タカシ
 街から若い女の姿が消えた。石造りの街を往来する女は、歳をとった老婆か、若くても容貌の醜い女ばかりであった。必然として街の男たちは、若い女の身体を眺める機会も、若い女と燃えるようなセックスをする機会も、若い女と感情の余地しないスポーツ・セックスをする機会もなくなった。なかにはやむを得ず、中年の醜女をクンニリングスした豪の者がいたが、その者は醜女のヴァギナを舐めたときに、フグを食べたような舌への刺激に襲われ、病院に搬送され、医師に食中毒であると診断され、「何を食べたんですか」と問われると、愚直な男は「醜女の膣液です」と答えた。
 街に点在し、往来していたエロティシズムは、街の一点に集中していたのだった。粗い石造りの、幾何学的に構成された街の、はずれにある暗い森、その中に森よりも冥く聳える、城であった。
 城主はまだうら若い、昆虫のような美貌の青年だった。名をタカシといった。

 *

 誘拐された女らは、城の暗い地下に、幽閉されていた。一様に全裸にされ、両手を手錠にかけていて、吊るされており、胸部を突き出すような格好であった。
 暗い地下で、タカシがランプを手にして現れると、淡い光で照らされた女らは、暗闇のなかから白い肉を部分的に露にした。浮き出ているそれぞれの肋骨や胸部が、闇のなかで輝くように白く、目を射すようだった。女らの目は、黒目の輪郭線がぼやっとしており、一様に生気がなく、すでに死を受け入れている様子だった。
 タカシは女たちを見て、肉屋の冷凍庫にぶらさがってる豚みたいだと思い、一人の女の手錠を外し、調理場へと連行した。
 夕食前で忙しい調理師をかきわけて、タカシは女の髪を鷲掴みに、ひきずるように連れ、調理台の上に女を投げるようにしてのせた。
「肉切り包丁はあるか」
 そう聞くと、調理師の一人が震える手でタカシに、斧とか鉈とかに近いような、ずっしりと重い包丁を渡した。タカシはその肉切り包丁を振りかざすと、思い切り女の腕に振り下ろした。ダンっと包丁がまな板を打つ音がひびき、骨ごと腕が切断された。女は空気を切り裂くような鋭い悲鳴をあげた。それは死を受け入れていた女の、ふとした生への叫びのようだった。
 女が白眼をむいて気絶したので、タカシは女に覚醒剤を注射すると、女は再び意識を取り戻した。タカシはふたたび肉切り包丁をふりかざし、女のもう片方の腕を切断した。それを繰り返して、女の四肢と頭部はバラバラに切断された。あとは調理師に任せることにして、タカシはその場を去った。
 やがて女が調理されて出て来た。緑色のソースがかかった肉や、生の心臓や、肝臓のソテー、などであった。しかしこれらはタカシの舌に合わず、すべてゴミ箱に捨てた。そしてその日は、タカシの好物である蝦蛄を食べた。幽閉している女を、座っている自分の膝の上にのせてセックスをしながら食べた。女がくわえる蝦蛄を、タカシは口移しに食べた。やがて食事と射精を同時に終えた。
 食事をおえると身体に力がみなぎって来、タカシは幽閉されている十三人の女を自分の部屋へと連れてきた。その中の一人をベッドの上へと呼び、性交をしながら短刀でブスブスと刺した。やがて女は死に、そのあと膣内に射精をした。夥しい血がベッドを黒く濡らした。タカシは血塗れになりながら、死んだ女を抱え、窓の外へと放り投げた。
 庭に落下し、全身の骨を砕いて血染めになった女を見届けると、他の十二人の女をベッドへと呼び、夜が明けるまで性交をした。

 *

 目を覚ますとすでに夕方だった。ベッドの脇の窓からは赤い光が射し込んでいた。タカシはベッドで未だ寝ている女らを起こし、寝起きの性交をした。射精をしたあと、しばし休息していると、従者がやってきて、幽閉している女の一人が妊娠したと伝えた。すでに腹は大きいらしい。
 性交をしながらの朝食を終えると、タカシは妊娠している女を呼び、その大きくなった腹を、全力で蹴った。膣から噴出するように血を出し、胎児を堕胎した。床のうえで血塗れになってピクピク動いている胎児を、タカシは思い切り足で踏みつぶすと、胎児はバラバラになって、四散した。

