超桜中学校
 0 超桜中学校

 超桜中学校は敷地86341平方メートル、校舎は56階層まである巨大な学校であった。
 コンクリート打放しの灰色の外観で、ところどころにヒビが入っており、学校というよりは刑務所に近いような外観だった。どういう訳か、無数のカラスが好んで周囲を飛び交い、不吉な外観をさらに陰惨なものにし、ガアガアという鳴き声を響かせていた。
 生徒数は、30万人ほどいた。30万人の生徒は、全国の手に負えない子供達――悪行や奇行が主だ――が集められていた。繰り返される悪行や奇行に対して、教師らはつねにポケットに硬球を入れ、それでもって生徒を全力で殴打し、時に骨を砕き、肉を潰し、血や歯が宙を舞ったが、反省にふけるような生徒はおらず、悪行や奇行を際限なく繰り返した。
 超桜中学校は、××線の最終駅にあった。その先には海しかなかった。海へと伸びる線路の先は、海の砂浜の砂に埋まっていた。

 1 田中の眼球

 田中の片目を潰すと、田中は鈴木に変身するという奇妙な噂が2年26組でたっており、田中の片目が危機に晒されていた。
 田中は通常の人間であったが、鈴木は恐竜だった。鈴木は恐竜なのだが、知性のある存在として、人間として扱われていた。しかし彼の発する言葉は「がおー」だけであった。「がおー」としか言わない割に、知性ある存在らしく、テストでは常に高得点をキープしていた。おぞましい大きな鉤爪で、つまむようにして鉛筆を持ち、さらさらと答案用紙に記入するのだった。
 その恐竜である鈴木に、田中が変身するというのである。皆はその瞬間を見たくて、あわよくばデジタルカメラで撮影しようと思って、田中の片目を潰そうと、つけ狙っていた。
 いつしか田中の目は潰された、というよりもえぐり抜かれた。えぐり抜かれた田中の視神経の伸びた眼球は、瓶詰めにされて、タカシという名の生徒のコレクションになり、彼はそれを常にポケットに入れて持ち歩くようになった。
 田中はその日の放課後、日課である好きな女子のリコーダーを舐めていた。ざらざらした赤い舌を出して、リコーダーを妖怪のように舐め回した。舌を離すと、リコーダーと舌との間にキラキラ光る唾液が、橋を作った。
 西側にある教室の窓からは赤い夕日が射していて、教室内は赤かった。その中で唯一、田中だけが逆光で黒くなっており、妖怪そのものだった。黒い田中はリコーダーを舐める、執拗に。
 荒い息づかいを漏らしながら舐めていると、突然に教室のドアがピシャーンと音をたてて開き、驚いた田中はリコーダーをカラカラと音させて、髪の毛やホコリなどが覆っている汚い床に落とした。
 ドアの入り口にはタカシ率いる男子の集団が五人ほどいた。彼らは窓からの夕日を浴びて、赤かった。
「神聖な儀式を邪魔してすまないね、田中君」
 赤いタカシはそう言い、
「君の目を潰すと、君は鈴木になるという噂は本当か」
 タカシたちが教室内に入ってそう続けると、
「そんな事を本気で信じているのか?」
 と、黒い田中は震え声で言った。
「信じる」
 タカシはそう断言した。
 そしてタカシがおい、と言うと、四人の集団が田中を羽交い締めにし、どういう訳か服を脱がせて全裸にした。田中の黒い全裸の、とりわけ陰部を眺めて、赤いタカシは舌なめずりした。そして田中の蕾のような皮の被った未熟なペニスを、タカシは音をたててしゃぶり始めた。
 段々と田中はペニスを勃起させた。タカシが口を離すと、亀頭の先端だけ包皮から露出させた田中のペニスが露になった。ペニスは唾液で光っていた。タカシは再び田中のペニスにむしゃぶりつく。やがて田中はペニスをビクビクと痙攣させて射精をした。タカシは精液を余すことなく音させて吸って、喉を鳴らして飲み込んだ。
 タカシは田中の唇に何度もキスをし、さらには舌をいれて絡ませた。田中はまんざらでもなさそうに、自らも舌を絡ませて、ちゅぱちゅぱという音が教室内に響いた。
 やがてタカシは唇を離して、おもむろに「ナイフ」と呟いた。すると田中を羽交い締めにしていた一人の生徒――カバみたいな顔をしていた――が、ブレザーのポケットから、飛び出しナイフを出し、タカシに渡した。
 タカシは鹿角の柄についてるスイッチを押すと、カチャという軽卒な音をたててナイフの刃が開いた。刃が鏡面のように磨かれたそれには、夕日の赤を反射させている。
「何をする気だ?」
 田中が震え声でそう言うと、
「君が思っている通りの事だよ」
 タカシはそう答えて、赤い光を放っている刃を、田中の眼窩に挿入した。田中は絶叫して、小便と大便を漏らした。床を小便が広がり、水たまりのようになった。
 ナイフを前後させて、眼球の周囲をなぞった。やがてナイフを奥深く射し込み、梃子のようにして、眼球を押し出す。眼球と眼窩の間に隙間ができ、そこに指を挿入してつまみ、引き抜いた。眼球の後にコードのような視神経がぬるぬるぬるぬると出て来た。
 タカシは血塗れの赤い指で眼球をつまみ、角度を変えながら、見つめ合った。
「変身するかな」
 失神して倒れている田中を眺めてタカシが呟くと、
「どうですかね」
 と、カバみたいな顔をした生徒が答えた。
 やがて田中がびくびくと全身を痙攣させ始めた。背中の皮膚が縦に割れて、そこからキラキラと虹色に輝く鱗の肌が覗けて見えた。
「始まったぞ。カメラまわせ」
 そうタカシが言うと、一人の生徒がカメラの録画ボタンを押して撮影を始めた。
 やがて田中は人間の皮膚を徐々に破り、虹色の鱗の皮膚の、鈴木になった。鈴木は田中の薄い、半透明の皮を被っている。鈴木は失神したまま床に転がっている。
 陽が沈み、あたりは真っ暗になっていた。集団の一人が教室内の蛍光灯をつける。室内が白くなり、鈴木は白熱灯の下に晒されて、鱗を輝かせている。
 タカシは呆然と立ち尽くしていた。理由はつまらなかったからだった。
「なにこのつまらなさ」
 タカシが吐くように言うと、
「こんなもんでしょ」
 とカバが答えた。
「やっちまおうぜ、頭くるわ」
 タカシはそう言うと、全員で鈴木を全力で蹴りはじめた。蹴る度になにかが潰れる感触がした。やがて鈴木は、肛門からどす黒いものを噴出させ、口からは血の混じった吐瀉物を吐いて、死んだ。
「あー、やっぱ面白くないわ。何か面白いことないかなあ」
 白いタカシがそう呟くと、
「慈善事業でもしますか」
 とカバが答えた。
「いいねそれ」
 白いタカシはそう言って笑った。口端の、笑い皺をくっきりと黒くさせて。

