パーティークラッカー
 今日、駅のホームで電車が滑り込んで来たところに、白のワンピースを着た黒髪の女が電車を止めるようにぶつかった。
 パーティークラッカーが弾けた。赤茶色の飛沫をあげ、役目を終えたパーティークラッカーの残骸は駅のホームに叩き付けられた。パーティーの開幕を告げられた人々は歓喜の叫びを上げ、静まり返ったホームは一変した。
 パーティークラッカーの残骸は原形を止めておらず、足や腕の関節は外されて、頭は陥没していた。だが、無惨な姿の彼女を覆う白いワンピースは所々が赤く染まり、煌々と輝いている。僕は美しいと思った。
 きっと彼女の苦悩は今に始まった事では無い。ずっと前から既に始まっていた。それが今、この場で終わりを告げた。新たに始まったのは人々のパーティーだけだ。人々はパーティーが始まると、パーティークラッカーの事なんて頭に無い。ただただ喜ぶ。あるいは気乗りせぬパーティーを悲しむだけ。
 パーティークラッカーの弾けは会社員の束の間の休息も意味する。学生の束の間の休息も。彼らは会社、あるいは学校に遅刻の電話を入れるだけ。それだけで遅刻は許され、忙しい朝に余裕が出来る。電車を諦め、タクシーに乗る人は例外だが、束の間の休息の代わりに、非日常が約束される。車中で思うだろう。今日は珍しい物を見た。と。
 パーティークラッカーが弾ける事はパーティークラッカーの終わりを意味し、非日常のパーティーの始まりを人々に告げるだけである。
 一時間後には人々の非日常は日常に飲まれ消える。それだけ。ただそれだけ。その時、パーティークラッカーの事なんて誰も覚えていやせぬし、誰も思い出そうともしない。日常の奥底の忘却に放たれるだけである。
 結局のところ、パーティークラッカーは大した役割を持たない。今年度の自殺者の数値に置き換えられるだけ。ただそれだけ。ただそれだけである。
com
2012年09月12日(水) 15時01分38秒 公開
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No.10  com  評価:0点  ■2012-09-27 03:36  ID:L6TukelU0BA
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>>zooeyさん
感想ありがとうございます。
感想を見てなるほど、と思いました。
自分自身、文章を書くとき何も考えずに書くので皆様の感想に毎回感心します。
ウェットな文体か、それともドライな文体か、どうしようかと思いつつも中途半端になってしまうのが僕の癖だろうと思いますので、今度はしっかりとどちらかに決めて、書こうと思います!
Zooeyさんの鋭いご指摘、生かしたいと思います。ありがとうございました。
No.9  zooey  評価:40点  ■2012-09-27 00:06  ID:LJu/I3Q.nMc
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前から読んでいたのですが感想書こうと思っていて、まだでした。
今更ですが書かせていただきます。

この作品は日常がいかに無機質であるか、体温がないか、そんなことを描いたものなのかなと思いました。
私の解釈があっていればですが、そういう作品は好みです。
乾いた文体も無機質感というか虚無感を描く上では効果的だなと思いました。
ひかれた女性の残骸を美しいという感性も好きです。

ただ、文体に関しては生かし切れていないかなとも感じました。
こういうのは一文を短く、簡潔に書いていくのが一番だと思うんですが、
他の方も仰っているとおり、いきなり比喩から入ってしまうのでドライになりきっていないな、と何となく感じました。
乾いているのか、ウェットにいくのか、何となく中途半端な印象でした。

もっと描写部分を削った方が一つ一つの言葉も際だつと思います。
美しいと思ったとかそういう部分も含め。

パーティークラッカーという比喩を使うのであれば、
文章の中盤あたりで「まるでパーティークラッカーだ」とか一言でスパッと表してその後は触れないくらいの方がこの作品ではカッコ良く決まるかなと思いました。

