。
 ――ゴミは収集車に運ばれ、焼却場で燃やされる運命にある。紙が熱せられると、それは幾筋もの閃光を放ち、けたたましい音と共に爆発した――他でもない、地球を吹き飛ばすほど。





「大変だ!」
 ――ここはそれとなく都内に建った、雑居ビルにある会社の休憩室。昼休みの仮眠を取っていた社長の黒澤は、飛び起きた。三十代半ばという若さに加え、従える社員は十人と乏しい黒澤には、まだ社長の貫禄は感じられない。
「どうした、黒澤ブラック?」
 デスクワークをしていた清川が反応する。黒澤と幼なじみの清川は中途採用ながら、そのコネと頭脳を買われて、今や黒澤の右腕だ。
「夢を見たんだ! 地球が……爆発した……」
「何……?」
 清川は固まった――その瞳はトレードマークのサングラスに隠されて、表情を伺うことはできないが。黒澤は構わず、夢の内容を話し始めた。
ジョーカー、、、、、だよ。ボケ老人の家から出てきて、捨てられた……燃えるゴミに」
ジョーカー、、、、、だと? ついに……」
 凍り付いた二人をよそに、絵に描いたように腰がひん曲がり、若草色のスカーフで白髪を巻いた老婆がノソノソとやって来た――清掃職員の江尻だ。
「誰がボケ老人やねん。何や、社長さん、また正夢でも見たんかいな。私のお葬式か? それとも、私のお通夜か?」
 深刻な事態でも、黒澤はお年寄りには優しい。
「それならいいんだけどね……みんなのお葬式になっちゃうかも」
 黒澤のブラック、、、、ジョークに、清川も苦笑する。
「あらあら、そら大変やな。みんなお葬式になったら、お香典も高くついてまうな」
「……で、それはいつ起きる話なんだ?」
 たまらず清川は、江尻のとりとめのない冗談を遮るように尋ねた。
「まだ、そこまではわからないんだ。老人も顔がシワか何かで、よくわからなかったし、家も特徴が無くてどこだかわからないし……ほら、夢ってぼんやりと覚えてるもんだろ?  もっとクリアに見られればいいんだけどな……」
 焦りと困惑で、黒澤の顔色は悪い。
「そうか。また新しい手掛かりが掴めるまで、八方塞がりだな……」
 清川の言葉にも力はない。
「どんな老人や? いつもお茶会する友達に、おるかもしれへんで」
 江尻の声が一瞬響いたが、沈黙が訪れた――。
「なんで黙りこくんねん。大体、みんなのお葬式って何や? 墓場まで持ってくさかい、教えてや。墓場はすぐ近所、、やねん」
 普段は老人呼ばわりを嫌う江尻が、ここぞとばかりに老人ぶる。だが、黒澤の意志は固い。
「ダメだ。これは俺とキヨの、重要な秘密なんだ」
「なんや、男二人で気持ちの悪い」
 関西なまりの捨て台詞を吐いて、江尻はノソノソと消えていった。
 男二人――仕事に戻った黒澤は、思った。そう、この問題は男二人で取り組むしかない。味方になってくれるのは清川だけだった。思えば清川は、小学校の時も味方でいてくれた――。

 睡眠中に、夢を見ない人がいるという。実際は、誰もが夢を見る――夢に関心が薄く、忘れてしまう人が、夢を見ないと言うのだ。
 幼い黒澤少年も、その一人だった。
「俺、空を飛んだんだぜ」
 友達が自分の見た夢を自慢げに語ると、夢を見ない黒澤はたまらなく羨ましいと思った。自分も夢を見たい、空を飛びたいと思った。夢とはどんなものなのだろう、どんな感覚なのだろう――純粋な少年は、夢を見ることに夢見ていた。それから黒澤は何度も何度も、夢を見たいと願った――だが何日経っても、何ヶ月経っても、あいにく黒澤は夢を見ることができなかった。
 仕方なく黒澤は、自分も夢を見たと友達に作り話をすることで、その欲求を擬似的に満たすことにした。だが、稚拙な内容とそのしつこさが重なると、クラスで人気者の黒澤も、夢の話だけは友達から拒絶反応を示されるようになっていった。
 そんな頃、クラスの帰りの会で担任の先生が言い出した。
「この世で、一番大事なものって何かな?」
 勢いよく挙手する生徒たち――。
「命!」
「地球!」
「空気だと思います」
 生きる為に必要なものが、子どもながらに考えられて挙げられた。中には、「お父さんとお母さんです」と答えて、先生の目頭を熱くする女の子もいた。
「命は、いつか無くなる。誰だって死んでしまうよね。でも、心は死なない……いつまでも。だから心って、とっても大事なものなんだ」
 先生は、自分なりの考えを切り出した。そこからの話は、三年生の黒澤には少し難しくてよく覚えていない。だが、先生が最後に締めくくった言葉は、黒澤の印象にも残った。
「みんなは、何かやりたいことがあるかな? 一度決めたら、そこに向かって突き進んでください。そして、それを諦めないでください。一番大事なのは、信じる心です」
 帰り道、凍結した路面に足を滑らせ、黒澤は百点満点の尻餅を突いた。
「いってぇ」
「……大丈夫?」
 ――そう声を掛けてきたのは、清川だった。清川とは一年生から同じクラスでありながら、まだ親交は無かった。清川は七三分けの髪型と眼鏡の名コンビが災いして、クラスのみんなから「お父さん」と呼ばれていた。本人はそれを望んでいなかったが、黒澤とは対照的にシャイで気遣い屋だった為、黙認する形になっていた。
「おう、大丈夫」
 そう答えて、ゆっくりと立ち上がる黒澤。清川はその流れで、黒澤に話し出した。
「今日先生がさ、信じることが大事だって言ってたね」
「うん」
「俺、黒澤君の夢の話、信じてみるよ……雪って食べられるんでしょ?」
 黒澤は以前、雪が美味しかったという夢の作り話を教室でしたことがあった――何も清川に向けて話したわけでは無かったが、信じてくれることが嬉しかった。
「うん、美味しかったよ。わたあめみたいだった」
 翌日、運命だったかのように雪が積もると、二人はわたあめとは程遠い雪の味気無さを確認した。それはそれで、二人が仲良くなるきっかけには十分だった――。

「今日は、電車の方が良かったんじゃないか?」
 あれから二十年あまり――変わらず側にいる清川が言った。
「今日はそうかもな。でも、デートするなら車があった方がいいぞ。いい加減、免許取れよ」
 清川に彼女がいないことを知っている黒澤は、当て付けるように言った。
「余計なお世話だよ。じゃあ、また夢見たら教えろよ」
「ああ、おつかれ」
 黒澤は、珍しく都心にも積もった雪道の中を、ミニバンでゆっくりと走り出した。地球が爆発する夢をぼんやりと脳裏に描きながら、夢が現実にならないことだけを祈った。どのくらい前のことだっただろうか、夢を見るようになったのは――思い出そうとした黒澤は、ある日の記憶に戦慄が走った。

 爆発――地球が爆発する夢だった。宇宙に浮かぶ青い惑星が、異常なまでの眩い光を発して、直後に粉々に飛び散る映像が一瞬だけ見えた。
「うわー!!」
 黒澤は、自らの叫び声で目を覚ました。まだ空に星が望めるほど、外は暗い。黒澤は冷や汗にまみれながら、暫く放心状態になった。幼い頃から夢を見たことがない黒澤にとって、これが初めて見た夢だった。
 少し冷静になった黒澤は、ベッドの上で夢を顧みた。その映像は、何故だかリアリティに富んでいて、それが黒澤の焦燥感と恐怖心を煽っていた。勿論、宇宙飛行をした経験も無ければ、テレビで見たような宇宙の映像とも違う。まるで自分が地球を目の前に迎えたような、神の目で見たとでも言うべき、現実的な映像だった。