 2 弘樹の憂鬱

 陽光できらきら光るアスファルトの上を歩きながら、愛とは何だろうと、2年57組の弘樹は思った。セックスはしまくってきたが、愛とは何だろう?
 弘樹は顔が美しくて、女子に異常にもてて、クラスの大半の女子の処女膜を破ってきた。そういう理由で、クラスの男子からは憎まれていた。
 ある日の夜中、コンビニでコーラを買った帰りに、偶然会ったクラスの男子らに、集団暴行を受けそうになったが、弘樹は尋常ではない攻撃衝動を秘めていて、返り討ちにした。コーラの500ml缶で滅多打ちにしたのだった。それ以来弘樹を襲う者はいなくなった。しかし嫌われているのは相変わらずで、クラスで孤立を深めていた。
 愛とは何だろうと弘樹は思った。俺にあるのは性欲だけだと弘樹は思った。そう思うと酷く胸が痛んで、爽快な青空が視界に入るのに嫌悪感を感じ、うつむいて灰色のアスファルトを眺めながら、歩いた。
 弘樹が愛について考えるようになったきっかけは、セックスする女子らが事あるごとに愛愛愛というからだった。処女膜を破って愛、性病をうつされて愛、奇怪な体位でセックスした後に愛。
 俺にあるのは性欲だけだ、という思いが木霊のように脳内に繰り返し反響し、酷く胸が痛み、涙すら流れた。
 坂道を歩いて、その頂上あたりまで歩いた時だった。「弘樹君!」と声がした。弘樹は制服の袖で、涙をぬぐって振り返った。坂道の下のあたりに、何度かセックスをした女子がいた。陽の光をあびてショートカットの髪が白く光っている。弘樹は女子の名前を思い出せなかった。
「いま帰り?」
 女子が歩みよりながらそう聞くと、
「うむ」
 と弘樹は答えた。
「うむって」
 笑いながら女子が言う。
「弘樹君は何考えてるのかよくわからないね」
 女子は弘樹の前まで歩いてきて、そう言う。
「そう?」
「そう」
「今はね、愛について考えていたよ、愛についてね」
「あら、素敵」
 そう言われるとどういうわけか無性に腹がたってきた。そうだ、俺にあるのは憎しみと性欲だけだ、そう弘樹は思った。と同時に、やはり胸が痛んだ。
「性欲と悲しみと憎しみか」
 そう弘樹が呟くと、「何の話?」と女子が聞いた。
「君は俺のこと好き?」
「好きだよ」
「愛してる?」
「愛してる」
「じゃあ、殺して」
「え、なんで?」
「辛いんだ。いろいろと」
「そっか。でも殺せないなあ」
「じゃ、ぎゅってして」
「甘えん坊だねえ」
 女子はそう言って弘樹を抱きしめた。腕のなかは暖かくて暗くて何も見えず、子宮にいるようで、弘樹は救われたような気分にもなったが、やはりこの女子を愛していないと思った。
 不意に「あ!」と女子が声をあげた。弘樹は顔をあげると、坂の下から全裸の男が走ってきた。ダイナマイト・マンだ、と弘樹は思った。ダイナマイト・マンはタタタと足音をさせて走って来て、弘樹と女子の前で背中をむけてしゃがみ、肛門からぶりぶりと音させて、真紅のダイナマイトを排泄しはじめた。腰にさげたホルスターから自動拳銃を抜く間もなく、ダイナマイト・マンは自爆し、円環状に臓腑をまき散らした。弘樹と女子に怪我はなかった。

 3 ダイナマイト・マン

 超桜中学校では授業の一つに射撃訓練があった。それはダイナマイト・マンと呼ばれる、どこからともなく現れて、肛門から真紅のダイナマイトを排泄して自爆し、血飛沫と肉飛沫をまき散らしてするという、よく分からない集団に対処するためだった。ダイマイト・マンはどういうわけか超桜中学校の生徒らのみをつけねらって襲ってくるのだった。
 彼らは外観は人間そのものだったが、全裸で坊主だった。彼らは自爆しはするものの、生徒に外傷を与えるような事はなく、ただただ眼前で自爆し、血と臓腑とをまき散らすという、ひたすらに嫌な気持ちにさせる存在だった。
 眼前で人間の姿が爆発して死ぬ様相を眺める事は、生徒たちに観念としての死ではなく、生々しい死を実感させ、あるナイーブな生徒は「死ぬことが怖くなったので死にます」と遺書をのこして縊死した程だった。
 そのような外傷を与えはないダイナマイト・マンだが、やはり眼前で爆発されるのは穏やかではないので、射撃訓練を受ける事になったのだった。訓練には陸軍の軍人が派遣されて指導した。
 2年生の全クラスが校庭に整列している。校庭には黄土色の土が敷き詰められている。黄土色の校庭は、地平線が見えるほどに広い。天気は良く、雲一つない青い空が広がっていた。
 生徒はそれぞれ手に自動拳銃を持っている。整列している最前列の生徒らが、軍人の「んあああああああい!」というかけ声と共に、自動拳銃の安全装置を解除し、的に向ける。ふたたび軍人の「んあああああああい!」というかけ声が校庭を響く。同時に火薬の炸裂音がパンパンと校庭を響き、的がズタズタになっていく。
 次々と鳴る炸裂音は、青空に吸い込まれるように響いた。
 
 4 サバイバルゲーム

 ダイナマイト・マンから自己防衛する為に、生徒達に一つ一つ自動拳銃を支給されていた。しかし自動拳銃はしばしば、遊戯に使われた。サバイバルゲームであった。生徒達はしばしば人間の生死を玩具として扱うことに喜びを感じていたのだった。
 実銃を使う時点でゲームとは言えない気もするが、生徒達はそれをゲームと称していた。
 1年765組の男子生徒たちは公園に集った。
 公園には砂場と滑り台があった。地面には灰色の砂が敷き詰められていた。公園の周囲には生け垣が囲んでおり、草花が生え伸びていた。
 十数人の生徒らのうちの一人のリーダー格の生徒が、灰色の砂の地面に、つま先でもって二本の線を引く。線と線のあいだには、十メートルほどの距離がある。
「はい、この線ねー」
 とリーダー格の生徒が言うと、生徒達は二つに別れて、それぞれ線の上に立って向かい合った。そしてホルスターから自動拳銃を抜いて、互いに銃口を向け合う。
 リーダー格の生徒も線の一つの上に立ち、自動拳銃を抜き「はい、スタート」と言った。
 同時にそれぞれの銃口が火を吹き、薬莢が飛び、パンパンという乾いた音が鳴り響き、血しぶきが飛ぶ。つぎつぎと撃たれて倒れていく生徒達。
 数秒後に「はい、やめー」と言ったのは、リーダー格の生徒ではなかった。リーダー格の生徒は、頭部を撃ち抜かれて血を流して倒れていた。
 朦々と煙る燃えた火薬の煙りの中で、生き残っている生徒は三人のみだった。他の生徒達はそれぞれ胸や腹や頭部を撃ち抜かれて、血を流して地面に倒れている。地面は血を吸って赤色が広がっていた。
 三人の生徒らは、大声をあげて笑った。

