恋文

拝啓

 お元気ですか。
 こっちは、日向ぼっこができるくらいあたたかい日が増えてきました。冷え性な君は、「まだ寒い」って言うかもしれないけど。
 そっちはどんな感じ?なにしろ僕はそっちに行ったことがないから、寒いのか暑いのかわからん。どうなんだい?教えてくれ。

 認めよう。僕は君に会えなくて、さみしい。だからと言って、手紙なんて僕のガラじゃないって、驚いただろう。まあ、みなまで言うな。これには理由がある。

 実は先週、君からの年賀状が届いた。書き間ちがえではない。「年賀状」が届いたのだ。
 どうやら、郵便局のアルバイト配達員がどっかに置きわすれた年賀状の一部が発見されて、つい最近になって配達されたらしい。おっちょこちょいな君がしでかしそうなミスだよね。もしや、君がその配達員だったのでは?恋人に隠しごとはいけない。白状すべし。
 とかく、その未配達の年賀状の中に、君の年賀状があったのだ。君からの年賀状が三ヶ月のときを経て、僕のもとに届いた。驚いたよ。一緒に初詣へ行った大晦日、年賀状を書いたなんて一言も言ってなかっただろ?というかあの日の君は、自分から初詣に行きたいとせかんでおいて、「寒い」と「眠い」しか言わなかったよね。いいけどさ。

 僕は自責の念にかられた。だって、恋人が手間をかけて年賀状を書いてくれたというのに、僕は簡素な明けおメールで新年のあいさつをすませてしまった。おおいに反省しています。この手紙に免じて許せ。
 なんだたいした理由じゃないじゃないかクソがと、冷たい瞳でこの手紙を読んでいる君が目に浮かぶ。そういう顔も好きだ。そんなことを言ったら、照れ屋で口の悪い君は、例のごとく、「黙れ変態」と返してくれるに違いない。そんなお決まりの罵倒すらなつかしく、愛しい。

 僕のことなんか気にしちゃいないだろうが、ついでに近況をば伝えておこう。4月、僕は長いモラトリアム期間を終え、小さい会社に入社した。望んだ職種ではないけれど、やりがいを見いだそうと奮闘している。
「好きなことばかりしていられない世の中だ。それでも大切なものは小脇にかかえて、絶対に離してはいけない」
 覚えてるか?昔、君が言った言葉だ。当時は、君のマジメな顔を茶化して、怒らせてしまったね。でも今になってやっと、その言葉の意味が、理解できた気がするよ。
 数年前の君の言葉が、今の僕を支えている。

 離れて気づいたんだけど、君は僕の原動力のほとんどをしめていたようだ。ほんと、今さらだよな。
 夜に一人でいると、ふと君に会いに行ってしまおうかという考えが、頭をかすめる時もある。
 急に会いに行ったりしたら、君は怒るに決まっているから、もちろん実行にはうつしません。安心してくれたまえ。一度怒ると、手がつけられないからね。君が逆上して壊したテレビのリモコンは、謎のオブジェと化して僕の部屋に飾ってある。ぜったいに捨ててあげない。僕のささやかな復讐だ。

 年賀状を書いていたころの君は、その1ヶ月後に交通事故に巻きこまれるなんて、知るよしもなかったのだろう。「今年こそ脱メタボ!(お前がな)」なんて、のん気なこと書きやがって。他に書くことなかったのかよ。やるせなくて、せっかくの週末を泣いて過ごしたぞ。僕は失恋した乙女か。責任とれ。

 この手紙を読んでもらえる確証はないけれど、君のお墓にそなえておく。

 君がいない世界で、僕は生きていかなくちゃいけない。それはとても辛いことだ。でも、僕は生きるよ。一緒に過ごした日々の思い出が、君の存在を実証するかぎり。
 君がまだこっちにいるときに伝えたかった。

 君は確かに僕の太陽だった。
 そしてこれからも。

 愛をこめて
コウ
2013年04月19日(金) 17時58分31秒 公開
■この作品の著作権はコウさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて投稿します。
4/20は郵政記念日ということで、新生活をはじめた青年の恋文を書いてみました。
一言でも良いので、厳しい批評お願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.10  SHIRIAI  評価:40点  ■2013-07-04 18:49  ID:4WvtQ.20QqE
PASS 編集 削除
いかん、涙ぐんでしまった。

少し拙い文が、余計にいい。
変に演出し過ぎてない、抑えたところがいい

>謎のオブジェ
>僕は失恋した乙女か。責任とれ。

普通で凄くいい。

こうなると、冒頭の
>お元気ですか
が生きてくる。
主人公は、
「死んでいる人に手紙って、ばかじゃないの」
と思いながらも書きはじめる。
いや、やめようか、涙出たらこっぱずかしい、えぇと、
「お元気ですか。」