 黒澤は、額から流れた汗に焦って、車のワイパーを動かした。昼に見た夢は、あの日の夢と同じだったのだ。黒澤は汗を拭い、再び記憶を辿り出した。初めて夢を見て以来、稀だったが、不定期で夢を見るようになった。そして、その全てが現実に起きるようになった。何も、大きな出来事だけではない。牛乳が特売になる夢、ひどい下痢をする夢――寝ているベッドから落っこちる夢もあった。始めは単なる偶然だと思っていた黒澤も、度重なる現実での出来事に、いつしか確信を抱くようになった――自分は現実を予知する夢を見るのだと。そしてその才能は、徐々に孤独と恐怖を感じさせるようになっていった――自分だけが抱える苦悩、未来を知ってしまう呪縛。小学生の頃に何度も見たいと願った夢は、大人の黒澤にとって、見たくないと願うものになっていた。

「まずい……」
 このままでは、地球が爆発する夢まで現実化してしまう気がしてならなかった。今日、再び同じ夢を見られたのは、神の啓示のようにさえ思えた。今やきっと、自分の才能に懸かっているのだ――地球の運命が。どうにかして手掛かりを掴み、そして防がなければ――。
 黒澤は自分でコントロールして夢を見られないことが歯がゆかった。単に長時間寝たり、寝る頻度を増やせば、夢を見られるというわけでもない。ただ、見られることを願って眠りにつくだけだ。黒澤は、両手を合わせてから、ベッドに横になった。見たいと願ったり、見たくないと願ったり、まったく独り善がりなものだが――。
 翌朝、黒澤は目を覚ますと、ため息をついた。夢を見られなかったのではない――風邪をひく夢を見たのだ。この夢は今日の出来事か、それとも来週か――念の為、早めの服用が効くという風邪薬を飲むことにした。それを見た、黒澤の妻が声を掛けた。
「風邪ひいたの……?」
「いや、ひく気がしてね……童夢は、風邪ひいてないか?」
 黒澤は、息子に容疑を掛けてみた。
「うん、ピンピンしてるわよ」
「そうか……じゃあ、行ってきます」
 シロだったようだ――黒澤は、マスクをして出社した。

「社長、おはようございます。ゴホッ、ゴホッ」
 新入りの新鍋が、咳き込みながらエレベーターに乗り込んできた。
「おお、ナベ。おはよう。初出勤おめでとう」
 コイツだな――黒澤は思った。エレベーターの中で、ワイワイ踊っている風邪のウイルスたちが、黒澤には確かに見えた。新鍋はそんなことお構いなしに、咳をしながら、逆立てた短い黒髪を右手でひねり上げている。
 会社のある五階に着くと、新鍋は黒澤を置いてさっさと出て行った。比較的すぐに閉まるエレベーターのドアを、社長である黒澤はかわして降りた。
「……新鍋やったら、ナベちゃん、、、、、やな。一人暮らしか?」
 江尻にとって年齢の離れた新鍋は、孫のような存在なのだろう――すぐに気に入ったようだ。
「はい。フローリングって、ほこりが溜まって大変っすね」
「フローリングなんてメリケンかぶれするからあかんねん。日本人なら畳やろ」
「畳っすか。渋いっすね!」
 やっぱり、コイツは入社させるべきじゃなかったんじゃないか――おしゃべりに夢中になる新鍋の横を通り過ぎながら、黒澤は心の中で思った。新鍋は本来、入社試験に落ちていたはずの人間だった――。

 証明写真も、履歴書もいらない――固定観念に囚われた入社試験の慣習を黒澤は嫌った。そんなの、受験者の準備が煩雑になるだけだ。それよりも面接で実際に会って、受け答えを見た方がよっぽど意味がある。百聞は一見にしかず――もっとも、小さな会社だからできることだが。
「あなたの悪い所だけについて、自己PRをしてください」
 普通の会社なら、自己PRをするのは良い所だ。だが黒澤は、自身で考えたこの質問から、予め用意してこられた回答では見えてこない相手の本性、そしていかに頭を上手く使い、自らのイメージを落とさずにPRできるかを見たかった。
 新鍋は、黒澤の期待を裏切った――悪い意味で。
「悪い所っすか……えっと、僕は、いや私は、内気な性格なんで、あんまり周りに、上手く馴染んでいけない所っすかね。あと……お酒が好きでやめられないのも、悪い所っす」
 新鍋は長い茶髪を右手で撫で下ろしながら、そう言って笑いを誘ってみせたが、黒澤の表情はむしろ厳しくなった。

「……最近の、元気の無い若者の典型だな。新鍋君は、不採用でいいね」
 面接後、黒澤はあっさりと言い放った。社員は粒ぞろいにしたい――黒澤には、起業した社長としてのポリシーがあった。だが、隣に座っていた清川の反応は違った。
「確かに質問の意図を読めてない、抜けた所はある。だけど、俺には何か感じるんだよな」
「キヨ、本気で言ってんのか? 何かって、なんだよ」
「ハッキリとはわからないけど、何か役に立ってくれる気がするんだ……将来、必ず」
「将来ね……新鍋社員が活躍している夢は、見たことないけどね」
 黒澤はお得意のジョークを交えたが、結局清川の熱意に渋々押し切られる形になってしまった。

 エレベーターに乗ってから、およそ二時間後、黒澤は咳が出るようになり、喉の痛みを感じ出した。
「ゴホッ、ゴホッ……ちくしょう」
 残念ながら夢の出来事は今日、それもかなり早い時間帯のことだったようだ。
「遅かったみたいだな……」
 黒澤はカバンにしまってある、早めに効くという風邪薬を一瞥した。
「あら、社長さん風邪でもひいたんかいな」
 元気な高齢者の代表・江尻が、興味深そうに尋ねてきた。
「ええ、つい先程貰っちゃったみたいで」
「食べ物とかお金なら、いくらでも貰いたいけどな。社長さん、お得意の正夢で風邪ひくことわからんかったんかいな?」
 のらりくらりしていた江尻が、急に鋭い直球を繰り出した。
「わかっていたんですけど、今朝のさっきだったんで、対処できなかったんですよ」
「もっと早く見られたらええのに、役に立たへん正夢やな」
 役に立たない――黒澤は、まるで自分自身がそう言われている気分になった。
 近くで聞いていた新鍋が、ふと清川に問い掛けた。
「正夢って、何すか? 社長は、正夢が見られるんすか……?」
 清川は一旦頭の中で整理をして、話してもいい境界線を定めて答えた。
「……まあな」
「凄いっすね! え、それ、いつも見てるんすか?」
 本人に聞けよ――そう思いながら、清川は答えてやった。
「いや、いつもってわけじゃないみたいだ。また今度、ゆっくり話してやるよ」

 黒澤はそれからしっかりと風邪をひき、それは十日の間、お供をすることになった。そして風邪が治り、咳き込まずに安眠できるようになった黒澤に、再び夢が訪れた――。

 黒澤はうつ伏せに倒れたまま、なぜか身動きが取れなかった。古びた広い部屋にいるようだ――廊下を覗くと、同じく倒れているのだろう、誰かの手が僅かに見えた。細く骨ばんだ、シワに覆われたその手から、かなり年老いているのが伺えた。頭だけはどうにか動かせるようだ。首を右に返すと、窓からは塔――通天閣が見える。
「ゴホッ、ゴホッ」
 また風邪をひいたのだろうか、咳が止まらない。
「社長、大丈夫っすか! ジョーカーを手に入れました!」
 そう言って駆け寄って来たのは、新鍋だ。
「俺のことはいいから、早く逃げろ! 早く!」
 黒澤は急かすと、新鍋は走って逃げて行った。直後にドンッという激しい音と、新鍋の叫び声が聞こえた。何があったんだ――だが、黒澤は胸が苦しいだけで動けない。首を左に返すと、老人の手は微動だにしていない。朝焼けか夕焼けか、電気の消えた家にオレンジ色が混在していた。誰か、助けてくれ――黒澤は必死にそう願っていると、今度は清川がやって来た。
「ブラック……」