 5 童貞

 1年42組の良太は、同じクラスの義男の家に泊まりに行く事にした。セックスをするためであった。義男の家は、その日はみな出かけて誰もいないのだそうだった。
 二人は炎天下のなかで手を繋いで歩き、ゆらゆら揺れる陽炎のなかで尻を触りあったり、腰をさすりあいながら歩いた。
 やがて義男の家につき、玄関を開けて中に入った。
 良太はクーラーの効いた応接間のソファーに座っていると、台所に向かった義男がカラカラと氷の鳴る音をさせて、麦茶の入ったグラスを持ってきて、テーブルの上に置いた。義男と良太は一口二口それを飲んで、熱くなった身体を冷やすと、やがてキスをし、互いの身体を愛撫し合った。だんだんとペニスが勃起してき、義男が良太のズボンに手をかけた時だった。玄関がガチャと音をさせた。
 義男と良太は慌てて身体を離し、ソファーに並んで背筋を伸ばして座った。
「ただいまー」と言って入ってきて、応接間を覗いたのは、義男の姉である文恵だった。文恵は19歳の女子大生だった。Tシャツにジーンズというラフな格好だった。ぴんと張った胸がTシャツを押し上げ、腰は細くくびれていて、すらっとした長い足がジーンズに包まれていた。両刀である良太は、思わず勃起した。
「今日は友達の家に泊まるんじゃなかったの?」
 義男が不服そうにそう言うと、
「喧嘩した」
 と文恵が答えた。
「あら、友達? 可愛い友達だね」
 文恵は良太を見てそう言った。

 *

 三人で夕食を食べ終え、風呂に入ってから、テレビの漫才を見ていると、義男はいつしかソファーの上で眠ってしまった。義男の寝顔にはテレビから放つ光が映っている。
 文恵がしょうがないなあ、と言って義男に毛布をかける。
 良太と文恵はソファーでなんとなくテレビを見続ける。気まずい空気が流れる。義男のすーすーという寝息が聞こえる。
 沈黙を破るようにして文恵が
「ねえ」
 という。
「ここ、膨らんでるよ」
 良太の股間をさして文恵は言って、良太はハッとした。良太は文恵のTシャツからちらちら覗けてみえる胸の谷間と、ショートパンツから伸びる足をみて勃起していたのだった。良太は慌てて両手で股間を隠す。
 その手を文恵は掴みあげ、まじまじと膨らんだ股間を眺める。
「辛そう」
 と、文恵は呟く。
「うん」
 良太はそう言うと、
「楽にしてあげる」
 と文恵は言って、良太のズボンとパンツをおろし、露になった良太の、蕾のようなペニスを眺める。ペニスの先端からは透明の液がトロトロと溢れている。
「きみ、童貞?」
 文恵がそう聞くと、
「うん」
 と良太が答える。
 良太は同性とアナルセックスした事は多々あったが、女の膣に挿入した事はなかった。
 そっかーと言って、文恵は良太のペニスを白くて長い指でさする。ビクビクと痙攣するペニスを見て「おいしそう」と呟き、舌で舐める。
 やがて文恵は大きく口を開けて、良太のペニスを口に含み、じゅぱじゅぱと音をたてて刺激した。
 良太はやがてペニスを痙攣させて射精し、文恵は音をさせて飲み込んだ。
「凄い量。でもまだ勃起してる」
 文恵は引き出しからコンドームを取り出すと、良太のペニスに被せた。
 ショートパンツを脱ぎ捨てて、黒々しい陰部を露にし、「童貞もらっちゃう」と言って、良太の上にまたがり、蕾のようなペニスをずぶずぶと膣に挿入した。
 ペニスの全てが膣に収まると、
「気持ち良い?」
 文恵はそう聞いた。
「うん」
 良太はそう答えた。
 すると文恵は嬉しそうに笑みを浮かべて、腰を前後に動かし、やがて良太は射精した。

 6 神社の賽銭箱

 神社の賽銭箱から盗んだ金でもって、煙草を買って吸い、ゲームセンターに入り浸る、という事が1年28組の男子らの間で流行した。さらにゲームセンターで得たコインの端をヤスリで削り、砥石で研いで刃をつけたものを、拳の指の間に挟み、それでもって喧嘩などのさいに殴打する、という事がはやっていた。
 黒人のように喧嘩ばかりする男子生徒らの顔面は、コインで穿たれた穴だらけだった。中には頬の肉を貫通してしまった者もあり、その者は煙草の煙を吐くさいに、好んでそこから紫煙を吐き出し、皆を笑わせた。
 神社の賽銭箱は裏が引き出しみたいになっており、鍵はかかっていなかった。開けるとくすんだ色を浮かせた貨幣が、びっしりと佇んでいた。中にはしばしば五千円札や一万円札などの紙幣もあった。いずれも手垢だらけだった。生徒らは嬉々としてそれを盗みつつ、賽銭箱に紙幣を入れる人間とはどういう人間なのだろうと思った。
 盗んだ金でしばしば買春をした。クラスの女子を買っていたのだった。そのせいもあって、1年28組の女子の大半が処女ではなかった。
 ある日の昼休みの時間だった。強烈な陽光が校庭をキラキラ光らせていた。給食を食べた後で、校庭の砂場で異種格闘技戦をしていた一人の生徒が、放送で教員室に呼ばれた。行ってみるとアバタだらけの顔をした教師が、事務椅子に座っていて、硬球を手でもてあそんでいた。教師愛用の硬球は、いままでに殴打してきた幾人もの生徒の血を吸って、黒ずんでいて、異様な迫力があった。
 アバタだらけの教師の顔は、窓から射し込む陽光を受けて、てらてらと脂っぽく光っていた。
 教師はしばらくの間、すわった目で生徒の顔をながめて、やがて、賽銭箱から金を盗んでいるという事を聞いた、本当か、と言った。生徒は沈黙した。額に脂汗が浮き、流れて目に入った。汗を袖でぬぐってから、本当だ、と喘ぐように答えた。すると黒ずんだ硬球が弧を描き、顎を砕かれた。口内でごぼごぼと血があふれ、飲み込もうとしたが追いつかず、吐くようにして口外へ血を溢れさせ、床を汚した。
 その後、328組の男子生徒ら全員がつぎつぎと教員室に呼ばれ、硬球で殴打された。

