史上最大の夫婦喧嘩」
 二人が結婚したのは一年前、勿論大恋愛の上に結婚した。
 夫の石原啓太は警視庁特殊部隊に所属するエリートであり、国家の危機に関する任務にも就く。
 一方の妻の美咲は陸上自衛隊特殊部隊、作戦部所属。
 それは並の男でも難しい訓練に合格した、ただ一人の女性自衛官である。
 二人の出会いは共に特殊な任務に就く者同士の警視庁と自衛隊交流会で知り合い意気投合したのであった。

 夫婦喧嘩は結婚記念日の朝に、些細な事で起こった。
 この夫婦、職業柄、大喧嘩ともなれば、ただでは済まない気がするが?
 今日は二人とも休日。いつものように楽しく朝食をとる筈だった。
 「ねぇ啓太。予約してくれたでしょうね」
 「?? あれ何のことだけっけ」
 「…………」
 「なんだよーそんな不機嫌な顔をして」
 「まさか忘れた訳じゃないわよね」
 「えっ急に言われても……」
 「急にだって! 以前から頼んで置いたでしょう。まさか忘れたとは言わないでしょうね」
 「何をイラついてるんだ。ここんとこ日本でもデモ活動が活発になって緊急任務で忙しいんだ」
 「言ったわね。互いに仕事の事は家庭に持ち込まない約束じゃなかった。それを言うなら私だって最近、北の国のスパイが日本に侵入している噂があり、私だって大変なのよ」

 「なにも結婚記念日はレストランじゃなくて、家で祝ってもいいんじゃないか」
 「啓太! 二人の記念日をそんなに軽く考えてたの」
 結婚して一年、女にとってはやはり大事にしたい一日なのだ。それなのに無頓着な夫に腹をたてた。
 美咲は怒ってキッチンにある皿を啓太に向かって投げつけた。
 「な! なんて事をするんだ。許さん」
 過酷な任務とは違い、家庭での妻は優しくお淑やかな女性だった。なのに物を投げるとは。

 啓太は腹癒せに朝食が載っているテーブルをひっくり返した。
 「よくも! 私が愛情込めて作った朝食を……自分が悪いくせに。開き治るつもり?」
 美咲は逆上してキッチンにあった包丁を投げつけた。
 並みの人間なら、太腿辺りに刺さって居たかも知れないが啓太は軽くかわす。
 しかし夫に包丁を投げるとは、なんたる事か。啓太の顔色が変わった。
 「なっ何をする! 俺を殺すつもりか」
 「啓太がテーブルをひっくり返しからよ。愛情込めて作った食事なのよ分かる!」
 「だからって包丁を投げる奴がいるかぁ」
 「特殊任務に就く啓太なら軽くかわせるでしょ。訓練だと思いなさい」
 「もう、俺はキレたぞ」
 怒った啓太は美咲が大事にしているドレッサーに拾った包丁を投げつけた。
 ドレッサーの鏡は粉々に砕け散った。今度は美咲の顔色が変わる。目はもう戦闘態勢に入っている。

 「よくもやってくれたわね!!」
 激怒した美咲は外に飛び出しとガレージに行き、啓太の愛車レクサスRX450のボンネットに飛び乗った。 
 愛車のボンネットがベコリと凹む。そして美咲は啓太を見てニヤリと笑う。
 「美咲、なんて事をしてくれるんだぁ。頭に来た。もう完全に切れたからな!」
 啓太は美咲の愛車である、フェアレディZ Version STに乗って外に飛び足した。
 「あっ何をするのよ。先月買ったばかりの新車を」
 美咲は夫の愛車レクサスで後を追った。啓太の乗ったZは首都高速に入った。美咲も首都高に入る。
 だがフェアレディZは猛スピードで他の車を追い越して行く。すでに時速百六十キロは出ている。
 しかし美咲も運転には自信がある。車だけではない戦車にも乗るしヘリコプターだって操縦出来る。
 それが特殊任務に就く者には当たり前の事であった。

 やがて首都高は二人のレース場と変わった。やがて疾走するZは中央自動車道に向かっている。
 いくらレクサスが高級車と言え、スポーツ車のZには叶わない。どんどんその差が開く。
 美咲はチッと舌打ちすると、何を思ったか美咲はレクサスで立川駐屯地の中に入る。
 「おや? 石原二等陸尉殿、今日は休みじゃなかったのですか?」
 「ちょっとね。上官の命令で富士駐屯地まで飛ばさなくてはならないの。離陸許可を出して」
 美咲は嘘を言ってAH-1 コブラに乗り込んだ。多少時間をロスしたがこれなら追いつける。
 フェアレディZ にはレーダー発信機を取り付けてあり追跡捜査は簡単である。
 とんでもない物に乗り込んだ。最強戦闘攻撃機アパッチと並ぶ攻撃機ヘリコプターである。
 中央自動車道を疾走する赤いフェアレディZが見えた。美咲はニヤリとコブラの機上から微笑む。