 黒澤は目を覚ますと、現実にも目の前に清川がいた。今日は残業で遅くなるんだっけ――黒澤は、自分が深夜の仮眠を取っていたことを思い出した。
「……大丈夫か?」
 心配そうに見つめる清川。
「随分と苦しそうだったぞ」
「大丈夫だ。それより、大事な夢を見た」
「何だ? ジョーカーの手掛かりが掴めたか?」
 いつも穏やかな清川も、この手の話には食い気味に言い寄ってくるのが黒澤にも感じられた。
「ああ、また老人の家みたいだ。しかも、今度は場所がわかったぞ! 通天閣が見えた――大阪だよ」
「大阪……近い、、な。リオデジャネイロから比べたら」
 そう言って、清川は笑った。
「それで、いつなんだ?」
 清川が聞くと、黒澤は思わず困惑した。
「あ、そうか。まだ時期がわからないか……そうだ、目に映った新鍋は、若かったな。しかも、最近変えた黒髪の草村みたいな、、、、、、髪型だった」
「新鍋も一緒にいたのか?」
 清川には意外だったようだ。もっとも、黒澤にとっても意外だったが。
「新鍋が、ジョーカーを見つけ出したみたいだ。キヨの言った通り、役に立ったな」
「何? 新鍋がジョーカーを……?」
 清川は、たまらず口元を引きつらせた。
「それで、俺とブラックはどうなるんだ?」
「俺は、どういうわけか身動きが取れなかったんだ。しかも、風邪のおまけつきでな。でも、キヨが助けに来てくれるところで、目が覚めた。まあ、ジョーカーが手に入るのなら、リスクとしては小さいだろう。そんなところで……行くか」
 黒澤のその言葉に、清川の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
「ん?」
 黒澤の目は、真剣そのものだ。
「大阪に行くぞ。もし、明日の朝、燃えるゴミに出されたら、地球はおしまいだ」
「……ああ、そうだな」
 清川も乗り気になった。
「よし。あとは、新鍋を呼んで……」

 夢で見た爆発の情報は、下手に他人に漏らす訳にはいかない――寝言を言ってると捉えられるであろう、江尻はその対象外だが。
 その点、無知な新藤は、格好の協力者でもあった。東名高速を走る車の中で、黒澤は後部座席の新鍋に切り出した。
「さて……まずは、ジョーカーについて話そうか」
「ジョーカー?」
 期待通りの疑問文で、新鍋は返してきた。
「俺が前の会社にいた時の話だ」
 今度は助手席の清川が語り出した。
「元はと言えば、医療新薬の開発研究をしていたんだ。そうだな……素人には難しい話だから、噛み砕いて言おう。色んな薬品や菌を混合して、実験を重ねていたんだ。実験は失敗するとまた一からやり直すのが通常だが、ある時にやり直さず適当に混合を繰り返していたら、偶然見たことも聞いたこともない、変わった菌が生まれたんだ。担当していた俺と、同僚の鈴木は、新種の発見だと断定し、この菌の生成方法と実態を私的に研究しようとしたんだ」
「ところが、だな」
 黒澤がすかさず合いの手を入れ、清川がまた喋り出す。
「あろうことか、鈴木が俺の目を盗んで菌の一部を持ち出したんだ。手柄を独り占めしたかったんだろうな。通常なら、菌を持ち出すのは用意ではなかった……セキュリティチェックもそうだが、何より菌が生きる為には研究施設の整えられた環境が不可欠だ。だが、鈴木には運があったんだろうな……菌の生態環境が限りなく人に近く、温度や湿度に左右されることが無かった。さらに、菌の生成由来がキノコ類に依存する部分が大きかった為、菌のエネルギー源となるもののひとつに、三椏みつまたがあった」
「ミツマタ……?」
 清川は得意気な顔で、新鍋に答えた。
「お前も持ってるよ……紙幣の原料となっている木だ。千円札を使って、鈴木は菌を持ち出したんだよ。下手にプレパラートとかシャーレみたいな器具で持ち出して、セキュリティチェックで疑われることもないしな……あの千円札の上で、菌は生き続けるんだ」
「なんで、清川さんは止めなかったんすか?」
「もちろん、俺が聞いたのは後日談で、その時もすぐに止めたさ。鈴木とは仲が良かったし、あの菌には未知な部分が多くて、危険性も高いと思っていたからな。だが、鈴木は俺を振り切って逃亡した。次に会ったのは、何ヵ月後だったかな……異臭を放っていて、すぐに鈴木の置かれた環境に勘付いたよ。鈴木は俺に詫びて、金を貸して欲しいと言ってきた。俺は、これ以上ない皮肉を浴びせてやったよ……大事な大事な千円札を持っているだろ、と。ところが、鈴木は言った。それはもう、使ってしまった、と。あいつの顔を見て、それが嘘ではないことを悟ったよ。少しばかりの金を渡してやって、鈴木とは別れた。あいつのその後のことはわからない。おそらく、どこかのホームレスになっているんじゃないかな。だが、もう用は無かった……大事なのは、菌が際限の無い外界に出回ってしまったという事実だ。千円札という、いたってありふれた形でな」
 清川の話を聞いていた黒澤が、ようやく口を開くタイミングを見つけた。
「それが、言わばジョーカー、、、、、だよ。ちょうど、ババ抜きをしている時の、ババのようなものだろ? 俺たちはその千円札を便宜上、ジョーカーと呼ぶことにしたんだ」
「……じゃあ、日本中でババ抜きしてるわけですか」
 新鍋のユーモアを、清川が訂正する。
世界中、、、、でな。東京からリオデジャネイロまで……俺たちは世界中に無数に広まったカードの中から、たった一枚を見つけなきゃいけないんだ」
 しばしの沈黙が車内に訪れた――。清川が、再び口を開く。
「まあ、話を戻そう。俺はその後、施設にまだ残存していた菌の実態を調べる必要があった。すると、まずその成長速度に驚いた。菌はエネルギーを補給すると、僅か数十秒の間に、十倍もの大きさになるんだ。勿論、ピコ単位のデカさだから、十倍や百倍になったところで、肉眼で見える代物じゃないが。そして、耐熱実験をした時のことだった。通常の菌は、せいぜい百度の熱を加えられると、大人しく死滅するんだ。だが、ヤツの死に方は違った。百度の熱は変わらなかったが、ピカッという光と共に、泡のように爆風が一瞬で膨らむのが見えた。気付いた時は、研究室が半焼状態になっていて、俺はすぐ救急車で運ばれたよ。菌は熱せられると、熱からエネルギーを得て、一瞬の間にその個体の数億倍ものデカさに膨張し、爆発を伴うんだ。今思えば、実験が浅はかだったように思えるが、そんな菌は有史以来発見されていなかったし、予期できなかったからな。それで、残っていた菌も全て死滅して、実態を調べる計画もオジャン、、、、だ」
 黙り込んだ新鍋が、理解できているのか怪しかったが、清川はまた話を続けた。 
「だが、代わりに恐ろしいことがわかったんだ。菌のデカさと研究室の広さから菌の膨張率を計算して、更に菌の凄まじい成長速度を考えると、数年経てば地球を吹き飛ばす範囲になるということがな。ジョーカーが出回ってから数年経てば、いつ地球が吹っ飛んでもおかしくないんだ」
「なんか、嘘みたいな話ですね……」
 新鍋は驚きながらも、今一つ実感が湧かなかった。
「俺たちは宇宙みたいな壮大なものもよく知らなければ、菌みたいな微細なものもよく知らないんだ。目にも見えないような菌が、過去に一体どれだけの人を殺してきたと思う?」
 清川の言葉には重みがあった。想像を絶する出来事に、黙り込む新鍋。再び車内に沈黙が訪れた――無言を貫いていた黒澤は一人、清川との再会の日を思い出していた。