 *

 ある日、いつものように性交をしながら殺していると、機動隊が突入した。タカシは女から降りて、戸棚にある小銃を手にした。フルオートで小銃を機動隊員に向けて放った。機動隊員はジュラルミンの盾を持っていたが、それをボコボコと貫通して機動隊員は血塗れになって倒れた。機動隊員も小銃で応戦した。何発かの銃弾がタカシに当たったが、痛む様子も、倒れる様子もない。タカシはさらに小銃を撃ち返した。次々と血塗れになって倒れる機動隊員。
 ふいにドロドロと音がした。戦車だった。戦車は城の扉をぶちやぶって突入した。そして主砲でもってタカシの胸部をうち抜いた。タカシの胸に大きな穴が空いた。その向こうに窓からのぞく青空が見えた。

 *
 
 女らは解放された。再び生を取り戻した濡れるような瞳。歓喜する彼女らの家族たち。勃起する男たち。街にふたたび賑やかなエロティシズムが、溢れた。
昼野陽平
2012年10月25日(木) 11時52分59秒 公開
■この作品の著作権は昼野陽平さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
読んでいただいてありがとうございます。
感想などあればよろしくおねがいします。

10/29一部改稿しました。

この作品の感想をお寄せください。
No.7  夕凪  評価:30点  ■2012-11-12 22:49  ID:qwuq6su/k/I
PASS 編集 削除
 サド公爵の悪の華?に似過ぎた筋書きだと思ったが、厨房の部分だけは迫力が有り過ぎて恐ろしかった。
No.6  昼野陽平  評価:--点  ■2012-11-06 19:42  ID:/M49zwFIFX6
PASS 編集 削除
>蜂蜜さん

掲示板みました。プロになるようですね。おめでとうございます。
お互い良い人生を歩めれば、と思います。
100年残る文学、目指します。
No.5  蜂蜜  評価:0点  ■2012-11-06 00:52  ID:fxD0PHpbJtA
PASS 編集 削除
ひるのんへ

もう感想書いちゃったけど、僕のTC『卒業』にあたって、一目も二目も置いており、また、ともに『切磋琢磨』の一言の下、お互い言いたい放題言い合ってきた仲だから、最期に何か書いておこうと思う。

たぶん、ひるのんは、このままいくと、プロにはなれない。

でも、これだけネットも普及して、プロもアマも玉石混淆のこの時代、プロになるかならないかなんて、大した差じゃないと、僕は思う。現にこうやって、アマであろうがたくさんの人に作品を読んでもらうことは不可能じゃないし、プロって言ったって、それだけで本当にメシが食える人なんてのは、ほんの一握りだしね。

だから、ひるのんには、「プロ」なんて目の前のつまらないエサに囚われることなく、独自の表現性を今後も突き詰めていってもらいたいと思うよ。ひるのんの表現世界は、けして「一般受け」するものではないかもしれないしお金にはならないかもしれないけれど、そんなことはどうだっていいことだって、ひるのん自身がいちばんよくわかっているはずだよね?

僕が最期に言いたかったのは、それだけだ。
目先の利益ではなくて、100年残る文学を目指して欲しい。
ひるのんならば、きっとそれができるはず。

もう点数あげちゃったから、この投稿では点数はなしでw
No.4  昼野陽平  評価:--点  ■2012-10-29 20:22  ID:/M49zwFIFX6
PASS 編集 削除
>夕凪さん
なるほど厨房についてですね。掲示板のことはよく知りません。

>comさん
楽しみにしていただけるなんて嬉しいです…!
胎児のところはもったいない、ですね。食べるとか踏みつぶすとか書けばよかったです。改稿しようかな。
ありがとうございました。
No.3  com  評価:40点  ■2012-10-29 05:59  ID:L6TukelU0BA
PASS 編集 削除
面白かったです!
昼野さんの作品は毎回楽しみにしています。
この作品については、一つだけ、出て来た胎児が放置されて勿体無い…と思いました。昼野さんが敢えて放置してるのなら、申し訳ないです!
昼野さんにしか書けなさそうなエログロを今後も楽しみにしています!
No.2  昼野陽平  評価:--点  ■2012-10-28 22:03  ID:/M49zwFIFX6
PASS 編集 削除
>蜂蜜さん
ありがとうございます…!自分なりのビジョンが見えてきたっぽい、です。
お互い頑張りましょう。

>夕凪さん
厨房ありがとうございます。残虐さ不足ですね。もっと気合い入れて書きます。
No.1  蜂蜜  評価:50点  ■2012-10-27 16:08  ID:oCQUpHz7uGg
PASS 編集 削除
面白い。
文学でしか表現できない世界が、ここにはある。
新しい昼野さんのステージがこれか、と思った。
新境地だ。今後のさらなる健筆と発展を、切に願います。

お互い、切磋琢磨していきましょう。
僕も負けないように頑張りたいと思います。
総レス数 7  合計 120

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除