 美咲はフェアレディZを目掛けて急降下した。そしてヘリから拡声器で叫ぶ。
 「啓太、次のサービスエリアに停車するのよ。でないと攻撃するわよ」
 啓太は甘くみていた。それにしても攻撃用アパッチとは、戦争の相手は俺なのかと驚く。
 「ば! ばかな夫を攻撃すると言うのか」
 勿論、美咲には聞こえるはずもなかった。やもえず啓太は車を蛇行される事で意思を示した。
 「その蛇行はなんなの嘲っているの? それとも降参? 降参ならサービスエリアに入りなさい」
 美咲の性格は知っている。任務中に気にくわない上官に発砲し、誤射でしたと開き直る始末。
 これ以上怒らせたら本当に機銃を打ち込むかも知れない。まもなく啓太はサーヒスエリアに入った。
 停車するとフェアレディZのライトが点灯したり消えたりし、それが繰り返された。
 それが何を意味するか美咲はすぐ分かった。モールス信号である。

 ロッポンギヒルズクラブデハナシアオウ
 そんな風に読み取れた。取り敢えず美咲は勝利した優越感に浸って約束の場所に行った。
 五十一階にあるクラブの前に行くと、ボーイであろうか声を掛けて来た。
 「石原様で御座いますね。お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
 美咲は怪訝な表情を浮かべて中に入ると窓際の席で啓太が手を振っている。
 派手な喧嘩のあとで少し気まずいが、啓太の待つテーブルへと向う。
 クラブ内には静かなクラッシックの曲が流れていたが、何故か演歌のメロディに変わった。
 しかも(長良川演歌)周りの客は余りのギャップに驚いたが美咲は違った。
 美咲は大の演歌好きで、特にこの曲が一番好きだった。啓太の計らいだとすぐ分かった。
 ♪好きと言われた嬉しさに私は酔うて燃えのよ♪この歌詞が特に好きらしく古風な面を持っている。

 夫の策略に完全に嵌められたのか? 美咲はメロディに酔ってしまった。
 甘いムードには極端に弱い美咲である。
 「あなた……まさか予約してあったの」
 「そうだよ。本当は知っていたんだが後で驚かそうと思ったら、その前に君が逆上しちゃって」
 「もう私ったら早合点しちゃって御免なさい」
 「いや、いいんだ。たまには二人共ストレスを発散させないとね」
 二人は眼下に煌めく夜景を眺めながらワインで乾杯した。
 それにしても攻撃ヘリのコブラまで喧嘩道具にする怖い妻であった。
 目出度しメデタシ……なのだろうか?

 了

ドリーム
2013年03月03日(日) 22時02分29秒 公開
■この作品の著作権はドリームさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
喧嘩道具に戦闘ヘリ、ゴブラを持ち出しなんて
有り得ない話ですが、コメディーと受け止めて貰えれば違和感を感じないかな。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  ドリーム  評価:--点  ■2013-03-04 23:49  ID:IHG/FibSTPw
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ゆうすけ 様
拝読ありがとう御座います。

>{やっぱりこんな感じか」と思われてしまいそうです。
コラブに対抗するには迎撃ミサイルで対抗すれば良かったでしょうか(笑)
うーん既に先を読まれていましたか(笑)

最後は寝技ですか? なんか色っぽくなりませんか?
色々と発想ありがとう御座います。
ゆうすけ 様のご助力で次回はパワーアップしたいと思います。
No.1  ゆうすけ  評価:30点  ■2013-03-04 16:52  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

こういうコミカルなものは好きなので楽しく読みました。しかしながら所謂単純な「力技」に感じてしまうのも正直なところです。史上最大と、自らハードルを上げてしまっているので読者の予想方向に話が進むと「やっぱりこんな感じか」と思われてしまいそうです。意外な攻撃手段を用いるか、或いは徹底的な力技にするか、最後は寝技に持ち込むか、色々と可能性がありますね。
小説なんですから、ブッ飛んだ話でいいと思いますよ。
総レス数 2  合計 30

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