 清川との再会は、小学校の同窓会だった。
「黒澤君、変わらないね」
 男女問わず、黒澤の周りにはいつも誰かが寄ってくる。
「いや、でも結婚したよ。もうすぐ子どもも生まれるし。ところで、お前誰だったっけ?」
「あたし、白川よ。ほら、学級委員一緒にやってたじゃん!」
「ああ、白川か! コンタクトにしたんだ?」
 かなりマシ、、になったな――黒澤の率直な気持ちだった。
「じゃあ、俺わかる?」
「青木だろ。昔から背高いよな」
 目の前の顔と、記憶にある顔を重ねるゲームの連続に、黒澤はまるで神経衰弱をしている気分になった。一通りの件を終えると、黒澤は一人でビールと冷奴をつまんでいる清川の姿を見つけた。
「キヨ、久しぶり! そのサングラス、カッコイイな」
「おお、ブラック。久しぶり。これ、度が入ってるんだけどな」
 変わったのは、花粉症対策のような、顔にピッタリと貼り付いたサングラスくらいだろう――昔と変わらない、落ち着いた口調で清川は返した。冷奴に多目の醤油をかけながら、清川は笑って言った。
「この味気ない豆腐食ってて思い出したんだけど、あの時食った雪はまずかったな」
「ははは、そうだったな」
 黒澤も、もらい笑いする。だが、黒澤はその言葉にハッとした。そして、あの時味方になってくれた清川が、今また力になってくれそうな気に駆られた。
「……キヨ、これは真剣な話なんだが、実は俺、変な夢を見るようになったんだ」
 そう言って黒澤は、予知夢を見るようになったことを話した。
神の目、、、で見たような、か……その夢って、現実に防ぐことはできないのか?」
 清川は、素朴な疑問をぶつけた。
「なんか、最初から防げなさそうな夢が多いんだ。牛乳が特売になる夢だったり、ベッドから落っこちる夢だったり。奥さんに、ベッドに柵を付けてもらってから、落っこちる夢は見なくなったけどな」
 黒澤は笑いながらそう話した。
「でも、防ぐ手立てはあると思ってる。例えば、カルボナーラを食べて白いシャツが汚れる夢を見たしよう。どうすれば、シャツが現実には汚れずに済むと思う?」
 黒澤はいきなり、ミニクイズを出題した。
「まあ……カルボナーラを食わなきゃいいんじゃないか?」
「それじゃ、作った奥さんに怒られるし、食べないという選択は現実的じゃないだろ。カルボナーラが出てきたら、黄色いシャツに着替えればいいんだよ」
 黒澤はそう言って、また笑った。
「なるほどな……違う角度から、策を講じる余地はあるってわけだ」
 清川は興味深そうだった。
「多分、そうやって現実に防げた時、俺自身も夢から解放されるのかもしれないな……」
 黒澤は冷奴を箸で割りながら、しみじみと言った。
「ところでブラック、その夢はいつから見るようになったんだ?」
「いつだったかな……去年の今頃だったな。地球が爆発する夢で、確か鬱な気持ちでお墓参り行ったから、盆の送り火辺りだ」
「何だと?」
 清川は急に大声を上げた。周りのみんなが視線を集める。
「ああ、すまん……お前がその夢を見たのは、偶然じゃないかもしれないぞ。去年の今頃、俺も爆発に見舞われたんだ。本物の爆発にな」
 そう言うと、今度は清川が菌の生成から爆発に至るまでの経緯を話した。
「結局何もできないまま、一年経っちまった。もう、爆発の範囲は国家単位になっているだろうな。ブラック……何か気になった夢をまた見たら、教えてくれないか?」
 国家単位の爆発が起こるかもしれない――現実離れした言葉に、黒澤は呆気に取られた。だが、今悩んでいても仕方が無い。
「ああ、わかった。普通の千円札に紛れて、一枚だけ隠れてるのかよ……まるでババ抜きだな」
 黒澤の頭に、またトランプのゲームがよぎった。
「ババ抜きか……菌の付いた千円札が、ジョーカーってわけだ」
 清川も納得する。
「ところでキヨ、まだ研究は続けてるのか?」
「あの菌は完全に偶然にできたもんだし、責任とか未来のこと考えたら、辞めちまったよ。一応貯金はあるし、今後のことはゆっくり考えようと思ってる」
「それなら、俺の会社に来ないか? ほら、また変な夢を見るかもしれないし、連絡を密に取れるだろ」
 黒澤にはもうひとつ、清川の頭脳を手にしたい下心もあった。清川は少し身構えた。
「ありがとう……まあ、考えさせてくれ」
「そうか。うちは履歴書とかもいらないし、キヨならコネで入れてやるから。あ、サングラスも気にすんなよ、個性重視で茶髪でもOKだからな」
 なんとなく、その言葉で清川が揺らいだように黒澤は思えた。その二日後、清川から入社志望の連絡が入った。

 ――それから十年が、何の手掛かりも無いままに経ってしまった。爆発の範囲は、国家から地球単位になってしまった。今こうして、また手掛かりが掴めたことは、不幸中の幸いと考えるしかない――。
「なあブラック、地球が爆発する予知夢を見てたのに、なんでジョーカーを手に入れる夢を見れたんだ? 矛盾していないか?」
「それは、俺も思ったんだ……」
 清川の質問に、黒澤は思慮深い口調で答えた。
「今まで現実になってきた夢は、確定要素が強かった。要は、夢を見た時点で現実を変えようが無かった。だが、地球が爆発する夢は、不確定要素が多分にあると思うんだ。現に、夢でジョーカーを手に入れたのは新鍋だ。本来不採用だったはずの新鍋を採用したことで、現実が屈折したんじゃないかな。未来がもうひとつの顔を見せたんだ。つまり、運命は定まったものではなくて、自ら切り拓けるってことだよ」
「なるほど、説得力があるな……」
 納得する清川をよそに、新鍋は一人つぶやく。
「俺、不採用だったんすか……」
 黒澤はわざとらしく話題を変えた。
「さて、まず老人の家を特定する必要があるな。これは容易ではないが、一つの大きな手掛かりがある。それは夢で見た通天閣だ」
 勿体ぶりながら、黒澤は話を続けた。
「通天閣は東西南北、その向きによって見えるタワーの文言が違う。俺が見たのは『安心と信頼の日立グループ』という文言、これは南面のものだ。つまり、老人の家は、通天閣から南側の一帯だと範囲を絞れる」
「なるほどな。お前が見た通天閣の大きさで、通天閣との距離感も大体掴めるだろうしな。あとは、老人の家にどうやって乗り込むか……」
 清川が問題提起すると、すかさず黒澤が答える。
「不法侵入になってもまずいし、何かの業者を装って、点検とか理由を付けて上がり込むのが手っ取り早いな。偽装ではあるけど、事さえ済ませば、実害もないし問題ない。そうだな、大阪だから関西電力なんていいんじゃないか。それには……作業着と名刺が必要だな」
「よし、それは俺が適当に調達しよう。ブラックは、その間に家の特定を頼む。すんなり入れてくれる老人だといいけどな……手荒な真似はしたくない」
 清川がそう言うと、作戦会議は終了した。
「俺は、何すればいいんすか?」
 全く貢献しなかった新鍋が、ボソリとつぶやいた。
「ブラックと一緒に、老人の家を探してくれ」
 俺は、いらねえ――清川の言葉は、そうとも取れた。
「はい」
 新鍋が従順な返事をした――新鍋は清川に対して、どこか親近感を覚えていた。礼儀を知らない新鍋も、世間知らずが災いしているだけで、決して利己心や自己主張の強い人間ではなかった。その点で、穏やかな清川とは波長が合い、飲みに連れて行ってもらったこともあった――。