 *

 密告した人間に心当たりはあった。クラスの女子の一人であるレイだった。賽銭箱から金を盗んでいる時に、レイとぐうぜん遭遇した生徒がいたのだった。レイと目が合った生徒は「何見てんだよ」というと、「何も」と口端に笑みを浮かべながら答えた。レイは真面目な人間ではなく、むしろ不真面目な生徒だったが、恐ろしく口が軽かったのだ。男子生徒はやばい奴に見られた、やばいなこれはやばい、とその時は思ったが、盗んだ金で買ったウィスキーを一杯ひっかけて、忘れていた。
 男子生徒らはレイに復讐を誓った。輪姦だった。レイと仲のいい女子の首にナイフを突きつけて、ケータイでレイを呼び出させた。夜であった。
 街灯の並んでいる夜道を歩いてくるレイを男子らは捕まえ、裏道に連れ込んだ。そして58名の男子生徒ら全員でレイを輪姦した。レイは意外にも処女であった。ペニスを挿入すると、処女膜が破けて血が溢れた。
 やがて58名のすべての生徒が膣内射精をし、女陰からは多量の精液がゴボゴボと溢れた。泣いて全裸で仰向けになっているレイにむかって皆でペニスを出し、ばしゃばしゃと音をたてて放尿をした。

 7 自慰

 部活のサッカーを終えた後、1年56組の太郎は、帰る途中でコンビニで買ったコーヒー牛乳を飲みながら、河川敷に座り、ぼんやりと川の水脈を眺めていた。
 川は青緑色をしている。水脈はそれより黒くみえたり、逆に白っぽく光を反射させたりしている。現れては消えていく水脈が、ふとダイナマイト・マンのように太郎は思った。そして、自分もダイナマイト・マンのようなものなかもしれないと思って、しんみりとメランコリックな気分に浸った。
 薄く涙を浮かべながら、傍らに置いたコーヒー牛乳を手にとろうと、そちらの方へ視線をやると、ふと視界の端に、ピンクやオレンジなどの暖色がちらつき、何だろうと思ってよくみると、それはエロ本であった。胸を露出し、股を開いている女達は、目に痛いほどに刺激があり、動悸が激しくなり、ペニスが熱くなった。
 太郎は湿気でぐにゃぐにゃに歪んでいるエロ本の幾冊かを急いで部活用のスポーツバッグにしまい込み、周囲を見回した。誰もいなかった。
 家に帰って夕食を摂り、風呂に入った後、小走りで自室へいき、スポーツバッグからどきどきしながらエロ本を取り出して広げた。女の陰部にはモザイクがかかっていたが、それが余計に想像力をかきたてて興奮した。ペニスが勃起して痛い程だった。太郎はエロ本を広げながらペニスを露出させてみた。そして何となく掌で撫でてみると、言い知れぬ快感が背を突き抜けた。凄まじい快感と共にペニスを撫で続け、やがて太郎は射精をした。射精をするのは初めてであった。掌に散った白濁を眺めながら、これが精液なのかと思った。酷くおぞましいもののように太郎は思った。こんなものを女の膣に注ぐとは何て酷いことを大人たちはしているのだろうと思った。よし、と太郎は思った。よし、俺は今後二度と射精をしない、そして生涯童貞を貫く、太郎はそう誓って、エロ本を庭で焼却した。メラメラと燃え上がり、黒い煙となって空へ昇る女体たちを眺めた。
 数週間後、しかし太郎は自慰をしていた。すごい自慰だった。母親のパンツを頭に被って、姉のブラジャーをつけて、ペニスには父親の靴下を巻き付けていた。一日に八度も自慰することもあった。太郎の頭のなかでは卑猥な妄想がアラベスクのように広がり、さらにそれがぐるぐると回転するようだった。
 太郎は自分がスケベである事を真摯に受け止め、ひどい罪悪感に苛まれつつ、最悪な気分でペニスをしごいた。そしてピュッピュと精液が飛んだ。トビウオのように飛んで、涙のように流れた。


 8 下痢を漏らす人

 3年34組の蛭野淫平は、腸が弱くて下痢をよくもよおしたのだったが、学校でのトイレで大便をする事はタブーとされており、彼の学校生活の主要な時間は、下痢を我慢するという事に費やされていた。それでもどうしても我慢できずに、トイレの大の方へと駆け込む事がしばしばあり、クラスで陰惨な苛めにあっていた。トイレで大をしている時に、バケツで水を浴びせられたり、新しく考えた格闘技の技を試されたり、苛めの内容は総じてベタであった。

 *

 その日、いつものように蛭野淫平はトイレで大便をした事で苛めを受け、暗澹たる心持ちで、頭をたれて下校していた。
 夕日で空は赤くなっていた。禍々しい赤色だと思った。地面はアスファルトの坂道であり、右手には民家が並んでいて、左手には石垣が続いていた。石垣の向こうには空き地が広がっており、雑草が無造作に生え伸びていて、風に揺れていた。それらすべてが燃えるような夕日で赤く染まっている。
 ふと蛭野君! と前方で声がした。前方は上り坂だった。その坂の頂上あたりに、同じクラスの涼子が腕を組んで、仁王立ちしていた。涼子は《クラスで一番の美女》だった。
 涼子は太陽を背にしていて、逆光でカラスのように黒く、見ていると目がちかちかした。
「またトイレで下痢をして苛められていたわね?」
 夕日の中で黒々しい涼子がそう言う。
「うん」
 と蛭野。
「こそこそと下痢をするから苛められるんだよ」
「そうかも」
 と蛭野はうつむいて答えた。
「私を見て」
 そう言う涼子を蛭野は見た。逆光で目がちかちかした。
「私はいま、大と小の両方をもよおしているわ」
 蛭野淫平には何の事かわからず、涼子を見続けた。
 不意に涼子の方からブリブリという音が鳴り響いた。やがて涼子のはいている制服の短いスカートから伸びる足を、溶岩のような下痢が流れた。そしてその後に、黄色い尿が流れて、下痢を洗った。下痢と尿の混じったものが、夕日をキラキラと反射して、鉱物のように光った。
「こうやって堂々と下痢を漏らせば、誰も苛めたりしないわ」
「そうかも」
 蛭野淫平はてきとうに話を合わせようと思って言った。
「今、蛭野君はてきとうに話を合わせたわね?」
 蛭野はハッとして、
「僕にはそんな勇気ないよ」
 と言うと、
「凡人ねえ、つまらない」
 涼子はそう言い捨てて、下痢と尿まみれの足のまま、夕日の方へ走っていき、陽と同化して消えていった。