ネット小説ならではの良作。
校正する必要は全くないと思う。
敬具もなくていい。
No.9  Azu  評価:30点  ■2013-04-30 21:00  ID:FsMq6U3PU7g
PASS 編集 削除
感想、書かせていただきます。
ラスト、想像力のない僕はまさか天国にあてた手紙だと思いませんでした。
しかし、驚きはしましたが、悲しいやいい話だなーなどと感じませんでした。
そうだったのか…という事実が判明した、パズルのピースがはまるような感覚です。
あと、8行目が「とかく」とにかくじゃないかな?
No.8  霧島那由  評価:40点  ■2013-04-26 22:52  ID:dPOM8su8lqs
PASS 編集 削除
楽しんで読ませていただきました。
男性が前へと歩き出す様子など、とてもしっかりと書かれていて印象的でした。
しかし、そういった演出であるならば申し訳ないのですが、各文末の書き方、口調に統一感がなく、少し違和感を感じるところがありました。
全体としてとてもよい作品だと思います。
No.7  コウ  評価:0点  ■2013-04-21 17:14  ID:MoCvENvvWTk
PASS 編集 削除
>gokui様
ご感想ありがとうございます。
ご指摘通り、焦点がはっきりしていないために
印象の薄い文章になってしまったような気がします。
gokui様のアドバイス読んで、読者を楽しませようという
考えが足りなかったなあと思いました。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

>山田花子アンダーグラウンド様
ご感想ありがとうございます。
舞城氏の作品はタイトルで気になっていたのですが、
未読なので今度読んでみます!
次回もよろしければお願いいたします。
No.6  山田花子アンダーグラウンド  評価:40点  ■2013-04-21 04:25  ID:BrBj.1iOdwk
PASS 編集 削除
マイジョーの好き好き大好き超愛してるみたいで好きです。
No.5  gokui  評価:30点  ■2013-04-20 14:40  ID:SczqTa1aH02
PASS 編集 削除
読ませて頂きました。
丁寧に書かれているので最後まですんなりと読み進めることが出来ました。感想としては、緒方さんも書かれているとおり可もなく不可もなくですかね。
私ならば、最後まで彼女の死を隠して最後に衝撃的にネタばらしするか、彼女の死を最初にばらして、いかにして自分が立ち直ったのかをドラマチックに書くか、どちらかでしょうね。コウさんの作品の場合焦点が絞れてないという印象でした。
それでは、今後も頑張って下さい。次回作楽しみにしています。
No.4  コウ  評価:--点  ■2013-04-20 13:29  ID:azpim08yQ42
PASS 編集 削除
>>緒方 様
ご丁寧なご感想、ありがとうございます。
ご指摘通り、文章をもっと工夫する必要があったと思います。
もっと魅力的な文が書けるように、表現力を鍛えたいと思います。
「こういうものが書きたい」と思って書いたというよりは、郵政記念日というテーマを最初に決めて、無理やり文章をひねり出したからかもしれません。(言い訳カッコワルイ)
ほめられるより、手厳しい意見を言っていただける方が、興奮……いえ意欲がわく性癖です。
次回も、どうぞよろしくお願いいたします。

>>卯月 燐太郎 様
良い点・悪い点・改善点と、ゆき届いたご感想ありがとうございます。
>Aについては、「1ヶ月後に交通事故に巻きこまれる」この期間を書く必要はないと思います。
ご指摘通り、1ヶ月後と書いてしまったために、不合理さが生じてしまいました。
ちゃんと考えてから書かないから、こういうことになるのだ。
卯月様がご提案されたアイディアの方がストーリー的にも面白くなったのになあ、と思いました。

>Bで読み手の不安をあおっておいて、「急に会いに行ったりしたら、君は怒るだろうなぁ……」くらいでよいのでは。
確かに、直後に否定するならば「夜に一人でいると、ふと君に会いに行ってしまおうかと……」という文は効果的ではないですね。
かまってちゃん感しか出ませんね。

>また配達員が配達するのが嫌になったので、自分の部屋に隠していたとか。
そんなことがあるのですか!
配達員の人間性を疑いますね。いくら配達が大変だからって。
でも捨てるのではなく、隠すというところが少し滑稽ですね(笑)

激励のお言葉ありがとうございます。
卯月様のおかげで、課題点が見つかりました。
次回も、どうぞよろしくお願いいたします。

>>zooey 様
もったいないお言葉です。ほめ過ぎです。もっとけなしてください。
>一つ一つの語られる事柄から、温かみが 滲んでいて、ああ本当に彼女のことが好きだったんだな、と思えました。
こんな稚拙な文章から、そこまで感じとっていただき、ありがとうございます。
ラブラブ感が伝わって良かったです。
「恥ずかしい!サムい!死にたい!」と嘆きながら、執筆した甲斐がありました。

>せっかくなら「〜それでも大切なものは小脇にかかえて、絶対に離してはいけない」
の部分にラストに絡めて、君のこと小脇に抱えて生きてくよ的な感じでも良いかなと思ったのですが
なるほど。そういうニュアンスを取り入れて、リライトしてみます。
具体的なご提案ありがとうございます。