 枝豆をつまみながら、新鍋は言った。
「江尻さんから聞いたっすよ。社長、ボケ老人の正夢を見たとか、何とか……」
 清川は思わず頭を掻きむしった。
「江尻さんも口が軽いな……。まあ、お前は知らなくていい話だ」
「そうなんすか……。ところで、老人って、なんでボケるんすかね?」
 正夢の話に食い付いた割には、放すのも早い新鍋。
「……お前は、死ぬのが怖いか?」
 新鍋の質問に、清川は質問で返した。
「そりゃ、怖いっすよ」
「誰だって死ぬのは怖いよな、だけど誰もがいつかは死ぬ。そんな恐怖心を和らげる為に、人は歳を取るとボケるんじゃないかな? 言わば、防衛本能だな。だが、他人から見れば、迷惑を掛けられるエゴでしかないが」
「なるほど」
 シャイで気遣い屋な清川も、似たような性格で年下の新鍋には、冗舌だった。
「きっと俺は、誰よりも死ぬのが怖いだろうな。『死』っていうのは、自分の生命が無くなること……生命どころか、存在まで『無』になってしまうようで、本当に恐ろしいよ。だけど、小学生の時、先生から一番大事なものを教わったんだよ」
「何すか?」
「信じる心だ。天国や地獄という死後の世界も、生まれ変わるという輪廻転生も、世界中に広まっているあらゆる宗教も、きっと死への恐怖から生まれているんだよ。信じることで、人々の心は救済されるんだ。だから、俺も信じることにしている」
 新鍋は、清川の話に今ひとつ要領を得なかった。
「信じるって、宗教っすか?」
「……強いていうなら、自分という存在かな。お前も自分の存在を正当化できるような、強い信念を持った方がいいぞ」
 そう言って、清川はジョッキのビールをグイッとあおった。
「清川さん、俺モテなくて、全然彼女とか出来ないんすよ」
 清川が少なからずあて、、になるとわかった新鍋は、すがるように相談を持ち掛けた。
「お前は人がいいし、顔も悪くないし、心配しないでもそのうちできるんじゃないか?」
「そうっすかね……俺、孤独なんすよね。地元を離れて友達もいないし、会社も先輩ばっかりで馴染めなくて」
 今日自分を誘ったのは、この相談が目的だったんだな――清川は悟った。
「孤独なのは、みんな同じだよ。誰だって、アイデンティティを見出す為には、自分以外の何かへの依存が必然的なんだ。希望と失望の葛藤に揺れながら、社会の中でもどかしさを抱えながら、みんな生きてるんだ。だから闘うことに疲れるし、ストレスを感じて、酒とか、タバコ、ギャンブル、それに女がビジネスとして成立するんじゃないか?」
「……そうなんすか。清川さんは、彼女とかいないんすか?」
 余計なお世話だ――黒澤に突っ込まれた時と同じ思いが、清川によぎった。
「ああ。前の彼女と色々あって別れてからな……」
 清川はそう言って、すぐに話題を変えようと思った。
「黒澤くらいじゃないか? 誰とでも気兼ねなく話せて、孤独じゃない人間といったら。あいつはあの性格で、社長で、嫁子供もいて、悩みなんて無いんだろうな」
「羨ましいっすね」
 しまった、負け犬の会になってしまった――清川はそう思いながら、ビールをグイッとあおった。

 高速を降りて大阪に着いた頃、暗かった空はすっかり明るさに包まれていた。大通りに出ると、二十四時間営業の量販店が顔を現した。
「ここなら作業着を調達できそうだな……じゃあ、老人の家を見つけたら連絡くれ」
 そう言って清川は車を降りると、雑多に商品が並ぶ店の中へと消えて行った。
「よし、じゃあ俺たちも家を探すか……まずは通天閣だな」
 黒澤は意気込んで、ミニバンのアクセルを吹かす。そんな黒澤に乗り遅れまいと、新鍋は少しでも役に立ちたいと思った。
「老人の家って、どんな家なんすか?」
「夢で見たおぼろげな記憶だが、おそらく木造建築……瓦屋根の一軒家ってとこだと思う」

「いっぱい並んで無いといいっすね」
 確かに、ビルやアパートが建ち並んでいれば楽だな――黒澤は、おそらく初めて新鍋に共感した。
 通天閣に到着した黒澤は、南面の『安心と信頼の日立グループ』という文言を確認すると、通天閣を背に南へと走っていく。サイドミラーに映した通天閣は徐々に小さくなり、黒澤が夢で見たその大きさに近づいていく。
「この辺りかな……」
 おぼろげな記憶を辿りながら、小さくなった現実の通天閣を重ね、黒澤は優しくブレーキを踏んだ。
「ラッキーっすね、一軒家少なそうっすよ」
「そうか?」
 新鍋の言葉に呼応して、黒澤は辺りを見渡した。確かにアパートが多く、加えて学校が視界を遮っていた為、絞り込むのは比較的楽そうだった。
「よし、次は通天閣側が見える、窓がある一軒家を絞り込もう」
「ちなみに、どんな窓っすか? レバーで、前後に開くタイプだったり……」
「木造の一軒家だぞ! シンプルな左右に開くヤツだよ」
 アイディアを却下された新鍋は、自分が本当に必要なのか、にわかに気になった――。
「いいぞ、北向きのせいもあって、窓が少ないんだ!」
 そんな新鍋に構わず、黒澤は一人興奮して、老人の家を探す。窓を探し、見つけては木造じゃないことを確認し、再び窓を探す。機械的作業を繰り返す中で、黒澤は自然と無音の境地へと入り込んで行った。そして、自分が存在するべき場所へと、吸い込まれていくような気がした――あたかも運命のように。
「これだ……」
 さっきまでの興奮とは打って変わって、黒澤は深みのある声で呟いた。ボーッとしていた新鍋が黒澤の視線の先に目を向けると、年季の入った木造住宅がどっしりと腰を下ろしていた。
「木造っすね」
 当たり前のことを新鍋が言った。他にもまだ、木造住宅はあるかもしれない――だが、黒澤は直感的にこの家で間違いないという、確信を抱いていた。
「よし、取り合えず清川に連絡しよう」

「もしもし? ……見つかったのか!」
 清川は携帯電話に出ると、黒澤の報告にその声を一段と大きくした。
「よし、住所を教えてくれ。……ああ、わかった。俺も、もう少ししたら行くよ。新鍋は、俺たちより服のサイズ小さいよな?」
「そんなこだわらなくていいから、適当に調達して早く来てくれよ」
 老人の家を目の前にして、黒澤は珍しく急かしてみせた。
 清川への連絡を済ますと、黒澤はシミュレーションを始めた。
「まず関西電力の作業員を装って、調査をしに家に上がらせてもらう。俺が分電盤や計量器をガサガサ、、、、しながら、老人に話しかけて気を引く。その間にキヨとお前がジョーカーを探すんだ。夢の中では、押入れの中の金庫から出てきた」
「了解っす」
「電気を気にするフリをして、くれぐれも怪しまれないようにやれよ」
「大丈夫っすよ、相手は老人……楽勝でしょ」
 新鍋の余裕ぶりを危惧した黒澤は、釘を刺した。
「江尻さんを思い出せよ。ああいう老人、、、、、、だっているんだぞ?」
「それはキツイっすね」
 新鍋は苦笑した。

 車の中で待っていた二人の前に、ようやく清川が大きめの袋を持って現れた。
「キヨ、歩いてきたのか?」
「まさか。その角までタクシーで来たんだが、メーターが上がりそうだったからな」
「せこいな」
 和やかなムードの中、清川が持ってきた作業着に着替えると、いよいよ突入の時が近付いた。
「そう言えば、キヨの同僚の鈴木が菌を持ち出したのって、十年ちょっと前の話だよな?」
「ああ、それがどうかしたか?」
 黒澤は顔をほころばせた。
「よし、ジョーカーを見分ける手掛かりがあるぞ! 今の千円札の肖像画は野口英世だが、十年前はまだ夏目漱石だっただろ!」
「なるほど! 今漱石を目にするのも珍しいからな、あればジョーカーである確率が高いな」
 清川も興奮したように納得したが、新鍋の反応が薄い。
「ソーセキって、どんなやつでしたっけ?」
 そこからしばし、「ヒゲを生やしただな……」という説明会が行われた。

