No job,No life |
労働が嫌いな僕は、労働を避ける為に精神障害者の真似をしていた。真似と言っても、特定の精神障害者を真似ていた訳ではない。僕の近くには精神障害者がいないのである。 だから僕は、僕の妄想の精神障害者を、真似ていたのだった。 そんな僕は時に奇声を発し、時に四つん這いで歩いた。人と会話する時は極力目を会わさず、口の端には唾液の泡を溜めるようにした。人は僕に対して侮蔑?畏怖?の表情を浮かべて接していたが、すぐに遠ざかっていく。僕は自分の周りから人が遠ざかるに連れ、労働の義務も遠ざかるのを感じざるを得ない。そして益々僕は精神障害者を模倣し、労働との距離を遠ざけつつあった。 で、とりあえず僕はある日、母親に泣かれ、父親にぶち殴られ、兼ねてからの夢であった精神病院の隔離病棟に行く事となった。 隔離病棟は、檻だった。そして僕達は獣だった。獣達は暴れ、鳴き、叫び、そこかしこで脱糞していた。コンクリートの壁は尿で濡れていた。 だがその騒がしさが常、と言う訳では無い。決まって誰かが先陣を切って暴れだし、それに対抗するように皆が暴れ出すのだ。 皆が暴れ、手を付けられなくなった時には、飼育員(医者)が、穏やかになれる物を獣達に投薬した。 しかし、そんな毎日が楽しかった。労働を遠ざける事が、まさか、人間の尊厳まで遠ざける事になるとは思わなかったが、とりあえず僕は、労働をしなくても紡げる生命、つまり、人生の苦悩をほとんど拭い去った生命を、楽しんでいるのだった。 そんなある日、新しく一人の女が檻に入れられた。女は朝から晩まで、ずっとポエムを書いたり、朝から晩まで、ずっとリストカット跡を自己陶酔した様子で眺めていた。 これには獣達は皆、不思議がっているようだった。なぜなら、女は檻に入れられながらも、獣ではないからである。 僕はその女が本物、それも重度の本物であるかを疑った。なぜなら、その女のリストカットを陶酔して眺めるなどの一連の行動は、まさしく他者に構って欲しくて病んでいるフリをする女のそれに、似通っていたからである。 「君は本物かい?」 僕はある日、耐えかねて女に問うた。女は長い髪を編みながら 「いや」 と答えた。女が言うには、女も僕と同じく、労働から逃げるためにここに来たらしい。 かくして僕達は友達になった。 ここから、偽物の事を友達と呼ぶ事にする。 僕の友達はある日、三人になった。 四人になった。 五人になった。 六人になった。 気付けば檻の中の獣が、すべて友達になっていたのだ! 僕達は檻の中で、獣らしからぬ様子で仲を深めた。暴れる者は誰一人としていなかった。時に獣達は知的な会話を、時に猥談を、時に労働者達を馬鹿にした。 もう僕達は獣ではなかったのである。冷たい床に糞は無く、壁の尿は乾いて、叫び声は笑い声に変わった。 だがその静けさが常、では無かった。 僕達の奴隷(医者)が様子を見に来た時は、僕達は獣になった。なぜなら、獣でなくては、隔離病棟を追い出されるからである。 ある日事件が起こった。僕の友達の一人の男、小柄で陰気な男が、奴隷(医者)の前で糞をした後に尻を拭き、獣ではない事がバレたのである。 彼は即刻、隔離病棟から閉め出された。奴隷(医者)に引き摺られて病院から出る彼は、涙ながら、恐らくこう言った。 「あいつらも俺と同じだ」 かくして僕達も隔離病棟から閉め出されたのだ……。病院から出るとき振り返った僕の目の前には、隔離病棟の鉄格子が立ちはだかり、私がそこに入る事を頑なに拒んでいるようだった。 僕は労働を強要された。ペットボトル製造工場で、流れてくるペットボトルの瑕疵の点検であった。 時給750円。9時間労働。休暇は週一であった。 ある日僕は気が狂って、ペットボトルを薙ぎ倒し、四つん這いで工場内を這い回り、工場長に向かって放尿した。 かくして僕はまた隔離病棟にぶちこまれた。 隔離病棟には見知った顔があった。いや、全員見知った顔であった。僕達はそこかしこで脱糞し、奇声を発し、鳴き、叫んだ。何がしたいのか、僕には到底わからなかった。その時、僕と言う者は存在していただろうか?僕でない者が、僕を奪い、脱糞し、奇声を発し、鳴き、叫んでいたに違いない。 鉄格子の中で、僕達?は脱糞し、奇声を発し、鳴き、叫ぶ。 人間だった僕達は、いつの間にか獣になっていた。 |
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2013年02月28日(木) 01時09分43秒 公開 ■この作品の著作権はcomさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 コウ 評価:30点 ■2013-04-12 17:53 ID:HjmDzY7pCj6 | |||||
楽しく読ませていただきました。 自分もこうなりかねないなと思いました(笑) 文章はとても読みやすいです。 ただ、「僕の友達の一人の男、小柄で陰気な男が、奴隷(医者)の前で 糞をした後に尻を拭き、獣ではない事がバレたのである」という文が いまいちピンときませんでした。 尻を拭こうが拭くまいが、人の目前で脱糞をしている時点で獣では……と。 また、読める展開ではあったので、結末に意外性を持たせると より完成度の高い作品になると思います。 ラストで自分の奇行を振り返っている主人公があまりにも客観的なので、 もう少し狂人性を表現できれば、よりリアリティが増すと思います。 |
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No.1 クジラ 評価:0点 ■2013-04-03 21:19 ID:1uvxQElyDno | |||||
作者の働きたくない気持ちは猛烈に伝わってくるのですが、それだけです。 描写は少なく、どのような情景か想像できず、とても不親切な小説だと思います。 |
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総レス数 2 合計 30点 |
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