軍人
 俺は、船で孤島に向かっている。
 島の名前は聞かされていない。
 任務で飛ばされた。不満はあるが、文句は言えない。それが軍人だ。
 休暇中、本州の家で妻子と過ごしていると手紙で呼ばれたのだ。
 内容は、召集。最重要任務だった。
 任務に疑問なんて持てないから、必要な装備を揃えて本州から来た。
 到着すると、若い男が歩いてくる。男は、俺の目の前で立ち止まり敬礼する。
「待っていました」
「そうか」
 挨拶だけで終わる。前線で無駄なことを話す暇は無い。
 俺は、長旅の疲労を取ろうと施設に向かう。
 この島にあるのがとても不自然な施設へ。
 しかし、俺の休息の時間は無いようだ。
 けたたましい警報が鳴る。敵襲だ。
 だから俺は、黒い容器から愛銃の八九式小銃を取り出す。
 まだまだ幼かった頃、父が「使いやすいから」と渡してくれた銃だ。
 父はどの経路でこの銃を手にしたのかは不明だ。
 しかも、特別使いやすいわけでもなかった。
 でも今では、八九式は俺の手にしっかり馴染んでいる。
 この銃をくれた親父は戦争で死んでしまった。
 そんな回想をしている自分に驚く。普段はこんなことはないのに。
 戦闘に感情は不要だ。だから俺は、無の境地に入る。
 無の境地は、戦争を経験しているうちにいつの間にか入れるようになってい た。
 いつから入れるようになったのだろうか。
 また回想している自分を、銃声が引きもどす。
 どうやら戦闘が始まったようだ。孤島は密林が多い。
 頭の中から必要な情報を取り出し、戦況を無線で確認する。
 どうやら、敵は一個小隊分らしい。
 散開して一対一に持っていっているようだ。
 司令官の頭が悪いのか、それとも奇襲によほどの自信でもあるのかは分からないが集団を相手するよりは楽だ。
 俺は、森と同化する。俺が実戦を積んだ末に身に着けた気配を察知する方法だ。
 これで、奇襲なんてすぐ分かる。
 耳を澄ませると、木々のざわめく音や森にすむ動物達の音に混じって足音が聞こえる。
 おそらく敵だろう。俺は大樹に身を隠しながらそっと愛銃を構える。
 あまり経験のなさそうな兵士がきょろきょろしている。
 どうやら敵は前者のようだ。
 俺は、敵の頭を狙い撃つ。
 銃声に気づいてこっちを向くが、遅い。
 俺の愛銃から吐き出された5.56mm弾が敵の脳を貫く。
 1人排除。銃声で気配を察知されただろう。
 それでも、敵は弱いから撃たれないだろうと思いそのまま構えて敵を待つ。
 それが――慢心を生む。
 背後で銃声がする。自分の体を確認すると、左の肩から血を流していた。
 油断した。敵が弱いからと言って気配を察知することをを怠ってはいけなかった。
 俺は、油断した俺自身に舌打ちをしながら急いでこの場を離脱する。
 敵が追い打ちをかけてくる。動きに無駄はなかった。
 一目見て相手が熟練の兵士だとわかる。
 痛みは感じない。脳内麻酔が分泌しているせいだろう。
 そのせいか、幸い動きにあまり支障を与えなかった。
 今頃、休暇でなまった脳と体が覚醒する。
 時間が延びる感覚。敵の動きが見える。
 5.56mm弾を撃って応戦しながら、一瞬の隙を突こうと試みる。
 戦いの末、何とか敵を排除することが出来た。
 しかし、怪我をしてしまった。
 俺は一応、無線で怪我をしたことを連絡し、再び茂みの中に隠れる。
 携帯していた包帯や薬による応急処置も、あまり役にたたなかった。
 あの戦闘の後、痛みであまり動けなかったこと、さらに接敵しないよう気配を探り続けていたため敵に会うことはなかった。
 無線で、敵軍を殲滅したことが伝わる。
 ――戦闘終了――
 俺は、帰投して施設に行き治療を受ける。
 油断したのは減点だが、ここは最前線だ。死ななかっただけよかったと思うことにする。
 治療を受けた俺は、部屋に戻る道で傷の痛みに顔をしかめながら本州にいる妻子を想う。
 少し感傷的になっているのだろうか。
 俺らしくないと思いながら、妻子に気持ちを傾ける。
 手紙でも書けば喜ぶだろうか。 
 そんなことをしたら妻が怒るだろう。
「まるで遺書じゃない!」と言いながら。
 俺には、不甲斐ないが妻子を喜ばせる方法が思いつかない。
 だから、せめて妻子に手がいかぬようこの最前線で耐え続けようと思う。
 決意を新たにする。
 そして俺は、妻子の笑顔を頭に浮かべながら、また新たな闘いの日々に身を投じていく。
 ――――大切な家族を守り抜くために――――