 *

 いつしか蛭野淫平は涼子に恋をしていた。下痢と尿とを堂々と排泄してみせる涼子に、圧倒的な美を感じていたのだった。あの日、涼子と会った時の夕日のように燃えるような恋心がうずいた。
 涼子の気をひくために、授業で教師に名指しされ、黒板にある数学の問題を解くように言われ、教壇に上がった時、盛大に下痢を漏らした。制服のズボンの裾から、溶岩のような下痢が流れた。そして下痢まみれになりながら平然と問題を解いた。回答は当たっていた。
 その日から蛭野淫平は苛められなくなり、頻繁に堂々と下痢を漏らした。そして苛めていた生徒の顔面にジャムのように下痢を塗ったりした。
 ある日涼子に告白をした。放課後の夕暮れの赤い空気のなか、校舎の裏に、涼子の友人を通じて呼び出したのだった。校舎の周囲を好んで飛び交うカラスの群れを眺めながら待っていると、やがて涼子がやってきた。
 涼子はむっとふくれ顔をしていた。顔の輪郭が夕日の桃色をメラメラと反射させていた。
「なに?」
 不服そうにそういう涼子に、
「好きだ、付き合ってほしい」
 そう言うと、
「いいよ」
 と即答した。

 *

 涼子は意外と照れ屋だった。下校時に手を繋ごうと提案したら、恥ずかしいから嫌だ、と断った。そんな涼子を蛭野淫平は好きだと思った。
 帰りに涼子を家に呼び、一緒にDVDを観る事にした。蛭野淫平の家には大量のDVDがあった。その多くが暴力映画だった。
 涼子は本棚に並んでいる大量の暴力映画を眺め、その中のとりわけ酷い暴力映画を手にもち、ジャケットの裏にある血しぶきのカットを眺めて、これ観たいと言った。
 二人でソファーに座って暴力映画を観た。涼子は今の肉しぶきすごいねとか、強姦のシーンで笑ったりしていた。そんな涼子を蛭野淫平はやはり好きだと思った。
 暴力映画を見終わって、楽しかったねと涼子が言うと、部屋の周囲を見回した。
 蛭野淫平の部屋の壁には、自筆の絵画――その多くがシュルレアリスム風の気味の悪い絵だった――がかけてあった。涼子はこういうの好きといって、その中の一つを指してこれ欲しいと言った。その絵は、巨大なミミズが空を飛んでいるという訳の分からない絵だった。
 いいよあげる、と蛭野淫平は言って、色鉛筆で描かれたそれを壁から外して涼子に渡すと、うれしいありがとうと言った。
 外は既に暗くなっていた。涼子は楽しかったねと言って、バッグを手に持ち、立ち上がって、そろそろ帰ると言った。
「じゃあね」
 玄関まで行って、蛭野淫平がそう言うと、
「じゃあね」
 と涼子は手を小さく振って笑った。

 9 戦争

 ダイナイマイト・マンが襲撃してくる事はたびたびあったが、まさか空から雨のように降ってくるとはだれも思わなかった。
 超桜中学校の敷地内のみを、無数のダイナマイト・マンがひらひらと降り注いだ。ひらひらと降ってきて、空中で自爆し、血飛沫と肉飛沫を、花火のように円環状に飛沫させて、やがてそれは雨のように降り注ぐのだった。肛門内で爆発するダイナマイトは、奇妙にくぐもった爆発音を響かせ、それは地上を覆った。
 授業をしていると、外で爆発するダイナマイト・マンの血や臓器が、ばしゃと音をたてて窓に飛沫して真紅に染まり、教師達はこれでは授業にならないと、舌打ちした。
 敷地内ではやがてダイナマイト・マンの血と肉とが積もっていった。歩くと血と肉の層にずぶずぶと足が沈んだ。
 生徒達は休み時間に校庭に出て、肉合戦をした。それは砕けたダイナマイト・マンの肉片を互いに投げ合うという遊びであった。生徒達は血に染まった顔に笑みを浮かべて肉を投げ合った。
 そして空からは相変わらずダイナマイト・マンがひらひらと降り注いでは中空で次々と花火のように爆発し、血肉をまき散らすのだった。

 *

 ダイナマイト・マンはいつしか降り止んだ。それと同時にダイナマイト・マンが現れる事はなくなった。いなくなると妙に寂しい心持ちもした。あるナイーブな生徒は「ダイナマイト・マンがいなくなって寂しいので死にます」と遺書を残して轢死した程だった。
 射撃訓練の授業もなくなって、生徒達の自動拳銃も回収された。サバイバルゲームでは実銃からエアソフトガンにとって変わったが、実銃を使ってのゲームを体験した後では白々しく思われた。
 同時にダイナマイト・マンがいなくなって血肉やそれに伴う死をみる機会が減り、生徒達は血に飢えるようになった。
 生徒達は、銃にとってかわる武器を手にしはじめた。密林用のナタ、特殊警棒、ナイフ、軍刀、などがそれであった。
 そしていつしか生徒達の間で戦争が始まった。何らかの益を求めての戦争ではなく、何らかの主義のための戦争でもなく、戦争のための戦争だった。
 
 *

 戦争に参加した生徒は、全体の十分の一ほどの、約3万人だった。場所には学校の校庭が選ばれた。広大な黄土色の校庭に、びっしりと生徒が集合している。
 昼の時間で、授業中だった。
 生徒達はそれぞれ武器を持ち寄った。その多くがナタや斧やナイフやドスや軍刀などの刃物であった。それらが陽光の下できらきら光っている。
 生徒らは一様に服を脱いで全裸になり、絵の具で赤や黄や青などの原色で、呪文のように全身に塗りたくった。そしてさらに全身にサラダ油をぬりたくり、てらてら光らせた。
 彼らは完全な興奮状態の中におり、人間というよりは動物にちかい存在になっており、大きな奇声が、断続的にあちこちから上がった。
 そして、サバイバルゲームでもやったように、二本の線を黄土色の校庭にひき、二手に別れて、互いに向かい合った。
 一人の生徒が線と線の間に立ち、モデルガンを空に向ける。そして引き金を引くと、薬莢が飛び、炸裂音が響いた。同時に、武器を持った生徒達が、一斉に奇声をあげながら衝突した。
 陽光に煌めくふり下ろされる刃物、青空を飛ぶ血と肉、飛び交う奇声という奇声。
 教師達は校舎の中から、コーヒーを飲みながら戦争を眺め、「馬鹿どもが」と呟いた。
 戦争に参加しない生徒達は、校庭の外から青姦しながら優雅に戦争を眺めるのを好んだ。