「よし、準備はいいな」
 仕切り直した黒澤の言葉に、清川と新鍋が頷いた。黒澤は緊張感を持ちながら、玄関のチャイムを鳴らす。
「……はい?」
 年季の入った、男性のかすれ声が返事をした。
「あ、私関西電力の黒澤と申します。本日は電気の調査にお邪魔したのですが……」
「はいはい、お待ちくださいね」
 疑いを持たないその反応に黒澤は胸を撫で下ろした一方、老人を対象とした詐欺が横行する現状が妙に理解できた。
 玄関が開くと、白髪の老人が手を微かに震わせながらドアを支えていた。その手はしわしわで骨ばんでいて、黒澤は夢で見たそれと同じだと確信した。すぐさま黒澤は脱帽し、続いて名刺を取り出して老人側に向けてみせる。
「突然恐れ入ります。私こういう者ですが……」
「どうもご苦労様。どうぞ、どうぞ」
 老人は名刺を一瞥すると、ドアを支える反対の手を家の中へと向けた。一連のスムーズな動作に、清川は黒澤の器用さを改めて思い知る。
「すみません、失礼します」
 そう言って黒澤が家に上がり込むと、清川と新鍋もゾロゾロと続く。配電盤を見つけた黒澤は、それとなく老人に話し掛けた。
「何か電気のことで、お困りのことはありませんか?」
「そうだね……テレビが急に青い画面しか映らなくなってねー。ほら、受信料もちゃんと払ってるのに、困ったもんだよ」
 黒澤はすぐに地デジ化への未対応だと分かったが、十分な時間稼ぎになると踏んだ。
「それは大変ですね。じゃあ、後でテレビも見てみましょうか」
「ああ、助かります」
 黒澤が老人の気を引いている間、清川と新鍋は寝室に入り込んだ。
「ナベ、お前は見張りをやっててくれないか?」
 清川が頼むと、新鍋は快く引き受けた。
「いいっすよ」
 押入れの中から金庫を探すなんて面倒な作業より、見張りの方がよっぽど楽だ――新鍋はボケーッと寝室から廊下を伺った。清川は、押入れから布団や毛布を次々と引っ張り出す。だが、布団を全て出した後、押入れの中に見えたのは、壁だけだった――。
「金庫なんて無いぞ。布団の中か?」
 そう言って、清川は次に引っ張り出した布団を広げては、金庫を探した。掛け布団の隙間から枕の中まで、念入りに手で押して感触を確かめる――だが、金庫は姿を見せない。
「クソッ!」
 新鍋は、初めて見る感情的な清川の姿に、少し戸惑った。
「ブラックのやつ、本当に合ってるのか?」
 そう言って、清川は寝室を後にした。新鍋も黙って清川に続く。

「ブラック! 本当にここで合ってるのか?」
 清川は老人を前にしながら、ためらいなく問い掛けた。黒澤は一旦配電盤を離れ、清川の耳元でささやいた。
「間違いない。老人の骨ばんだ手、家の造り、床の色目……夢で見たのと全く同じだ」
「だが、押入れには金庫なんて無かったぞ?」
「例によって、俺たちの積極的な行動で未来が変わった可能性もある。必ずしも金庫に保管されてないかもしれない。だが、押入れじゃなくても、ここにはきっとあるはずだ」
 黒澤の力強い言葉に、清川も了承してその場を離れた。新鍋も黙って清川に続く。
「何かあったんですか?」
 心配そうな老人の声に、黒澤は笑顔を返す。
「いえ、大丈夫です。さて、テレビ見てみましょうか」
「ああ、お願いします」

 黒澤の言葉に少し冷静さを取り戻した清川は、黒澤の夢の話を不意に思い出した――新鍋がジョーカーを見つける。夢が正しいとすれば、見張りをしていた新鍋がジョーカーを見つける可能性は低い。
「よし、ナベ、手分けして探そう。お前は二階を頼む」
「了解っす」
 そう言って新鍋が二階へ上がって行くと、それを見届けた清川は、玄関へと急いだ――。

 テレビが真っ青な顔をしてみせた。
「……ほら、映らないでしょ?」
 老人は白髪をかきむしりながら、同意を求めた。
「そうですね」
 黒澤は無造作にチャンネルを替えながら、自ら見た夢を思い返すことに意識を向けていた。場所はここで間違いない――だが、どこか違和感を覚える。それを見つけ出さない限り、何とも言えない気持ち悪さが体から抜けなかった。
 その時、玄関から走って出て行こうとする清川の姿を、黒澤は目撃した。
「おい、キヨ!」
 黒澤の声も空しく、眩しい日光が降り注ぐ外へと清川は消えていった。
「あいつ、どうしたんだ……?」
 黒澤はつぶやいた。何か、ただならぬ胸騒ぎがした。
「便所ならあっちにあるんですけどね。わからなかったかな……?」
 老人の声は黒澤の右耳から入り、左耳へと抜けて行った。
「……待てよ、夢で見たここは、朝焼けか夕焼けの、オレンジ色が混じって見えたはずだ!」

 清川は来た道を戻り、一つ目の角を曲がると、そこに置かれたポリタンクを持ち上げて踵を返した。玄関の前まで戻り、マスクを掛けてポリタンクの蓋を開けると、ハアッと一息ため息をつく。そしてドアを開けると、ポリタンクを傾けて、ドバドバと液体をばら撒いた。灯油の匂いが嗅覚を刺激する。更に、ガスの元栓を開き、コンロへと繋がっていたホースを勢いよく引っこ抜く。スーという漏れるような音が僅かに聞こえる。清川は躊躇わず、ライターを点火させ、灯油の染みた床へとそれを落とす。わけなく、火は一瞬にして床から床へと連なるように燃え上がった。




 異変に気が付いて駆け付けた黒澤は、玄関から家中へと連なった火柱を見て、真っ青な顔になった。すぐ近くに、清川が立っていた。
 黒澤は、状況がよくわからなかった――いや正確には、状況は掴めても、清川の真意がわからなかった。
「お前、何してんだ!」
 黒澤は思わず両手で、清川の胸ぐらを掴み掛かった。だが次の瞬間、清川は思いっきり力を込めて、黒澤を突き飛ばした。黒澤は後方にあったタンスに頭と背中を強打すると、その衝撃でタンスが黒澤へと覆い被さるように倒れた――。
 黒澤は下敷きになり、痛みと重みで身動きが取れなくなった。清川はうずくまった黒澤の姿を一瞥すると、老人のいる方へと向かっていった――。

「な、何なんですか!」
 老人の意識が確認できたのは、その声がした一瞬だけだった。すぐに倒れ込んだ老人の手が、同じくうつ伏せになっていた黒澤の視界に入ってきた。強打した頭痛に耐えながら、黒澤は頭を右向きに返した。夢で見た景色と全く一緒だ――窓から見える堂々たる通天閣は、何か皮肉にさえ感じられた。
「ゴホッ、ゴホッ」
 燃え広がった炎から湧き出る煙に、黒澤は咳が止まらなくなった。そうか、あの咳は風邪ではなかったんだ――。
 黒澤は、怒りと後悔にさいなまれていた――清川に対してではない、自分の浅はかさに対してだ。黒澤にとって、ジョーカーを回収することは絶対的な使命だった。清川を通じて知り得た真実、そして自分の才能を生かして地球を救うことが、与えられた運命のようにも思えた。だから、ジョーカーを回収した夢を現実にすることに、何よりも執着していた。自分が身動きが取れなかったことや、老人の倒れた姿は、それに比べればちっぽけなものだった。
 だが、そこに落とし穴があった。状況を一つひとつ、丁寧に分析し、冷静に事を進めるべきだった。今になって、現実を体験して、後悔だけが黒澤に押し寄せる。清川の行為は気付けなかったのか――新鍋に責任を持たせるのはお門違いだ、黒澤が責めるべき人間は、自分自身以外にいなかった。