Fin

Azu
2013年06月18日(火) 21時04分50秒 公開
■この作品の著作権はAzuさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
三語小説に挙げていた物の修正版となります。
この作品、今まで書いた中でかなり自信があるので、修正版をあげました。
それでも、至らないところはあると思います。なので、ご指摘、ご指導、お願いいたします。
最後に、ここまで読んでくれてありがとうございました。

この作品の感想をお寄せください。
No.8  青空  評価:30点  ■2013-12-04 22:32  ID:wiRqsZaBBm2
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照準と銃口の差し向け方がなかなか印象的でした。
サバイバルな匂いがいいのと、実際の銃について調べられてあるのがなかなかグッドでした!
No.7  SHIRIAI  評価:10点  ■2013-07-03 03:16  ID:U.8wHU0Lxcw
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こんばんは。

初めて素人が書く小説というものを読んでみました。そういう訳で、これから書く批評が甘いのか辛いのか、的を射ているのか、はずしまくりなのかは分かりませんが、率直に綴ってみたいと思います。
先入観が邪魔をするといけないので、他の方の批評には目を通しませんから、重複の場合、加えて、私は小説を書きません(私は詩書きです)ので、言いっぱなしであること、お許し頂きたい。

ってなわけで、適当に書いていきます。
まず、
●文章が、ぶつ切りで酷く読みづらい。
最初、軍人の雰囲気を出すため?と思いきや、貴方のクセのようです。
切迫感を出すために切ることもあり得るのでしょうが、この場合、意味がない。

●選ぶ言葉が幼稚
(例)普段はこんなことはないのに

●分かりきった説明で時間稼ぎしている
(例)任務で飛ばされた。不満はあるが、文句は言えない。それが軍人だ。
(例)無の境地に入る。/無の境地は、戦争を経験しているうちにいつの間にか入れるようになっていた

●ぶつ切りになっている事もあってか、何度も言葉を起こしなおしている。くどい。
(例)いつの間にか入れるように〜。/いつから入れるようになったのだろうか。

●冒頭付近で躓くと読者は読んでくれない
(例)休暇中、本州の家で妻子と過ごしていると手紙で呼ばれたのだ。
⇒休暇中、本州の家で妻子と過ごしていると【、】【本部からの召集がかかった】。
☆過ごしていると聞き、呼ばれた
☆過ごしていたら、呼ばれた

説明したいのでしょうが、毎回、「せつめいしよう!」と、説明のナレーションが入っているようで、やかましい!って感じ。

これくらい量があれば、密度を濃くすることで、もっと語れると思う。

また、文がこなれてないので、研究対象として、プロの小説1〜2ページを徹底的に分析してみるといいんじゃないかな。

これを読んで、次の詩の投稿をどれにするか決めました。今週金曜以降に、戦争物(短編小説みたいな詩)を詩の板に出します。どうぞ、1945・硫黄、グレン・ミラー、この3つを調べて仕返しにお越し下さい。(←冗談)

勝手なことばかり言いまして失礼しました。
No.6  藍山椋丞  評価:30点  ■2013-06-30 21:34  ID:i/iCocdcxPo
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拝読させていただきました。
前半部分(というより八割方)文章がぶつ切りなのは戦闘シーンなのでまだいいのですが、それが終わったあとは逆にゆったりとした文章のほうが味が出ていいのではと思いました。そうすることでメリハリがつき、より良い小説になると思います。
No.5  お  評価:30点  ■2013-06-29 20:08  ID:.kbB.DhU4/c
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どうも。
いくぶん、否定的な言葉になるやもしれません。
短い文章を重ねることは、アイデアをまとめたりするには良いかも知れませんが、小説としてはどうなのだろう? 全体の構成にしてもそうだけど、緩急とかリズムとか、ダイナミズムとか、余韻とか、そういったことが念頭にないのではないかと訝しんでしまいました。
ボクなら、こういう文章は、エバーノートにでも貼り付けて、きちんとインデックスして残しておきますね。
そういう感じに思えました。
No.4  Azu  評価:--点  ■2013-06-28 19:52  ID:qfRDYFlh/FQ
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坂倉圭一さん
感想返し遅れました。
重い文体、意識してなかったです。
感想ありがとうございました
No.3  坂倉圭一  評価:30点  ■2013-06-24 22:24  ID:KMpPt7smfM6
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ご近所から失礼いたします。
読ませていただきました。面白かったです。