 *
 
 数時間後に戦争は終わった。密林用のナタなどで切り合った生徒達の、切断された四肢や頭部などが校庭一面に散らばっている。夥しい数のカラスがやってきて、死骸や肉片をくちばしでつついている。
 生き残った生徒は千人ほどだった。彼らは戦争が終わってもなお興奮状態にあり、そのうちの何人かが発狂して精神病院の閉鎖病棟に収容された。

 10 永遠
 
 良太は文恵と初めてのセックスをした後、幾度も会ってセックスした。家で、ラブホテルで、青空の下で、砂丘で。戦争の時も血や肉が飛ぶのを眺めながら青姦した。
 そのうち文恵は、友達の幾人かを紹介した。良太を見て、文恵の友達五人は「わー、かわいい」と言ってフェラチオをし、乱交をした。
 良太の睾丸は五十個あって、巨峰の房みたいになっており、際限なく射精できた。六人の女とつぎつぎと性交しまくり、そのうちの一人が腹上死した。
 文恵はさらに何人もの友達を紹介し、良太はセックスするばかりの日々を送った。
 そういう日々を送っているうちに、俺はこんなことばかりしたいのか、こんなことばかりしてていのか、こんなことばかりして死ぬのか、という気分になった。これではダイナイマイト・マンの人生と大差がないではないかと思った。
 ある日、文恵達から逃げるようにして家出して、海へ行った。学校の近くの海だった。青かった。
 海の波がさざめく様相や、ざざざという波が打ち寄せる音を聞いていると、心が洗われるようだった。
 沖から吹いてくる冷たい風をうけながら、じっと海の稜線を眺め、目裏に焼き付けるようにして、忘我に達しようとしていると、ふと傍らに老年の男がいるのに気付いた。薄汚れたコートを着ていて、白髪まじりの頭髪で、背を伸ばして海に向かっていた。老年の男はコートから文庫本を取り出して付箋のあるページを開き、沖に向かって詩のようなものを朗読しはじめた。
 ――人間どもの同意から
 ――月並みな世の楽しみから
 ――それならお前は手を切って
 ――飛んでいくんだ
 老年の男はそう読み上げると、文庫本を閉じて早々と去っていく。ふと風がふいて、老年の男の汚いコートをばたばたと音させて煽った。

 11 面白い事

 タカシは何か面白い事はないかと帰宅途中の電車の中で、思案していた。
 何もかもがつまらなくて苛々していた。戦争にも参加しなかった。青姦もしなかった。鈴木を拷問した時、カバが慈善事業したらどうかと提案したが、冗談ではないと思った。
 下校中の電車の中で、車窓から見える山の樹々を眺めながら、ふとヤクザの事務所を襲撃したら面白いんじゃないかと思いついて、一人で笑い声をあげて、他の乗客は気味悪がった。

 *

 タカシは学校で射撃訓練をしていた軍人に連絡をとった。
 かつて二人は幾度か密会していて、タカシは自分の身体を売っていたのだった。
 二人はカフェで待ち合わせ、コーヒーを飲んだ。テーブルの右側にあるガラスの向こうには人々が行き交っている。タカシはそれをぼんやりした顔で眺めながら、武器が欲しいと呟いた。
「武器が欲しい、それも超強いやつ」
 タカシは言うと、軍人はコーヒーのカップを置いて「はあ?」と言った。
「ただとは言わない」
 タカシはそう言って軍人の手をとって、自分の太腿に導いた。

 *

 軍人から重機関銃を横流ししてもらってタカシはヤクザの事務所の前まで行った。ドアのガラスには「××商事」と印刷されてある。タカシはスポーツバッグから重機関銃を取り出した。
 ドアを開くとそこには無数のヤクザがソファーに座って葬式のビデオを見ていた。タカシは重機関銃をヤクザらにむけて引き金を引いた。大きな炸裂音が連続して響き、ヤクザらの身体はつぎつぎと撃ち込まれる50口径の弾に破壊されて、血・肉・骨をまきちらしてミンチのようになっていった。
 事務所にいるヤクザを皆殺しにした後、タカシは銃身が熱くなってしゅうしゅういう重機関銃をその場にガチャと音たてて捨てると、ポケットからマジックを取り出し、壁に自分の住所と名前を書いておいた。

 *

 数日後、タカシが自宅に帰ると、母親と妹がヤクザらに輪姦されていた。後背位であり、肉と肉がぶつかりあうパンパンという音が室内を響いている。
 母親と妹は猿轡をはめられ、全裸にされていて、身体のあちこちが傷や痣だらけで、顔は腫れ上がって誰だか分からないほどだった。
「わるいなカーチャン、沙百合。わるいなですまないけど」
 ヤクザらはタカシを認めると、ペニスを膣から引き抜いて、「お前がタカシか」と言った。
「そうだけど何か」
「お前があれやったのか?」
「そうだけど何か」
「殺してやるよ」
 ヤクザがそう言って笑う。
 タカシも一緒になって笑うと、ヤクザは気味悪がった。
 タカシはヤクザらに銃を突きつけられ、外に停車してある車にのせられ、事務所へと連れられていった。

 *

 タカシは暗い地下室へと連れて行かれ、椅子に縛り付けられた。向かいにはヤクザの若頭が椅子に座っている。
「よくやってくれたなクソガキが。組長まで殺しやがって」
 若頭はそう言うと、「おい、アンパンマンを連れてこい」と、脇に立っている男に言った。
 やがて顔にアンパンマンのお面をつけた男がやってきて「お呼びですか食パンマン?」と言った。
「おい、アンパンマン。こいつがこないだジャムおじさんを殺したやつだ」
「本当ですか食パンマン?」
「ああ。いままでお前は多くのカビルンルンを殺してきたが、こいつがボスのバイキンマンだ。いたぶってやれ」
「絶対許せない」
 アンパンマンと呼ばれる男は、銀色に光るナックルダスターを拳にはめると「あーんぱんち!」と叫んで、タカシの顎を全力で殴打し、骨を砕いた。
 タカシは口内を溢れる血をぺっと吐いて、こんなもんか、と呟いた。これじゃ教師の硬球と大差ないな。
「もっと気合い入れて殴れ、馬鹿」
 そうタカシが言うと、アンパンマンは「あーんぱんち!」と叫んで殴り、一日中、殴打を続けた。
 タカシは全身の骨を砕かれ、臓器を潰されて死んだ。