「社長、大丈夫っすか! ジョーカーを手に入れました!」
 新鍋が近付いて来た。黒澤はすぐに察した――後ろから、間違いなく清川が追いかけてくると。
「俺のことはいいから、早く逃げろ! 早く!」
 黒澤は必死でそう言うと、新鍋はいつになく真剣な顔をして、言われるがまま逃げて行った。

 直後にドンッという激しい音と、新鍋の叫び声が聞こえた。
 しまった――黒澤は一瞬にして悟った。こうなることは、夢で見たはずだった。きっとガス爆発が新鍋を襲ったのだろう――。焦燥感に激しく駆られる一方で、冷静になる必要が極めて感じられた。紛れも無く、黒澤は追い詰められていた。
 首を左に返すと、老人の静止したままの手が見えた。炎は更に燃え広がり、家にはオレンジ色が侵食していた――。
 新鍋、老人、そして自分――誰もが絶望的な姿へと化していた。誰か、助けてくれ――それだけが、黒澤の心の叫びだった。
 黒澤の目の前に、男の足が映った――清川だ。
「ブラック……」
 ここで夢から覚めた――黒澤は会社で夢を見ていたことを思い出すと、今がまた夢なのではないかと疑いたくなった。平和な現実に戻りたい――だが、黒澤の願いは空しく、目の前に広がる世界が現実だった。

「この世で一番大事なものって知ってるか?」
 清川は黒澤の前でしゃがみ込みながら、そう言った。
「平和だ」
 黒澤は思いっきり皮肉を浴びせてやった。
 清川は動じず、鼻で笑って答えた。
「確かにお前のように、綺麗な奥さんがいて、可愛い子どもがいて、社長として仕事が楽しいようなやつは、平和を望むんだろうな。トランプの七並べで言えば、すぐに出せる手持ちのカードが多いようなもんだ」
 黒澤は顔をしかめたが、清川は構わない。
「そういう人間は気付かないんだよ、出せないカード、、、、、、、ばかり抱えた人の気持ちを。同じゲームをしていても、そいつが持つカードによって楽しさがまるで変わるんだ。ゲームに不満を持つ人間がいても不思議じゃないだろう? 平和が一番とかっていうのは、勝ち組だけの意見だな」
 黒澤は、長い付き合いの中で、これだけ冗舌で自己主張をする清川の姿を見たことがなかった。そこに身構えてしまう思いはあったが、清川の真意を確かめる為にも、自分を曲げるつもりはなかった。
「キヨ、だが俺は相当の努力をして、自分の人生を築いたんだ。七並べは最初に配られるカードの運で、決まってしまう部分が大きいだろう? 努力しないで不満を持つのは、負け組の独り善がりな意見だよ」
「俺が努力しない人間とでも言うのか?」
 清川の声には、明らかに苛立ちが混じっていた。
「全て、あの菌のせいだ。あの爆発で、全てを失ったんだ」
 そう言って清川は、サングラスを外した。露になったその左目は斜視のように、右目が合わせたピントとはあさって、、、、の方を向き、目の周りの筋肉は使われていないせいか、明らかに退化していた。
「左目が見えなくなったせいで、子どもの頃から憧れていた研究の仕事から見放され、結婚を考えていた彼女にもフラれたよ。そりゃ、こんな目ん玉してる男に、誰も近付いてこないよな。生きる希望を失った俺は、自殺を考えたさ。だが、死ぬということが恐ろしくて、どうしてもできなかった……。消去法的に、空っぽのまま生きていた時、お前に再会したんだ」
 黒澤は少し、清川に同情し始めていた。清川に彼女がいないことや、車を持たないことを、冗談半分でからかったことも後悔していた。清川が語る悲壮な人生を前に、黒澤はかけるべき言葉を失くしていた。
「お前は俺と正反対で、輝いていたよ。会社を立ち上げただの、子どもができるだの。おまけに、盆の送り火に目を失くした俺とは対照的に、お前は神の目、、、で見たような夢を見たと言ったな。俺には、皮肉にしか思えなかった。だが一方で、お前のその夢を利用すれば、ジョーカーを探し出せるチャンスがあると思った。そして、自分自身でケリ、、をつけることにしたんだ」
 その言葉に、黒澤は耳を疑った。
「お前、自分が何言ってんのかわかってんのか? お前の人生に世界中を巻き込むことが、どれだけ傲慢で、許されないことか! そんなこと、考えなくてもわかるだろ……ゴホッ」
 パチパチと家の焼ける音が強くなり、黒澤は胸が苦しくなってきた。
「俺は、老人どもがボケるのは、自らの死という意識を薄めるための防衛本能だと思っている。だが、老人のボケた行動など、周りの人間からすればエゴで迷惑でしかない。所詮、あらゆる人間が共存した社会なんだ、迷惑の掛け合いなんて当たり前だ。それでも老人に対して、死を強要することなどできないだろ?」
「そのボケ老人からどんなに迷惑を掛けられても、命までは取られないからな」
 黒澤は得意のブラック、、、、ジョークで、清川を批判してみせた。
「お前にとって、それは正論だろうな。だが人間、他人の立場に立つことなんてできないんだよ。どんなに立場を理解して、同情しても、他人は他人でしかない。お前は俺になれない。俺の絶望的な人生故のこの行動を、お前は俺の立場から考えてないんだよ。自分の家庭や仕事を守ることが一番なんだろ? 二の次の俺のことなど、お前にわかるはずがないんだよ」
 確かに、本当に清川の立場に立つことはできない――黒澤は思った。だが、そうだとしても許されないことに、変わりはない。
「キヨ、お前のような人間ばかりが存在していたら、ここまで地球は存続していない。お前が目を失う前まで希望を見られたのも、平和が続いていたからだろ? 自分が希望を失ったから、はい終わり、か? お前が今すべきことはそれじゃない、新しい希望を見出すことだ」
「希望? ……お前みたいな完璧な人間がいるから、俺のような人間は引け目しか感じないんだ。一人で死ぬのは怖いが、みんなで死ぬのは希望があるな。ゲームはもう終わりだ。この世で一番大事なものは、勝ち組が望む利己心に富んだ平和なんかじゃない。負け組が持つ、絶望に彩られた命でもない。小学校の時、先生に教わっただろ?」
「信じる心か……?」
 黒澤の言葉に、清川の目尻が少し下がった。
「俺がこんなこと、、、、、できるのは、単なるエゴじゃないからだ」
 そう言って、長らく黒澤の前でしゃがみ込んでいた清川は立ち上がった。人生で初めてかもしれない、こんな絶望的な気分を味わうのは――清川の固い信念の前に、黒澤は思った。その人生も、まもなく終わってしまうかもしれないが。
「やっぱり役に立った、、、、、な、ナベは。ジョーカーを見つけてくれた」
 最後の捨て台詞を吐いて、黒澤の前から清川は立ち去った。黒澤は悟った――ガス爆発で倒れた新鍋からジョーカーは奪われ、炎がそれを包み、世界は飲み込まれてしまうことを。
 黒澤は自分の無力さを嘆いた。夢で未来を知ることができながら、望まぬ形に収束させてしまったことを悔やんだ。ふと、妻と子の顔が目に浮かんだ。
「自分の家庭や仕事を守ることが一番なんだろ?」
 ――清川の声が脳裏に響く。清川の言葉は、ある意味では正しかったのかもしれない。

 その時、ドンッという激しい音が再び鳴り、誰かが倒れる音がした。それから静寂が包み、充満していく煙の中で、黒澤は意識を朦朧とさせていった――。





 僅かに意識の戻った黒澤は、救急車へと運ばれる最中の担架の上にいた。すぐ近くに、同じく担架に寝そべった男の姿が見えた。男の固く結んだ右の拳に、鈍色の紙が見えた気がした。ガス爆発の影響だろう――頭髪は焼かれて頭皮はただれ、焦げたような黒い顔は、年齢よりも老けて見える。
「新鍋?」
 黒澤は気付いて、思わず口にした。その瞬間、強烈なデジャヴが黒澤を襲った。この顔、どこかで見たような気がする。確か――それが健全な状態、、、、、である時の、黒澤の最後の思考だった。