「戦いの末、何とか敵を排除することが出来た」
のところですが、この「戦いの末、何とか」を具体的に表現するほうが良いと思いました。

それと、
「任務に疑問なんて持てないから」のところですが、軍人とは任務に対し選択肢の余地すら持てないのだ、といったニュアンスを書き切るぐらいの方が緊迫感が出るように思います。ところどころでこの軍人を軍人らしからぬと感じてしまうときがあります。たとえばですが「疲労を取ろう」とか「敵は弱いから撃たれないだろう」とか「油断した」といった表現が、死と隣り合わせであるはずの軍人の緊迫を、この作品から奪っているように思いました。一度、この文はシビアに書けている、この文はややぬるい、というように、すべての文章を一つ一つチェックされてみてはいかがでしょうか。

その際の参考になるかは分かりませんが、たとえば軍人とは油断していなくても撃たれるときは撃たれるのだ、というような発想は、より緊迫感が出るものと思います。
あとは、疲労を取りたいが、そんな時間はないのだ、などでしょうか。自覚しているぐらいの方がいいと思います。
「不満はあるが、文句は言えない」なども「不満などある筈がない」言い切って欲しいです。

こうした視点から推敲することで、やや重い作風になることが予想されますが、しかし「軍人」についての物語ですし、今のままではどことなく「玄人っぽくない軍人さんだな」という印象がぬぐえません。それが作者さんの意図する狙いでしたらいいのですが。

いずれにしましても楽しいご作品ありがとうございました。
No.2  Azu  評価:--点  ■2013-06-21 19:37  ID:qfRDYFlh/FQ
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>卯月さん
感想ありがとうございます。
ジャングルの細かい描写。なるほどと思います。
臨場感を出すために周りを細かく書くことも大切だと感じました。
それと、人間関係、家族伏線。
この後も修正を加えて広げていこうと思います。
感想ありがとうございました。
No.1  卯月 燐太郎  評価:30点  ■2013-06-20 22:14  ID:dEezOAm9gyQ
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「軍人」読みました。

「三語」よりはよくなっていると思います。
敵国語が一人称で出てこないので。

内容について
主人公の軍隊での階級と周囲の状況をもう少し書いておいた方が、作品的にわかりよいですね。(主人公の立場がわかる)

森の中での敵軍との遭遇や怪我については読んでいて状況はよくわかりました。
これ以上となってくると、汗がしたたり落ちるとか、アブに刺されたとか、泥沼に脚を突っ込んでなかなか抜けないとか草木の匂いとか、五感に感じる物を描写する必要があると思います。
敵兵の脳を射撃した後確認した具体的描写とか、自分が怪我した時の具体的描写。ヒルが落ちてきて、首筋に何匹も吸い付いていたのに気が付かなかったとか。あとで、仲間に取ってもらったとか。
そのあたりを書くと、臨場感が出てきます。

ラストの手紙ですが、これはよい物なので、導入部または途中で妻子に関する伏線を張っておけば、なおよいと思います。(妻子とのエピソード)
ちなみに作品がもう少し長くなれば、軍隊での人間関係を書いて知り合った者が妻子の写真や手紙を見せて、と本土に帰ったら、どんな商売をするとかの夢を語っていたとか。ところが、そいつが一撃のもとに亡くなったとかを入れるとドラマチックにはなりますね。
ただ、ステレオタイプにはならないように気をつけなければなりませんけれどね。

点数は今後伸びる要素がありますので30点にしておきます。
御作の場合は掌編ほどの長さなので、膨らまそうと思えば、いくらでも可能です。
人間関係も入れようと思えば、出来ます。
30枚ぐらいの作品は書けるようにして、それが人間ドラマになっていれば、点数はおのずと上がります。

このサイトでは感想数は少なくて、ある程度の長さの作品を書いても感想が入らない場合もありますが、そういったときもめげないように頑張ってください。
これは、わたしにも言えることです(笑)。


それでは、今後に期待します。


それでは、頑張ってください。
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