 12 キノコ

 太郎は自慰のしすぎで死んだ。
 自慰を覚えた太郎は、自室に隠棲し、ひたすらにペニスをしごくだけの生活を送っていたのだった。彼にとっての通学とはズリネタを獲得するためのものでしかなくなっていた。女子達の胸や腰や尻や足を眺めるのだった。
 太郎の母親は太郎が部屋から出てくる事もなく、物音一つもしないのを訝しく思って、開ける事を禁じられていた太郎の部屋を、三ヶ月ぶりに開けてみた。
 部屋は夥しい数のキノコが密生していた。空間を精液の腐った臭いがむっと立ち籠めていた。キノコは太郎が放った精液を吸ったティッシュから生え伸びていたのだった。
 ティッシュは部屋に敷き詰められるようにしてあり、そのそれぞれから夥しい数のキノコが密生している。室内の空気中にはキノコが放つ無数の胞子が飛び交っていて、窓から射し込む陽光を、鉱物質に反射させてキラキラと光っていた。
 太郎は精液から生えたキノコの密集に囲まれて、下半身を裸で、陰嚢を干涸びさせて、死んでいた。
 母親はこの現実をどう受け止めて良いか理解できず、その場に倒れた。

 13 性欲

 弘樹はやはり誰のことも愛する事ができないと思った。胸のなかでひりひりするような悲しみだけが積極的な実体としてあるようで、弘樹を苛んだ。
 ふと自分は愛という言葉に振り回されているのではないかと思った。そして気にしないで生きてみようと思った。
 居直った弘樹は、性欲のおもむくままに、女子達と性交しまくった。
 美しい顔を利用して様々な女子と、それも処女ばかりを狙って性交した。
 弘樹は処女膜を破った、破りまくった、まるで障子を破くようにして破った。

 14 膣内射精

 蛭野淫平はいつしか涼子とセックスをしまくるようになった。淫獣のようにセックスばかりした。寝ても覚めてもセックスした。挨拶変わりにセックスした。暴力映画を観ながらセックスした。
 セックスする仲になっても涼子は外で手を繋ぐ事は、恥ずかしいからという理由で拒み続けた。そんな涼子を蛭野はやはり好きだと思った。
 いつしか涼子は妊娠した。蛭野淫平が膣内射精を好んだからだった。涼子は蛭野淫平が膣内射精をするたびに「アハハ! アハハ!」と声をあげて笑った。
 蛭野淫平は両親に血塗れの殴打を受け、涼子の両親に謝罪しに行った。
 しかし蛭野淫平と涼子は、出産に肯定的だった。

 *

 雪がちらついているのが窓から見える部屋でセックスした後、蛭野淫平が
「どんな子供に育てたい?」
 と聞くと涼子は、
「悪夢みたいな子供」
 と答えた。
昼野陽平
http://hirunoyouhei.blog.fc2.com/
2013年03月28日(木) 18時36分54秒 公開
■この作品の著作権は昼野陽平さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ありがとうございます。
52枚くらいです。
感想などあれば宜しくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.10  昼野陽平  評価:--点  ■2013-04-22 23:33  ID:NnWlvWxY886
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>藤村さん

感想ありがとうございます。
毎回ひねくれてるのもどうなのかなと思って、素直な部分も入れてみました。読み返すとやはり恥ずかしいというか。
わざとらしいというのは自分でも思いましたね。
あきたりないですか。さらっと流しすぎたのかもしれません。
ありがとうございました。

>山田花子アンダーグラウンドさん
感想ありがとうございます。
長いのは書いてみたいなと思ってますが、なかなかアイデアが浮かばない感じです。
中原昌也はさいきんになって読みましたが、いいかげんさが自分と似てるかもとか思いました。
ありがとうございました。
No.9  山田花子アンダーグラウンド  評価:50点  ■2013-04-21 20:35  ID:BrBj.1iOdwk
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凄いです
これビリリ来ました
前に僕平山夢明さんがどうだと言っていましたが
それとは違った世界観で短いからこそいいのかな
でもこの断片であり繋がっている一つ一つが集まった
分厚い本が欲しいと思いました
性と暴力性と暴力
そして何故か中原昌也さんの作品の読後感に似ています
何故だろう すみませんでした
No.8  藤村  評価:40点  ■2013-04-20 21:58  ID:sg12n8JFuiY
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拝読しました。
こう書くと失礼なのかもしれませんが、ひねくれていないところがあっていいと思いました。
それぞれのエピソードはわざとらしいくらいヒルノチックにみえますが、こういうふうに編まれるとなにかいいようもなく「そうか」という気持ちになっておもしろかったです。ただ、自分がいい読者でないからなのか思うのですが、あきたりないのだ、というような流露を勝手に感じたうえで、それを感じていることにどこかあきたりないのだという気もたしかにするのです。まあ読んでいるこっちの問題で、これは単なるわがままです。妄言まで。
「アハハ! アハハ!」がいちばんよかったです。
No.7  昼野陽平  評価:--点  ■2013-04-10 17:56  ID:NnWlvWxY886
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>卯月 燐太郎さん

丁寧な感想をありがとうございます。

一つ一つのエピソードはおっしゃる通り短かすぎたなと思います。こういう形式で読んでいただくにはもっと工夫が必要だったなと。
臨場感は、悩みどころですね。幅広く読んでいただくにはポップな感じがいいでしょうし、コアな読み手には臨場感出したほうがいいでしょうし。
田中の眼球のところはおっしゃる通りちょっとおかしかったですね。
ギャグがギャグと伝わって良かったなと思います。
ネット向け、という感じですね。ネット向けということを前提として書いてしまっているので、今後はちょっと気をつけていきたいなと。
公募はそのうち力試しに挑戦してみたいと思います。
ありがとうございました。
No.6  卯月 燐太郎  評価:50点  ■2013-04-08 19:29  ID:dEezOAm9gyQ
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「超桜中学校」読みました。


1 タイトルは適正か
「超桜中学校」作品自体にこの学校の問題の生徒が描かれているので、全体を把握するという意味において、よいのではないかと思います。


2 文章が読みやすいか
読みやすかったです。
また、一つ一つの文章が的確に物事を言い表していて、イメージを沸かせました。


3 興味を惹くストーリーをテンポ良く展開しているか
内容は、暴力にセックスがほとんどでありましたが、過激でありながらも、どこかシュール(非日常)でありました。
この非日常的な物語のせいで暴力にセックスがほとんどでありながら、嫌悪感があまりありませんでした。
ただ、作品が短かくよく展開していき、そのたびに登場人物が変わるので、ここは主人公を決めて、その人物を中心にして物語を動かしたほうが読みやすくなると思います。
御作が長編で一つのエピソードがもっと長ければ、作品をいろいろな登場人物で見るという感じになるので、今回のような多数の登場人物を動かしても問題はないと思います。


4 シチュエーション(状況)をわかりやすく示しているか
「いつ、どこで、誰が、誰と、何をしたか」わかりました。

●ただ1点、読んでいて引っかかったところがあるので、書いておきます。
>>1 田中の眼球<<

A>>いつしか田中の目は潰された、というよりもえぐり抜かれた。えぐり抜かれた田中の視神経の伸びた眼球は、瓶詰めにされて、タカシという名の生徒のコレクションになり、彼はそれを常にポケットに入れて持ち歩くようになった。<<