 あれから、どれだけの月日が流れただろうか――。
 あのガス爆発の影響で、新鍋は頭髪を失い、顔の肌は幾多も荒れ、脳にも後遺症を残していた。様々な記憶を忘れたり、行動に支障をきたす新鍋は、ボケ老人、、、、そのものだった。
「やっぱり畳はいいな……あれ、眼鏡どこだっけ?」
 そう言って、老人は押入れを探し出した――。
桜井隆弘
2013年08月03日(土) 18時48分43秒 公開
■この作品の著作権は桜井隆弘さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ご無沙汰しています。
久々に書いたので、投稿してみました。

風呂敷を広げ過ぎ&こじつけっぽい作風は、自分の短所でお見苦しいところとは思いますが……。
率直なご意見・ご感想いただけましたら、嬉しいです。

この作品の感想をお寄せください。
No.7  桜井隆弘  評価:0点  ■2013-08-28 22:09  ID:cpsanlTZJIQ
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>相馬さん
お久しぶりです。
いつも読んでいただいて、ありがとうございます。

教科書ばりに眠気を誘うのが桜井ブランドです、戦い抜いていただいて恐縮です。

今作はシリアス要素が強かったんで、ギャグ調は控えめにしました。
相馬さんはギャグアレルギーでしたもんね(笑)

能力とかジョーカーとか特殊なので、いっそのことSFとかにしようかとも悩みましたが、飛躍し過ぎると興醒めかなと思いました。
結果としてはそれで良かったのかもしれませんね、現代板にこだわりがありますし。

相馬さん、お元気そうで何よりです。
環境が変わるのも大変だと思いますが、お仕事頑張ってくださいね。
No.6  相馬  評価:40点  ■2013-08-24 16:00  ID:N2Nk/Qx1Mx6
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拝読しました
お久しぶりでございます

仕事環境が変わってしまったので読んでる最中に寝てしまったり、読み返しながら寝てしまったり……何でこんなに時間がかかってしまったのか

面白かった 読ませる腕は前々から持ってましたから
桜井ワールドのギャグ調も少なく(それはそれで面白いんですが)「やったね」と素直に両手が叩ける作品だと思います

正夢は意外と扱いが難しい中、上手に仕上げてあります
清川の裏切り方も良いですね、いい意味で期待を裏切られました。

能力モノは大好きなので読み返すのも特に苦労はなかったです
能力で何とかしようというのではなく、結局現実世界で対処しなければならない葛藤が見事です

偉そうな意見失礼しました
No.5  桜井隆弘  評価:0点  ■2013-08-17 20:51  ID:JVQsBnIdDZ2
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>ゆうすけさん
お久しぶりです。
子育てに、子作りに、励まれていることと思います。

予知夢をメインにしたアイディアが浮かんで、構成が先行してしまったので、千円札や清川の動機は後付けになってしまい、悪い癖でどうもこじつけっぽくなってしまいました。
財布の中で他のお札に感染するという突っ込みは盲点で、まさにその通りでしたね……。
フィクション要素にリアリティを持たせるというのは、やはり深い専門知識が必要で、いつもそこで苦労します。
以前食品と健康の密接な関係をテーマに、夫へ復習する妻の作品を書かれていたゆうすけさんに対して、お恥ずかしい限りです。

ラストは、清川が新鍋からジョーカーを奪いに向かったところ、再度のガス爆発によって清川も倒れ、結局新鍋がジョーカーを握ったまんまということです。
冒頭の夢は、ボケ老人=新鍋がジョーカーを捨てるという現実を、黒澤が予知夢として見たということです。
黒澤が地球の岐路と思っていた老人の家での出来事は、まだ冒頭の予知夢の段階ではなく、実際は「もうひとつ先(未来)」だったということです。分かりづらくてすいません。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
No.4  ゆうすけ  評価:30点  ■2013-08-12 18:25  ID:ka2JhsoTEZ6
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拝読させていただきました。
お久しぶりです。

冒頭の予知夢からの緊迫感、ジョーカーの謎の説明など、読者を物語に引き込む構造ですね。
気になったところをいくつか。(以下ネタバレなので未読の方は本文を先に読んでください)
千円札に感染して増える菌、細菌とかウイルスとか病原体を扱った話が大好きな私でも、この斬新な菌には驚きました。爆発するのも斬新です。しかし、財布の中で他のお札に感染し、日本中の千円札に感染してしまうような気がします。また、たった一枚の千円札分の菌程度で地球を爆発させるのには無理があるような気がしました。新しい菌の開発や採取、これは私の好きなジャンルでしてね。新しい健康食品の開発とか、ガンを抑制する新薬、或いは石油生成など、多彩な領域に力を発揮するテクノロジーなんですよ。会社の業務にからめてこういった背景が描かれるとリアリティが増すと思います。
予知夢による伏線と、各キャラクターの明確な立ち位置はいいですね。
清川の突然の反抗、私も意表をつかれました。しかし、地球を爆発させるだけの動機が軽いようにも思います。
七並べの例えは面白いですね。こういった細かいところ、私もこだわりたいものです。
ラストがちょっと分かりにくいです。清川は新鍋に逆襲されてお札を奪われたんですよね。そして冒頭の夢は、将来ボケた黒澤が見た夢を予知夢として見たということですね。

色々と言いましたけど、つい仕事の手を休めて最後まで読んでしまう面白さがありました。
No.3  桜井隆弘  評価:0点  ■2013-08-10 21:37  ID:vuH..XETpoM
PASS 編集 削除
>gokuiさん
清川については、最後の裏切りでストーリーを転換させたかったので、それまでは信頼できる黒澤の味方という印象を強くしました。
ですがgokuiさんのご指摘通り、スムーズに納得できないのは作りとして落ち度があるなーと思いました。
バレないことよりも、目が見えない支障をちらつかせるとか、もっとしっかりしたエピソードを書き込むべきでしたね。

一年ぶりに投稿させていただきましたが、面白いと言っていただけるのは最高に嬉しいお言葉ですね。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。


>楠山歳幸さん
最後まで一気に読まれたのは作者の力ではなく、読者様の興味によるものが大きいのだと、そして興味を持っていただけることがありがたいなーと思います。
オチとかアイディアでしか勝負できない人間なので、そこに焦点を合わせていただけたのは嬉しいです。
黒澤はあそこで死んでしまっても良かったのですが、死んだら「自分が生きていない未来の夢」を見るのはおかしいと思い、あのような形にしました。
イメージとしては、意識はあるけど寝たきりで動けないみたいな……説明不足でしたね、すいません。

「わしな、BTでないとあかんねん」は名言ですね、じわじわ来ます(笑)
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
No.2  楠山歳幸  評価:40点  ■2013-08-06 22:39  ID:3.rK8dssdKA
PASS 編集 削除
 読ませていただきました。
 おもしろかったです。読みやすくて、それでいて気が抜けない緊張感というか、ぐいぐいと引っ張られて最後まで一気に読んでしまいました。新鍋の扱いも良かったです。
 ラストもそう来たか!と思わずうなりました。
 個人的にですが知識に乏しいため、黒澤のその後をもう少し欲しいかな、と思いました。
 失礼しました。
No.1  gokui  評価:40点  ■2013-08-06 21:12  ID:SczqTa1aH02
PASS 編集 削除
読ませて頂きました。
正夢で伏線をあちこち張ってあるにもかかわらず、先の読めない展開で面白かったですねえ。読者に分からないように伏線を張るのってけっこう難しいんですよね。たぶん書き慣れてらっしゃるんでしょうね。
気になったのは清川が本心をさらけ出す場面。一応伏線はあったんですが、それでもあまりにも突然すぎて、えっ?何が起こったの?みたいになってしまいました。私が清川を信用しきっていたのがいけなかったんでしょうけどね。
それでは、また次作も期待しています。
総レス数 7  合計 150

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