いろいろ勝手なことを書きました。
私にはこういう作品はかけないので、言うだけになってしまいますが、
お世辞でなく本当に面白い作品になりそうだなと思います。

私もこういうタイプの作品も書けるようになりたいです。
No.8  com  評価:0点  ■2012-09-18 14:15  ID:L6TukelU0BA
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>>蜂蜜さん
ご感想ありがとうございます。
語彙力が僕にはないんですよね。
辞書を読んでみます。
ありがとうございました。
No.7  蜂蜜  評価:30点  ■2012-09-18 13:35  ID:2NTu/gKGK62
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拝読しました。

パーティーやクラッカーの炸裂にもう少し色彩感があったら、40点でした。あとは、言葉ももう少し語彙を増やして、簡潔ながらも、空気感のある文章を意識するとよりよくなると感じました。

ありがとうございました。
No.6  com  評価:0点  ■2012-09-14 00:13  ID:L6TukelU0BA
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>>星野田さん
感想ありがとうございます
満点嬉しいです!
しかし、やはり最後は蛇足でしたかね。僕も読み直して、なんとなくスマートではないように感じられました。
反省の余地ありですね。ありがとうございます。
No.5  星野田  評価:50点  ■2012-09-14 00:02  ID:p72w4NYLy3k
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こんにちは。よいSSだったと思います。非常に簡潔で、淡々とした文章がSSっぽく、いい味を出していました。文章のおかげで、皮肉的というわけでもなくブラックジョーク的な感じでもなく、独特の感じですね。なんていうか、読んでいて、心の水面を乱されることはないのだけど、水の底をかき回されているような。嫌いじゃない語り口でした。
最後の「今年度の自殺者の数値に置き換えられるだけ。ただそれだけ。ただそれだけである。 」については、個人的には補足的というか蛇足のような、これはこれであってもいいような、でもやはりない方が余韻がいいような。
パーティークラッカーという比喩が割と好みなので最後にその比喩をやぶっちゃってるのが、うむむ?と感じなくもなかったかもしれません
No.4  com  評価:0点  ■2012-09-13 10:49  ID:L6TukelU0BA
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>>桐原草さん
感想ありがとうございます。
唐突に始まる比喩は分かりにくかったですかね…
もっとナチュラルに始めるべきだったかも知れないです。
ありがとうございます
No.3  桐原草  評価:30点  ■2012-09-13 10:21  ID:1zZ2b3u5YfY
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痛いですねえ。
最初に読んだとき読み込みが足らず、彼女は死の間際に本当のパーティクラッカーを引いてから飛び込んだのだと思ってしまいました。そして原型をとどめぬ彼女のうえにいろとりどりの残骸が……という映像が頭の中に……
彼女がクラッカーだという比喩だったのですね。それはそれで怖くて痛い映像ですね。白黒映画のような無常観がありますね。
ただそれだけというフレーズの繰り返しが文章を引き締めていますね。
No.2  com  評価:0点  ■2012-09-12 23:46  ID:L6TukelU0BA
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>>おさん
感想ありがとうございます。
なるほど。もっと、どぎつくした方がよかったのかもしれません。
実を言うと僕は、冷たさと虚しさを残したかった為、あまり皮肉を言い過ぎると、かえって感情的な所が見えてきてしまうと思い、憚られました。
しかし、どぎつくしても感情的にならず、冷淡で虚しい作品が描ける事が理想ですので、それをできない僕には腕が足りないのでしょう…。
No.1  お  評価:30点  ■2012-09-12 22:57  ID:.kbB.DhU4/c
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どもども。
ブラックすな。
皮肉が効いている。……のだけども、うぅん、ちょっと、なんだろう、語りがドライなだけに、皮肉が皮肉として作用しにくい感じ? あるいは単なる本当の皮肉になってしまって、エンターテイメントとして機能してない感じ? ……かな。ちょっと言葉にしにくいけど、パーティとかパーティクラッカーとか刺激的な言葉を使っているなら、どぎついくらい、醜悪なくらい、外連たっぷりなくらい開き直って突き抜けてしまっている方が、むしろ、厭味なく、収まるんじゃないかなぁとか思ってしまいました。あくまで、僕の好みなのでしょうが。どうも、剥き身な感じが、鋭すぎるのかな。やっぱり、好みでしょうねぇ。
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