このAですでに田中の眼球がどうなったかの説明がされています。
そのあとで具体的なエピソードにより、田中がタカシ率いる男子の集団が五人に暴行を受けて、殺されます。
ということで、具体的なエピソードがあるので、それ以前のAの説明が余計だと思いました。


状況設定について
「3」で書きましたが、主人公を決めて、その周りで起きる「超桜中学校」の物語を描いたほうが、構成的にはよいと思います。
御作の場合だと、超桜中学校の複数の生徒の物語になっています。
今回の作品は一つ一つのエピソードが短いのでのめりこむ前に次の登場人物のエピソードが始まってしまいます。
まあ、再度タカシのように登場する人物もいますが、原稿用紙52枚のなかでエピソードが多いので、登場人物の分散化で読み手が、集中力に欠ける可能性があります。


5 魅力的なテーマか
非日常の中の世界が描かれているので、セックスとか暴力についてはあまり違和感がありませんでした。
今回の作品は時代が要求しているのではないかとも思いました。
作品的には、ネット向きです。(展開の仕方、エピソードの持って行き方など)


6 主人公および主要登場人物のキャラクターは魅力的か
登場した主人公たちは全員が強烈な個性を持ったキャラクターです。
やばい中にも現代が抱えている人間性を誇張して、表現しているのではないかと思います。


7 ストーリーにサスペンスはあるか
一つ一つのエピソードは短かったですが、「ダイナマイト・マン」の事件が中心になり、ほかのエピソードがてんこ盛りでどうなるのかと楽しんで読みました。


8 イメージ豊かな描写はしているか
描写は適切で、その場その場のイメージが目に浮かびました。


9 細部に臨場感はあるか
非日常の世界が描かれているので、臨場感はありませんでした。
この作品で臨場感を出してしまうと、吐きながら読まなければならない可能性があります。


10 ユーモア・ウィット・ギャグはあるか
シュールでギャグの世界だと感じました。


11 ドラマに「深さ」はあるか
ありませんでした。
民族、宗教、政治、人間の尊厳の世界が、庶民の立場でさりげなく描かれている作品が、ドラマの深さだと思いますので、御作のようにシュール(非日常)でギャグ作品は当てはまらないものと思います。


12 その他
現在ある小説の価値判断をぶっ壊すような作品でした。
ここまでぶっとんだ作品を書けるのでしたら、あとは、それぞれの公募先に合った内容で書いて投稿すればよいのではないでしょうか。
要するに大人向けのホラー系だと臨場感を出して、選考委員に吐きながら読んでもらうとか。
一般のエンタメ系の公募だと18禁にならない程度に書くとか。
漫画の原作まで行けそうです。
どちらにしろ、今回の作品はエピソードの短い物が集まっていて一つの作品になっていて、その上、シュール(非日常)でギャグ満載だったので、ネット向きの作品だと感じました。



出典
使っているテンプレートは、三田誠広著書の「深くておいしい小説の書き方」という本の中にある「新人賞応募のコツと諸注意」の「おいしさの決め手十カ条」に一部追加したものです。作者には許可を頂いております。
No.5  昼野陽平  評価:--点  ■2013-04-05 01:52  ID:NnWlvWxY886
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>弥田さん

感想をありがとうございます。
色について指摘されるのはなんか嬉しいです。中盤あたりまではけっこう色を意識したというか。途中で疲れてやめてしまいましたが…。
ダイナマイトマンと蛭野ありがとうございます。蛭野は書いてて楽しかったんでまたノコノコと出てくるかもです。
ありがとうございました。
No.4  弥田  評価:50点  ■2013-04-03 00:15  ID:ic3DEXrcaRw
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おもしろかったです。夕日が本当に真っ赤なんだろうな、と思えるような世界観でした。ダイナマイトマンと蛭野が特によかったです。
No.3  昼野陽平  評価:--点  ■2013-03-29 17:17  ID:NnWlvWxY886
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>comさん

感想をありがとうございます。
オムニバスですね。タランティーノのパルプフィクションとか頭の片隅にあったりしました。
世界観ありがとうございます。ちょっと独りよがりになってないかなとか心配でしたが、入り込めたとのことで安心です。
蛭野ありがとうございます。作品にノコノコと作者が出てくるのがけっこう好きで、自分でもやってみたいなと。
楽しめたとのお言葉励まされます。
ありがとうございました。

>zooeyさん

感想をありがとうございます。
リアリティがあるとのお言葉嬉しいです。漫画的にデフォルメしつつリアルというのが好きなので。
弘樹は嫌われるタイプかなと思って書いてたのですが、そうでもなかったかったようで良かったです。
物語ありがとうございます。いつも単純なものばかり書いているので、こういう群像劇をやるのはけっこう勇気がいったというか。小説として成立できるかなとか。よくできてるとのことでほっとしました。
なんかいろいろ解題したい衝動にも駆られますが、読み手に投げてしまう事にしてここらへんで。
励みになる感想をありがとうございました。
No.2  zooey  評価:50点  ■2013-03-29 00:57  ID:LJu/I3Q.nMc
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読ませていただきました。
大変楽しかったです。

なんというか、激しい暴力の中には、激しい生とか活力があるなと思いました。

セックスでも暴力でも、開けっぴろげにカラっと明るく描かれると、
生々しくて、不思議とリアリティを感じます。
人間の内の欲求みたいなものが、良い意味で誇張というかデフォルメされていて、
でも、ある視点から本質を捉えていて、
そのために生まれるリアリティかなとか思います。

キャラクターも同じで、
それぞれが、ある一部を誇張的にデフォルメされているけれど、
そのキャラがなんだか心にしっくりくる感じがしました。
弘樹とか太郎とか好きだなと思いました。

物語も群像劇として、とてもよくできているなと思いました。
それぞれの物語が、超桜中学を別々の角度から映すスポットライトとなっていると思います。
そのため、立体的な世界が感じられました。
ダイナマイトマンの不思議な哀愁が良いなと思います。

ラストでそれぞれが辿った運命がなんとなく切ないなと思いました。
また、悪魔みたいな子供がいい、の部分から、この暴力世界の揺るぎなさが感じられて、カッコいいラストでした。

とても面白かったです。
ありがとうございました。
No.1  com  評価:50点  ■2013-03-28 19:25  ID:L6TukelU0BA
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一気に読みました。こういうのを、オムニバス?っていうんですよね確か。
面白かったです。気の利いた感想は僕には言えませんが、世界観がすごいって思います。この世界観は昼野さんにしか出せないだろうと思いながら読みました。で、作品にすぐ入り込めました。
蛭野の登場には笑いました。なんとなくこの作品はたびたび笑いどころがあっていいと思います。とにかく僕は楽しめました。ありがとうございます!
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