次回も、どうぞよろしくお願いいたします。
No.3  zooey  評価:40点  ■2013-04-20 04:28  ID:LJu/I3Q.nMc
PASS 編集 削除
読ませていただきました。

これは良いですね。
すごく好きです。

素朴な文章で何気ないことが書かれていますが、
その言葉にはたっぷり愛情が詰まっているというか。
一つ一つの語られる事柄から、温かみが 滲んでいて、
ああ本当に彼女のことが好きだったんだな、と思えました。
すごく平凡そうなことだけど具体的に丁寧に書かれているから、
他人から見たらくだらないことでも、大事に胸にしまってたんだろうな、みたいに感じられるのだと思います。

あと、私も出かけると寒いとか眠いとかばかり言ってしまうので、なんだかリアリティがありました。

ラストのストレートな愛情も好きです。

指摘するところも特にないようにも思ってしまったのですが、
せっかくなら「〜それでも大切なものは小脇にかかえて、絶対に離してはいけない」
の部分にラストに絡めて、君のこと小脇に抱えて生きてくよ的な感じでも良いかなと思ったのですが、
変に作為にはしらない方がいいのかも知れませんね。

良い作品を読ませていただきました。
ありがとうございました。
No.2  卯月 燐太郎  評価:30点  ■2013-04-20 02:33  ID:dEezOAm9gyQ
PASS 編集 削除
「恋文」読みました。

作品の後半までは恋文の相手が亡くなっているとは思いませんでした。
「郵便局のアルバイト配達員がどっかに置きわすれた年賀状」だったので、遅く届いたという事らしいですが、そういうのはたまにニュースでありますね。
また配達員が配達するのが嫌になったので、自分の部屋に隠していたとか。
まあ、こういうのはまとまった数になりますと、配達されていないと、郵便局にクレームがついて、たいがいわかるのですけれどね。


内容について

よい点
>主人公の恋人は亡くなったが、本人は「長いモラトリアム期間」から、前向きに、動き出したという事。
>基本的な「構成」(起承転結)が壊れていないので、読んでいて、流れがよい。
>主人公が、相手と対話しょうとしているので、「恋文」が成立している。
>主人公の「よい人柄」がわかる内容になっている。


悪い点

文章に乱れがあります。(普通に書かれているなぁと思っていると「暑いのかわからん。」という具合に砕けた書き方になっている。
>白状すべし。
>いいけどさ。

A>年賀状を書いていたころの君は、その1ヶ月後に交通事故に巻きこまれるなんて、知るよしもなかったのだろう。
●これだと、亡くなった恋人は1月の中ごろまでは交通事故に遭っていなかった可能性が高いです。
年賀状を書いていたのが12月20日だとしたら「その1ヶ月後に交通事故」ということは1月20日まで生きていたということになるので、年賀状の遅配は彼女を通じて、正月明けには主人公にはわかっているはずです。


改良点

>文章面は、相手が恋人ということでわざと砕けた書き方をしているのなら、それも個性かも知れません。

Aについては、「1ヶ月後に交通事故に巻きこまれる」この期間を書く必要はないと思います。
●年賀状を書いていたころの君は、その後に交通事故に巻きこまれるなんて、知るよしもなかったのだろう。
●または、年賀状が主人公に届いていないということを彼女は知っていたので、「出した、出さない」ということで、主人公とプチけんかしていた。とか。

●ショートショート風にするのなら、「天国の消印」が捺してあったとか。

B>夜に一人でいると、ふと君に会いに行ってしまおうかという考えが、頭をかすめる時もある。
C>急に会いに行ったりしたら、君は怒るに決まっているから、もちろん実行にはうつしません。安心してくれたまえ。
Bに対してCは書きすぎですね。
「もちろん実行にはうつしません。安心してくれたまえ。」すぐに、ここまで書くと、最初から書くなということになってしまいます。
Bで読み手の不安をあおっておいて、「急に会いに行ったりしたら、君は怒るだろうなぁ……」くらいでよいのでは。

―――――――――――――――――
点数は30点つけましたが、25点というところでしょうか。


それでは、次作も頑張ってください。
No.1  緒方  評価:30点  ■2013-04-20 00:34  ID:wxwaeJFv2JA
PASS 編集 削除
感想です。
厳しいのがいいのか。
なればそのように。
幕間の小文て感じで、可もなく不可もなく。
ネタはすぐにわかります。
分かるので、その上でどう揺さぶるのかが創作文としての勝負なのでしょうが、残念ながら、客観的には見え見えであるオチに頼ってしまっていて、文脈で揺さぶろうというのが感じられませんでした。
細かいことをいうと、最初、敬語から突如語りかけになるのは、個人の手紙の形式とはいえ、実際読むのは第三者なので違和感ありかな。
文章はすっと入ってくる言葉で移入しやすいと思いましたし、あからさまな不可となるところはなかったように思いましたが、印象に残るほど可になるところもなかったかなとおもいました。
総レス数 10  合計 280

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除